第一部 金剛編 第十一章 ナラカ最深部 138~142話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第139話 リーダーとして。
◆◆◆
「ゴロゴロスさん……」
「お前たち……先に行けと言ったろ」
ミチオとキュウタは、ゴロゴロスを心配し、中央フロアに戻ってきた。
「すいません……」
「まぁ、いい。早く行け。いずれ奴らが来る」
「その力……シモンズと同じものか?」
キュウタが尋ねる。
「石獣を合体させて金剛巨神を顕現させるという意味では同じかもな」
〈馬頭観音〉忿怒尊の背丈は中央フロアの天井に届くくらいの大きさに変わっていた。
「やっぱ、ナラカはすげーな。オレのポンコツ三摩耶形でも、ここまでデカくなる」
「三摩耶形、使えたのか?」
「自力じゃ無理だ。だが、石獣の身体を生贄にすることでオレは金剛巨神〈馬頭観音〉を顕現させることができる」
ミチオは、キュウタとカギュウに向かう街道で見た金剛巨神のことを思い出していた。
あれほどの大きさはないものの、サイズだけなら群体シモンズに匹敵する大きさ。何より凄まじい量の金剛を放っている。
「凄い三摩耶形だ。……だが」
「わかってる。まともに戦っても勝ち目はない。だが……」
「何が狙いだ?」
キュウタはゴロゴロスに尋ねる。
「なぁ、あいつら……群塊シモンズはありとあらゆる金剛と生物を取り込んであそこまで巨大化したんだよな」
「……はい」
ミチオが答える。
「だが、これまで取り込んでいないものがあるよな。それは……」
「玻璃……ですか?」
「同じ金剛でありながら、足元の地面や壁とは同化することはなかった。それは何故か? おそらく金剛玻璃を生命のない無機物と認定したから……。あくまで推測だがオレはそう考える」
「……」
「さっきのお前らを助けた石獣の梯。どうやって錬成したかわかるか? 石獣たちをオレの三摩耶形で繋げたんだ」
「……」
「これがオレの三摩耶形だ。石獣使いは、調伏した石獣を自由自在に操ることができる。その力で石獣同士を融合させて、金剛巨神を錬成したのがこの〈馬頭観音〉忿怒尊ってわけだ。最低な力だろ」
「ゴロゴロスさん」
「オレはこの時のために、あいつらを手駒にしてきたんだ」
「そんなこと言わないでください」
ゴロゴロスの石獣に対する過剰な、時に気持ち悪いと思うくらい過剰な愛情を見ていたミチオは、彼の自嘲的な言葉の裏に深い悲しみのようなものを感じていた。
「何をするつもりだ?」
キュウタがゴロゴロスに問う。
「こいつらを玻璃の壁にして、入口を塞ぐ」
「……」
「最低のやり方だ。だが、これしかない」
3人が話していると、凄まじい音を立てて何かが迫ってくるのを感じる。
間違いない群塊シモンズだ。
ここに到着する過程で下の階層に放置されていたミチオたちが倒した石獣の遺体を回収し、群塊シモンズは更に大きくなっていた。
まるでアリの巣に流し込まれた泥水のように各エリアを、肉体で覆いつくしてきた群塊シモンズは、最後のエリアとなった中央大広間へと押し寄せていた。
「時間がない。お前ら行くぞ」
そう言うとゴロゴロスは〈馬頭観音〉忿怒尊に触れる。
ゴロゴロスの身体はみるみる金剛巨神と同化。やがて馬の頭部の下にゴロゴロスの頭部が浮き出た。
「どうだ、カッコいいだろ。装着型にもなるんだぜ」
〈馬頭観音〉と同化したゴロゴロスは4本の腕でミチオとキュウタの身体を掴んだ。そして、掴んだ二人を中央フロアの外へと押し出した。
「ゴロゴロスさん!」
「お前らはそこで待ってろ! オン アミリト ドハンバ ウンハッハ ソワカ オン アミリト ドハンバ ウンハッハ ソワカ……」
洞穴を巨大な身体で覆うと〈馬頭観音〉の身体は金剛玻璃と化し、周囲の壁や地面と同化していく。そして蟻一匹通さない強固な壁へと変わっていった。
「ゴロゴロスさーん!」
「これで兄者たちと一緒だ」
「ゴロゴロス!」
「あとはまか……」
後は任せた。そうカッコよく捨て台詞を残してゴロゴロスは自らの人生を閉じようとした。
コンプレックスまみれのクソみたいな人生だったが、最後は上々だった。
そう思い、ゴロゴロスは逝こうとした。
しかし、彼がカッコよく散ることを仲間たちは許さなかった。
ドボッ。
〈馬頭観音〉忿怒尊の背中からゴロゴロスの身体が吐き出され、ゴロゴロスは尻もちをついた。
「お前ら……」
〈馬頭観音〉の背中に、これまでゴロゴロスが助けてきた石獣たちの顔が浮かび上がる。その中心にはペロちゃんの姿があった。
「く~ん」
「ペロちゃん……みんな。どうして」
どうしてオレをのけ者にするんだ?
