第一部 金剛編 第七章 ナラカ第二階層 第109~112話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第109話 ヒョンス。宙を舞う。
◆◆◆
気がつくとミチオたち三人は不気味な影に取り囲まれていた。壁や天井がめきめきと膨らむと人型石獣が姿を表す。
「壁に擬態してたのか」
「シモンズ……?」
人型石獣の顔は指紋のような渦巻状の紋様となっていた。いや顔だけでなはない。全身が指紋のような渦巻模様で覆われている。
「何コイツら……キモい」
シモンズたちは壁や天井から姿を表すとナメクジのようにぬるぬると蠢き、ゆっくりと動きながらミチオたちに近づいてきた。
軟体生物特有のシズル感はなく、ぱさぱさに乾いていたが、キトラはその動き自体に生理的嫌悪感を抱いていた。
「三摩耶形顕現・双剣〈無熱〉」
「キトラ! 相手の能力がわからない中、動くと危険だ!」
「もう嫌ぁ! キモキモキモキモキモキモキモ!」
キトラは両手に持った〈無熱〉の細く鋭い刃先をシモンズに叩き込む。
シモンズの体は蜂の巣となり、無数の刺し傷ができた。
「師匠!」
ミチオは〈鈍刀〉を錬成し、シモンズに斬りかかる。
「〈蓮華〉」
ヒョンスの足元に金剛で錬成した片足が乗るくらいの大きさの小さな蓮の花が生まれた。
〈蓮華〉を強く踏みしめるとヒョンスは上空に飛ぶ。
そして空中に新たな〈蓮華〉を生み出し、そこを足場として直角に移動した。
空中をぴょんぴょんと飛び回るヒョンスの動きにシモンズは警戒して動けない。
「すごい」
空中に金剛で蓮華座状の足場を作り、それを蹴って移動するヒョンスの戦法は、彼のたぐいまえな身体能力と金剛に対するセンスによって生み出される独自の戦闘術だ。
足場となった〈蓮華〉の上を蹴り上げることで、理論上は空中を移動し続けることも可能だった。
第一階層から落下した時に彼が発動したのも、この〈蓮華〉だったのか。
落下中に〈蓮華〉を蹴って、垂直に移動したのかとミチオは納得した。
「オン・キャラマ・セイタカ・ウンバッタ・ナン! 三摩耶形顕現・〈制咜迦〉紅蓮棍」
ヒョンスの右手に長く細い紅の棒が錬成される。斜め上の角度からヒョンスがシモンズめがけて一振りすると、シモンズの体が吹き飛んだ。
「さらに!」
地面に着地したヒョンスの背後に金剛で錬成された無数の武器が生まれる。
「三摩耶形顕現・〈 矜羯羅〉独鈷」
両端が鋭く尖った槍状の刃となっている密教の宝具・独鈷杵が錬成され、シモンズめがけて飛んでいく。
独鈷杵は続けざまに錬成されシモンズの体にザクザクと突き刺さっていく。
本数も強度も〈尖弾〉の完全上位互換と言える三摩耶形だとミチオは思った。
ちなみにヒョンスは、ユキマサやキトラと違い、先に三摩耶形の名前を唱えてから武具の名を呼ぶ。
理由は彼にとってそちらの方が、語感が心地良かったからだ。
武者修行の過程でヒョンスはゴドウ家の経典の書かれた三摩耶形を自分向けにチューニングし、独自の使い方を多数生み出していた。
ヒョンスの戦い方は、ゴドウ・ユキマサの王道と言える三摩耶形を用いた戦い方とは真逆の奇襲に継ぐ奇襲だった。
そんなヒョンスの姿を見てミチオは驚いたが、同時に、自分の戦い方と近いとも感じた。
ヒョンスはもしかしたらボクと似ている?
いや、あんなに飄々としていてカッコいい彼とボクが似てるなんて、思い上がりも甚だしい。
この人はボクの何倍も強いし頭が良い。
もしもゴドウ三兄妹と戦うことになったら、ボクはヒョンスと一番戦いたくない。
でも、今は彼が味方でいてくれることがとても頼もしいとミチオは思った。
第110話 ザコくん。必殺技を考えろ!
