第一部 金剛編 第十一章 ナラカ最深部 第125~127話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第125話 無数の蠢くもの。
◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆
ミチオたち7人はナラカ最下層の最深部へと向かっていた。
奥へ進むほど金剛の気配は強くなり、天井、壁、足元を被う金剛玻璃の量は膨大なものとなっていった。
「キュウタ。それ」
ミチオはキュウタの顔の左側と左腕にできた無数の裂け目が気になった。
そして皮膚の表面にはナラカと同じように金剛でできた無数の黒い鋭く尖った小さな角がせり出している。
「落下した時、発動させた」
「そうなんだ……」
「ナラカの影響だろうな。凄く調子がいい」
キュウタはいつものようにポーカーフェイスを装っていたが、目がギラギラしているように感じた。
キュウタが行くと言った時、ミチオは即座について行くと言ったが、それはキュウタを一人にしたくなかったからだ。
今のキュウタはムツミさんのことしか見えなくなっている。
ゴロゴロスさんも連れ去られた5人のお兄さんのことで頭がいっぱいだ。
何かあったらキュウタを連れて逃げる。そう、ミチオは決意した。
◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆
「あのぉ。サラさん」
ミチオがサラに話しかける。
「小僧。姫様は貴様ごときが気軽に話しかけてよい方ではないぞ」
「ファイター構わぬ。なんだ小僧。わらわを口説くつもりか?」
「ザコくん。あんたこんな時に!」
キトラが割って入る。
「なんじゃ小娘。おぬし、小僧のことになるとすぐに口を挟むな」
「馬鹿。そんなんじゃ……」
「ひょっとして惚れとるのか?」
「ちょっ」
「キトラ。そうなのか?」
ユキマサが割って入る。
「もう、ユキ兄まで」
「それはないですよ。サラさん。キトラはボクのことを師匠として心配してるんです」
「……名前で呼ばないでよ」
「あっ、すいません。師匠」
「なんじゃ。乳繰り合うならコソコソやれ」
「姫様。言葉が卑猥すぎます」
「良いじゃないかファイター。爺やもいないんじゃ。これくらい言わせろ」
苦言を呈するファイターにサラが言い返す。
二人のやりとりは主従関係というよりは友達のようだとキトラは感じた。
「あのぉ。話を戻させてください。さっき、サラさんを〈大黒白鼠〉……ダリアさんが金剛で錬成した鼠の壁で閉じ込めようとしたら、サラさん。触っただけで鼠の壁を消しましたね。あれってどうやったんですか?」
「……」
「以前、カギュウ市街でサラさんが地獄のカギュウブラザーズといがみ合いになっているのを見ました。その時も、三摩耶形の武器にサラさんが触ったら武器がバラバラになって……あれと同じ力ですよね」
「……何が知りたい?」
「どうしても言えないんならいいですけど、凄い力だなぁと驚いて。あれは三摩耶形ですか? それとも金剛法術?」
「どちらでもない。しいて言うならわらわだけのレアスキルじゃな。わらわは〈解体〉と呼んでいる」
「〈解体〉?」
「御翼、おぬしらの言葉でいうところの金剛か。われらもまた大気中に漂う御翼を集めて武器や防具を錬成する。〈解体〉はその逆。わらわが御翼に触れ、内部の連結構造の解析が終わった後、ある周波数を送り込むと、連結が解かれバラバラになる」
「凄い……」
「だが、成功率はそこまで高くない。連結の仕組みが複雑なものや動きが素早いものは解析に時間がかかるため、成功率が大きく落ちる」
「それって石獣にも使えるんですか?」
「難しいじゃろうな。できるやもしれぬが成功率は低く、解析に時間もかかるゆえ、失敗した時のリスクが高すぎる。だから〈解体〉は、よっぽどの時にしか使わぬ」
「へぇ。じゃあ、あん時は切羽詰まってたんだ?」
キトラがサラを挑発する。
「逆じゃな。あの後、爺やがわらわを守るために降参することは見抜いていた。大勢が変わらぬのであれば、ちょっと遊んでやろうと思っただけじゃ」
「何それ? ムカつく!」
何かあるとすぐに突っかかてくるキトラの反応をサラは面白がっていた。
◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆
狭い通路を抜けると7人はナラカ最深部にたどり着いた。
最深部は巨大な空間が広がっていた。
フロアには金剛でできた透明の柱が縦横無尽に伸びており天井は高く壁際には復数の洞穴があるのをミチオは確認した。
あれは通路? もしかしたら世界中のナラカがここに繋がっているのだろうか?
