第一部 金剛編 第一章 旅立ち 9~12話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第9話 ザコくん。村はずれで敵の気配を感じる。
◆
言葉を荒げるキトラを見て悪いことしたなぁと、ミチオは反省した。
師匠と名乗る彼女も十四歳の女の子なんだと思った。
しかしだからと言って、キトラの言うようにこの村に留まり続けるつもりにはなれなかった。
そもそもそう言っているキトラが帝都に進学するのだから、どの口が言ってるんだと反発したくなる。
本人の前では言えなかったけど……。
「どうすりゃいいんだ」
地面に寝転び、ミチオは考えた。
気づけば日が沈み、外は真っ暗になっていた。
親が心配する。
家に帰ろう。
そういやモカが部屋に来いって言ってたけど、めんどくさい。
何にようだよ。改まって。
そんなことを考えながら、起き上がろうとした刹那、ミチオはある気配を感じた。
金剛?
キトラ?
ゴドウ家の金剛手?
違う。
今まで感じたことのない量の金剛が北東で渦巻いている。
キトラが言っていた野良の金剛使い?
だとしたら行商の護衛?
いや、護衛なら正門から輸送トラックといっしょに入ってくるはず。
何よりこんなボクでもわかるような莫大な量の金剛を発動したりはしない。
盗賊? いや、盗賊だって同じだ。
プロの金剛使いがこんなに気配を充満させているというのは、それだけ異常事態だと言うことだ。
何かとんでもないことが起きている!
おそらくキトラたちゴドウ家の人間も、この気配に気づいているはず。
すぐに石獣の存在に気づき現地に向かうはずだ。
だから自分が動く必要はない。
むしろ迷惑をかけてしまう。
それにボクは〈手〉じゃないし……。
これまでのミチオなら、そう考えただろう。
しかし、試験に落ち進路の選択を迫られていたミチオは、これは一発逆転のチャンスなんじゃないか? と考えた。
気配の中心にいる金剛使いがなにか悪巧みを目論んでいるとして……。
ボクがそれを阻止することができれば……。
ボクは認められ、須弥山学院の入学資格を得られるかもしれない。
そう、ミチオは考えた。
もちろん、それは可能性にすぎない。
何より、金剛使いに戦いを挑むことの危険性は、彼自身が一番理解していた。
だが、切羽詰まっている気持ちがミチオの判断を鈍らせていた。
何より彼は試したかった。
この二年の成果を。
そして知りたかった。
自分の力が通じるのかを。
◆
金剛の気配を追ってミチオは北東の国境へと向かった。
早く行かなければ、ゴドウ家の〈手〉がやってくる。
それまでに行かないと。力を証明できない。
国境にある雑木林に足を踏み居れ、ミチオは突き進んでいく。
ここを抜ければ村の外だ。
100年以上も放置されている旧世界の廃墟群が広がっている。
足元には亀裂から雑草が生えているコンクリートの道路があり、遠くには、鉄骨がむき出しになった倒壊したビルが見える。
かつて多くの人々が往来していた都市は見る影もなく、地面や壁は、苔や雑草で覆い尽くしていた。
一歩踏み出すと、そこには未知の世界が広がっていた。いつ何が起きてもおかしくない。
ミチオは再び意識を集中した。
さっきまで曖昧だった気配がよりはっきりする。数は……11人?
遠方からだと一つの大きな塊に思えた金剛は、11人の人間が生み出しているものだったのか?
流石に多すぎる。
撤退すべきか?
ミチオは悩む。
彼は状況がわからない中で猪突猛進する人間ではなかった。
どんな状況でも戦況を判断する冷静さは持ち合わせていた。
その冷静さゆえに一皮剥けることがないことが自分の限界だとコンプレックスを抱いていたが、逆に言うとそれは彼が15年生きてきた中で身につけてきた「弱者としての知恵」だった。
このまま突っ込めば死ぬ。
「戦う」というプランは変更。
状況を把握次第、即時「撤退」。
ミチオはとっさに判断を切り替えた。
そして相手に気配を感づかれるギリギリのところまで移動して目視で相手のことを確認しようとした。
だが、ギリギリまで接近した時に、気配が一つ消えたことにミチオは気づいた。
どういうことだ?
困惑しながら、ミチオは路上で衝突する10の気配を目視で確認する。
少年と二人の大人と戦っていた。
二人の大人はそれぞれ大きな獣に乗って走り回っている。
身体のシルエットから分析するに、おそらく男と女。
二人は後方から6匹の獣を操り、少年にけしかけている。
足元には無数の獣が倒れている。
ひとつ気配が消えたのは、あの獣を少年が倒したからか?
