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最強のザコ(なろう版)  作者: 或亜豊
第一部 金剛編 第一章 旅立ち
5/10

第一部 金剛編 第一章 旅立ち 13~15話

『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。


カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856




小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。


また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。


ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。

第13話 ザコくん。モカに呼び止められる。7



 ミチオは大急ぎで雑木林を抜けて村に戻り、まっすぐ自宅へと向かった。


 この時代は人口が激減したことで、家主のいない一軒家や雑居ビルがたくさん残っていて、めぼしい建物をリフォームして人々は暮らしていた。


 ミチオの家も庭のある一軒家でミチオの部屋は二階にあった。


 父と母に見つからないように裏庭から屋根を登り、窓から自分の部屋に戻った。


 こんなこともあるだろうと考え、二階の窓の鍵は常に開けていたのだが「やっと役に立った」とミチオは思った。


 長い冒険に耐えられる厚手のパーカーとズボン。シャツと下着に歯ブラシとコップ。


 そして、これまで貯めたお小遣いの銅貨8枚を詰めたリュックを手にした。


 脱いだ学生服は丁寧に畳んでベッドの上に置いた。


 この学生服は先輩からのお古で、ゴドウ村では代々継承されてきたものだった。


 ミチオのもとに渡った時点で布はヘタりほつれだらけだったが、何度も縫い直して使用した。


 ここに置いていけば、後輩の誰かがこの制服を着るだろう。


 3年間着た制服を見て少しだけ感慨深い気持ちになったミチオは、すぐに部屋を出た。


 できれば食料がもう少し欲しかったが、居間に降りると父と母に見つかってしまう。


 仕方ない。後は現地調達だ。


 ミチオは再び窓を開けて部屋から出た。


 一応、「旅に出ます。探さないでください。ミチオ」という書き置きを制服の上に残した。


 家や両親に不満があるわけではない。


 だからこれは家出ではなく、冒険の旅なのだと本当は伝えたかったが、今は時間がない。


 何より〈野良ノラ〉の金剛使い(ヴァジュラシ)になるなんて話したら力づくで止められてしまうだろう。


 金剛使いなんて言われても両親はピンとこないだろう。


 山賊になると言っているようなものだ。


 だったら、何も言わないのがベストだ。


 そうミチオは割り切った。


 ◆◆


「ミチオ」


 窓から出て、裏庭に降りて壁を超えると、まっすぐキシモリのもとに戻ろうとしたミチオだったが、呼びかける声が聞こえたので足を止めた。


「モカ?」


 そこには、モカが立っていた。


 一度、家に戻って着替えたのだろう。


 緩いシャツとサンダルは見慣れたものだった。


 だが、下半身はヒラヒラとしたミニスカートで、スラっとした素足が見える。


 普段とは違う服装を見て、モカはこんなに大人っぽかったのかと、ミチオは思った。


 だが、今はそれどころじゃない。


「こんな遅くにどこに行くの?」


「ごめん、今、時間ないから」


「家出?」


「……」


「そんなリュックを背負ってたら、誰でもわかるよ」


「……」


「止めても無駄だよね」


「ごめん」


「リュックの中。食べ物と銅貨3枚が入って」


「え?」


「おばさん気づいてたよ。まぁ、あんな荷物が部屋にあれば誰だって怪しいと思うけど」


「……」


「可愛い子には旅をさせろ。ってことじゃないかな、多分。よくわかんないけど、おばさんに感謝しなさい」


「わかった」


「でも私はヤだ。ミチオにはここに残ってほしい」


「……」


「冒険とかやめようよ。あんたザコくんだからすぐ死ぬよ」


「縁起でもないこと言うなよ」


「バカ! 行かないでってことよ!」


「……」


「私のお母さん。村の外で死んだんだ。たぶん石獣ってやつ」


「……」


「外に出たらミチオもお母さんみたいになっちゃうよ。私……それは嫌だ」


「……ありがとうモカ。でもボク……」


 ミチオは言葉に詰まる。何て言えばいいのかわからない。


「……なーんてね」