ゴロゴロスがそう言おうとした瞬間、彼の身体をミチオとキュウタが掴んだ。
「行きましょう。ゴロゴロスさん」
「嫌だ。オレはみんなと」
「あいつらの気持ちが、わからないんですかァ!」
ミチオが声を荒げる。
そんなミチオの取り乱した姿を見てキュウタは一瞬驚くが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻る。
「行くぞ」
「嫌だ! オレはここに残る。やめてくれ。これじゃあオレは本当に卑怯者になっちまう、やめてくれ!」
みっともなく取り乱すゴロゴロスの姿を石獣たちは見送った後、〈馬頭観音〉の中に戻っていった。
第140話 同じザコでも最強のザコ
◆◆◆
ミチオ、キュウタ、ゴロゴロス。3人はナラカを脱出して地上に出た。
地上では、先に退避したカギュウの兵士たちとダリアとサチ。ゴドウ3兄妹。ΑΩ(アルファオメガ)聖騎士団の4人が待っていた。
ゴロゴロスを取り囲むカギュウの兵士たちだったが、感動の再会を喜ぶ余裕など全くなく、洞穴の入り口から、いつ群塊シモンズたちがあふれ出やしないかと警戒した。
だが、10分、30分、60分と時間が経過する中、その気配がないことを確認。
その後、カギュウ兵の一人が中央大広間への入り口を塞いだ先程まで〈馬頭観音〉忿怒尊の身体だった金剛玻璃を目視。
壁にはまったく損害がなく、向こう側から壁を壊そうと試みられた形跡もなかった。
細かい理由についての検証は必要だったが、少なくとも現時点における危機は去ったと、この場にいた全員が思った。
「ありがとう……ザコ」
「ちょっと、ちゃんとくんを付けなさいよ。モヒカンメガネブタ」
ミチオに話しかけたゴロゴロスにキトラが怒りをぶつける。
「キトラ。ゴロゴロスさんに失礼だろ。謝りなさい」
間に入ったヒョンスはキトラの耳元で「懸賞金がもらえなくなるだろ……」とつぶやく。
だが、脱出時のフラストレーションがたまってたのか、ミチオのことをザコと言ったことが許せなかったのか、ギャーギャーと騒いでいた。
怒ってるキトラの姿を見て、ザコでもザコくんでも対して変わんないよなぁとミチオは思った。だが、そこで横やりを入れるとさらに状況が悪くなるので、ただただ苦笑いをしていた。
キトラに失礼な侮蔑に怒りを露わにするかと思われたゴロゴロスだったが、意外な反応を示した。
「……いいんだ。オレは無力なモヒカンメガネブタだ。いや、ブタに失礼だな。オレはリーダー失格のモヒカンクソメガネ……オレこそザコだ。まったく、リーダーなのに情けねぇ」
「……わらわもザコじゃ」
沈黙を破ったのはサラだった。
「姫様。ファイターの死は姫様の責任ではありません。むしろ奴は姫様のために犠牲になれたことを喜んでいます。それこそがΑΩ聖騎士団の生き様」
「わかっておる……わかっておる……じゃが……」
サラの言葉にならない気持ちをその場にいた全員が共有していた。
それは圧倒的な無力感だった。
彼らはそれなりに歴戦の勇士であり、腕には自信があった。しかしそんな自信は石獣とナラカを前におめおめと逃げ帰ることしかできなかったことは、彼らのプライドをズタズタにした。
何より大切な兄弟と仲間を奪われたことは、深い心の傷となっていた。
「石獣の前では私たち人間は無力なザコなのかもしれません。でも……」
ダリアが口を開いた。
「ザコはザコでも私は最強のザコを目指します。そうですよね。ザコさん」
ダリアがミチオに語りかける。
「えっ……」
戸惑うミチオ。
「オレも最強のザコを目指す。ミチオみたいに」
「キュウタ……」
ミチオは恥ずかしくなる。しかし周囲を見回すとさっきまで絶望的な表情だったみんなの顔が明るくなっている。
「フフッ。最強のザコか。カッコ悪い響きじゃ。だが悪くはない」
「あぁ、どうせ人間はザコなんだ。だったらオレたちは最強のザコを目指そう」
「何それ。ダッサ。私は違うから。私はザコくんじゃないからッ!」
サラとゴロゴロスの発言の後、投げやりな興奮が周囲を包んでいく中、キトラはそう呟いた。
