第一部 金剛編 第六部 ナラカ第一階層 第95~99話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第95話 何、二人で褒め合ってるんだ。気持ち悪い。
◆◆◆◆
一分後、フロアに突入したサチとダリアは、血まみれになって倒れている戦士3体の姿を目撃した。
「お前たち、二人で倒しちまったのか?」
「はい……ボクとキュウタでやりまし」
「おい、ミチオ!」
闘いが終わり、力尽きて膝から倒れそうになったミチオをサチは受け止めた。
「大丈夫か?」
ミチオにキュウタが話しかける。
「うん……。キュウタ、凄かったね。あの闘い方」
「お前の〈薄膜〉と同じだ。ただし〈内在〉だ」
「〈内在〉……」
「侵食率は5%だが、一箇所に集中せず、薄い膜をコーティングするイメージで全身に広げた。強度は下がったが、全身の身体機能を大きく向上させる効果があった」
「すごいね。それに剣も両腕で」
「これも一か八かの賭けだった。ナラカの金剛だからできた」
「身体中に亀裂が入ってるけど大丈夫? 痛くないの」
「ヒリヒリする。だが、すぐ元に戻る」
「やっぱキュウタはすごいな。とっさにそんな闘い方ができるなんて」
「それはお前だ」
「でもキュウタのアドバイスがなければできなかった」
「おい。なに二人で褒め合ってるんだ。気持ち悪いぞ」
二人の会話にサチが割って入った。
「あっサチさん。ダリアさん。すみません」
「いいですよ。私は二人が楽しそうにしてる姿を見るの、とても大好きですから」
「楽しそう?」
ミチオはキュウタを見た。キュウタの表情はあまり変わっておらず、楽しいのかどうかはわからなかった。
「それで、こいつらはどうするんだ?」
戦いでボロボロになった三体の戦士を撮影しながらサチが尋ねる。
キュウタは戦士たちの被っている髑髏の兜を剥がした。
むき出しになった顔は無数のひび割れが覆っていた。
一方、切り離された胴体の方は地面にひっくり返って、バタバタと手足を動いている。
「すごい生命力だね。武器を回収しておいてよかったね。」
「やはり、人型石獣か」
「この鎧と兜。それにあの武器。生前は相当強い戦士だったんだね」
キュウタは切り離された頭部の脳の部分に短刀を突き刺した。
戦士の顔は目を大きく見開き、ギョエーーと断末魔の叫びを放った。
その後、戦士の顔は干からびていき、やがて塵芥となり、大気中に拡散していく。
頭部が消えていくとまた、鎧の中にある戦士たちの胴体も塵芥となり、光の粒となって大気中に消えていった。
その大気中に散っていった戦士たちの元身体だった金剛の粒子をキュウタは吸い込んでいく。
ミチオも起き上がり、金剛を体内に吸い込み、手を合わせた。
サチとダリアンヌも目を瞑り、手を合わせた。
第96話 キュウタ。新しい戦い方を模索する。
◆
その後4人は、ゴロゴロスの元に戻った。鎧と武器は重すぎるため、兜3つと、長剣の戦士が持っていたタブレット端末を回収し、ゴロゴロスに見せた。
「こいつらは第一次探索隊のやつらだな。確かチーム・ドクロウズ」
「まんまですね」
「鉄の鎧と一撃必殺の武器を持った3人の戦士で、凄腕の賞金稼ぎだった。得意とする武器も切るというよりは叩きつけて破壊するタイプで、金剛で覆われた人型石獣とも戦えると自信満々だったが、返り討ちにあったようだな」
「それで人型に……」
「お前たちにとっては災難だったろうが、明日は我が身だ。許してやってくれ」
「あのぉ、もしかしてここにいる人型石獣って……」
「お前が想像しているとおり、ナラカに挑んだ賞金稼ぎたちの成れの果てだ。他にもここの金剛に惹かれて集まってきた人型も大勢いる」
「顔が渦巻状になっている人型石獣を倒したという報告は入っていないか?」