「はは……」


 ミチオから引きつった笑いが漏れる。


「アンタみたいなザコくんが死のうが生きようが私はどうでもいいの。でも、おばさんが悲しむのは嫌だから……必ず戻ってきて。いつでもいいから」


「わかった」


「まぁ、その頃には私は別の誰かと結婚して子供をたくさん産んでるけどね」


「え?」


「だからアンタは生涯にわたって悔やみ続ける。あの時、行かなければ、私と結婚して幸せな家庭を築けたのにって……」


「えー」


「もう手遅れだから。一生後悔しなさい!」


 モカはミチオから顔をそむけて笑いながらそう言った。


 口調は明るかったが、悲しんでいることが伝わり、ミチオは申し訳ないと思った。


 だが、ここで立ち止まることはできない。


「行ってきます」 


 小声でそう言って軽く会釈すると、ミチオは走り去った。


 ミチオの背中をモカはいつまでも見ていた。





 第14話 ザコくん。師匠に呼び止められる。


 ◆◆


 村の境界を抜けてミチオは廃墟となったビル群を駆け抜ける。


 キュウタと別れて45分を超えていたが、このまま走ればなんとか間に合う。


 呼吸は乱れ、身体は重くなっていたが、気持ちは明るかった。


 しかし突如、金剛(ヴァジュラ)の気配を感じたミチオは、その場で足を止めた。


 この気配は彼がよく知っているものだった。


「こんな夜中にどこに行く気?」


「キトラ……」


「師匠でしょ」


「何でここに?」


「一時間ぐらい前に金剛(ヴァジュラ)の大きな気配が爆ぜるのを感じたの。だから兄ちゃんたちと現地に向かったんだけど、石獣(ヒビワレ)の死体が一つあるだけだった」


「じゃあ、その石獣(ヒビワレ)金剛(ヴァジュラ)だったんじゃ……」


「何で石獣(ヒビワレ)金剛(ヴァジュラ)を発するのよ!?」


「それは……」


「知っちゃったんだね。ザコくん」


「……」


「あの場所にいたの?」


「……知らない」


「何、タメ口で話してるのよ。ザコくんのくせに。「知りません」でしょ」


「……」


金剛(ヴァジュラ)にはね。発する主だけが持つ固有の波長みたいなものがあるの。兄ちゃん達は気づいてなかったけど、私はすぐにわかった。ぐちゃぐちゃに気配が混ざっていてわかりにくかったけど、あそこには確かにアンタの残り香があった」


「キトラ……お兄さんといっしょに来たの?」


「えぇ。ヒョンスとユキマサ兄さんは、石獣(ヒビワレ)の気配を追った」


「彼は石獣(ヒビワレ)じゃない。俺たちと同じ人間だ」


「やっぱりザコくん、知ってるんだね?」


「キトラ、どいてくれ? 時間がないんだ」


「ザコくん、さっきからキトラキトラって呼び捨てにしてるけど、お師匠様の間違えでしょ。今すぐ訂正して謝りなさい!」


「師弟関係は今日で終わりじゃないのかよ? キトラ!!」


 ミチオはタメ口を貫く。


 その口調は芝居がかっていて、とてもわざとらしかった。


 その不自然さに彼女は気づいていたが、どんな糸があるにせよ、ミチオが自分に嘘をつき、歯向かおうとしていること自体に怒りを感じ、冷静さを失っていた。


「ザコくんのくせに偉そうに……アンタは死ぬまで私の弟子なんだよ!」


 キトラの苛立ちは極限に達していた。


 ゴドウ家に生まれた彼女は、常に上限関係を意識しており、自分より格下の者が上に立とうとすることが何より許せなかった。


 これまでミチオは、彼女の神経を逆撫でしないように細心の注意を払い、言葉を選んできた。


彼女の逆鱗に触れて、金剛(ヴァジュラ)の訓練に付き合ってくれなくなることは、彼にとって大きな喪失となるからだ。


 しかし今は逆に彼女から冷静な判断を奪うため、あえて挑発するかのようにキトラ、キトラとフルネーム呼びを連呼していた。


「キトラ、どいてくれないか? 君には感謝している。だから君のことを傷つけたくない」


「なんだと!」


 キトラの殺気がミチオに向かう。


「いっつも気になってたんだ。ザコくん、アンタ……私の前で本気出してなかったでしょ」


「……」


「ザコくんが私に倒される度に妙な違和感があった。最初は圧倒的な実力差があったからだと思ってスルーしてたけど、ある時期から動きがルーティン化してるっていうか」


「……」


「私の攻撃にザコくんがわざとぶつかって来てるように感じることが多くなった」


「……」


「まぁ、私の目的は治癒術(アムリタ)の強化だったから、ザコくんが何考えてようと、別にどーでも良かったんだけど……でも魚の骨が喉に刺さってるような違和感があって、ずっとイライラしてた。でも……」


