第一部 金剛編 第十一章 ナラカ最深部 第135~138話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第135話 そして、二人が残された。
◆◆
群塊シモンズは、ダリアが切り落とした〈八岐大蛇〉の7本の首を取り込み、自らの力に変換。
群塊から7首の大蛇を顕現させ、逆に本体へと襲い来る。
「酷い。私の大蛇さんが」
「お嬢ちゃん。あれは無数のシモンズが集まっている集合体だ。金剛であいつに触るな。三摩耶形も法術もすべてコピーされる。兄者も取り込まれた……」
ゴロゴロスがダリアに話しかける。
「とにかく今は逃げることを考えるんだ」
「大蛇さん、お願いします!」
群塊シモンズに対し、首一つと巨大な胴体。そして7本の剣化した尻尾で〈八岐大蛇〉で迎撃する。
う
しかしそれは時間稼ぎにしかならない。
瞬く間に胴体も尻尾も呑み込まれていく。
かろうじて残った大蛇の首を橋のように伸ばし第一階層への道を作ったダリア。しかし上へ行くほど、斜面が急になり、とてもじゃないが駆け上がれない。
「姫様!」
「爺や!」
先に第一階層に戻ったΑΩの聖騎士たちの声が聞こえる。
「天使降臨・光翼〈神遣〉」
サラの背に御翼で錬成された光の翼が現れる。
その姿は天使そのものだった。
この二翼の錬成はΑΩ聖騎士団が最初に学ぶ「使者の力」(ΑΩにおける金剛法術)だった。
「先に行くぞ!」
サラは光の翼を羽ばたかせ、第一階層の抜け穴へと向かい、彼女の手をビショップが掴む。
「姫様。私たちも」
「でも……」
ダリアは周囲を見回す。
彼女の三摩耶形・三足〈八咫烏〉なら、3人まで上へ運べる。
運ぶ対象は自分とサチ。そしてもう一人。
でも、ここにいるのは、5人。
当初ダリアは〈八岐大蛇〉の首に乗せて第一階層まで運ぶ予定だった。
彼女にとって〈八岐大蛇〉は奥の手中の奥の手だった。
だが、あまりにも膨大な量の金剛を必要とするため、錬成には時間が必要となる。
そのため地上で顕現に成功したことは一度もなかった。
このナラカに漂う膨大な金剛を用いれば顕現に成功するとダリアは思った。
だから、ここに残り、退路を確保するようぬゴロゴロスから言われた時、ナラカからの退却手段として巨大な八岐大蛇〉を顕現しようと試みた。
その試みは成功した。
巨大な――それはダリアの想像をはるかに超える大きさだった――〈八岐大蛇〉の首は第一階層まで届く長さとなっていた。
その頭部に乗って、ゆっくり持ち上げていけば、すぐに上に戻れる。
そう考えていた。
ミチオたちが戻る前に、すでにダリアは、ゴロゴロスの乗ってきたペロちゃんと、彼が調伏し仲間とした石獣たちを大蛇の頭部に乗せて、第一階層に運ぶことに成功していた。
一方、ΑΩ聖騎士団の3人とゴドウ・ヒョンスはすでに自身の飛翔能力で第一階層に帰還していた。
ヒョンスは、大広間に残ったカギュウの兵士たちに、タブレットに記録したゴロゴロスの動画を見せることで、撤退命令を伝えていた。
だからあとは、戻ってきたゴロゴロスを回収して第一階層に帰還すれば、ミッションは無事完結する。
そう思っていた。
だが、あの巨大な群塊が押し寄せてきたことで計画は大きく狂った。
「ダリアさん。アンタはゴロゴロスさんを頼む。私は〈迦楼羅〉でキトラを運ぶ」
「ユキ兄!」
何か言いたげなキトラを遮ってユキマサが話を続ける。
「私には兄として妹を守る使命がある。ザコくん。キュウタ。君たちは君たちで何とかしろ!」
「すまねぇ。上に戻ったらオレがなんとかする。それまで時間を稼いでくれ!」
「ユキマサさん、ゴロゴロスさん、お気づかいありがとうございます。ボクたちは大丈夫です」
「ザコくん……」
何か言おうとして言葉を飲み込んだキトラを背中越しに抱きかかえるとユキマサは焔の翼を顕現し飛び上がる。
同時にダリアも〈八咫烏〉を顕現して、サチ、ゴロゴロスと共に飛び去った。
大蛇の頭部には、ミチオとキュウタだけが残された。
第136話 ザコくん。この瞬間がずっと続けばいいのにと少しだけ思う。
◆◆
〈八岐大蛇〉の身体を吸収し、周囲の金剛を取り込むことで、みるみる肥大化していく群塊シモンズを、ミチオとキュウタはにらみつけていた。
あと1分もしないうちにあの群塊はこちらに追いつき、身体が取り込まれてしまう。
その動きを止めなければ、先に逃げたみんなも犠牲になり、最悪の場合。あの巨大な群塊が地上に解き放たれてしまう。
あれが外に出たらどうなる?
