第一部 金剛編 第十一章 ナラカ最深部 第128~131話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第128話 刹那の永遠。
◆◆
ここは……
キュウタの目に見覚えのある薄汚い天井が見える。
使い古された机、横にある取り外し型の人体模型。
そして自分が今寝ている硬いマットレスの医療用ベッド。
足元にはキシモリと書かれた緑のスリッパ。
間違えない。父と母が経営するキシモリクリニックの診療室だ。
幻覚?
オレは今どうなっている?
「キュウちゃん」
「ムツミ?」
「やっと会えたね。キュウちゃん。お姉ちゃん寂しかったよ」
ベッドに寝ているキュウタの上にムツミが馬乗りになって顔を見つめる。
「淋しくて淋しくてずっとひとりで慰めていた」
その姿はかつていっしょに同じ時間を過ごした姉の姿そのものだった。
そして自分も人間の姿に戻っていることにキュウタは気づいた。
「……ここは家?」
「キュウちゃんがそう思うのなら……」
「違う。病院は全焼した」
「つまんない子。そうですよぉ~。ここは二人だけの世界〈刹那の永遠〉」
「セツナノエイエン?」
「ねぇ。覚えてる? 私たちはね。もともと一つだったんだよ」
「……」
「生まれ落ちた時、私たちはバラバラになってしまった。でもこうしてキュウちゃんは私の元に帰ってきてくれた。私、とてもうれしい。やっぱり私とキュウちゃんは運命の赤い糸で結ばれていたのね」
「お前、本当にムツミか?」
「キュウちゃん。一つになろう。生まれる前の世界に二人で帰ろう」
「お前、誰だ?」
「どうしたの? 恥ずかしがらなくてもいいんだよ。私たち姉弟じゃない」
「黙れ」
「お姉ちゃん、知ってたよ。キュウちゃんが私のことをいつも考えて我慢していたこと」
「……」
「私もそう。ずっとキュウちゃんのことを考えて……。でも、もう我慢しなくてもいいんだよ。ここにいるのは私たち二人だけなんだから」
「違う。ムツミはそんなこと言わない」
「……?」
「お前、〈半邪鬼〉か?」
「何言ってるの。キュウちゃん?」
「お前はムツミじゃない。あいつの左半分だな」
「ひどい。私……お姉ちゃんだよ」
「元の世界に戻せ」
そう言うとキュウタは左上でメスを錬成した。
「あーあ。これだからガキは」
ムツミの口調が変化する。
第129話 一つになろう。キュウちゃん。
◆◆
「そうだ。あたしは〈黒邪鬼〉と呼ばれていたもの。オマエの中にいるソレと同じ。そう言えばわかるだろ?」
「ムツミに何をした?」
「何をしたって? 酷い言い草だね。あたしがいなきゃ、このコはとっくに死んでたのに」
「どういうことだ?」
「あの日。君たちがどうして助かったのかわかる?」
「……」
「あの日、病院を焼いた奴らは、金剛病に対する研究の一切を奪い、自分たちのものにしようとした。そして君たちの両親を抹殺し、君とムツミにも手をかけようとした」
「……」
「せめて二人の子だけでも助けたいと思った君たちのお父さんとお母さんは病院の地下で研究していた人型石獣〈黒邪鬼〉を2つに分離して、君たちの身体に移植した」
「……それがお前なのか?」
「あたしはムツミの身体の中にいる〈黒邪鬼〉……君の意識化にある呼び名に倣うなら〈半邪鬼〉」
「……本当なのか?」
「あたしたちの金剛が接触したことで〈刹那の永遠〉が発動したことがその証明だけど、それだけじゃ答えとして足りない?」
「……ここはお前ら……〈黒邪鬼〉の意識の世界……なのか?」
「今、二人の意識は金剛を通して繋がっている。外界では0.0013秒にも満たない一瞬の出来事だけど、体感としては止まった時間の中にいるようなもの。だから一つになれば二人だけで永遠に生きていくこともできるけど、どうする。キュウちゃん?」
「その呼び方はやめろ」
「照れなくていいのに。知ってるわよ。キュウちゃんが私を見ていやらしい想像に耽っていたのを」