キュウタがゴロゴロスに尋ねた。
「知らねぇな。だが、人型石獣の報告は多数入っている。ひょっとしたら最下層にそいつらもいるのかもしれないな」
「……私たちの敵は……人間なんですね」
ダリアがゴロゴロスに尋ねる。
「人型は人間じゃない。元人間だ。お前らも死ねば同じことになるぞ。どうする辞めるか?」
「大丈夫です。続けます」
「そうか。まぁ、仲間の回収も兼ねて、報酬は一人あたり銀貨2枚だ。受け取れ。
フロアに残された鎧も後で回収に向かわせる」
◆
その後、四人は三体の戦士のいたフロアに戻り、奥の扉を開けて、その先の通路へと向かった。
しばらく歩くと再びフロアがあった。
先程と同じようにミチオとキュウタが中に突入し、サチとダリアが背後で待機した。
雇われている立場とはいえ、ミチオとキュウタばかりが闘う状況は、客観的に見てとても不平等に見えた。
そのことがミチオは少しだけ気になっていたがキュウタが積極的に受け入れたため、素直に従っていた。
今度のフロアにいたのも人型だ。
今度は鎧ではなく、全身ひび割れの入った皮膚が硬質化した男たちが七人と大人数だったが、敵意はなく、ただゆっくりと徘徊するだけの屍だった。
敵の戦闘力を即座に見切ったキュウタは、真っ直ぐ突入し、人型の首を軽々と跳ねていく。
しかし首を切断しただけでは戦闘不能にならないことはわかっていたため、ミチオは〈鏃小魚〉を発動し、耳、口、目から潜入して頭部を破壊。
一分未満で勝負はついた。
その後も新しいフロアを見つけると、キュウタとミチオが先行し中の敵を次々と片付けていった。
最初の餓鬼のように複数で襲ってくることもあったが、まず二人で潜入し左右に別れて配置につくことで、戦力を二分し、二人の金剛と体術で片付けていった。
何度もフロア内での戦闘を繰り返す中で、ミチオはキュウタが、新しい金剛の使い方を模索していることに気付いた。
〈半邪鬼〉が使えない中、キュウタは本来の自分の特性であるスピードタイプに適した金剛の使い方を探していた。
その結果、一番最適な闘い方が〈薄膜〉を内在で発動することで、全身の皮膚を薄い金剛でコーティングし、身体能力を高めるということだった。
そして両腕で〈牙剣〉を錬成するという二刀流スタイルに闘い方を変えたのだが、そのことによって彼が錬成する〈牙剣〉も独自の進化を遂げようとしていた。
キュウタの〈牙剣〉は体内に蓄積されている金剛によって錬成された武器だ。
そのため、手から離れると強度を失い粒子が離散してしまう。
そのことを逆手にとり、手から離れた武器を捨ててすぐに新しい武器を錬成するというのが彼のスタイルだった。
しかし、二刀流になったことで、敵に武器を突き刺しては錬成、突き刺しては錬成を繰り返すことで、相手をめった刺しにするという連続攻撃の手数が一気に二倍になった。
その手際は実に見事で、一度懐に入り込めば、相手を蜂の巣に変えることが可能だった。
その意味でキュウタの攻撃はキトラの三摩耶形・双剣〈無熱〉に近い連続攻撃だった。
だが、キトラの攻撃が二本の細身の剣ゆえに、傷口が細く小さいという決定打にかけるところがあった。
対して、キュウタの二刀流は刃先が太く鋭いため、射程距離に入って攻撃さえすれば、より決定的なダメージを与えることが可能だった。
同時にキュウタは度重なる闘いによって〈牙剣〉の形状を臨機応変に変化させる術を身につけつつあった。
これまではナイフのような単純な形状だった刃だった。
しかし、今は、切り裂く時には鎌のような弧の字の形状に曲がり、叩きつけたい時は刃先を太くして金槌のような形へと変える。
複雑な形状はまだ難しかったが、刃先の形状や鋭さをその場で調整して相手にもっともダメージを与えやすい武器を錬成できるようになっていた。
◆◆
「キュウタ。その〈牙剣〉の形……?」