身体を維持するための金剛が足りなくなって自壊する?
それとも、身体を維持するため、他の動植物を取り込んでいく?
いずれにせよ。ロクなことならないのは確かだ。
「なにか策はあるのか?」
キュウタがミチオに尋ねる。
「……」
「だから残ったんじゃないか?」
「キュウタは?」
「オレにはない」
「ははっ……」
ミチオは苦笑いする。
「だが、お前に何か策があると思ったから、ここに残った」
ムツミの件で自暴自棄になっていたキュウタの姿はそこにはなかった。
少なくともキュウタは生き延びて、ここから出ようとしている。
そして、そのためにボクの策に期待している。
そのことがミチオは嬉しかった。
「最善の策ってわけじゃないけど……時間稼ぎならできると思う」
「教えてくれ」
「〈蓮華〉ってわかる? ヒョンスさんが使ってた」
「空中に足場を作って飛び回る法術か?」
「うん」
「あれはセンスがいる。オレにはできない」
「でも、二人ならできないかな?」
「……どういうことだ?」
「〈鏃小魚〉」
ミチオは大気中の金剛を集め小さな魚たちの群れを生み出す。
「金剛星印〈みなみの大魚〉」
一匹、二匹、三匹。小さなコザカナたちは一か所に集まり巨大な魚へと姿を変える。
「キュウタ!」
ミチオが錬成した金剛の大魚にキュウタは飛び乗る。
足から体重をかけた瞬間、〈みなみの大魚〉は崩れ去り、胡散霧消した。
しかしそのタイミングでキュウタは足場となった〈大魚〉を蹴り、上へ飛び上がった。
大蛇の頭から移動したミチオめがけて、群塊シモンズから錬成された大蛇の頭が食らいつこうと突進する。
キュウタは大蛇の突進を避けて、ミチオが生み出した〈みなみの大魚〉を蹴り上げ空中を飛び交う。
キュウタの動きに合わせてミチオも続けて足場となる〈大魚〉を錬成する。
しかしミチオが足場としていた大蛇の頭部も、群塊シモンズに浸食され、やがてミチオは足場を失った。
空中に放り出されたミチオは〈大魚〉を次々と錬成、その足場を利用して空中を移動した。
その動きはヒョンスに比べると何倍も野暮ったかった。ミチオが錬成した無数の大魚はヒョンスの〈蓮華〉と比べるとサイズが大きく硬度も高く設定されていた。
それ故、一度に生み出せる数は限られていたが、巨大ゆえに単純な動きしかできない大蛇の動きをかわすにはそれで充分だった。
◆◆
無数の〈大魚〉を錬成して足場とするやり方は、金剛の濃度が高いナラカだからこそできた荒業だった。
膨大な金剛を取り入れ錬成し続ける限り、ミチオは足場となる〈大魚〉を作り続けることができた。
だが、これはあくまで防御による時間稼ぎ。
金剛による攻撃をすべて吸収して自分のものとする群塊シモンズを
倒す手段を、キュウタもミチオも持ち合わせていなかった。
二人に勝機はなかった。
だが、負けなければ終わりじゃない。
ならば、ギリギリまで避け続ける。
ミチオとキュウタの思いは同じだった。
◆◆
無数の〈大魚〉を足場にして、飛び移りながら敵の攻撃を避け続ける。
一発でも攻撃を受ければ、その場で終わり。
防戦に継ぐ防戦。
勝機はない。
だが避け続けていれば負けることはない。
あと何分持つだろうか。
それとも何秒?