「やめろ!」
「否定しないんだ。ふふ。私、ムツミと繋がってるから。彼女の知ってることは全部わかってるの。でも恥ずかしがらなくてもいいわよ。お姉ちゃんも、キュウちゃんに女として見られて嬉しかったんだよ。ムツミは毎晩、君のことを思って行き場のない切ない気持ちを1人で」
「黙れ! ムツミを汚すな!」
「あら。今度はシスコン? 普段はやらしい目で見てるくせに、心は女神様? 随分都合がいいのね」
「……教えてくれ。オレはオレの中にいる〈半邪鬼〉を抑え込むことに成功している。お前の中にいるムツミはお前に支配されてるのか?」
「支配ってのは違うかな。か弱いお姫様を守って上げてるのよ。彼女は君と違って弱いから」
「本当か?……だったら」
「だったら?」
「……ありがとう」
突然の感謝の言葉にムツミの身体を支配している〈黒邪鬼〉は一瞬、きょとんとした表情になる。
「ふふ」
「何故笑う?」
「別に……」
「何が目的だ?」
「君と一つになること」
「違う……お前たちの目的だ」
「うーん……」
ムツミの姿をした〈黒邪鬼〉は考え込む。
「あらゆる生物の目的は生存と繁殖。それ以上求めることなんてないと思うんだけど」
「お前たちは他の生物の身体に寄生し支配している。人間もそうやって支配されつつある」
「私たちを受け入れることこそが生物にとって最善の選択だとは思わないの?」
「オレは人間だ」
「私の力なしじゃ生きられないくせによく言うわね」
「……これ以上話すことはない。ここから出せ」
「……私と一つになりたくないの?」
「断る」
「お姉ちゃん悲しい」
「ムツミから離れろ?」
「私が離れたら、ムツミ死んじゃうよ」
「……」
「ねぇ、気づいてる? キュウちゃんにはもう選択肢なんてないんだよ。そもそも私をムツミから切り離すってどうするの? 私だけ殺すの? 私が離れればムツミは死ぬんだよ。 だったら私と一つになってムツミといっしょにここで生きていく。永遠に。それがベストだと思わない?」
「……」
「キュウちゃんが諦めるまでここで私がお話相手になってあげるのもいいけど……どうやらそんな時間はなさそうね」
「……どういうことだ?」
「〈刹那の永遠〉は外からの衝撃に弱いの」
「……」
「おせっかいな君のお友達のせいみたい。それに……」
「……」
「まぁ、いっか。またどこかで会いましょう。キュウちゃん」
第130話 ムツミのなみだ。
◆
気がつくと病室は消え、キュウタはナラカ最下層の最深部にいた。
服装も元のまま。時間はほとんど経っていない。
視界に入るのは、左半身が異形の百足と化した〈半邪鬼〉と化したムツミ。
彼女の身体は後ろにのけぞった状態で動きが止まっていた。
「キュウタ!」
キュウタは後ろを見る。ミチオが心配そうにこちらを見ている。
キュウタとムツミの身体が接触し〈刹那の永遠〉が発動している間――それは現実では一秒未満のわずかな時間だったが――ミチオはキュウタの身体がムツミの左半分を被う石獣に呑み込まれると判断。
即座に〈零弾〉でムツミの顎を狙った。
背後にキトラがいることはわかっていたが、迷っている暇はなかった。
〈零弾〉は硬化した皮膚に直撃。
威力は微々たるものだった。
そのため、脳震盪を起こすほどの衝撃には至らなかったが、二人の間にある〈刹那の永遠〉を解除するには十分だった。
キュウタセツナノエイエン解した。
そして、ムツミの左半身から伸びた無数の鋭角を、メス状の〈牙剣〉で切り裂くことで〈半邪鬼〉との接触を解除した。
その攻撃によってムツミとキュウタの間に間合いが生まれる。
ここで一歩踏み出してメスで切り刻めば、ムツミの身体を支配する〈黒邪鬼〉を切り離し倒すことができるかもしれない。
だが、ムツミと〈黒邪鬼〉を切り離せば、ムツミは死んでしまう。
〈刹那の永遠〉での言葉が本当なら、ムツミは〈黒邪鬼〉なしでは生きられない。
だったらどうする?