だとしたらあの少年は金剛使い(ヴァジュラシ)?
いや違う。
ここにいる人間と獣のすべてが金剛を発している。
ミチオは改めて戦況を凝視した。
二人の大人は角の生えた不気味な紋様の仮面を身に着けており、手には戦鎚を持って構えている。
そして全身は岩石をびっしりと貼り付けたような衣類で覆われている。
だが、鎧というよりはボディスーツのように身体のシルエットがはっきりとわかる。
ミチオは遠目に見て男と女のペアだと判断した。
一方が筋骨隆々で肩幅の広く、一方が胸の膨らみ、ウエストの細さ、お尻の膨らみがはっきりとわかるシルエットだったからだ。
二人が乗っている動物は長い牙を生やした4足歩行の動物、猫?
いや違う。
図鑑で見たことがある。
剣歯虎だ。
だが、剣歯虎の全身には水晶のような小さな突起がポツポツと生えており、手足は甲羅で覆われている。
そして少年を取り巻いている六匹の獣は、イヌ科、おそらく狼の一種ではないか?
そう、ミチオは思った。
この獣にも同じような小さな角が頭部に生えている。
皮膚の表面は甲羅で覆われ、表面には傷のような無数のヒビわれが広がっている。
石の獣
あれが石獣?
村から一度も出たことのないミチオにとって石獣は未知の存在だった。
席住が人類を襲う害獣であり、襲われた時にどう逃げるか? といった知識は、学校の避難訓練で教わった。
しかし、この時代の映像や写真は貴重品で、石獣の姿を捉えた画像のたぐいは存在しなかったため、絵でしかその姿を知らなかった。
しかもその絵は伝聞によって伝えられたものだったため、ホンモノの石獣を見た人間となると、ゴドウ国では〈手〉だけだった。
キトラは何度か父親に連れられて、村の境界に現れた石獣との戦いに参加したことがあると語っていた。
どんな姿?
そうミチオは尋ねたが、キトラの説明は学校で習ったものと同じで、硬い皮膚で全身を覆った角の生えた動物とだけ教えてくれた。
確かに角のようなものが見えるが大小含めて数が多すぎる。
どっちらかというと岩状の棘といった感じだとミチオは思った。
狼と剣歯虎を操る金剛使い?
だが石獣は人類の敵で金剛使いとは敵対関係にあるのではなかったのか?
ミチオは混乱していた。
一方、二人と戦っている少年は、上半身は裸で下は膝までの短パンを履いている。
目視による推測だが、おそらく自分と同じか少し上ぐらいの年齢の少年だとミチオは思った。
少年は右手にナイフのようなものを持っている。
あれはおそらく〈鈍刀〉と同じものだ。
だとしたら彼も金剛使い?
だが、気になるのは彼の左半身だ。
少年の顔と左手、そして首から胸の左側は黒い岩――黒曜石のようなもので覆われていた。
ゴツゴツとした岩状の表面は兜と篭手のようにも見える。
表面には尖った小さな突起がボコボコとせり出しており、顔の左半分を覆う黒い仮面からは上と左に長い角のようなものが伸びている。
まるで黒い鬼だ。
そう、ミチオは思った。
皮膚を金剛でコーティングした「薄膜」の発展型だろうか?
だがあれは、どちらかというと石獣の皮膚を覆っているそれと近い。
左半身を覆っている兜と篭手。あれも金剛だろうか?
二人の大人が従える無数の石獣と黒鬼のような少年が戦っている
しかも、この場にいる全生物から金剛の気配を感じる。
多数の石獣を前にして圧倒的に少年の方が劣勢だった。
だが、次々と襲いかかる狼型石獣を少年は蹴散らし、一匹ずつ着実に仕留めていく。
少年の戦い方はシンプルだった。
左手を覆った篭手で狼型石獣の攻撃を弾き防御に徹し、隙を見せたところを右手に持ったナイフで仕留める。
少年は一度刺したナイフをすぐに手放し、次のナイフを即座に錬成する。
手から離れたナイフはすぐに消滅するが、急所を刺せば相手を一撃で仕留めることができる。
金剛で錬成された武器だから狼型石獣の硬い皮膚を貫くこともできる。
これが金剛使いの戦いなのか……。
ミチオは興奮した。
しかし多勢に無勢。少年の動きは次第に鈍り、手数が減っていき、防戦一方となっていた。
狼型石獣の数も残り2頭になっていたが、背後には2人の男が控えている。
このままだと彼がやられるのは時間の問題だった。
どうするべきか?
