第一部 金剛編 第七章 ナラカ第二階層 第105~108話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第105話 キトラ。ザコくんと再会する。
◆
暗闇に堕ちていく中、ミチオは何とかしなければと焦った。
このままでは死ぬ。
どうすればいい?
今の自分にできることは?
必死で考えたが、何も思いつかない。
せいぜい頭部を守って安全に落下するしかない。
ミチオは金剛を発動し〈薄膜〉で全身をコーティングしようとした。
その瞬間、誰かに右腕をぎゅっと掴まれた。
「ザコくん!」
懐かしい声がミチオの耳に響く。
同時に落下の圧が、上から左へと変わった。
何かに自分の身体が引っ張られている?
「二人とも、離れないでね」
今度は柔らかく優しい声が響いた。
この声は確か……。
ミチオの身体が地面に叩きつけられた。
◆◆◆
「いたたたた、ヒョン兄。もっと優しく降ろしてよ」
「しょうがないだろう。キトラ一人ならともかく、彼の重量もあるんだから」
「……ザコくん。生きてるよね?」
「どうかな。打ちどころが悪かったかな」
「ちょっと! 冗談やめてよ!」
地面に倒れているミチオの姿を見たキトラが狼狽えている。
ヒョンスは耳をミチオの口元に当てた。
「息……してない」
「えー」
「人工呼吸」
そう言うとヒョンスはキトラの顔を見た。
「……えー私がするの?」
「僕がしていいの?」
そう言うとヒョンスは唇を舌でぺろりと舐めて、卑猥な笑みを浮かべた。
あの顔になるとヒョンスは狩人になる。
旅先でヒョンスがロックオンした女が全員食われるのを見てきた。
ヒョンスは少しでも好きなら何でもイケる雑食派であることを、キトラは知っていた。
他人を好きになることに対する沸点がヒョンスはめちゃめちゃ低い。
ちょっと気になるだけで声をかけて、気がつくといちゃいちゃしている生粋のナンパ師。
潔癖で真面目なユキマサと、別の意味で潔癖で他人に対する評価がめちゃくちゃ厳しいキトラとは真逆の性格だった。
「わかった。私がやる……」
そう言うとキトラは、仰向けになったミチオの顔に、ゆっくりと顔を近づけた。
これはチューじゃない。
これはチューじゃない。
とりあえずの人命救助。
そのために仕方なくやること。
目を覚ましたらぶん殴る。
ブツブツとつぶやきながら、キトラはミチオの鼻をつまみ、唇と唇を重ねようとする。
すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~。ミチオの呼吸音が聞こえる。
「ヒョンにいぃ……」
怒ったキトラがヒョンスをポカポカと叩く。
「ジョークだよジョーク。彼、着地の瞬間、金剛で身体を覆ってたみたいだね。それで致命傷には至らなかったみたい」
「〈薄膜〉……」
ミチオの身体を薄い金剛の膜が覆っていることにキトラは気付く。
「まぁ、金剛使いなら無意識にやることだけど。でもせっかく意識ないんだし、このまま奪っちゃえば」
「バカ。何で私がザコくんにキスしなきゃ!」
「いや、KISSじゃなくてKILL。ぶっ殺す方」
「それは……」
キトラは言葉に詰まる。
「だって、ザコくんを倒すために、ここまで来たんじゃないの?」
「それは……ただの偶然でしょ!」
キトラたちがカギュウ国を訪れたのは、帝都に向かう中継点となる街だったため、確かに偶然だった。
だが、3人が賞金稼ぎのギルド「野良犬」を訪れた理由に、ミチオとキシモリ・キュウタの情報を得たいという気持ちがなかったかというと嘘になる。
素人のミチオが試験を必要としたが、〈手〉のユキマサが引率し、ゴドウ家の人間なら心配ないだろうと試験は免除された。
そしてすぐにナラカ探索隊を募集しているという情報を聞かされ、腕試しとばかりに、ナラカを訪れたのだ。
そこでキトラはすぐにミチオの存在に気づいた。
だが、すぐに声をかけることを躊躇したのは、ミチオが一人の少年と二人の女と同行していたからだった。
ミチオはすでに賞金稼ぎとしてデビューし、新たなパーティーを組んだのだろか。
鋭い目をした無愛想な少年はおそらくユキ兄が追っていたやつだ。
では二人の女は何者?
