第一部 金剛編 第十一章 ナラカ最深部 第132~134話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第132話 二匹の黒龍と蜂球。
◆◆◆
ムツミたちのいる玉座から逃走したミチオ、キュウタ、キトラは、ムツミの命令で追いかけてくる無数のシモンズを薙ぎ払いながら前へと進む。
その最中。背後から巨大な金剛の気配を感じた。
目の前を巨大な黒龍が猛スピードと通り過ぎていく。
黒龍がシモンズを吹き飛ばした後にできた道を3人はひたすら突っ走る。
3人の思いは同じだった。逃げる。とにかく逃げる。
今はとにかく、この場所から離れなければ。
その一心で3人は走った。
◆◆◆
「キトラ!」
「ユキ兄!」
キトラの背後から3人が追いかけてくる。
ユキマサ、サラ、ゴロゴロス。
ファイターの姿と地獄のカギュウブラザーズの姿がないのを見て、作戦は失敗したのかとミチオは思った。
逆にユキマサは3人が無事に戻ってきたことに安堵したが、同時にキュウタが姉のムツミを救出できなかったことを理解した。
「あのバカでかい龍……ユキ兄の?」
「あぁ。ナラカの金剛で獰猛になってる」
ユキマサが放った黒龍・倶利伽羅竜王はシモンズを薙ぎ払った後、空中を漂いながら視界に入った石獣に対して襲いかかっていた。
それは脊髄反射的な反応にすぎなかったが、敵の注意を引き付けるには十分だった。
うれしい誤算だったのは、最初にユキマサが放った黒龍も健在だったことだ。
不動黒龍剣はユキマサの奥義だったが、地上で行うには必要な金剛が膨大で、降魔の三鈷剣に小さな黒龍を顕現するのが精いっぱいだった。
それでも、その力は絶大で、並の金剛使いや石獣ならば一刀両断できた。
そのため黒龍を顕現しての斬撃は必要なかったのだが、ナラカの膨大な金剛が顕現を可能とした。
巨大な力を発現させるには、その力に見合ったエネルギーを必要とする。
三摩耶形を用いた法術や剣技において、そのエネルギーとは金剛の濃さと分量であったが、このナラカでは純度が高くて良質で濃厚な金剛が充満しており、いくらでも使い放題だった。
だから地上で顕現させればすぐに消滅する黒龍が二体とも消滅せずに地上の何倍もの大きさと力を持った状態で大暴れしている。
「もしかして、ユキ兄の黒龍、こいつら全部倒しちゃう?」
「頭が悪いメスガキじゃ」
「あぁ?」
サラの見下したような口調に、キトラはイラッとして睨みつける。
「御翼の影響で力が増しているのは奴らも同じじゃ」
サラが黒龍の方をチラッと見る。その動きにつられてその場にいた全員が黒龍を見た。そこには全身を焼かれながらも無数のシモンズが黒龍に飛び掛かり、身体を覆いつくす異様な光景だった。
黒龍に飛びついたシモンズたちはすぐに黒龍の熱でボロボロとなり、落下して地面に叩きつけられる。
しかし、ナラカの金剛で身体を修復するため、致命傷には至らない。一方、黒龍に対しては二手三手と次から次へとシモンズが飛び掛かる。
キリがないと思った黒龍はより高い場所に飛んで逃げようとするが、シモンズたちは足場となるシモンズたちが軍隊で上へ延びる道を形成し、その上をシモンズたちが走り飛びついていく。
圧倒的な数のシモンズを前に無尽蔵に思えた黒龍の身体を覆う熱はみるみる奪われていき、黒炎の勢いは落ちていく。
「まるで蜂球だ」
ミチオは中学の図書館で読んだ昆虫図鑑に書かれていたミツバチの蜂球を思い出していた。
蜂球——巣を襲う一匹のオオスズメバチに対し、数百匹のミツバチが球状になって取り囲み、筋肉や羽の振動によって球体の中心部を50度に常勝させてオオスズメバチを蒸し焼きにする防衛行動で熱殺蜂球ともいわれている。
「パッとしない小僧、詳しいな」
「パッとしないって何よ。彼にはザコくんっていうれっきとした」
「ザコクン?」
聞きなれない言葉にサラは戸惑う。
「今、その話はいいですから……」
そもそもザコくんもあだ名で、ボクには本名がと言おうとしたが、ややこしくなりそうなので、ミチオは会話を遮った。
「……詳しいなザコクン。だが、あの行為は蜂球と似ているが、やっていることは逆。むしろ熱を奪っているというのが正解じゃ」