そもそもどちらが正しいのか間違っているのかなんてわからない。
一人の少年を複数で襲うのはフェアではないと思ったが、あの少年がとてつもない悪いことをした犯罪者である可能性もゼロではない。
だとすれば第三者の自分は余計なことはせず、中立の傍観者として振る舞うのが正解なのかもしれない。
だが、大勢を前にして怯むことのない少年の戦う姿にミチオは自らの境遇を重ね、居ても立ってもいられなくなった。
そして、遠距離から〈尖弾〉を発射した。
第10話 ザコくん。謎の少年と出会う。
◆
ぎゃいん!
尖弾は狼型石獣に直撃した。
誰だ?
少年と二人、そして最後の一匹となった狼型石獣は、突然の攻撃に驚く。
敵か?
二人の大人は警戒する。
その瞬間、自分に対する意識が弱まったことを少年は見逃さず、残り一匹となった狼を〈鈍刀〉で突き刺した。
その様子を見た二人は即座に撤退した。
◆◆
「誰だぁ!」
「……」
だぁーだぁーだぁー。
少年の大きな声がやまびこのように反響する。
「姿を見せろぉ!」
少年が大声で叫ぶ。
「出てこないと攻撃するぅ!」
「……ボクは敵ではありませーえーん!」
ミチオは両手を上げて攻撃の意思がないことを示し、少年の前にゆっくりと歩いていった。
「お前、誰だ?」
少年は右手に持ったナイフの刃先をミチオの目前に向け、鋭い目で睨む。
すごい殺気だ。
嘘を言って誤魔化せば殺されるかもしれない。
ミチオは覚悟を決めた。
「……コザカナ・ミチオ。ゴドウ国のものです」
ミチオはおそるおそる口を開いた。
「オレを助けたのか?」
「そう思っていただいて大丈夫です」
「……キシモリ・キュウタだ」
そう言うとキシモリから殺気が消えた。
そして左上半身を覆っていた黒い装甲は光の粒となって雲散霧消し、大気中に溶け込んでいった。
ミチオはキュウタを凝視する。
どこからどう見ても普通の少年だった。
「とりあえずここを離れましょう。すぐにゴドウの〈手〉が来ます」
「わかった。だがその前に喰う」
「お弁当ですか?」
キュウタは視線を足元に倒れている狼型石獣に目をやった。
キュウタに倒された狼の身体は光の粒子へと姿を変えて、大気中に拡散しつつあった。
キュウタは手を広げて大きく深呼吸すると光の粒子を吸い込んでいく。
キュウタの中に膨大な量の金剛が取り込まれていくのがわかる。
「お前も喰え」
「え?」
「一匹はお前がやった。喰え」
「……石獣をですか?」
「こいつらは死ぬと身体が分解され金剛になる。力を尽くして戦ったものに対する敬意だ。喰え」
「でも、なんかそのぉ」
「死ねば今度はこっちが喰われる。それだけだ。喰え」
本当は気が進まなかったが、ミチオはキュウタの真似をして大きく深呼吸した。
キュウタの中に、それまで石獣だったもの身体が光の粒子となって入りこんでいく。
これまでにない力がみなぎっていくのをミチオは感じた。
同時に罪悪感のようなものを感じ、モヤモヤとした気持ちになった。
光の粒子をある程度、取り込むと二人はその場から離れた。
狼の死骸はまだ残っていたが、それは囮としてキュウタが残したものだった。
この場に残った金剛の気配をたどってキトラたちがここに来るかもしれない。
だが、ここの金剛の気配が強ければ強いほど、二人の気配は消すことができる。
「ついてこい」
第11話 ザコくん。金剛と石獣の関係について語る。
◆◆
二人は戦闘地点から離れたところにある廃墟となって天井のない雑居ビル跡地へと逃げ込んだ。
時間はすでに真夜中になっていた。
「怪我とか大丈夫ですか?」
「問題ない」
「家に戻って食料とか薬とか取ってきましょうか?」
「帰れ」
「え?」
「お前は帰れ」
「でも、怪我とかあるんじゃ」
「金剛がある」
ミチオはキュウタの身体を見た。
確かにどこにも怪我はない。だが体力はだいぶ疲弊しているみたいだ。
「金と食い物、どっちだ?」
「え?」
「報酬だ」
「あのぉ」
「早くしろ。時間がない」
「どっちも……いらないです」
「選べ。借りは作らない」
それはほとんど脅迫だった。
キュウタの顔をミチオは一瞥する。
髪は短くおでこが出ている。
目は鋭くこちらを睨んでおり、口元はへの字で、固く閉じている。
なんというかすごい威圧感だ。