おそらく賞金稼ぎだと思うが、巨体の女からは金剛の気配を感じない。
一方、小さな少女からは強い金剛の気配を感じた。
3人で立ち向かえばすぐに勝てるだろうとキトラは思った。
だが、まず何より仕事に集中しようと思い、ミチオを見たことは兄たちにも言わなかった。
どっかのタイミングでミチオを「説教してやる」とキトラは思っていた。
しかし次第に賞金稼ぎのチームが減っていき、いつの間にかキトラたちとミチオのチーム、そして異国の鎧と仮面を纏った戦士たちのチームだけとなっていた。
第106話 ザコくん。最悪の状況に陥る。
◆
「……ユキ兄ぃ。ここ?」
「どうやら第二階層みたいだね。いるのは僕たち3人だけ。他の人はたぶんもっと下の階層に落ちたんじゃないかと思う」
ヒョンスは目を瞑る。周囲の金剛の気配をたどり、ユキマサたちが近くにいないか探ろうとした。
「ダメだね。気配が多すぎる」
「あの部屋にいた人型?」
「いや、あの時、いっしょに落ちたのは、全部最下層だと思う」
「じゃあ……」
「おそらく、このフロアに住んでる奴だね。気をつけてねキトラ。ここの石獣、確実に上より強いから」
「うん……」
「それとザコくん。いつまで気を失ったふりをしているつもりかな?」
「……」
「スキをついて逃げようなんて思っても無駄だからね。金剛の気配でわかるよ」
「……助けてくれてありがとうございます」
そう言うと、ミチオは起き上がった。
◆
「ザコく~ん。いつから起きてたのぉ~?」
「キトラ……師匠の顔が目の前に迫ってきた時から」
「バカッ! あれはアンタの意識を確認しただけよ。決して変なことをしようとしたわけじゃないから」
「変なことって?」
「いいから忘れて!」
キトラがなぜ慌てているのか、ミチオは理解できなかった。
というよりは、今の状況に対して強い危機意識を抱いていた。
目の前にいるのはゴドウ家のヒョンスとキトラ。
金剛の気配についてはすでに気づいていたが、できれば顔を合わせずに仕事を終えたかった。
特にキトラとは会いたくなかった。
最悪の状況だとミチオは思った。
「あのぉ、暗くてわからなかったんですけど、どうやってボクはここに?」
「落下する君の手をキトラが掴んで、そのキトラの手をぼくが掴んで、横に身体をスライドさせた」
「スライド? 空中をですか?」
「ぼくは空を歩けるんだよ。ヒントは金剛」
「え?」
「まぁ、ぼくとしては君を助けるつもりはなかったんだけど、愛する妹が君を掴んで離さないから仕方な」
「ちょっと、ヒョン兄!」
キトラが慌てて間に入る。
「ありがとうございます」
とりあえずミチオは頭を下げて、二人に感謝の気持ちを伝えた。
「別にいいわよ……。たまたま近くにいた人を掴んだだけだから。勘違いしないでね。別にアンタだから助けたってわけじゃないから」
「ありがとうございます」
ミチオは再び頭を下げた。
「随分、よそよそしいじゃない?」
「……師匠。ありがとうございます」
「……今でも私のことを師匠って呼んでくれるんだ? あんなことしたくせに」
助けてもらった後ろめたさもあってかミチオはキトラのことを師匠と呼んだ。この場で揉めたら2対1。
ただでさえゴドウの金剛使い。
しかも、ヒョンスに関しては金剛法術が全くわからない。
三摩耶形は……おそらく使える。
それにキトラには一度〈零弾〉を使っているため、すでに秘密がバレているのかもしれない。
平身低頭に謝りながらも、ミチオは次にどう動くべきかと必死で考えていた。
「ザコくん。もしかしてぼくとキトラが君を殺そうとしていると思ってない?」
「え? そんなことは……」
思っていた。だがミチオは本当の気持ちを言えなかった。
「まぁ、ユキ兄とキトラは君にやられたみたいだからね。ぼくたちが君のことを恨んで復讐するためにここに来たと思うのは仕方ないか」
「……」
「でもまぁ、だったら何でキトラは君のことを助けたんだろうね」
「あそこで死なれたらリベンジできないじゃない。それだけだから」
「そうなんですか? 師匠」
「それ逆に嫌味に聞こえる。本当はもう、私のことを師匠だなんて思ってないくせに」
「ごめん」
「認めんの!」