4度目のフロア制圧の際、ミチオはキュウタが錬成する短い棒の先に鋭い刃先がついている〈牙剣〉の形状が医療用メスに似ていることに気づいた。
「……結局、こうなったか」
金剛によって錬成される武具には、金剛使いの無意識が反映され、より具体的にイメージできる鮮明な記憶下にある物体であるほど、精度の高い錬成が可能となる。
それはミチオにとっては小さな魚だった。
武器が医療用メスと似ているのは、キュウタは医者や病院に何か強い思い入れがあるのだろうか? とミチオは思った。
第97話 ゴロゴロス。石獣と友達になりたい。
◆
5つ目のフロアに入った時、ミチオはこれまでと違うことに気付いた。
「キュウタ……」
「石獣だ。敵意は……ない」
フロアにいたのは鹿型石獣3体だった。動きはゆったりとしており、待機中の金剛を口から取り込んでいる。
「これってゴロゴロスさんが言ってた人型じゃない石獣だよね」
「戻るぞ」
◆
ミチオたちから報告を受けたゴロゴロスは嬉々として、鹿型石獣のいるフロアへ、|水牛型石獣《ペロちゃん』に搭乗して向かった。
ゴロゴロスの搭乗する石獣は思った以上に速く、ミチオは驚いた。
中央フロアに鎮座している時は、移動する姿はまったく想像できなかったが、いざ移動するとなると様になっており、思った以上にこなれていると感じた。
「おぉ、鹿型かぁ」
40分後、フロアにたどり着いたゴロゴロスは石獣から降りると
上半身を覆っていたマントと靴を脱いで鹿型石獣へと向かっていった。
ブリーフパンツ一丁になったゴロゴロスはゆっくりと鹿型石獣へと近づく。
「ちょっと、ゴロゴロスさん!」
「大丈夫でちゅよ~。怖くないでちゅからね~」
まるで子供に語りかけるようにゴロゴロスは両手を広げて近づいていく。自分は武器を持っていない。敵意はないという表明だ。
モヒカン、メガネ、ひげ、腹は出ている小太りのゴロゴロスが半裸で動物に近づいていく姿は滑稽だったが、4人は笑わずにただただ様子を見守っていた。
もしも石獣がゴロゴロスに襲いかかり大怪我、最悪の場合、命を落とすようなことがあれば、責任はすべて自分たちが負うことになる。いくら事前にゴロゴロスから許諾を得ていたと弁明しても、カギュウ家の6男を失えば刑事罰に問われる可能性は高い。
だから何かあれば、即座にゴロゴロスを助けて、鹿型石獣を始末する覚悟で4人はいたのだが、ゴロゴロスは鹿型石獣の一匹に抱きつくと、体をこすりつけた。
金剛によって硬化し、表面に無数の突起がある鹿型石獣の体は決して柔らかいものではなく、ゴロゴロスの肌には無数の赤い腫れができている。そして突然抱きつかれたことで、鹿型石獣は体をひねらせ激しく抵抗した。
「よーしよしよし、大丈夫ですよ。かわいいでちゅねー」
ゴロゴロスは優しい口調で鹿型をなだめる。決して力でねじ伏せるのではなく、ワルツを踊るように鹿型の動きに合わせて体をひねらせ、鹿型の体を傷つけないように優しく動いていた。
やがて根負けした鹿型が体のバランスを崩し、地面に倒れると、ゴロゴロスは鹿型の体が地面に叩きつけられないようにクッションとなって体を支えた。
そこからは肌と肌を密着させレスリングの寝技のような感じで体をゴロゴロと転がした。
やがて鹿型は観念したのかおとなしくなり、ゴロゴロスの顔をペロペロと舐めだした。
その後、ゴロゴロスがゆっくりと起き上がると、鹿型石獣はゴロゴロスに完全に懐いていた。
◆
ゴロゴロスは残り二匹の鹿型石獣にも同じように抱きつき、石獣の心を完全に懐柔してしまった。
「さて一旦、本部に戻るぞ」
マントを羽織り、靴を履くと、鹿型に語りかける時とは打って変わった威厳のある態度をゴロゴロスは取り戻した。
水牛型石獣に搭乗したゴロゴロスが本部に戻ると鹿型石獣3体も後ろからついてくる。