さっきも思ったが、彼には小手先のごまかしや冗談による混ぜっ返しは通じそうもない。
少しでもふざけたことを言えば、その場で殺されかねない。
きっと多くの修羅場をくぐってきたのだと思う。
なんだかんだ言って恵まれた環境で暮らしてきたボクとは違う。そうミチオは思った。
「では、教えてください」
「……何をだ?」
「外の世界について」
※
「ボクはゴドウ村から出たことがなくて、学校で教わったことしかこの世界について知りません」
「……」
石獣についても、人類を滅ぼした怪物としか知らされていませんでした」
「……」
「その石獣を倒せるのが金剛を操る金剛手。そう教えられてきました」
「……」
「だからボクは金剛手になりたいと思っていたのですが、先日、試験に落ちてしまい」
「……」
キシモリ・キュウタはミチオが話すのを黙って聞いている。
「それで落ち込んでいたところ、凄まじい量の金剛の気配を感じて」
「……」
「それで現場に向かったら、キシモリさんがあいつらと戦っていて」
「……」
「ボク、はじめて石獣を見たんです。でもなんかボクが想像していたのと違って」
「どこがだ?」
「え?」
「どこが想像と違った?」
「……まず、キシモリさんも含めたあの場にいた全員が金剛を発していました。殺した狼も死んだら身体がバラバラになって光の粒になっちゃうし」
「……」
「ボクは石獣を倒す唯一の武器が金剛だと教えられてきました。でも石獣からも金剛の気配を感じました」
「……」
「石獣が金剛になるのもおかしいですよね。それじゃあ、まるで」
「同じだ」
「え?……」
「石獣と金剛は同じだ」
一番ミチオが知りたくなかったことをキシモリはあっさりと答えた。
◆◆
「石獣も金剛を武器として操る。金剛使いと同じように」
「あの狼の身体を覆っていた岩のようなもの。あれは金剛ですか?」
「そうだ」
「キシモリさんを襲った二人の人間?……の身体を覆っていたのも金剛ですか」
「そうだ。だが少し違う」
「え?」
「追い詰めたのはオレだ」
「あっ、そっちですか?」
もしかして、この人は天然か?
そう、ミチオは思ったが、話の流れを止めたくないので、黙っていた。
「あの人型石獣は賞金首だ。狼型石獣を従えて人間を襲うので懸賞金がかけられている」
「じゃあ、キシモリさんは賞金稼ぎなんですね」
「そうだ」
「そっか。やっぱり〈手〉にならなくてもフリーランスの金剛使い(ヴァジュラシ)として食っていく方法ってあるんですね」
「〈野良〉の方が多数派だ。〈手〉の方が少ない」
キシモリはフリーランスの金剛使いのことを〈野良〉と呼んだ。
「そうなんですか?」
「〈手〉は貴族の道楽だ。あいつらは上から命令するだけ。ドブさらいはオレたちの仕事だ」
◆◆
「あのぉ、キシモリさんを襲った、じゃなくてキシモリさんが狙った二人のことを、さっき石獣と言いましたね?」
「そうだ」
「人間じゃないんですか?」
「人も獣だ。人型石獣。通称・シモンズ」
「シモ……あっ」
ミチオは人型石獣の被っている仮面にある指紋のような渦巻状の模様を思い出していた。
「石の獣と書いてヒビワレ。あいつらはそう呼ばれている」
「……」
「本来、獣とは四足歩行の哺乳類を指す呼び名だが、哺乳類だけでなく、鳥類、爬虫類、魚類、昆虫。金剛病に感染したあらゆる生物の総称が石獣だ。もちろんそこには人間も含まれる」
「金剛病?」
「元々、金剛は疫病のようなものだったと言われている」
「疫病?」
「金剛に感染した生物は皮膚が硬質化し、やがて意識を奪われ石獣となる。だが稀に自分の意識を保ったまま金剛の力を操ることができる生物がいる」
「それが金剛使い?」
「……もういいだろ」
「ありがとうございます。最後に一つだけいいですか?」
「何だ?」
「キシモリさんの戦い方。右手には〈鈍刀〉を持っていた。あっ〈鈍刀〉ってのは、ボクが練成している武器につけた名前です。キシモリさんは何って呼んでるんですか?」
「〈牙剣〉だ」
「ガケン……。あの武器は金剛で錬成したものだよね」
「そうだ」
「左手と顔半分を覆ってた鎧も金剛ですか? 何かボクが知ってる金剛の使い方とは全く違う感じがして、あれって」
「石獣と同じ原理だ」
「やっぱり」