「違います! このごめんは嫌味だと誤解させてごめんって意味で」
「何よそれ! 私が自意識過剰みたいじゃない!」
「キトラ。そういうのはここを無事に出てからにしようね」
「……」
「ひとまずここは休戦というか……共同戦線を張ろうじゃないか。ザコくん」
第107話 ザコくん、ヒョンス、キトラ。状況を整理する。
◆
「他の落下した人たちはどこに行ったんですかね」
「たぶん、最下層に落ちたか。ボクたちみたいに、別の層に滑り込んだのかな? おそらくナラカは真ん中が空洞の吹き抜け構造になっているんだと思う。ここ。かつてはショッピングモールだったんじゃないかなぁ」
「しょっぴんぐもーる?」
「旧世界の巨大商業施設。たしかでぱーととも言ったかな。おそらく建物自体は砂で埋もれていて、最上階から地下へとボクたちは下降していってるんだと思う」
「ナラカって天然の洞窟か何かだと思ってました」
「こういう砂に埋もれた巨大建造物が地球上にはたくさんあるらしいからね。廃墟となった旧世界の建物に金剛が付着し、それを目的とする石獣が住み着いた。ってとこかなぁ~」
ヒョンスの話にミチオは感心する。
そんなミチオの顔をつまらなそうにキトラは眺めている。
「ねぇ、私たちの任務はナラカの制圧でしょ。だったら吹き抜けから下まで一気に降りたらいいんじゃないの。ヒョン兄の金剛で」
「僕一人なら、それも可能だけど、あまりやりたくないかな。下は真っ暗闇だし、下降中に攻撃される可能性が大きい。無事最下層に降りることができても、いっしょに落ちた人型石獣がワラワラいるんじゃないかな」
「あー。あの地面に化けてた気持ち悪いやつらね。思い出したらゾワゾワする」
「あいつらだけなら何とかなると思うけど、強そうな人型が3体いたでしょ」
「シモンズ……」
「何それ?」
「キュウタはあの人型石獣そう呼んでました。顔が指の指紋みたいで複数いるからシモンズ」
「地面に化けてたシモンズなら一体一体は大したことないと思う。でも二対のアレは、一人じゃ無理かな」
「オスとメスだよね。多分」
「身体の感じだとそうだと思いますが……」
ミチオはおそるおそる答えた。
「メスの方はすごくいいスタイルだったね。モデル体型だけで出るとこ出てて」
「ヒョン兄ィ~」
「冗談だよ。大事な話はあの二体の背後に、もう一体いたってこと」
「マントを羽織った……裸の女の人……」
「そんなとこまで観てたんだ……。ザコくんもスケベなお年頃なんですねぇ~。いやらしい」
「別にそんなんじゃ……ただ。あの女を観た瞬間。キュウタが……」
「君の相棒の、彼、なんか叫んでたよね。確かムツミ?」
「どういう意味? なんか女の名前みたいだけど」
「……わからないです」
「彼女――ムツミは身体の半分を金剛で硬質化していたね。あくまで推測だけど、おそらく人型なんじゃないかと思う」
「でもあの姿。半分は……」
ムツミの姿が頭部も含めた身体の左半分が硬質化していたことをキトラは思い出していた。
「〈内在〉だね」
「〈内在〉ってあの邪法の? マジそんな奴いるの? キモい」
キュウタのことを知られたらどうなるかわからないなとミチオは思った。
「つまり、彼女は人間かもしれない」
「え? 人型でしょ」
「どう違うの?」
「ザコくん、バカなの?」
「キトラ、ザコくんはボクたちとは違うから」
ヒョンスのフォローの方がひどいと思ったけど、ミチオは黙っていた。
「私たちが戦っている石獣。動物の姿をしてるやつは金剛が動物に寄生した奴だけど、人型の奴は人間が金剛に寄生された石獣。でも、もしも人間の意識を残したまま石獣としての力を操る奴がいたとしたら、そいつはどっちだと思う?」
「……人間ですか?」
「〈手〉の間では石獣ってことになってる」
「そんなこと……」
「仕方ないでしょ。そういうことになってるんだから。それに〈内在〉はヤバい奴がなる病気なの。まだ人型の方がマシ」
「あぁ、そういう定義の話は後で考えよう……まぁ、彼女がナラカを仕切るラスボスだと考えて間違いないと思う」
「……」
3人は、ムツミと対峙した時に感じた圧倒的な威圧感を思い出していた。
単純な金剛の気配や物量を超えた圧倒的なカリスマ性とでも言うべきだろうか?