◆◆◆
キトラの双剣〈無熱〉、ミチオの〈鈍刀〉、ヒョンスの〈制咜迦〉紅蓮昆と〈 矜羯羅〉独鈷の波状攻撃によって、押し寄せてきたシモンズたちは薙ぎ払われた。
自分はともかく、キトラとヒョンスの三摩耶形の力は圧倒的で、このまま戦えばシモンズを全員倒すのは時間の問題だと、ミチオは思った。
次々と倒れていくシモンズを見て、ミチオとキトラは勝利を確信した。しかしヒョンスだけは浮かない顔をしていた。
しばらくするとシモンズの攻撃が止まった。
「倒した?」
「私たちが強すぎたんでビビったんでしょ」
「いや、違う」
地面に倒れているシモンズが、隣にいるシモンズの体を掴んだ。
復数のシモンズの体が交わり砕け散った傷跡をお互いに補修していく。
「なにこれ?」
やがてその場にいた無数のシモンズは一箇所に固まり、巨大な群体となって起き上がった。
群体化した巨大シモンズが三人の前に壁となって押し寄せてきた。
「あいつら、オレたちの弱点に気づきやがった」
「どういうことよ?」
「ザコくん。僕たちの攻撃はコイツには通じない」
「どうして……」
「軽いんだ……」
◆
「嫌な予感が当たった。僕もキトラもザコくんも、戦い方が似てるんだ。小さい攻撃でポイントを稼ぐタイプ。だから一つ一つの攻撃はとても軽い」
群体化したことでシモンズは巨体化した。
その結果、動きは鈍くなったが重量と耐久性が増し、並大抵の攻撃ではびくともしない身体となった。
「ああいうタイプはチクチク攻めてもダメなんだ。もっと圧倒的な一撃必殺の大技がないと」
「ちっ。ユキマサ兄さんの不動黒竜剣だったら、一発なのに」
「どうするんですか?」
「ザコくん。君がキトラとユキマサ兄さんをやった技。あいつに効くかい?」
「……」
ミチオは答えなかった。〈零弾〉については、その存在を知られること自体を避けたかったからだ。
だからミチオは沈黙を選択した。だが、仮に攻撃したとしても〈零弾〉は効かないだろうと彼は思った。
「じゃあ、質問を変えるよ。君はあいつを倒す技を持っているかい?」
「……持ってません」
「じゃあ、今考えて」
「無理です。いきなりそんな」
「僕が思うに、君はもう答えを持ってる」
「どういうことです?」
「ヒントは君の〈鏃小魚〉」
「えっ?」
「時間は僕が稼ぐ。必死で考えて」
そう言うとヒョンスは服を脱ぎ、ふんどし一丁となった。
痩せているが筋肉のついた長い手足は美しく、まるで天女みたいだとミチオは思った。
「オン・キャラマ・セイタカ・ウンバッタ・ナン。三摩耶形顕現・〈制咜迦〉五智髷」
ヒョンスの髪の毛が逆立つとくるくると丸まり、5つの髷が生まれたヒョンスは〈蓮華〉を錬成し、巨大シモンズに立ち向かった
右手には紅蓮棍を携えていたが、とにかく巨大シモンズの周りを飛び回った。
うるさい羽虫を払うかのように巨大シモンズは無数の腕でヒョンスを狙うが、ひらひらとヒョンスは攻撃をかわす。
シモンズの攻撃は全く当たる気配がなくヒョンスが圧倒的優勢に見えた。
だが一発でも攻撃が当たれば華奢なヒョンスの身体は粉々に砕け散るだろう。
「ヒョン兄。5年前に父ちゃんと喧嘩して、家を出たんだ。それからずっと世界を放浪してたらしくて」
キトラは独り言をつぶやくように、ミチオに話かける。
「その時、ヒョン兄、踊り子として暮らしてたんだって。時々女装もしてたらしくて、大人気だったって言ってた」
「凄い動きだ」
ヒョンスが服を脱いだのは少しでも重量を減らすためだった。
金剛使いとしての彼の本領は踊り子時代に培ったしなやかな動きにあった。
「でも、攻撃が効かないんじゃ時間の問題」
「……ボク」
「私も行く」
「え?」
「ヒョン兄がああいうんだったら、ザコくんにはあいつを倒す力があるのかもしれない。でも私は嫌。アンタに頼るくらいなら、私があいつを倒す」
「でも、どうやって?」
「勇気と根性と気合かな。これゴドウ家の家訓」
「キトラ……」
「バカ! 師匠でしょ」
「ごめん」
「アンタが必殺技を思い出すか、私が先に倒すか。勝負よ!」
そういうとキトラは双剣〈無熱〉を構えた。
「オン・アミリティ・ウン・バッタ。三摩耶形顕現・甘露〈螺旋白蛇〉」
キトラのツインテールに金剛が集まり、白蛇へと姿を変える。
「やっぱ、ナラカだと三摩耶形の勢いは違うな」
普段、キトラは白蛇を治癒のために使用していた。
しかし今回はツインテールの白蛇を攻撃のために使用した。
両手に持った細身剣と二対の白蛇。
四つの攻撃がシモンズに命中する。
しかし、それはあくまで弱い攻撃の手数を増やしただけに過ぎなかった。
シモンズの身体はびくともしない。
「ちっ!」
「キトラ! 考えなしに飛び込んでもダメだ!」
「そんなことわかってる! でもッ!」
第111話 ザコくん。〈星印〉発動。
◆
どうする。どうすればいい?
