お揃いのブレスレット
最近の僕は少しおかしい。
変化してしまった爪を手袋越しに撫でながら、ぼんやり考えていた。
畑の浄化後、2回別のところに浄化に行ったが、僕の症状は進むばかりだった。
今のところは隠せる足や爪だけだが、目に見えるところに症状が出たらどうしようか。
いっそ、目にも出てきたらサングラスでもかけてイメチェンでもしてやろうかな。
「あ、カイン!」
聖女様がいつものように話しかけてきた。妙に、彼女の声が大きく聞こえるな。
「……どうかなさいましたか?」
「聞いて聞いて、さっきね、メイドのルリに今王都で流行ってるね」
「申し訳ございません、今忙しいので後にしてもらえませんか」
僕は彼女の言葉を遮り、足早に彼女の元を去った。
理由は自分でも分からないが、最近彼女の甲高い声がやけに耳に残る。
彼女が、自分以外の名前を呼んでいると、どす黒い感情が湧いてきそうになる。
浄化の頻度が高い影響なのか、他の影響かは分からないが、イライラする。
つい1週間前に浄化に行ったと思ったら、次は明日だと。
僕が就任したとたん瘴気が増えるなんて、まるで怪物たちに歓迎されているようだ。なんだか笑えてしまう。
「……カイン、大丈夫?」
大分早歩きだったはずだが、彼女は追いついてきた。
「忙しいって言いましたよね」
「でも、カイン何だか辛そうだったから」
いつもだったら流せたはずだった。
でも、唐突に、無性に憎たらしく思えた。
僕が、僕がこんなになっているのは、お前が何も考えずに浄化するからだろっ……!
「だったら、話しかけないでいただけますか!?聖女様の声は癇に障ります!」
「……ご、ごめんなさい」
「……あっ、いえ、こちらこそ取り乱して申し訳ありません。それで、メイドが何の話でしたっけ?」
「ううん、その話はもういいの!またね!」
最近彼女は、僕以外にも話し相手が増えたらしく、四六時中僕と一緒にいることがなくなった。
これはきっと良いことだ。この症状の進み方では、早いうちに僕はお役御免となり、彼女には新しいお世話係が付く。
……良いことなのに、これを考えると無性に頭が痛くなる。
自分が、自分でなくなってしまうみたいだ。
「……怖い」
ふと口から漏れた声は、僕の本心を語っているようだった。
ひと仕事終えて聖女様の部屋に行くと、彼女はどうやら勉強をしているようだった。
「今日のお勉強のお時間は終わったというのに、お疲れ様です」
僕は彼女が休まるように、ハーブティーを淹れた。
彼女は僕が近くに来るまで気づかなかったようで、目を見開いて驚いていた。
「え!?カイン!?どうしてここに!?」
「僕は聖女様のお世話係ですよ。傍にいるのは当然です」
「そっか、お世話係、だもんね」
時々、彼女の発言は真意が見えない。
今だって、もう1ヶ月以上お世話係をしているのだから、分かっているはずなのに、何故寂しそうな顔をしているのだろう。
「そうだ、カイン。これ、受け取ってくれないかな」
彼女は、小さい包み紙を僕に差し出してきた。
僕が受け取らないでいると、彼女は続けて話した。
「最近流行ってるブレスレットらしいの。カイン好きか分からなかったんだけど、どうしても何か渡したいなって思って……」
「あ、ありがとうございます。すみません、プレゼントなんていただいたことなくて、反応が分からなくて」
包み紙を開けると、中身は青い石が施された、きれいなブレスレットだった。
「大丈夫よ!それでね、このブレスレット、実は、私もお揃いなの!」
そう言って見せてくれた彼女の腕には、僕とは違って白い石のブレスレットがあった。
「このブレスレットをお揃いで付けるとね、一生一緒にいられるっていう噂があるの!カイン、ずっと一緒にいてくれるって言うけど、何だか最近少し距離を感じるから……」
分かってる、これは彼女の優しさだ。他意はない。
でも、どうして、未来のない僕にそんな話ができる。僕が、君が受けるはずの痛みを受けているのに。
君がそうやって未来を信じてのうのうと生きてられるのは、誰のおかげだ!
「カイン?どうしたの?」
「……いえ、とても素敵なブレスレットですね。ですが、仕事中はつけられないので、申し訳ありませんが胸ポケットに仕舞わせてください」
「う、うん!持っててくれればそれでいいの!」
「聖女様、そろそろ寝ないと明日の公務に響きますよ。それでは、おやすみなさい」
「おやすみ、カイン!」
彼女の部屋の扉を閉めると、僕は、膝から崩れ落ちた。
分かってる、彼女に非はない。でも、どうしても、彼女を羨ましいと思ってしまう。
「もう、疲れたな……」
あと何回浄化をしたら、僕の身体は人ではなくなってしまうのだろう。
早く、その日が来てしまえばいいのに。
そしたら、もう、何も考えなくて済むのに。




