第一部 金剛編 第六章 ナラカ第一階層 第86~92話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第86話 石獣は殺すな、ただし人型は殺せ。
◆◆◆◆
4人はナラカの入り口に立つ。
ナラカは地下深く続く洞窟だった。
「お前達は追加パーティか?」
「……はい。チーム・ダリアです」
ダリアは入り口を守る二人の兵士にそう答えた。
「追加」という言葉が気になったが、ミチオは黙っていた。
「奥に進め。詳しいことはゴロゴロス隊長に聞け」
4人は下へ下へと続く洞穴を進んだ。洞穴の横には松明が設置されており、炎が燃えていた。
おぼつかない足元を気にしながら、洞穴を進むとやがて開けた場所に出た。
そこには発電機が置かれており、明るい光を放っていた。
そして、武装した無数の人間がごった返していた。
おそらく武装している人間は全員賞金稼ぎだろう。
一方、足元には無数の怪我人が寝転がっており、医師と看護師で編成された医療班が必死で治療している。
「まるで戦場だ……」
ミチオは思わずつぶやいた。
無数の怪我人たちの前を横切り、中央に向かうと、動物にまたがった小太りの男が待っていた。
髪はモヒカン、目は悪いのか赤い縁のメガネをかけている。
服装はマントで覆われているためわからないが上半身は裸だ。
下半身はカギュウ国で流通しているダボダボのズボンにブーツ、年齢は20代後半くらいだろうか。
口元にはちょび髭を生やしているがあまり似合っておらず、年齢よりも幼く見える。
強面を気取っているが中身は子どもというのがミチオの第一印象だった。
「ゴロゴロス様ですか?」
「あぁ」
「ナラカ探索隊として参上しました。ワシュルカ・F・ダリアンヌです」
「ワシュルカの女か?」
「第5王女です」
「オレは第6王子だ。末っ子か」
「はい」
「お前とは気が合いそうだな」
「以後、お見知りおきを」
「任務について伝える。目的は石獣……人型石獣の殲滅だ」
石獣という言葉を口にした瞬間、ゴロゴロスは言葉をつまらせ、表情が一瞬歪んだ。
「ここはナラカの第一階層だ。最下層にはおそらく人型どもを束ねるボスがいる。そいつを倒すのが最終目的だ」
「行くぞ」
「待て。勝手な行動を許さん!」
キュウタがその場を離れようとした瞬間、ゴロゴロスが口を開いた。
そしてミチオたち4人の前に、二人のカギュウの兵士たちが立ちはだかり、両者の長槍を交差させて柵のようにして足止めした。
「え?」
「第一次探索隊として雇った賞金稼ぎ・20チームは全滅した。かろうじて生き残ったやつらは、今、床に倒れている」
ミチオは足元を見た。大広間の床はおおよそ30人弱の負傷者が野転んでおり、中には手足が切断されているものもいた。
「お前ら賞金稼ぎは勝手に動き回る。軽い任務なら、それでもクリアできるが、ナラカは別だ。だからこちらの指示に従ってもらう」
「指示?」
「第一層はこの中央フロアから無数の通路に枝分かれしている。通路の先には、この場所のような吹き抜けのフロアがあり、そこに人型は潜んでいる」
「……」
「まずは第一層の全フロアを虱潰しに当たり、人型を殲滅、その後、地下2層、地下3層と下に向かい、最下層にいる人型のボスを倒す」
「ナラカは何層まであるんですか?」
「先行隊によると5層まで確認されている」
「5層……」
「それぞれの分岐路には各3部隊ずつ向かわせている。各フロアに潜む人型との闘いは1部隊ずつ。勝てないと判断したらすぐに退却しろ。挑戦権は後続の部隊に移行する。各任務の報酬はこれを読め」
「はい」
「あと、遺書も書いとけ」
カギュウの兵士はミチオたちに片手で持てるタブレット端末を渡した。
電源を起動すると任務ごとの報酬がモニターに表示された。
・ナラカの未到達エリアの報告。銅貨1枚
・石獣の情報(人数、外見的特徴、能力)を持ち帰る。銅貨10枚。
・石獣の討伐。一体につき銀貨1枚。ランクに応じて変動。
・石獣の保護、一体につき銀貨2枚。ランクに応じて変動。
・財宝の回収。相場に応じて変化、最低ランクのもので銀貨1枚。上限はなし。
・石獣との闘いは可能な限り記録すること。
映像で石獣の容姿と数、討伐数を確認できない場合、報酬の支払いに支障が出る恐れあり。
「あのぉ。石獣の保護って?」
ダリアンヌがゴロゴロスに尋ねた。
「石獣を見つけたら殺すな。ただし人型は殺せ」
「あのぉ、さっきから気になってたんですけど。あなたが乗っているその動物……は?」
「ペロちゃんだ。かわいいだろう」
ゴロゴロスの顔が緩んだ。彼は4足歩行の動物に座っていた。二対の長い角が伸びていることから、水牛だろうとミチオは判断した。
しかし皮膚の表面は硬質化しており、無数の突起が生えている。