群体シモンズを撹乱するヒョンスとがむしゃらに突っ込んでいくキトラの姿をみながらミチオは焦っていた。
キトラの攻撃はまるで効いてない。ヒョンスさんは防戦一方で今は敵を翻弄しているが、攻撃に転じない限り、いつかは落ちる。
それまでにあいつを一撃で葬るような大技をボクが思いつかないとみんな死ぬ。
でも、どうすればいい?
ヒョンスさんは、もうその答えを持っていると言っていた。
その「ヒントは〈鏃小魚〉」だって言ったけど、それはどういう意味なんだ。
ボクの〈鏃小魚〉は〈尖弾〉の応用型だが、小魚を模した小さな個体を錬成することで無数の金剛を同時展開できる。
一つ一つの威力は弱いが、口や鼻の穴といった小さな隙間さえあれば相手の体内に入りこみ、内蔵をズタズタにすることもできる。
しかし、群体と化したシモンズの身体に口や鼻の穴といった体内に通じる穴らしきものは見当たらない。
細かく探せばみつかるのかもしれないが、あの渦巻状の紋様がついた皮膚の表面を見る限り、それは難しそうだ。とミチオは思った。
だとしたら、ヒョンスの言うとり大技を生み出すしかないが、ボクにそれができるのだろうか?
ミチオは目を凝らして群体シモンズの姿を見た。復数のシモンズの身体が一つになったシモンズは小さな足で重い下腹部を引きずりながらゆっくりと歩いている。
上半身にあたる部分はシモンズの頭部が無数に生えており、無数の頭部の2倍にあたる無数の手が生えてわなわなと蠢いている。
身体というよりは巨大な肉の固まり。いや肉というよりは生きている岩か? 一匹でも厄介だったのに群体になるとここまでデカく硬い塊となるのか?
……だったら。
〈鏃小魚〉を同じように固めてあいつにぶつければ。
ここはナラカ。外の何倍も金剛が濃い。
ここで錬成すれば、何倍もの強度と大きさになるのは間違えない。
ミチオは意識を集中して〈鏃小魚〉を一箇所に集める。金剛で錬成された魚の群れがミチオの身体に集まりぐるぐると周り出す。
この〈鏃小魚〉をぶつければいけるか?
だめだ。これでは無数の小さな粒をぶつけるだけだ。奴を倒すにはもっと大きくて硬いもの。だが、どうやって……。
みなみのうお座の星印!
ミチオはイメージした大海原を漂う巨大な魚の姿を。
だが身も心もザコ根性が染み付いている。
ミチオには巨大な魚をイメージするのが困難で、なかなかうまくいかない。
だから星印もうまく錬成できなかった。
何かが、何かが足りない。
金剛をつなぎとめる何か、触媒のようなもの。
その役割を果たすのに必要なのは……ボク自身か。
ミチオは答えに気付いた。
それがヒョンスの言う答えと同じものかはわからないが。今はそれしかない。
ミチオは意識を集中する。
外ではなく中に。
自分の心の奥底にある原初のイメージ。
それを実体化させる。すなわち〈内在〉。
左手の手首を掴みミチオは拳を前に突き出す。
腰をかがめ、意識を左手に集中する。
今まで食ってきた石獣から摂取した金剛よ、左手に集まれ。
ミチオが念じると、左手の拳にパキッパキッと裂け目が入る。ひび割れ?