迷いが生じたキュウタの攻撃が止まる。
その一瞬の隙をついてムツミの左半身の無数の鋭角が再生し、キュウタを蜂の巣にしようと襲いかかってくる。
やられる。
キュウタは死を覚悟した。
いや、やつの無数の角が身体に突き刺さるということは、〈黒邪鬼〉を通してムツミと同化するということか?
ミチオのおかげで一度は離れることができたが、結局、オレはコイツに取り込まれるのか?
延々とループする自問自答に答えは出ない中、キュウタはもう考えることをやめようとした。
しかしムツミの攻撃はキュウタに届かなかった。
攻撃が届く瞬間、ムツミの左半身の頭部に衝撃が走った。
何者かによる攻撃によってムツミの身体がのけぞった。
ミチオ?
それともゴドウ家のうるさい女か?
違う。これはムツミ自身だ。
ムツミの左半身を殴ったのは痩せこけたムツミの右手だった。
「ムツミ! そこにいるのか? ムツミ!」
キュウタは必死で呼びかける。
〈黒邪鬼〉に支配されたムツミの意識が戻ったのか?
「ムツミ! ムツミ! ムツミ!」
いつも冷静沈着なキュウタが取り乱し、必死で語りかける。
ムツミの右半身の目から涙が流れる。
ムツミの目をキュウタは覗き込む。
涙で潤んだ瞳に自分の顔が映り込む。
「ムツミィー!」
ムツミの右手が伸びてキュウタの体を強く押す。
キュウタの身体のバランスが崩れて、後ろに倒れる。
その身体を後ろから駆けつけたミチオが押さえる。
「キュウタ。今は無理だ」
「……」
「お姉さんの気持ち、無駄にしちゃ駄目だ」
「ムツミごめん。必ず戻ってくる!」
そういうとキュウタは振り返ると、ムツミの元を離れた。
キュウタとミチオ、そして二人を見守りながらシモンズと戦っていたキトラの3人が撤退する。
「サワメ、イクサ。こいつらを追え!」
シモンズは雌雄体で、雌をサワメ、雄をイクサと彼女は呼んだ。
左半身の口から発せられた声に反応し、最深部にいたシモンズたちが動き出す。
第131話 ゴロゴロス。兄者たちとの再会を果たす。
◆◆◆◆◆
キュウタがムツミと邂逅を果たした頃、ゴロゴロスは十字架に貼り付けになった地獄のカギュウブラザーズのもとにたどり着いた。
「兄者ァ、兄者ァ」
貼り付けにされたガロガロスの身体を必死で引き離そうとするゴロゴロス。
しかしゴロゴロスたちの身体は金剛玻璃でできた十字架と手足が同化しており、引きはがすことはできない。
「兄者ァ、兄者ァ!」
「ゴロゴロスさん。時間がありません!」
ゴロゴロスとサラの背後に立つゴドウ・ユキマサが叫ぶ。
ユキマサの不動黒龍剣で吹き飛ばされたシモンズたちだったが、決定的な致命傷には至らず、ゴロゴロスたちの元に再び集まってくる。
「選べ。ゴロゴロス」
泣き叫ぶゴロゴロスに対してサラが話かける。
「選ぶって……?」
「今、我々にできることは二つだ。一つはこいつらを見捨てて退却する」
「……そんなことはできないよ」
「だったら、こいつらの手足を切り離して担いでつれていく」
「……」
「ファイター!」
ファイターは剣を抜く。
「待ってくれ。そんなことをされたら兄者たちは……」
「あぁ、戦士としては終わりだ」
「……」
「選べ! ゴロゴロス」
見捨てるにしても手足を切り離すにしても戦士としての兄者たちの人生は終わる。その選択の重さにゴロゴロスは耐えらず、動けなくなった。
それは人として当然の態度だと言える。だが極限状態において選択自体を放棄することはリーダーとして最低の振る舞いだとサラは思った。