こうして、ナラカ探索隊の任務は終了した。
◆◆
その後、彼らはカギュウ国に戻った。
ミチオとキュウタは野良犬の宿に戻り、泥のように眠った。
翌日、チーム・ダリアの4人は、カギュウ国から呼ばれ、報告した討伐数に応じた報酬をもらった。
チームダリアに渡されたのは、それぞれ金貨一枚と「野良犬」に払う依頼手数料の二割。
つまり金貨4枚と銀貨80枚が支払われた。
金額は現代の日本円に換算して4億8000万円。
手数料を別払いとしたのはカギュウ国による誠意の現れだったが、あまりにも膨大な数の石獣と戦ったため、その報酬が適正かどうかミチオには判断できなかった。
「金貨か……」
キュウタはあまり嬉しそうではない
「使いにくい」
「どういうこと?」
「下手にカギュウの銀行に預けると他所のエリアで引き出すことが難しくなる」
「じゃあ、自分で持つしか。でもこんな大金、持ち歩くの嫌だなぁ」
「噂はすぐに広がる。賞金稼ぎに襲われる可能性もある」
この時代、多額のお金を運ぶことは困難だった。
そのため、金貨単位の財産となると国の銀行に預けるのが慣例だった。
一度、国営の銀行にお金を預けると、その国を拠点とした活動しかできなくなる。
つまり二人で金貨2枚という多額の報酬は、カギュウ国が二人を永住させたいという意思の表れでもあった。
それは国の王子であるゴロゴロスを無事生還されたことに対するカギュウ国の誠意でもあり、いずれ二人をカギュウ国直属の金剛使いとして向かい入れたいという思石の表示でもあった。
その気持ちはとてもありがたかったが、行動が制限させることを考えるとミチオもあまり喜ぶことはできなかった。
一方、ダリアとサチは報酬を受けとらなかった。。
ダリアはゴロゴロスと裏取引きをしていた。
それはナラカ内で見つけたお宝を報酬で買い取るというものだった。
ダリアの目的は金剛玻璃の一部を回収してワシュルカへと持ち帰ることだった。
ダリアの目的が金剛玻璃だということを、第四階層で行動を共にした際にゴロゴロスは聞かされた。
その時は緊急状態だったこともあり、ダリアの交渉を受け入れたが、後から考えると、これは国際問題になるとゴロゴロスは思った。
◆◆ ◆◆
「じゃあ、玻璃を買い取ったのですか?」
「はい。極秘裏にですが」
「私と姫様は報酬を辞退したことになっている。カギュウの王様ははじめは驚いていたが、ナラカ探索は、姫様が須弥山に入学するためにワシュルカ国が課した試練だったと伝えたら、納得してくれたよ」
「でも、こんな小さい玻璃が金貨2枚って……ナラカにたくさん落ちてましたよ?」
「地上では手に入らないからな。100枚でも安いくらいだ」
「……」
「……これから玻璃は世界を変える重要な金属となっていくと思います」
◆◆◆ ◆◆◆◆
一人、金貨一枚+手数料という条件は他の者も同じだった。
キトラたち3人には金貨3枚と野良犬に払う仲介手数料となる銀貨60枚。旧世界の金額で3億6千万円相当が支払われた。
一方、ΑΩ聖騎士団の4人には金額が支払われなかった。
いや、この言い方は適切ではない。
支払いがおこなわれる前に、4人は姿を消した。
◆◆ ◆◆
「なぜサラさんたちは報酬をもらわずに消えたんですか?」
「ΑΩ共和国は帝都の敵国だからな。帝都の管理下にあるカギュウであいつらの素性が知られると国際問題になる」
サチがミチオに答える。
「それに、私たちとサラさんの目的は同じだったのだと思います」
「どういうことですか?」
「おそらくΑΩの目的は玻璃の採掘。そのためにナラカを探していたのだと思います」
「あいつらも、玻璃を極秘裏に持ち帰ったってことだな」
「サラさん達、言ってましたよね。ΑΩでもナラカの存在が確認され、石獣の脅威に苦しんでいるって」
「そのために玻璃を?」
「どうやら玻璃には胡散霧消しない金剛という特性の他に別の大きな利点があるようです」
「なんですか。それは?」
「石獣殺し(ヒビワレ・コロシ)」
◆