いつ終わりが来るかもわからない中で避け続ける守りによる抵抗は客観的に見れば救いのない絶望的な状況だったが、そんな絶望的な状況を、自分が面白がっていることにミチオは気付いた。
それはキュウタも同じだった。
ポーカーフェイスゆえに感情は読み取れなかったが、ミチオはキュウタがなぜか楽しそうに見えた。
なんというか二人で遊んでいるような感覚だった。
キュウタがどう思っているかはわからないけど……ボクは今とても楽しい。
最悪な状況だけど、この時間がずっと続けば良いのにとミチオは少しだけ思った。
第137話 流星と梯子
◆◆
ミチオとキュウタはまるでゲームでもするかのように、空中を飛び回っていた。
しかし、時間が長引くに連れ、敵の動きもまた、精度を増していく。
大蛇はキュウタの動きを学習し、身をかわした軌道を狙い食らいついてきた。
7体の頭部は戦力を分散し、4体はキュウタを3体はミチオを狙っていた。
戦力が分散されているからこそ、大蛇の攻撃をかわすことができたが、大蛇もそのことに気付いてた。
そして群塊シモンズが最後の大蛇の頭部を取り込んで数秒後、8番目の首を顕現させて戦闘に加わる。
その時、大蛇はターゲットをミチオに絞った。
8体の首が同時にミチオを狙う。
咄嗟にことにキュウタは声を荒げる。ミチオはバランスを崩しながらもなんとか8頭の大蛇の攻撃をかわしたが、その結果として、足場の錬成に失敗して急降下した。
「ミチオ!」
終わった。
そうミチオは思った。
せめてキュウタのために足場を用意しておきたいと思って3匹の〈みなみの大魚〉を錬成したが、それも時間の問題。これで終わりか……。ミチオは死を覚悟した。
◆◆◆
「ザコくーん!」
ミチオが落下する中、流星のような光がミチオめがけて直撃した。
「〈蓮華〉」
光はヒョンスだった。
足元に〈蓮華〉を錬成したヒョンスはミチオをお姫様抱っこすると、〈蓮華〉を蹴り上げ、上空めがけて飛んだ。
二人分の重量をものとはせず、ヒョンスはミチオを抱きかかえて飛んだ。
二人めがけて8首の大蛇が飛び掛かるがヒョンスは〈蓮華〉を錬成し、空中を飛び交いながら、華麗にかわしていく。
しかし多勢に無勢。
一人なら回避できた攻撃も、人を抱えての飛翔となると少しずつ勘が鈍っていく。
だが、ヒョンスには勝機があった。
あと少し……あと少し上昇できれば。
「マジシャン、今じゃ撃て!」
「|天使降臨《スラム・ヤコブ〉・雷槌〈神の慈悲〉」
御翼で錬成された雷の矢が大蛇の首に突き刺さる。
大蛇の首がひるんだ隙をヒョンスは見逃さず、第一階層めがけて〈蓮華〉を蹴り上げ、一気に駆け上がる。
「キュウタァ!」
同時にミチオはキュウタの足場となる〈大魚〉を錬成する。
〈大魚〉を蹴り上げミチオがあと少しで第一階層へと続く抜けた床の元へと向かう。
「お前たち。頼んだぞォ!」
ゴロゴロスの号令と共に長い縄梯子が降ろされる。
咄嗟の出来事だったが、キュウタは梯子を掴む。
それは縄梯子ではなかった。
肩車をして繋がっている石獣たちだった。
縄梯子のように繋がった石獣にぶら下がったキュウタを確認したゴロゴロスは、ユキマサたちと共に綱引きの容量で石獣たちの身体を引き上げる。
「オーエス」
「オーエス」
無茶な取り組みだったが、ΑΩ聖騎士団のビショップと女力士のサチの怪力もあり、引き上げは無事成功。
そしてキュウタと石獣たちの引き上げが終わると同時に、ミチオを抱きかかえたヒョンスは、第一階層の最終フロアに空いた巨大な穴へと飛び込んだ。
「急げ。ナラカの外に出るんだ!」
ゴロゴロスの掛け声と共にその場にいた者たちは、出口に向かって駆け出した。
第138話 ゴロゴロス。最後の手段。
◆◆◆ ◆◆ ◆ ◆◆◆◆ ◆◆
第一階層に戻ったミチオたちは、中央フロアめがけて走る。
「あの……ヒョンスさん」
「どうした? ザコくん」
「もういいんで降ろしてください」
「そうかい? 僕はずっとこのままでも構わないけど」
「ヒョン兄!」
痺れを切らしたキトラがヒョンスに対して怒りをぶつける。
ヒョンスはミチオをお姫さまだっこしたままだった。
〈蓮華〉を用いた空中歩行をするヒョンスのスピードは十分速かった。
なんなら二人がバラバラに走るよりも速かったが、さすがにミチオも申し訳なくなった。
「ここまでありがとうございます。ヒョンスさんがいなかったらどうなってたか」
「なーに。困ってる時はお互い様だよ」
「でも、もう大丈夫ですから。ボク……一人で走れます」
「そうかい?」
ヒョンスは少し寂しそうな顔をする。
その顔を見たミチオは、もう少しものままでもいいかなぁと思った。
ヒョンスには不思議な包容力があり、彼と話していると心を許して甘えたくなる。
「じゃあ、一つお礼をしてもらってもいいかな?」
「え?」
もしかして〈零弾〉の秘密を言えということか?
