お披露目の夜
王宮に戻ると、彼女は早速王族に呼び出された。が、僕は一緒に謁見の間には入れない。
何も粗相がないと良いのだが。収まったはずの内臓に、少しの痛みが走る。
「失礼致しますっ!」
扉の前で待っていると、彼女は怒ったような様子で謁見の間から出てきた。唖然とした僕を見つけると、怒りの表情のまま僕に詰め寄った。
「カイン、私は今回の成功は貴方がいたからだと思ってるからね!」
「そ、そうですね」
内心では、成功の代償で内臓が破裂しそうだったことなど、彼女は知らない。知らなくていい。
「貴方の手の温もりが私を強くしてくれたの!だから、聖女は貴方もいないと駄目なの!」
彼女はそれだけ言い残すと、怒ったまま部屋の方へ向かって行った。
すぐ僕も追いかけようとしたが、謁見の間に呼び出されてしまった。
呼び出された先には、初めて聖女様が謁見の間に呼ばれた日に見た、あの影のような男が立っていた。
「貴様たち一族の使命を忘れるな。ただの器ごときが、聖女様のお世話は仕事ではあるが、あまり仲良くするな」
空気が、冷たくなっているのを感じた。僕個人に話しかけるときは、いつもこうだが、今日は一層冷え切っている。値踏みするような視線が、僕の手袋のあたりに一瞬向いた気がした。
「心得ております」
「聖女様は、器が出られないならお披露目パーティーをしないと言い始めた。出るように説得しなければ、どうなるか分かるな?」
「……はい、お任せください。失礼致します」
僕は彼女の部屋へ向かいながら、先程会った彼女のことを思い出していた。
あの不機嫌の理由は、僕がお披露目パーティーに参加できないことだったのか。何故そんなことに腹を立てているのか理解に苦しむが……誰かが僕のために憤ってくれたことなど、今まで一度もなかった。
「聖女様、失礼致します。先程の謁見の間でのお話ですが……」
「私、貴方になんと言われてもお披露目パーティーには出ないから」
彼女はベッドの上で毛布に包まって、こちらを威嚇していた。
「だって、貴方がいないと私はきっと何もできなかった。それなのに、貴方が出れないなんておかしいわ」
聖女様は本当に面白い方だ。ただの器の僕なんかのためにこんなに怒ってくれているのか。胸の奥が、じんわりと熱を持った。同時に、この温かさをいつまで感じていられるのだろう、という冷めた声も頭の隅で響いていた。
「聖女様、出てください」
「だから、貴方がいないと私……」
「此度のパーティーは聖女様にとっても大切なものです。聖女様のお怒りは嬉しいのですが、僕は、聖女様を皆さんに祝福してほしいと思っております」
本心からの言葉だった。最初は適当に言いくるめようと思ったが、彼女は慣れない土地で、慣れない勉強などを必死にやっているのだ。彼女を皆に認めてほしい。
「……でも、カインは?」
「僕は傍にはいられませんが、いつでも聖女様のことを考えております。ですので、お披露目パーティーに参加なさってください」
「そ、それって……」
彼女はまた顔を背けてしまった。しかし、耳まで真っ赤になっているのが分かった。
そんなに怒らせるようなことを言ったか、と一瞬緊張が走ったが、彼女の次の一言で杞憂に終わった。
「分かった。私、参加する!」
「では、そのようにお伝えしておきます」
「カイン、待って!」
彼女は部屋から出ようとした僕の肘を掴んで制止した。
「どうしました?」
「私、貴方にいつも感謝してるの!いつも、こんな私のためにありがとう!」
彼女の手が触れた場所が、じわりと熱を持つ。この熱は、浄化の後に感じる痛みとは全く違う種類のものだった。
「……いえ、仕事ですので」
僕はそれだけ言い残し、彼女の参加の手筈が整った話をしに向かった。
その途中、僕は先程の彼女の態度のことを考えていた。多分、彼女は僕に依存している。その事実に、僕は自分の口角が少し上がったことに気づいた。この国の聖女が、王族でも、他の誰でもない、この、初代聖女を殺した一族の僕に。
ふと、幼い頃に言われた「怪物になったら、自分で死ね」という父の声が、頭の隅をよぎった。
が、落ち着いて考えてみると、結局僕の役目は変わらない。この国の汚れを一手に受ける。そのためだけに、存在を許されている。聖女と仲良くなっても、結局何の意味もないことだ。
僕は自分の心に蓋をするように、そう言い聞かせた。