「ゴロゴロス様。すごいです。私、感動しちゃいました」
ダリアは興奮してゴロゴロスに話しかける。
「よしてくれ。照れちまう」
ダリアの素直な気持ちが伝わったのかゴロゴロスは嬉しそうだ。
「私たち、石獣は敵だと家では教わってきたので、倒すことばかり考えてきたのですが、こうやって友達になれるんだって知って驚きました。感動です!」
「……オレは石獣と友達になりたいんだ」
「ダチ?」
「兄者たちには馬鹿にされてる。この軟弱者って。そりゃそうだよな。〈手〉の責務は石獣の殲滅なんだ。でもオレは嫌なんだ。あいつらは悪くない。金剛病のせいで、ちょっとおかしくなってるだけだ。ちゃんと飼い馴らせば人間を襲わない。それを証明したい」
「素晴らしい考えです」
「ありがとな。だからオレは須弥山に行くのも拒否したんだ。〈手〉になって石獣を殺すよりも、仲良くなる方法を探る方が先だと思うんだ。おかげでカギュウ家では変人扱いだ。兄者たちからは一族の面汚しだって言われてる」
「……」
ダリアは俯いた。自分の境遇と重ねていることにサチは気付いていた。
「オレの夢はカギュウ国に動物王国を作ることなんだ。伝承でしか知らないが、旧世界には動物王国という国があったらしくて、そこでは人間と動物が別け隔てなく幸せに暮らしていたらしい」
「動物王国!? なんだかロマンチックな響きです!」
「もちろん人間と動物の関係である以上。立場の差はある。家畜として人類が動物を支配していきた歴史を否定するつもりはない。だがすべての石獣を敵視して、殺すことしか考えてない今の世の中は間違ってると思うんだ」
「……」
「でも、そんなこと言っても誰もわかってくれない。だからオレは先に結果を見せることにした。どんなに見下されて馬鹿にされても」
「……」
「オレは不器用だし馬鹿だから、こんなやり方しかできない。石獣と友達になる方法も、結局、裸で抱き合うしかないと思ったんだ、本当はパンツも脱ぎたかったんだが、それだけは辞めてくれと部下から言われてな。仕方なく今のスタイルに落ち着いた」
「……」
「オレのやり方。めちゃくちゃに見えるだろう。だけど、実はとても利にかなってるんだ。裸で抱き合うことで敵意がないことを知らせて体臭をマーキングする」
「金剛もか?」
キュウタが話しかける。
「わかってんな。あんちゃん。そうだ。石獣の表面の皮膚に直接触れることでオレの金剛もマーキングしてる。まぁマーキングって言うと相手を支配してるみたいで嫌だが、大事なのはハートだ。金剛を通してハートを伝えて、相手もそれに答えてくれる。ギブアンドテイクって奴だ」
「人型にもマーキングはできるのか?」
キュウタはゴロゴロスに尋ねた。
「試したことはないが無理だろうな。アイツらは他の石獣とは何か違うんだ。お前らも散々戦ってきたからわかるかもしれないが、アイツらは、はじめっからオレたちに強い敵意を持っている。オレには人型が一番理解できない」
そう言うとゴロゴロスは少しだけ悲しそうな目をした。
第98話 懐かしい声
◆
ゴロゴロスを中央本部に送り届けた後は、単調な同じ作業の繰り返しとなった。
新しいフロアを見つけると、ミチオとキュウタが潜入。
人型石獣ならば倒し、動物型の石獣ならば、本部に戻り、ゴロゴロスを呼び寄せ、彼がマーキングすることで石獣を懐柔した。
その度にゴロゴロスの汚い半裸を見せられることにミチオは少しげんなりしたが、次第にそういうものかと、慣れていった。
本部に戻る度に2つの変化が起きていることにミチオは気付いた。
一つは動物型石獣の増加。
鹿型、犬型、猫型、猿型、鰐型といった形状が把握できるものから、もとの動物が想像できない複合型の石獣も含めて、大小サイズ問わず様々な石獣が中央フロアを徘徊していた。