「……」


「ううん。なんでもない。キミに私の気持ちがわかるわけないもんね」


「……」


「ザコくんの目的とか、兄ちゃん達が追っている石獣(ヒビワレ)とアンタがどんな関係があるとか別にどうでもいい」


「……」


「でもアンタが村から出ていくことは許さない。私は師匠としてアンタを止める。たとえ殺すことになっても」


「……わかった」


 そう言うとミチオはリュックを地面に降ろして構えた。



 




第15話 キトラ。ザコくんを止めようとする。


◆◆


「時間がないんだ。すぐに終わらせる」


 キトラはミチオの周辺に金剛(ヴァジュラ)で錬成した鏃が生まれるのを感じた。


 いつもの〈尖弾(センダン)〉が来る。そう判断したキトラは両手の指を交差させて印を結んだ。


三摩耶形顕現(サマヤ・アヴァターラ)双剣(ソウケン)無熱(アナヴァタプタ)〉」


 キトラの両手に細身剣が現れる。


 いつもの特訓の時はミチオの攻撃を受け流してから仕留めるが、今のキトラは気持ちが昂ぶっていたため、一気に間合いを詰めてミチオを蜂の巣にしようと攻め入った。


 悪いねザコくん。今回は急所を狙う。


 もちろん後で治すつもりだけど、もしかしたら一生、自分で歩くことができない身体になるかもしれない。


 でも、その時は私が死ぬまで介護してあげるから。


 そしたらずっといっしょ。


 あんたは私にここで止めてもらってよかったと感謝しながらおじいちゃんになって、私に見守られながら天寿を全うするの。


 キトラめがけてミチオの〈尖弾(センダン)〉が飛んでくる。


 一発、二発。バレリーナのように身体を回転させながらキトラは華麗に攻撃をかわす。


 あいかわらずワンパターンだね。


 ザコくんが一度に〈尖弾(センダン)〉を錬成して発射できるのは四発まで。


 しかも全弾同時ではなく時間差で打ってくる癖はよくわかってる。


二年もいっしょにいたんだからね。なんでもお見通し。ザコくんのことは全部わかってる。


 三発、四発。ワンテンポ遅れて発射された尖弾(センダン)もキトラは交わし、一気に間合いを詰める。


これで射程範囲に入った。


次はどうせ〈鈍刀(ドントー)〉でしょ。


わかってる。


あんたのことは全部わかってる。


だから無駄。


右手に隠し持ち密かに錬成していた〈鈍刀(ドントー)〉でミチオはキトラの右あばら骨のあたりを狙うが、キトラはそれもなんなくかわす。


 攻撃がかわされた拍子に、ミチオはバランスを崩して膝をつく。


キトラに背を向けた体制となったミチオは隙だらけだ。


 これで終わり。


キトラは〈双剣・無熱(アナヴァタプタ)〉でとどめの連撃を繰り出そうとする。


しかしその瞬間、キトラの視界がぐにゃっと歪んだ。


何これ? 


 キトラは立っていることができなくなり、片膝を地面につける。


 なにこれ? 


 身体に力が入らない。


 どういうこと?


 ぐにゃぐにゃと視界が歪み意識が朦朧とする中、ミチオがゆっくりと立ち上がる。


「……」


 ミチオは何か言っているようだが音が耳に入らない。


 でも、口元の動きを見て彼が「ありがとう」と言って頭を下げたことをキトラは理解した。


 待って、どこに行くの? 


 そんなの許さない! 絶対に認めない。


 なんとかミチオを引き留めようとしたキトラだったが、彼女はそのまま意識を失い、その場に倒れた。


掲載は不定期です。



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