以下は、ゴロゴロスがカギュウ国に報告し、すぐさま帝都の須弥山学園へと郵送されたナラカ探索の記録、通称・ゴロゴロス報告書の趣旨を要約したものである。
・ナラカは金剛で構成された天然の地下迷宮。
・元々は旧世界でしょっぴんぐもーると呼ばれた多層建築物。
・内部は石獣の巣。
・石獣はナラカ内部に漂う金剛を吸収して生きている。
・内部の金剛の濃度は地上よりも濃い。原因は不明。
・第一階層は各フロアを中継点にしてつながっており、フロアとフロアを繋ぐ通路が迷宮のように入り組んでいる。
・第二階層、第三階層、第四階層、最下層と降下するに従い、金剛の濃度は増加。それにともない、生息する石獣の戦闘力は増加していった。
・下層では、ナラカの壁や地面に金剛玻璃が発生しているのを確認。おそらくナラカ内の金剛が凝り固まって純化したものだと思われる。残念ながら玻璃は回収はできなかった。
・ナラカ最下層には大広間があり、その中央には玉座のようなものがあった。そこに鎮座していたのは、半身が人型石獣と化している女。
・彼女(人間の時の名はキシモリ・ムツミ)は女王として無数の人型石獣、通称・シモンズを束ねていた。
・大広間にいたシモンズの数は測定不能。少なく見積もっても千体以上いたが、おそらく彼らは女王の意思に従って行動する群体であり、数という概念で計測することは難しいのではないかと思われる。
・ナラカ探索隊は第一次部隊は全滅。第二次舞隊もまた、チーム・ダリア、ゴドウ三兄妹、荒野の傭兵団の3組を除き絶滅。増援部隊として駆け付けた地獄のカギュウブラザーズも全滅。人型石獣に敗北した者たちの多くは、その後、人型となり、敵戦力に取り込まれる。
・地獄のカギュウブラザーズ、荒野の傭兵団の一人、コードネーム・ファイターはナラカ最下層の大広間で対峙した人型石獣・通称シモンズの複合体と思われる、群塊シモンズ(仮称)に取り込まれ敵となる。
・群塊シモンズに対する金剛を用いた攻撃は無力で逆に吸収されてしまう。ダリアの三摩耶形・赤加賀智〈八岐大蛇〉も群塊シモンズに取り込まれた。
・群塊シモンズは、無数の石獣で錬成したゴロゴロスの三摩耶形・〈馬頭観音〉忿怒尊を金剛玻璃の壁と同化させることでナラカから地上へと向かう出口を塞ぐことで、ナラカに閉じ込めることに成功。
・ただし、ナラカは最下層で別の通路に繋がっている模様。いずれ別の入り口からナラカが開き、人型石獣が押し寄せてくる可能性もゼロではない。
・至急、金剛手による討伐軍を編成し、地上にある全てのナラカの入り口を防ぐべし。
・そのために必須となるのが金剛玻璃を用いた対人型石獣討伐用兵器の開発。全国の金剛手は力を合わせて玻璃による武器を開発、量産に着手すべき。
◆◆ ◆◆
「つまり、玻璃で作った武器を用いれば、すべての金剛を吸収する群塊シモンズも倒せると?」
「あくまで仮説ですけど」
「……」
「少なくともサラさん達ΑΩ(アルファオメガ)は、これからそう考えて動くのではないかと思います」
「そして、ゴロゴロスの報告を聞いた帝都の金剛手たちもそう動く」
「あくまで仮説ですけど。ゴロゴロスさんはそう考えていると思います」
「……そうですか」
スケールが大きすぎて、自分には情報を処理できないと思いミチオは思考を放棄した。
だが、キュウタは何か考えているようだ。
「いずれにせよ。私たちは目的を果たしましたので、ワシュルカに帰ります」
「そうですか」
「なんだザコくん。私と会えなくなるのがさみしいのか?」
「えぇ……まぁ……」
サチの言葉に対して、ミチオは返答に困った。
「その後はどうする?」
キュウタがダリアに話かける。
「お父様のお許しを得たら、須弥山学園に入学するつもりです」
「そうか……」
「お二人には感謝してます。いつかワシュルカに遊びに来てください」
「ワシュルカ名物のちゃんこ鍋、ごちそうしてやる」
サチとダリアはカギュウ国を後にした。
第142話(第一部最終回)これからもよろしく。
◆◆◆
ドォンドォンドォン!