「見ろ」
サラが上を見上げる。
金剛でできた玉座に外套を羽織った髪の長い女が座っており、その両端には第一階層で遭遇した2体のシモンズが立っていた。
◆◆◆◆◆◆◆
「敵は3体か?」
「いや、下を見ろ」
7人は金剛の玉座の下を見た。
無数のシモンズが立っている。
「何体いるんだ?」
「200……いや300……」
「床や柱に擬態してるやつもいるかもしれない」
シモンズたちは顔を上げてムツミの姿を見つめている。
まるで教祖を信奉する信者のようだ
渦巻状の仮面をつけているような顔だったため、表情は読み取れなかったが、だからこそ、岩影にびっしりと張り付いた無数の昆虫を見ているような不気味さがあった。
まともにやりあったら勝ち目はない。
それどころか、こいつらが地上に這い出てきたら、間違えなくカギュウは終わる。
いや、カギュウだけじゃない。
世界そのものが終わる。
そうゴロゴロスは思った。
「兄者は……、兄者はどこにいる?」
「ゴロゴロスさん……あそこ」
ユキマサが指で示した方向をゴロゴロスは見る。
そこにはシモンズたちに担がれた
ガロガロス、ベロベロス、ジロジロス、ブロブロス、メロメロス。
地獄のカギュウブラザーズの5人は結晶化した金剛でできた巨大な十字架に貼り付けとなっていた。
「兄者……」
5人の手足は切断され、切断面は十字架と融合していた。
周辺には無数のシモンズがわなわなと蠢いている。
まるで海底に漂う珊瑚のようだ。
兄たちの姿を見た時、ゴロゴロスの中で何かがキレた。
怒りと哀しみに支配されたゴロゴロスは、我を忘れて飛び出しそうになる。
第126話 救出作戦。
◆
「待て。ゴロゴロス!」
ファイターがゴロゴロスを羽交い締めにし、サラが怒鳴りつける。
「冷静になれ。おぬしが飛び出したら全て終わりじゃ」
「でもォ、兄者が!」
「あれは罠じゃ! 奴らの周りには擬態したシモンズが隠れてる。その数はおそらく1000や2000ではない。ここで突っ込んだら間違えなくやられるぞ!」
「……ぐッがぁ」
ファイターが口を塞ぐ。
「想像を絶する光景じゃ。退却するぞ」
「いやだ」
「なんじゃと」
サラの提案をキュウタが拒絶する。
「あそこにいるのはムツミだ。オレはムツミを助ける」
「馬鹿かおぬしは? 冷静になれ」
「オレは冷静だ」
「キュウタ……」
ミチオは迷った。
客観的に現状を分析するならば、サラの言っていることは100%正しかった。
それはその場にいる全員が思っていることだった。
だが、自分の家族が目の前にいるのに助けずに逃げるなんてできないというキュウタとゴロゴロスの気持ちも痛いほどわかっていた。
取り乱すゴロゴロスと冷静さを装うキュウタ。二人の表情は真逆だったが、きょうだいを救いたいという気持ちにおいては同じだった。
その気持ちがわかるからこそキトラは何も言えなかった。
「……私に考えがあります」
そんな中、ユキマサが口を開いた。
「私が道を開きます。ゴロゴロスさんはお兄さんたちを救出。そしてキュウタくん。君はお姉さんを助けに生きなさい」
「どういうつもりだ?」
「もしも君が裏切り、お姉さんの側に付くようなことがあれば……その時は背後から討つ。その役割はザコくんとキトラ、それでいいかい?」
「はい」
「わかった」
ミチオとキトラは同時に返答した。
「キュウタくんも、それでいいかい?」
「……わかった」
キュウタがうなずいた瞬間、ユキマサは三鈷剣を地面に突き刺すと、左手の中指と人差し指を立てて右手の人指指と中指を左手で掴んでカンマンの梵字の筆順に空に切っていく。
「ノウマク・サンマンダ・バザラナン・センダマカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カン・マン……三摩耶形顕現・竜剣〈倶利伽羅〉」
顕現した黒い龍が三鈷剣に絡みつく。
「黒炎をまといし倶利伽羅龍王よ。今こそ真の姿を現したまえ」
三鈷剣に絡みついた巨大な黒竜に、無数の金剛が集まり巨大化していく。
「不動黒龍剣・倶利伽羅天翔」
剣から解き放たれた黒竜がガロガロスたちが貼り付けにされた十字架の方向に飛んでいき、シモンズたちを次々と薙ぎ払っていく。
最深部の金剛で錬成された黒竜はこれまで以上に巨大で、獰猛に暴れ回っていた。
「ゴロゴロスさんは後ろから付いてきてください!」
そう言うとユキマサが飛び出した。
「ファイター。私たちも行くぞ!」
続けてサラとファイターも飛び出す。
「天使降臨・審剣〈神の炎〉」
焔が宿った剣を持ったファイターがゴロゴロスの前に飛び出て、シモンズたちを切り刻む。
「天使降臨・座天使〈神の車輪〉」
続けてサラの両手に光の車輪を錬成して、それをシモンズ目掛けて投げつける。
車輪は猛スピートで回転する光の刃となり、次々とシモンズを切断していった。
ファイター、サラ、ユキマサ。3人の力は絶大でシモンズたちは次々と倒されていった。
第127話 キュウタ、ムツミと再会する。
◆
3人と同時にキュウタも飛び出した。
まっすぐ十字架に向かったユキマサたちとは逆にキュウタは金剛玻璃でできた階段を駆け上り、ムツミのいる玉座めがけて突進した。
そしてキュウタの背中をミチオとキトラが追いかける。
キュウタの動きは冷静沈着だった。
錬成したメスで襲い来るシモンズの頭部を切り裂き、怯んだ隙をついて前へ前へと進んでいった。
そして怯んだシモンズをミチオは錬成した〈鈍刀〉で切りつけた。
しかしミチオの攻撃ではシモンズはびくともしない。
キュウタが仕留めそこなったシモンズは標的をミチオに定め飛びかかってきた。
だが、背後からやってきたキトラの双剣〈無熱〉がシモンズを串刺しにした。
「師匠! なんで」
なんでこっちに来たんですか?