彼女人型石獣を仕切っていることは誰の目にも明らかだった。
「カギュウのお兄さんたちを半殺しにしたのは、おそらくシモンズの二体で、彼女は手を下していない。それがどういう意味か二人はわかるよね」
「うん」
「はい」
ヒョンスの言葉にミチオとキトラは頷いた。
地獄のカギュウブラザースを半殺しにする二体のシモンズよりも間違えなくムツミ――と呼ばれている女の方が強い。
何人生き残っているかわからないが、仮に落下した全員と合流して同時に戦いを挑んでも、ムツミに勝てる見込みは薄いとヒョンスは考えていた。
「どっちにせよ。僕たちの当面の目的は下に降りながら、生き残った人たちと合流。その後のことは生き残ってから考えよう」
話を終えると、3人は第二階層の奥に向かって進んでいった。
第108話 ザコくん。ヒョンスに詰められる。
◆
ミチオ、キトラ、ヒョンスの三人は、周囲を警戒しながら第二階層を歩いていた。
第一階層以上に壁や天井から伝わる金剛の気配は強まっていたが、石獣の姿は見えなかった。
「フロアがないですね」
「第一階層とは作りが違うみたいだね。枝分かれもしてない」
道をまっすぐ進むと長い階段が見えた。止まっているがそれは、かつてエスカレーターと呼ばれたものだった。
「あそこから下に降りられる?」
「敵はどこに潜んでるかわからない。油断しないで」
「ちょっと、なんでヒョンスが仕切ってるのよ。ユキ兄と違って私とアンタはこれか
ら〈手〉になるんだから、立場は同じでしょ」
「年齢は僕の方が上だよ」
ヒョンスは16歳、キトラは14歳だが、同じ年に須弥山学院に入学することになったのは、14歳の時、ヒョンスが突然、ゴドウ国を出て武者修行の旅に出ていたからだった。
2年間、全国を放浪したヒョンスは今年の2月に戻ってきた。
一方、キトラは現在14歳だが、中学の卒業となる15歳になる前に須弥山学院への進学を決めた。
「上なんて何の自慢にもならないでしょ。むしろ14歳の若さで進学する私の方が格上」
「キトラが進学するのは、中学に友達がいなくて寂しいからでしょ」
「それは」
「ヒョンスさん。そもそも師匠、中学行ってなかったですよ」
「ザコくん。余計なこと言わない」
「え? そうなの。だったらとっとと須弥山に入ればよかったのに。確かキトラ。僕が旅に出る前に12歳で進学するって豪語してたよね。なんで2年も待ったの?」
「別に待ったとか、そういうんじゃ」
「ザコくんと会ったのも確か2年前だっけ?」
「はい。師匠には鍛えてもらいました」
「それで君は今年、ゴドウを出たんだよね」
「本当は〈手〉になるために帝都に行きたかったんですけど、試験に落ちちゃったので」
「それで賞金稼ぎに?」
「はい。そんな時に偶然キュウタに合って。強引についていきました」
ミチオはヒョンスに自分の事情について説明する。キトラの視線がなぜかヒリヒリした。
「じゃあ、ザコくんが卒業したから、キトラも国を出たんだね」
「ザコくんは関係ないから!」
「でも、彼に負けたことは根に持ってるんだよね」
「それは……」
「ごめん。師匠、あの時はキュウタに合うために急いでたから、ちゃんと説明できなくて」
「何、その上から目線?」
「そういうわけじゃ……」