ゴロゴロスのマーキングが効いているのか石獣は、その場にいる人間たちに対してとても好意的で餌を与えたり、頭を撫でると体をこすりつけて懐いていく。
ゴロゴロスへの好意が人間そのものへの好意に変わる原理はよくわからなかったが、そういうこともあるのかとミチオは受け入れた。
もう一つの変化は、探索隊として参加した賞金稼ぎの数が激減していたことだ。
ミチオたちが探索に入った時点ですでに負傷者が地面に横たわっていたが、一命ととりとめたものも遺体となったものも、カギュウ国へと搬送された。
追加部隊も定期的に投入されていたようだが、増える数よりも減る数の方が圧倒的に多かった……というよりは、元々、フロアに待ち構える人型石獣を倒せるレベルを満たしている賞金稼ぎのチーム自体が少なかったのだろう。
これは徴収する側の采配ミスだが、そもそも賞金稼ぎ自体がほっといても湧いて出る羽虫のような存在だと思われていた。だから常に使い捨てにされている。
中にはフリーランスの金剛使いもいたが、帝都で手とり足取り育成された〈手〉に対する態度とは雲泥の差だった。
良く言えば使えるヤツはどんどん場数をこなして成長していく現場主義、悪く言えば、ふるいにかけて生き残ったヤツだけを採用する弱者切り捨ての実力主義。
これじゃあ、慢性的な人手不足にもなるよなぁとミチオは思った。
今思えば、フリーランスの金剛使い(ヴァジュラシ)になることをキトラが反対したのはよく理解できる。
でも、それは〈手〉になるというルートがはじめから確立されている名家の人間だからわかる理不尽さであり、そもそも自分のような人間には初めから選択肢などなかったのだとミチオは思った。
そんなことを考えていたら、ミチオはふとキトラのことを思い出し、少し懐かしく思った。
あれからまだ数日しか経っていなかったが、ゴドウ国での日々は遠い彼方の記憶になりつつあった。
キトラ……今どうしてるのかなぁ。曲りなりにも2年間、師匠として金剛について教えてくれた年下の子に対して悪いことをしたなぁ。
今度会ったら謝ろう。キトラは今頃、帝都にいるのだろうか。もう一生合わないかもしれないけど……え?
「うへー。何でまた石獣が増えてるのよ!」
「キトラ、この子かわいいよ」
「ちょっと、ヒョン兄ィ!」
人が減ってフロアが閑散とし始めたことで、その場にいるグループは10組にも満たなかったが、その中の3人組にミチオは見覚えが会った。
「キュウタ、隠れて!」
ミチオはキュウタの耳元でささやくとキュウタの体を抑えて屈ませた。
第99話 キュウタ。過去を語る。
◆◆
「どうした?」
「キトラがいる」
「誰だ?」
「ゴドウ家の三女だよ。っていうか、ユキマサさんもいる! ということはあと一人は次男のヒョンスさん? なんでゴドウ三兄妹がここに?」
「ゴドウのやつらか」
キュウタは唯一、面識があるゴドウ・ユキマサの顔を退屈そうに眺めた。
「どうしようキュウタ」
「やつら何が目的だ?」
「わからないけど……」
「俺たちへの復讐か?」
「えっ、それはないと思うけど」
「だったら同じ任務をたまたま請け負っただけだ。気にするな」
「……そうだけど。念のために顔を隠しとこう。キュウタも」
そういうと二人はマスクとフードで顔を覆った。
◆◆
それから二人はゴドウ三兄妹から離れた場所でテントを張り、宿をとった。
ダリアとサチは隣にテント張って休眠をとった。
食事はカギュウ軍によって配給され、常時温かい炊き出しも振るわれていた。
「キュウタの〈牙剣〉……メスみたいだったね」
横になったミチオはキュウタに話しかけた。
それはなんてことのない雑談のつもりだった。
「オレの家は病院だった」
「……」
「帝都にある小さな診療所だ。父さんと母さんと姉さんの3人で経営していた」
「……」