「なるほど……でもそれじゃあ」
「私の黒龍はもう限界だろうな」
シモンズたちに熱を奪われた黒龍は鱗で覆われた表面を露呈していく。黒炎の防壁をはがされた黒龍は、金剛による回復が追いつかず、黒炎の消えた一瞬のスキを狙い、無数のシモンズたちが飛び掛かり一方的に攻めた。回復が間に合わない黒龍の前身はシモンズに砕かれ上空で雲散霧消していった。
黒龍が消えていく姿を見て、自分たちがいかに非力かをミチオたちは思い知った。
「気にするな。黒龍の躍動によって時間は十分稼げた」
ユキマサは笑顔でそう口にする。
顕現された黒龍が無残に滅ぼされ、一番絶望してもいいはずのユキマサだったが、金剛手としての経験がそうさせたのか、彼だけが自分の能力と現状を冷静に診断し、やるべきこととできることを冷静に見極めていた。
6人は大広間を抜ける一本道を抜け、最下層の落下地点めがけて走った。
第133話 サラ。ファイターの気持ちに報いたい。
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6人は大広間を抜ける一本道を抜け、最下層の落下地点めがけて走った。
ミチオたちは第一階層から最下層へと落下した吹き抜けへと猛ダッシュで向かった。
幸いなことに道を阻む敵は行きの道で片付けていたので、ほとんどいなかった。
だが、猛スピードで追いかけてくる人型石獣の気配は、6人共感じていた。
「ゴロロォ―」
「ゴロロロォ~」
後方から聞こえてくる禍々しい声が兄者たちのものだとゴロゴロスは気付いていた。
「待ってくれぇ~」
「ゴロロォ~お兄ちゃんたちを置いていかないでくれぇ~」
「ゴロゴロス。勘違いするな。あれは悪魔が言わせているものじゃ」
「わかってる。わかってるけどォ」
「サラ姫さまぁ~」
ゴロゴロスを説得するサラの耳に、聞き覚えのある声が響く。
◆◆◆◆◆◆
「ファイター! ファイターなのか?」
サラは思わず立ち止まり、後ろを振り返る。
巨大な群塊が押し寄せてくる。群塊には地獄のカギュウブラザーズの5人だけでなく無数のシモンズたち、そしてサラのために身を犠牲にしたファイターの身体も取り込まれていた。
「姫さまぁ。サラ姫さまぁ。わたくし、サラ様のこと。影ながらお慕いしておりましたぁ」
「ファイター。いや。グリジェロ。私は……」
サラはファイターの本名を口にした。ΑΩ(アルファオメガ)の姫という立場上、彼女は聖騎士団の者たちと対等に接することは禁じられていた。
そのため、荒野の傭兵団の活動においても、ファイター、ビショップといった聖騎士名でのみ呼んでいた。
幼い時からのお目付け役だったビショップに対しては「爺や」と呼んで甘えることもあったが、それはあくまで例外的なものであり、王族という立場上、明確な一線は引いていた。
だが、彼女はファイターの真の気持ちに気付いていた。
年齢が近かったこともあり、長旅の中で情が移り、心を許すことも何度かあった。
それを愛情と呼ぶかどうかは彼女にはわからなかった。
だが、他の仲間たちと同じように大切な存在であることは確かだった。
「サラー。オレェ~頭の中で何度もアンタのことを抱きました。何度も何度もいやらしい妄想を~。でも、アンタの本当の気持ち気付いてましたよぉぉ! オレのがほしくてほしくてたまらないって、アンタの顔に書いてま」
その後、かつてファイターだった者の口からは、ここには書けないような淫らで猥褻な言葉が次から次へと漏れ出す。
その言葉はとても暴力的で、旧世界でせくはらと呼ばれるたぐいのものだと、サラは思った。
「姫さん聞くな。あれは金剛病が言わせる妄言だ」
さっきまで醜態をさらしていたゴロゴロスが、今度はサラを説得する側に回る。
「わかっとる! わかっとるんじゃ!」
二人とも金剛と石獣の専門家ゆえに、それが金剛病の言わせる妄言であることを二人は理解していた。
だが、あの妄言は宿主となった人間の潜在意識を金剛が読み取り、言わせているものだということにサラもゴロゴロスも気付いていた。
だからサラは、そのような欲望を自分に抱きながらも、これまで抑制してきたファイターのことを健気な奴だと感じた。
「苦しかったんじゃな。ファイター」