「……あー思い出したら腹が立ってきた。ザコくん再戦。ここで再戦しよ。アンタに負けたなんて人生最大の過ち。ここで全部精算する」
「まぁまぁ、キトラ落ち着いて」
一触即発となりかえた所でヒョンスが間に入りキトラをなだめる。
「そうだよ。師匠、いつ石獣が襲ってくるかわからないんだから」
「アンタねぇ!」
冷静にミチオが返答したことにキトラはイラッとした。
「それよりザコくん。戦闘になる前に君の金剛について教えてくれないかな?」
「え?」
「正直、ユキ兄と離れたことが僕は不安でねぇ。これまでの戦いはユキ兄の三摩耶形があったから、僕とキトラが多少ヘマしても大丈夫だったけど、今、石獣が襲ってきたら、正直、火力が足りないと思う」
「ボクもキュウタに依存してたところがあるから、それは不安です」
「でも、君はキトラだけじゃなくてヒョン兄も倒したんだよね」
「……」
「ヒョン兄は君の相棒のキュウタくんが裏で何かやったんじゃないかと睨んでるけど、ボクは君自身が何か凄い必殺技を持ってると確信している」
やっぱりそこに触れるのか……ミチオは返答に困った。
〈零弾〉のことだけはなんとしても隠したかった。
「その必殺技がどういうものか教えてくれないか。そしたら色々対策を立てられる」
「すみません。ボクには何のことだかさっぱり」
「ザコくん。アンタねぇ」
「師匠から聞いて知ってると思いますが、ボクは庶民の出で三摩耶形を持っていません。使える金剛は基本的なものだけで、生きてくだけで精一杯です」
「君が第一階層で見せた金剛。三摩耶形じゃないよね」
「あれ、私も見たことない奴だった」
「……〈鏃小魚〉です。独学で生み出しました」
「へぇ~凄い」
「無数の〈尖弾〉を同時に動かすために小魚の群れをイメージしました。頭が鏃状になってるから〈鏃小魚〉です」
「小魚か。それって雑魚ってことだよね。ザコくん、やっぱ自分がザコだって自覚あるんだ。ウケる」
「金剛って自分にとっても身近でイメージしやすいもの程、顕現しやすいんですよね。それがボクにとって小魚だったんだと思います」
キトラの挑発的な物言いに反応せず、ミチオは淡々と答えた。
「独学でそこにたどり着いてオリジナルの金剛を顕現できるなんてザコくん凄いよ」
「ありがとうございます」
「でも、それじゃないでしょ」
「え?」
ミチオは虚を付かれた。
「ザコくんがゴドウを出てまだ一ヶ月も経ってないよね。そんな短期間の内にオリジナルの法術を生み出した君が、他の技を隠し持っている可能性を考慮するのは当然だと思うんだよね」
「買いかぶり過ぎですよ」
「そうやって弱者を装い、相手を油断させることで勝機を掴む。それが君の処世術なんだね」
「……今できることを精一杯やってるだけです。ボクみたいなザコには、それくらいしかできることないんで……」
「悪いけど、僕は君のことを過小評価しないよ。むしろ君みたいなタイプが一番恐いと思ってる」
「……仮にボクが他の技を隠しているとして、それをボクが言うと思いますか?」
「言わないだろうねぇ。でも……」
ヒョンスが突然、会話を止める。
「……ヒョンスさん?」
「どうやらおしゃべりタイムはここまでのようだね」
ヒョンスの言葉を聞いたキトラとミチオに緊張が走る。
「敵が来る」
掲載は不定期です。