帝都にある医者の家の生まれと聞いて、思ったよりも育ちがいいんだなと、ミチオは思った。
「ガキの頃からメスは玩具にして遊んでた。よく父さんに怒られたけど、すごく手に馴染んだ。こっそり鶏肉を切り刻んで、遊んでた」
昔のことが懐かしくなったのか、キュウタの口元にうっすらと笑みが浮かんだ。
いつになく饒舌に自分のことを語るキュウタに、ミチオは戸惑いを隠せなかった。
キュウタのメスの手さばきは確かに見事だった。
独自の形状ゆえにメスは武器として扱うには向いていない。
何より射程距離が短いため、ナイフ以上に対象に近づかないと斬りつけることができない。
しかし、切れ味は鋭いため一度斬りつけることができれば、石獣の硬い皮膚も切り裂くことができる。
一瞬で相手の懐に入ることができるキュウタのスピードと、メスを操る器用な手さばきがあって初めて成立する闘い方だったが、逆に言うとこれ以上に相性のいい武器はないのではないかとミチオは思った。
「だったら何で今まで」
メスを錬成しなかったのか? とミチオは疑問に思った。
「……向き合いたくなかったのかもしれないな」
「……」
「オレの家……キシモリ診療所は、帝都の大学病院が診療拒否している専門の治療を一手に請け負っていたんだ。オレは頭が悪かったから跡を継ぐのは諦めてたけど、ゆくゆくは姉さんの助手ができればと思ってた」
「じゃあ、帝都の医大生だったの? 実はボクの同級生も医大に入るために帝都に行くんだ」
「……医大には行かなかった」
「どうして?」
「行けなかったという方が正解か……」
「……」
「うちの病院は金剛病の研究を独自におこなっていた」
「金剛病って……?」
「当初、金剛は新種の感染症だと世界中で診断された。山奥の動物に感染しやがて食料品から人間へと感染した。その結果、生まれたのが石獣だ」
「……」
「金剛が病気なら治療法があるんじゃないかと父さんと母さんは考えたんだ。それで金剛を生物の肉体から分離する方法を研究していた」
「……」
「だが、ある日、病院は何者かによって焼かれ、研究データはすべて燃やされた」
「……」
「父さんと母さんも殺された」
「ひどい。誰がそんな?」
「あの日、大火事となった診療所でオレは家族を助けようとした。そこでオレは人型に襲われて意識不明の重体になった」
「……」
「その後、焼け落ちた診療所で“先生”がオレを見つけ出した。なぜかオレは生きていた。おそらく……」
「キュウタ。言いたくないなら無理して言わなくても言いよ」
「いや。ミチオには話しておきたかった。聞いてくれ」
「……うん。わかった」
口下手なキュウタは訥々と言葉を選び慎重に自分の身に起きたことを話しはじめた。
「〈半邪鬼〉と呼ばれているオレの金剛。あれは、オレを襲った人型のイメージが強く投影されている」
「……」
「先生が言うには、オレを襲った人型石獣はオレの体を手刀で貫くと同時に、オレの体内に体の一部、つまり金剛を送り込んだらしい。あくまで推測だが。つまり……オレは金剛病に感染している」
「……じゃあ、キュウタは石獣なの?」
「半分人間、半分石獣といったところだな。まさに〈半邪鬼〉だ」
そう言うとキュウタは苦笑した。
「……キュウタの目的は家族の敵討ち?」
「あぁ。人型は石獣の中でも特殊な存在で、独自のネットワークがある。たぶんウチを狙ったのも、組織的な行動だ。だからシモンのような人型を追っていけば、いずれオレたちを襲ったやつに辿りつける。そう考えていた」
「あと……」
「何だ?」
「お姉さんは……」
「遺体は見つかってない」
「じゃあ……」
「わからない」
「生きてると……いいね」
「あぁ」
もしかしたらキュウタの本当の目的は、行方不明のお姉さんを探すことなんじゃないかとミチオは思った。
掲載は不定期です。