ダメだ。それだけは知られてはならない。
だが、今の自分はヒョンスに心を許してしまっている。
もしその質問をされたらボクは……
「ボクのことをお兄ちゃん♡って呼んでくれないか?」
「ヒョン兄ィ!」
キトラが怒りにまかせて、ヒョンスにツッコミを入れ、強引に二人を引きはがした。
「ははは、冗談だよ。キトラもお兄ちゃんを取られて嫉妬したのかい?」
「馬鹿! そんなんじゃな」
「それともボクにザコくんを取られたのが悔しかったのかな?」
キトラは顔を真っ赤にしてヒョンスを睨みつける。
「あれ? 図星かな。でも、ボクがザコくんのお兄ちゃんになれば、ザコくんはキトラのお兄ちゃんになるんだよ」
「嫌!」
「あっ、もしかしてお兄ちゃんじゃなくて……」
「お前たち。みんなが見てるんだから」
ヒョンスとキトラの兄妹喧嘩を長男のユキマサが諫める。
その姿は滑稽極まりなかったが、彼らの間に漂う無力感から来る絶望的な空気が少しだけ和らいだ。
◆◆◆ ◆◆ ◆ ◆◆◆◆ ◆◆
「走れるか?」
「うん」
キトラに押されて地面に落とされたミチオにキュウタが手を差し伸べる。
「ありがとう」
キュウタの手を取って、ミチオは起き上がる。
「さっきは助かった」
キュウタがミチオに頭を下げる。
「……気にしないでよ。相棒だろ」
「……」
「まだ試用期間だけど……」
突然のことにミチオは戸惑ったが、冷静に考えるとキュウタの行動はいつも突然だとミチオは思った。
「急げ、お前ら、後ろが迫ってるぞ」
肥大化した群球シモンズは第一階層に這い上がり、今もキュウタたちを追いかけていた。
巨大化したことで速度は落ちていたが、いずれ捕まるのは時間の問題だった。
12人は中央フロアめがけて走った。
◆◆◆ ◆◆ ◆ ◆◆◆◆ ◆◆
12人は中央フロアに戻ってきた。
カギュウ兵たちは撤退し、誰も残っていなかった。
ミチオたち12人。そしてゴロゴロスを慕う無数の石獣たちがそこにはいた。
「どうするのじゃ。ゴロゴロス?」
「撤退するんですよね?」
サラとユキマサが問いかける。
ゴロゴロスは悩んでいた。
ここから上へ延びる洞穴に入れば地上に出られる。
巨大化した群塊シモンズが押し寄せている今。
ナラカにいる理由はない。
はやく退却してカギュウ国に戻るべきだ。
だが、もしもナラカからシモンズたちが地上に這い出てきたらどうなる?
ナラカほどの金剛がないため、あの大きさを維持できなくなり弱体化する?
だが、同時に複合体をなしていた結合が崩れるかもしれない。
そうなれば、地上に無数のシモンズたちが解き放たれる。
ダリアが顕現した〈八岐大蛇〉も同じように解き放たれるだろう。
そして、巨大な身体を維持するため、大気中の金剛を吸い込みなが
ら、周囲の動植物――もちろんそこには人間も含まれる――を吸収していく……かもしれない。
もちろんすべては推測だ。
逆に巨体化した身体を維持するため金剛の濃いナラカに止まり、地上まで追ってこないかもしれない。
だが希望的観測だけで動くのはあまりにも無責任だ。
オレはカギュウの王子だ。兄者たちが……いない今。
全ての責任はオレにある。
ゴロゴロスは覚悟を決めた。
◆
「みんなは地上に退避してくれ」
「ゴロゴロスさま……」
「姫様、行きましょう」
サチに連れられダリアは地上への通路に入った。
二人に続く形でミチオたちも地上への通路を上る。
「お前たち……」
中央フロアに残ったゴロゴロスは、これまで彼が調伏した石獣たちを目の前に集めた。
「くーん」
そこにはゴロゴロスがかわいがってきたペロちゃんもいた。
「オン アミリト ドハンバ ウンハッハ ソワカ」
ゴロゴロスは胸の前で両手を組み、左右の親指、中指、小指を立てて、残りの指を内側に折る。
それは馬頭観音の印相〈馬口印〉だった。
「三摩耶形顕現・〈馬頭観音〉忿怒尊」
ゴロゴロスの前に立った石獣たちが一か所に集まり、馬の頭部に4つの腕を持つ金剛巨神へと姿を変えていった。
掲載は不定期です。