「ザコくん! いるの? いるんでしょ! だったら出てきなさい!」
「ザーコくん。遊ぼぉー!」
「キシモリくん。今日こそ決着を付けよう」
ナラカ探索終了から3日目の早朝。
「野良犬」二階にある宿屋をゴドウ三兄妹が訪れ、ドアを激しく叩いていた。
「おめーら。うるせーぞ」
騒いでいる声を聞きつけ「野良犬」のオーナーが二階に表れる。
「うるさいのはアンタよ。私はザコくんに用があんの。邪魔すんな!」
「はぁ? 〈半邪鬼〉と〈ザコ〉なら、チェックアウトしたぞ」
「えぇぇぇぇ?」
「それは、いつですか?」
「昨日の深夜だ」
「どこに向かったかわかりますか?」
「たぶん帝都じゃねーか」
「帝都……」
「賞金稼ぎはギルドを拠点にするからな。ここいらでギルドがあるのはカギュウと帝都だけだから、そこを拠点にすんじゃねーの」
「ユキ兄ィ! ヒョン兄ィ! 帝都行こ。今すぐ行こ。直行ォ!」
「キトラっ。待ってよ」
「野良犬」を抜け出すと、猛スピードで駆け出したキトラをユキマサとヒョンスを追いかけ、カギュウの門を抜けて、帝都への公道へと走り去っていった。
その姿をミチオは、遠く離れた高台の丘から望遠鏡で眺めていた。
◆◆
「どうやら行ったみたいだね」
「逃げる必要あったのか?」
キュウタがミチオに尋ねる。
「……うん。キトラはボクのことを恨んでるから。今度会ったら殺し合いになる」
「……ゴドウ・ユキマサも何故かオレを恨んでた」
「え? なんで」
「ミチオに負けたのをオレが裏で何か細工したと思い込んでいた」
「え? なんかごめん」
「気にするな。……ミチオは何故、戦いたくないんだ?」
平然とした表情でキュウタは尋ねる。
その言い方には、敵対する相手と命を奪い合いになるのは、当然だろうというニュアンスが込められているようにミチオは感じた。
「キトラに恨まれるような闘い方をしたのはボクだから。……いつか殺し合うのは仕方ないと思う。でも、今戦うのは嫌なんだ」
「……」
「せっかく一緒に戦った仲間だしね……」
「そうか……」
「それより、最終試験はどうだった?」
「なんのことだ?」
「キュウタァ……。ボクを相棒にするかどうかの最終試験がナラカだって言ってじゃん」
「……忘れてた」
「じゃあ、結果は……」
恐る恐るミチオは尋ねる。
「オレの〈半邪鬼〉見ただろ」
「うん」
「この力は危険だ。長時間戦えば暴走する」
「うん。わかってる」
「オレといたら、いつかお前を殺してしまうかもしれない」
「……」
「それでもいいのか?」
「殺されるのは嫌だけど……」
「だったら、暴走したオレを殺してくれるか?」
「それも嫌だけど……」
「契約はなしか……」
「待って待って。そういうことじゃなくて」
「意味がわからない」
「殺すのも殺されるのも嫌だ。でもボクはキュウタと一緒にいたい。……相棒として」
「……」
「もしも最悪の時が来たら、その時に考えるよ。でもボクはギリギリまで二人で生き残る可能性を探すと思う」
「……」
「それでもいい?」
「……あぁ。今から正式な相棒だ」
「……」
「どうした?」
「なんか急に恥ずかしくなってきた」
そう言うとキュウタは顔を赤らめた。
そして数秒の沈黙が流れた後、二人同時に
「これからもよろしく」
と口にした。
◆◆◆
「それで、これからどこに行くの?」
「先生のところに戻る」
「先生って……じゃあ」
「帝都に行く」
「……キトラたちと鉢合わせにならないかなぁ」
「少し遅れて行けば大丈夫だろう」
「そのぉ、どうして先生のところへ?」
「あの人は石獣について研究していた。ただ〈内在〉派ゆえに須弥山から嫌われていた」
「それじゃあ」
「ムツミのことを話す。人としては最低だが、今は先生しか頼れる奴が思いつかいない」
「わかった。じゃあ、キトラたちに追いつかないように、ゆっくり帝都を目指そうか」
「その旅。オレも混ぜてくれ」
キュウタとミチオは驚き、声の方向に振り返る。
「ゴロゴロスさん!」
「オレも帝都に行く。父上の許可は取った」
「どうして?」
「金剛手になる」
「……」