パキッパキッ。
痛ッ!
ひび割れが拳から腕に広がっていく。
寒さで指先が裂けた時の痛みが10個同時に襲ってきたようなしびれがミチオの身体に走る。
これだ! キュウタと同じだ。
そして、皮膚の裂け目に〈鏃小魚〉の群れが集まってくる。
餌に群がるように無数の小魚が集まり、ミチオの左手とみるみる一体化していく。
〈外在〉と〈内在〉の複合技。
ミチオは内在によって左手を硬質化させ、それを餌に空中に漂う〈鏃小魚〉を呼び寄せたのだ。
一体化した〈鏃小魚〉はみるみる巨大化し、その姿は岩でできた巨大魚となっていた。左手の拳に食らいつく巨大石魚の姿は、尾ひれが鋭く尖っており、無骨な金剛の長剣に姿を変える。
いや、それは切ることに特化した剣というよりは、その重量を直接ぶつける巨大斧や金槌に近い存在だった。
左手に食らいついた巨大魚の姿は不格好で、武器と呼ぶには失笑モノだったが、
ミチオは自分にふさわしい姿の武器だと思った。
「くらえぇ!」
左手に食らいついた金剛の巨大魚を引きずりながらシモンズに近づくと、ミチオは下から一気に巨大魚の全身をシモンズ目がけて振り上げた。
巨大シモンズの身体が砕けバラバラに飛び散る。
「もう一発!」
そして、振り上げた巨大魚の身体を上から下へと叩きつけた。
咄嗟に思いついた二段攻撃だったが、攻撃は見事に命中し、シモンズの身体は粉々に砕け散った。
第112話 キトラ。毒々滅々。
◆◆◆
「すごい」
粉々になったシモンズの残骸を見てキトラは唖然とした。
「ザコくん。やったね!」
力を出し尽くしてその場に立ち尽くすミチオにヒョンスが抱きつく。
「ちょっと、ヒョン兄ぃ! 服着なさいよ」
「ごめんザコくん。嬉しくてつい……」
「いえ。ボクは大丈夫です」
なぜだろう。ヒョンスの一言一言がミチオには心地よかった。
激しい戦いの後だから緊張感が緩んでいるのも大きかったが、この人になら何でも素直に打ち明けられそうだとミチオは思った。
だが、すぐにいかんいかんとためらった。
「お盛んなところあれですけど、ザコくんの手、大丈夫?」
「あっ」
ミチオの左手には金剛で錬成された巨大な魚が食いついたままだった。
「これ武器?」
「おさかなブレードってとこか。いや形状としては鈍器に近いかな」
「デカくて分厚くて硬いものをイメージしたら、こうなりました」
「なにその原始的な表現。頭ワル」
「でも、これのおかげで僕たちは勝てた。ザコくん。見事だったよ!」
そう言うとヒョンスは無邪気に抱きついた。
「でも、ザコくん。どうやってこんなデカイの錬成できたの?」
「あの小魚の群れを一つにまとめたのはわかるけど……」
ミチオは二人の顔を見た。ここはうかつなことは言えない。
「〈内在〉です」
「キュウタと特訓してる時、偶然できたんです。その時は力が小さくて戦闘には使えなかったので、それっきりでしたけど、〈内在〉を使って〈鏃小魚〉を集めればできるかなぁと思って」
「〈内在〉と〈外在〉のハイブリッドか……凄いよザコくん!」
声は喜んでいたが、ヒョンスはミチオに対して強い警戒心を抱いていた。
やはりユキマサ兄さんを倒したのはコイツだ。
コイツは危険だ。
見た目のショボさで見くびると後で酷いしっぺ返しを食らう。
僕とは違うけど、相手の警戒心を解いて一瞬の隙をつく戦い方はとてもよく似ている。
だからよくわかる。
こういう奴が一番危険なんだ。
こいつはただのザコではない。
最強のザコだ。
「でも、なんでザコくん、いつから〈内在〉なんて使えるようになったの」
「師匠のおかげだよ」ヴァジュラ
「え? どーゆこと?」
「師匠の蛇に噛まれ続けことで、金剛に対する耐性ができたんじゃないかって……キュウタは言ってた」