「ゴロロォ……」
「兄者ァ」
迷っているゴロゴロスに対し、貼り付けにされたガロガロスが口を開く。
「俺たちはもう、助からねぇ。お前たちは逃げろ……ここにいたらお前たちまで」
「兄者ァ…そんなことできねぇよ」
「馬鹿野郎。ゴロロ…お前はカギュウに戻ってナラカのヤバさを親父に報告しろ!」
隣に貼り付けにされたジロジロスが口を開く。
「ゴロロォ……ここはヤバい。超ヤバい。こいつらが外にはい出てくれば、カギュウはおろか人類は全滅だ。帝都の金剛手の元、団結して……」
その隣に貼り付けにされたブロブロスが口を挟む。
「でも、兄者ァ……」
「オレたちはこれまでだ。足でまといにはなりたくねぇ。お前らだけで逃げロ。ゴロロ」
となりのベロベロスが口を開く。
「……」
「ゴロロォ。ゴロロォ」
となりのメロメロスが口を開く。
◆◆◆◆◆
「兄者? 何がいいたいんだ? 兄者」
「ゴロロォやばい。俺たちゴロロォ」
「兄者?」
「ゴロロロォォォォォォ!」
「ゴロロロォォォォォォン!」
「ゴロロォォォォォォォ!」
「ゴォロロロロォォォ!」
メロメロスに共鳴するように地獄のカギュウブラザーズがゴロゴロスの愛称であるゴロロを連呼しだす。
5人の目には屈強な肉体とこわもてな表情と裏腹に、涙が滲んでいた。
まるで心の奥底にある一番大事な感情を無理やり抉りほじくり返されたような精神的屈辱と、男らしさの裏側に抑制していたゴロロへの歪んだ愛情を暴き出されたことに対する被虐的な快楽を、5人は同時に感じていた。
「クソッ! 金剛病だ!」
サラが苦々しく呟く。
「金剛が感染してる。おそらくもう侵食率は40パーセントを超えている」
「どういうことだ?」
「ファイター! やれ!」
「はっ」
サラの命令を受けたファイターは、ガロガロスの心臓めがけて剣を突き立てようとする。しかし、その剣は届かなかった。
5人の身体を貼り付けにしていた十字架が突然盛り上がる。十字架は樹木のように根っこで繋がっていた。
その樹木のようなものはシモンズの群れが一体化したものだった。
樹木化したシモンズは這い出ると、5股に別れた胴体に無数の足が生えた金属と樹木と昆虫の混合体のような禍々しい姿をその場に晒した。
「ゴロロォ」
「ゴロロロォかわいいよ」
「ゴロロロォ。ぺロペロしたいよぉゴロロォ」
変わり果てた兄者たちの姿を見てゴロゴロスは唖然とする。
「ユキマサ! さっきの黒龍出せるか?」
「あと一発が限界だが……」
サラに問われたユキマサは、かつて地獄のカギュウブラザーズだったものと無数のシモンズがまじりあった巨大な群塊を見て、おそらく不動黒龍剣・倶利伽羅天翔は効かないだろうと判断した。
「いや、お前は目の前のシモンズを吹き飛ばして退路を確保しろ。ファイター。お前はしんがりを務めろ」
「はっ!」
サラの指示は、地獄のカギュウブラザーズを取り込んだ目の前にそびえ立つおぞましい群塊と戦えという命令だった。
「天使降臨・審剣〈神の焔〉」
その命令が、自分にとって死を意味することにファイターは気付いていた。
しかし彼に迷いはなかった。むしろ、愛するサラのために殉じることに喜びを感じた。
「ΑΩ万歳!」
ファイターがカギュウの複合体へと突き進むと同時に、ユキマサは巨大な黒龍を放った。
「兄者ァ!」
「黙れ、モヒカンメガネ豚!」
泣き叫ぶゴロゴロスの頬をサラがひっぱたく。
「逃げるぞ。あいつらの意思を無駄にするな!」
掲載は不定期です。