「報告書を父上に提出したら、須弥山への推薦書を書いてくれた」
「……」
「ナラカはオレが全て潰す。そして兄者とペロちゃん達を助ける」
「助けるって……」
「ナラカにいる限り、兄者たちは死んでないと思う。シモンズから分離する方法と奴らを倒す方法さえわかれば、きっと助けられる。あくまで推測だが……」
「……」
「だからナラカのことを学び、オレの三摩耶形を鍛えれば、何か活路が見いだせるかもしれない。……もう嫌なんだ。誰かが犠牲になるのは……」
「護衛の依頼ってことでいいか?」
キュウタがゴロゴロスに問いかける。
「あぁ、帝都まで頼む。報酬ははずむ」
そう言うとゴロゴロスは手を前に出した。
「何のつもりだ」
「お前らの話、ずっと聞いてた」
「え?」
「最後のやつ。オレもやりたい」
「でも……」
「報酬は出す。……だが、できれば雇い主としてでなく、仲間として同行してほしい。だから……」
ゴロゴロスは顔を赤らめる。
ミチオとキュウタはお互いの顔を見合わせた後、軽くうなずき、ゴロゴロスの手を取った。
そして3人同時に
「これからもよろしく」
と口にした。
第一部 完
第一部あとがき
『最強のザコ』の第一部は前回更新の第142話で終了となります。
とりあえず試用期間だったミチオが、キュウタの相棒として正式採用されたことで、やっとスタート地点に立てたというのが、第一部でした。
つまり物語はまだまだ始まったばかり。
ゲームでいうと体験版ぐらいの分量だと思います。
『最強のザコ』は、金剛という設定を活かした能力バトル小説をやりたいというところから始まっており、そこから三摩耶形等のアイデアが広がっていきました。
同時に『女神転生』シリーズが大好きなので、登場する能力の名前は、可能な限り原典となる神話や宗教から持ってこようと考えました。
一方で石獣の名前は人型、熊型、犬型といったシンプルなものとなりました。
悩んだ末にやろうと決めたのが、金剛がヴァジュラ、アダマス、あるいは御翼といった、同じ概念でありながら別の名前で呼ばれているという世界観です。
これは小説でやるとややこしくなるのですが、現実だと国や宗教が違えば呼び名が変わることは当たり前で、むしろ同じだと不自然だと考えました。
読んでいる方にはややこしくて申し訳ないのですが、そういう世界観だと思って読み飛ばしていただければ、ありがたいです。
こういった設定というか作品内ルールや名称の規則性を決めるのが一番時間がかかったし頭を悩ましたと思います。
一時期は星座や仏教、ヒンドゥ教、について書かれた書籍やネットの記事をずっと観ながら、うまくハマる言葉はないかと探していました。
◆◆
物語やキャラクターは書きながらその場のノリで書いていった所があるので、予想外の展開も多かったです。
〈英雄の船〉編は後から書き足したものですし、ΑΩ聖騎士団も最初は『ウィザードリィ』のパロディくらいに考えてファイターやシーフといった職業名だけのキャラクターを登場させたのですが、書き進めるうちにサラたちがどんどん大きな存在となりっていきました。
もっとも変化したのはゴロゴロスです。
ビジュアルの面白さと石獣を仲間にする能力というアイデアに面白さは感じましたが、途中からもっとも成長したキャラクターで、だからこそキュウタとミチオの仲間に加わったのだと思います。
言うなれば彼は、3人目の主人公と言える存在にいつの間にか昇格してしまったのですが、作者自身も最後のシーンは予想外でした。
自分は主役、脇役という発想が苦手で、どんな脇役でもついつい背景を掘り下げてしまい、最終的に主人公に等しい存在に変わってしまう傾向があるようです。
おそらく3人称で書いたから、そういう展開になったのだと思います。
逆に一人称で同じ人物の物語を書いたらどうなるのか? という興味がありますので、今後は各キャラクターの物語を一人称視点で書く短編を一万字前後の分量で随時発表できればと思います。
◆◆◆
第二部となる「帝都編」は、少し休んで、週に数回更新する形で再会できればと考えてます。
しばし、お待ちください。
或亜豊