それは恋愛感情や肉欲とは違う感情だったが、職務とは言え、自分のために犠牲になろうとしたファイターに対して何か報いたいという気持ちが彼女の中で巻き起こっていた。
「〈解体〉する」
「え?」
その場に立ち止まったサラを見て、5人は驚いた。
「わらわの〈解体〉なら、やつらを……ファイターを元に戻せるやもしれぬ」
第134話 群塊は全てを呑み込む。
◆◆
サラは群塊シモンズとなったカギュウの5兄弟とファイターを迎え撃つ。
確かに彼女の〈解体〉の力なら、群塊の拘束を解いて、6人を元に戻すこともできるかもしれない。だがそれは、シモンズの群塊にサラが触れて、内部の構造を解析しなければならない。
敵が単純な構造ならすぐに〈解体〉できるかもしれない。
だが、もしも敵の内部構造が複雑なら解析に時間がかかり〈解体〉は間に合わず、サラの身体は押しつぶされる。
それはとても危険な賭けで、勝ち目がないことは誰の目にも明らかだった。
それはサラ自身もわかっていたが、一度頭に血が上るとそれ以外のことが考えられないのが彼女の欠点だった。
さぁ来い。
待ち受けるサラに巨大な球体がみるみる迫ってくる。
「サラァー」
迫りくるファイターの身体めがけてサラは右手を伸ばそうとする。だが、その瞬間、彼女は背後から羽交い絞めにされ、脚を誰かに担がれる。
「馬鹿野郎!」
背中から羽交い絞めにしたのはゴドウ・ユキマサだった。
そして彼女の右足をミチオが掴み、左足をキュウタが掴んで担ぎ上げていた。
「何をする? やめろ!」
「サラさん。冷静になってください」
「アンタ馬鹿なの?」
「うるさい!」
横からキトラがサラにツッコミを入れる。
「えーい離せ!」
神輿を担ぐかのように3人がサラを運ぶ。
その後をキトラとゴロゴロスが続く。
群塊と化したシモンズは6人の目の前に迫っていた。
このままじゃやられる。
6人はそう思った。
ミチオとキュウタはサラの足を離す。
「お前ら?」
「オレが足止めする」
「ボクも……」
「仕方ない」
ミチオとキュウタは群塊シモンズの前に立つ。
策があるわけじゃなかったが。二人はやるしかないと覚悟を決めた。
◆◆◆◆◆◆
その瞬間、背後から凄まじい気配の金剛を感じた。
それは金剛によって錬成された赤い目の大蛇だった。
その姿は巨大で、表面は金剛の鱗で覆われていた。
一体だけならそれはユキマサの黒龍よりも一段落ちる大きさの蛇だった。
だが蛇は7体。それが群塊シモンズに絡みつき、回転を止めた。
「三摩耶形顕現・赤加賀智〈八岐大蛇〉……です!」
ミチオが7首の大蛇の胴体のある方向に目を向ける、そこには小柄な少女が立ち印を結んでいた。
「ダリアさん!」
「ザコくん。待ちわびたぞ」
ダリアの前にサチが立っている。
ミチオたち6人は急いでダリアの元へと駆け寄る。
「大蛇さんの背に乗ってください」
ダリアがこちら側に残した八岐大蛇の長い1首は上へ上へと伸びていた。
ゴロゴロス、サラ、ユキマサ、キトラ、ミチオ、キュウタ、サチ、ダリア。8人は八岐大蛇の頭部に乗ると第一階層めがけて登っていった。
「急いでください。首が……7首が持ちません」
無事脱出できるかと思った8人だったが、大蛇の7首を蹴散らした群球シモンズが押し寄せてくる。
「キャッ!」
「姫様」
「ダリアさん!」
突然、よろめいたダリアをミチオたちは心配する。
「どうしたお嬢ちゃん?」
「そんな……大蛇さんの首が……」
8人は群塊シモンズの方向を見た。立ち向かった7つの首は逆にシモンズに取り込まれていた。
「三摩耶形顕現・赤加賀智〈天叢雲〉」
〈八岐大蛇〉の八本の尾が鋭い刃へと変わる。
「ごめんなさい。大蛇さん」
ダリアは、剣と化した尾で、八岐大蛇の7つの首を切断する。
頭部を切断したことで群塊シモンズの同化に取り込まれることをなんとか避けた。
しかし切り離された7首は群塊の一部となり、群球シモンズはより禍々しい複合体へと進化した。
そしてシモンズの姿を見てミチオは理解した。
あれはあらゆるものを取り込んでいく人型石獣。
どんな三摩耶形も石獣も通じない。
とにかく逃げるしかない。
ミチオはそう思った。
掲載は不定期です。