「そーなの?」
「原因はキトラか」
「えっ私のせいなの……なんかごめん」
「なんで謝るの?」
「だって……」
「あっ」
ミチオはさっき話したムツミとキュウタの話を思い出していた。
キトラたちにとって〈内在〉は邪悪な忌むべき錬成法で〈手〉の間では邪法として禁じられていた。
もしも邪法を使っていると知られれば、それだけで命を狙われかねない。
だからこそユキマサさんはキュウタを真っ先に消そうとした。
仮にここから出られたとしても〈内在〉の使い手である以上、これからミチオは〈手〉から狙われる身となるだろう。
その理由を自分が作ったとなるとキトラは申し訳なかったが、そのことを口にすると、ミチオに対して負い目が生まれ師匠としての立場を失うことになる。
ザコのミチオよりも下の立場になることはキトラにとって屈辱でそれだけは絶対に避けたかった。
だが、同じくらいミチオの運命を変えてしまったことの罪悪感に彼女は耐えられなかった。
「すごい。キトラが人に謝ってるとこ初めて見た」
「ちょっとヒョン兄ィ!」
「でも、キトラが謝るのは無理ないかな。これでザコくんは一生〈手〉から追われる身となってしまったんだから」
キトラの気持ちを察したのか、ヒョンスが割って入った。
「どういうことですか?」
「それくらい〈内在〉は〈手〉にとって忌むべき邪法だということだよ」
「それは……キュウタを見ていたので、なんとなくわかります」
「ここから出たら君は追われる身だ。でも君が〈内在〉を使うことは僕とキトラしか知らない。僕たちが黙ってれば今後も安泰だね」
「どういう意味ですか?」
「深い意味はないよ。まぁ、この話はここを出たらゆっくりしようか、それまでは保留ってことで」
「はい……。」
「ところでその手に食らいついてる魚。どうするの?」
「金剛が濃すぎて解除されないんだ……と思います」
「困ったねぇ。そんなの引きずって歩いてたら今後に支障が出るし」
「私……解除できるかもしれない」
「師匠……どういうこと」
キトラはミチオの左手に食らいついた巨大魚に触れると甘露〈螺旋白蛇〉を発現させ、白蛇と化したツインテールを巨大魚に絡みつかせた。
そしてツインテールの先端にある白蛇の頭部がパカッと開き、鋭い牙を露わにする。
「オンキリキリバサラウンハッタ〈螺旋白蛇〉毒々滅々」
牙から金剛が流し込まれるのをミチオは感じる。
いつも実験台にされていた三摩耶形の白蛇。
だが今回のは何か違う。
ミチオの全身に悪寒が走り、猛烈な吐き気に襲われる。
「がまんしてね。すぐ終わるから」
ミチオはその場で嘔吐し、地面に倒れてのたうち回った。同時に左手に喰らいついていた巨大魚はポロッと外れるとすぐに身体が分解され大気中に離散していった。
◆◆◆
「私の白蛇ちゃんに治癒能力があるのはわかるよね」
「はい……」
「〈螺旋白蛇〉の治癒能力、あれは調合を変えると毒にも薬にもなるの。さっきは毒を錬成してザコくんの身体に流し込んだ。あっ、毒と言っても命に別状はないやつだから。ただ、一時的に発熱状態にして体内の金剛を一時的に解除した」
「そんなことができるんだ?」
「猛毒や疫病を治す時に別の毒を流しこむやり方があるの。まぁ「毒を持って毒を制す」ってやつね」
「助かりました」
一時的に体力が低下したミチオだったが、ナラカを漂う金剛を体内に取り込むことで、みるみる健康状態が回復していった。
ヒョンスもキトラもあれだけ動いたのに体力は低下しておらず、健康状態は至って順調だった。
その後、3人がフロアを抜けてゆっくりと歩いていると階段らしき場所にたどり着いた。
「行こう。ここから第三層だ」
3人はゆっくりと階段を降りていった。
掲載は不定期です。