ミチオはなぜキトラがこっちに来たのか理解できなかった。
「ザコくん。さっきの奴!」
「えっ?」
「デカい魚のアレッ! 私が時間を稼ぐから、早く!」
「はい!」
ミチオは無数の〈鏃子魚〉を錬成する。同時に自身の左手に意識を集中する。
パキッ!
ミチオの左手に無数のヒビが入る。
そのひび割れに〈鏃小魚〉が集まり、渦を巻いて絡みつき、やがて巨大な魚が錬成される。
魚群剣〈みなみのうお座〉!
ミチオは左手に食いついた巨大魚の尾ひれを振り回し、シモンズたちを薙ぎ払った。
シモンズたちは遠くに走り去ったキュウタではなく、ミチオとキトラに集まってくる。
二人は完全に取り囲まれていた。
「すいません。師匠」
「あ~ァ、何で私がザコくんの援護をしないといけないのよぉ!」
次から次へと襲いかかってくるシモンズをキトラは双剣〈無熱〉で串刺しにしていく。
二人に狙いが定まったことでキュウタに対する警戒が薄くなる。
その瞬間を狙い、キュウタはムツミの元へたどり着いた。
◆
「ムツミ! ……ムツミなのか?」
キュウタは外套を羽織った女を見る。
女の髪はお尻まで無造作に伸びており、全身を覆われていた。そのため顔は見えなかったが。鋭く尖った目は見覚えがあった。
「キュウちゃん……」
髪で覆われた顔の奥から弱々しい声が聞こえる。それはキュウタにとって、聞き慣れた声だった。
「ムツミ……」
「キュウちゃあぁんんん。お姉ちゃん待ってたよぉ」
か細く優しい響きの声が、太く凶悪で禍々しいものへと変わっていく。
ムツミ? ムツミなのか?
キュウタは一瞬たじろくが、その瞬間、女が羽織っていたマントがめくれあがる。
女は左半身は痩せこけており、肋が浮き上がっている。
左手も血管と骨格が浮き上がっており、立っているのがやっとという状態だ。
長い髪の毛は身体を覆っていたが、痛々しい痩せた身体からは死臭にも似た負の色気を発していた。
そして右半身は金剛で覆われていた。
顔の右半分と口元は骸骨の仮面を被っているかのような状態となっており、首から下の皮膚は金剛で覆われていた。
ヒビだらけの皮膚が硬化し鎧のようになっている姿はこれまで見てきた人型石獣たちと同じものだが、右手と右足が存在しない。
だが、右手と左手の切断面、そして頭部右の毛髪の部分から右肩、肋のある脇腹、太ももの横には金剛でできた節足動物の関節肢を思わせる外骨格で覆われた節のある角が生えており、カタカタと蠢いている。
その大きさはバラバラで一本一本が生物のようだ。
その硬質化したムカデの足のような動く角がぎゅんと長く伸び、キュウタの喉元を狙う。
キュウタはその角を遮ろうと〈半邪鬼〉で覆われた左腕を出す。
それはキュウタの意思ではなく〈半邪鬼〉で覆われた左半身の意思だった。
右半身が石獣化したムツミと、左半身が石獣化しているキュウタ。
二人の硬質化したそれが触れ合った時、両者を取り巻く金剛が激しい光と共に爆ぜるのを、ミチオは目撃した。
掲載は不定期です。