「金剛には〈外在〉と〈内在〉がある。大気中の金剛を集めて武器を錬成するのは〈外在〉。体内にある金剛を用いて肉体を変化させるのが〈内在〉」
「〈内在〉……初めて知りました」
「〈手〉にとっては邪法だからな。〈内在〉を使う金剛使いは石獣と同じ存在として忌み嫌われる」
「でもキシモリさんは人間……ですよね?」
「自分の意識があるという意味ではそうだ」
「それって」
「侵食率の違いだ」
「……侵食率?」
「ここまでだ」
「……」
「帰れ」
「あのぉ」
「もう質問は無しだ。帰れ!」
「そうじゃなくて」
「何だ?」
「ボクを仲間にしてくれ……ませんか?」
第12話 「弟子にしてもらえませんか」
◆◆
「ボク、金剛使いになりたいんです。だからキシモリさんの弟子にしてもらえませんか?」
「弟子はとらない」
「じゃあ、パートナーで」
「格が上ってる」
「すいません。とにかくボクはキシモリさんについて行きたいんです」
「足手まといだ」
「わかってます。でも……行きたい。行きたいんだ」
物腰こそ柔らかいものの、全く引こうとしないミチオにキシモリは困惑した。
「メリットは?」
「え?」
「お前を連れて行くメリットだ」
「さっき助けた」
「……借りは今返した」
「ボクが助けた理由……知りたく……ない?」
「興味ない」
「ごめん間違えた。ボクが君を助けることができた理由……知りたくない?」
「興味ない」
「言い方を変えます。もしもキシモリさんがボクの視界から外れた瞬間、ボクが攻撃を仕掛けたらどうなると思いますか!?」
ミチオは突っぱねようとするキシモリに必死でしがみつこうと言い返す。
「……」
キシモリが鋭い眼光でミチオをにらみつける。
「……冗談です。でも、村に戻ったボクがキシモリさんのことを〈手〉に通報する可能性はゼロじゃない……よね」
「脅迫か?」
「どっちかと言うと取り引き……ですかね」
ぎこちない敬語は変わらなかったが、これまでとは違うミチオの積極的な態度と高圧的な振る舞いにキシモリは困惑した。
だが、もっとも困惑していたのはミチオ本人だった。
このチャンスをものにしたい。そう思ったミチオは交渉のテーブルに強引に自分が持っているカードを提示し、ゲームに挑もうとした。
こんなこと学校でもキトラとの特訓でも〈手〉の試験でもやろうとしなかった。
それは彼に手持ちのカードがなかったからだ。
いや、実はミチオは一枚だけ勝負ができるカードを持っていた。
だが、そのカードは一度しか使えないものだった。
だから彼は自分が絶対的に有利になった時に使う切り札として、そのカードを温存していた。
今回、彼はそのとっておきのカードを伏せた上でテーブルの上に乗せた。
そしてもう一枚。
完璧ではないが、ある程度は使えるであろうカードを共に提示し、キシモリに迫っていた。
「……確かに……お前の攻撃が、なぜ石獣にあたったのか……気になってはいた」
「ボクをここで帰した後、さっきの攻撃をボクがやれば、キシモリさんに致命傷を与えられる確率はゼロではない」
「だったらここで始末する」
「君の攻撃を受けたら、ボクは最大出力で金剛を発動する。そしたらここに君がいることをゴドウ家の〈手〉が気づく」
「100%ではない」
「そうだね。やってみないとわからない」
二人はにらみ合う。
静かな声でのやりとりだったが、一歩間違うと殺し合いになってもおかしくない緊張感がその場を支配していた。
言葉に詰まった二人が膠着状態になり、しばしの沈黙が続いた。
「わかりました」
はじめに口を開いたのはミチオだった。
「折衷案として試用期間を設けるってのはどうですか? 二ヶ月。いや一ヶ月でいいです」
「……」
「キシモリさんといっしょに旅をして使えないと思ったら不採用。使えると思ったら採用……。どうですか?」
「……」
「ボクだってここで死ぬなんて嫌です。だから、とりあえずそうしましょう。そしたらお互い、少しは長生きできる」
「……わかった」
キシモリから殺気が消えていく。
「ありがとうございます。じゃあ、ボク、荷物取ってくるからここで待っててください」
「何分で戻る?」
「たぶん、2時間もあれば」
「1時間だけ待つ。その間、〈手〉の気配を感じたら、オレはここを去る」
掲載は不定期です。