「それって……」
「ペロちゃんだ!」
「ペロ……ちゃんはそのぉ……石獣ですよね。暴れたりしないんですか?」
ミチオはおそるおそる尋ねる。
「問題ない。ペコちゃんはおとなしくて優しいコだ」
「でも……」
「オレは石獣使いだ」
「石獣使い?」
聞き慣れない単語にミチオは戸惑う。
「聞いたことがあります。確か石獣を三摩耶形のように操る金剛使いがいるって」
ダリアがミチオに説明した。
「オレなら石獣とダチになることができる。あいつら、本当はマジで優しいんだ。お前ら人間が悪意を持って襲うから、仕方なく抵抗してる。それだけなんだ」
「……」
自分も人間なのになぜ石獣の立場からこの人は話しているんだろう? とミチオは不思議に思った。
「とにかく、石獣を見たらオレに知らせろ! 間違っても殺すな! 殺したらぶっ殺すからな!」
「わかりました」
「だが、人型はぶっ殺せ。あいつらは敵だ。交渉の余地はない」
第87話 チーム・ハヤブサ
◆
ミチオたちは、まず、左から三番目の通路へと向かった。
3番通路は2つの部隊が先行していた。
すでに二つのフロアは空っぽで、中の人型は倒されたみたいだ。
慎重に周囲を警戒しながら、ミチオたちは先に進んでいく。
しばらく歩くと通路が枝分かれしており、そこに先行した傭兵たちが待機していた。
「追加部隊か?」
「はい。あなた達は?」
「チーム・ハヤブサだ」
チーム・ハヤブサと名乗る部隊は5人組だった。
男は三人、女は二人。
男二人は鋼鉄の甲冑を纏い、鉄の仮面で顔を覆い、剣を腰にかまえている戦士タイプ。
今話しているハヤブサを模した鉄仮面を被っている男がリーダーだろう。
一方、二人の女は法衣を纏い、手には杖を持っている。
おそらくフリーランスの金剛使い(ヴァジュラシ)。
サチはそう判断した。
「チーム・ダリアです」
ダリアはリーダーと思われるハヤブサの仮面を被った男に挨拶をした。
「先行部隊は右に向かった。15分経って戻らなければ、オレたちも右へ行く」
「……」
「チーム・ギリアム……先行部隊の名前だ。あいつら血の気が多いからな。撤退という考えはないだろう」
「今、何分ですか?」
「残り1分だ」
「もし、戻ってこなかったら」
「すでに敵を殲滅させて先に進んだ。もしくは」
「……全滅」
「お前たちここは初めてか。だったらいいことを教えてやる。敵を見て勝てないと判断したら、すぐに撤退しろ。恥じることはない。自分たちの力を見極めることも大事な能力だ」
「……」
「臆病だと思うだろう。だが、情報収集を過小評価するな。敵の数だけでもわかれば、後続の部隊が闘いやすくなる」
「……」
「それに、自分たちで倒さなくても結構カネになるんだぜ。だから各エリアのマッピングや敵勢力の把握といった情報収集に徹している部隊もいるらしい」
「……」
「言いたいことはわかる。だが、クソみたいなプライドは捨てろ。命あっての賞金稼ぎだ」
「……そうですね。私もそう思います」
ダリアは笑顔で答えた。それが本音なのか愛想笑いなのかわからなかったが、その場を丸く収めたという意味では最適解だと、ミチオは思った。
「……15分たった。次はオレたちが行く」
◆
15分後。チーム・ハヤブサは戻ってこなかった。
「あいつら。情報収集が大事とか言いながら、戻ってこねぇじゃねーか」
サチが激高して、壁を殴る。
「どうしますか?」
ミチオはダリアに尋ねた。
「行きましょう。私たちなら大丈夫です」
チーム・ダリアは、右の分岐路の奥へと進んだ。
第88話 ザコくん。金剛の気配を感じる。
◆
サチたちが道をまっすぐ進むと、部屋の前に到着した。
部屋の入り口には多層化した壁がある。扉というよりは怪物の歯のようで、禍々しい気配が漂っている。
「中から石獣の気配を感じます。おそらく人型だと思います」
「わかるんですか?」
「目をつぶってください」
ミチオは目をつぶった。
暗闇の中で無数の小さな光が点滅している。
そして、その光は扉の向こうから溢れでている。
「金剛の粒子には一つ一つ個別の特徴があって、色や形にあらわれています。じっと観察して見てください」
「そう言われても、あっ」
ミチオは驚いた。これまで彼が見ていた金剛の粒子は金色の光の粉のようなもので、形は砂粒のように見えていた。
色は透明か金色。稀に赤や青といった他の色の金剛も見えたが、それはあくまでレアケースである。
それが今は同じ金色でも微妙なグラデーションがあり、赤、青、そして黒い粒子もはっきり見える。
そして光の粒もじーっとみると、金平糖のようなトゲトゲの形もあれば、四角、三角とバラバラだ。
「ナラカの金剛は濃度が高い……というより、このナラカ自体が巨大な金剛みたいなものだと言われています」
「だから、外より金剛の粒子が、はっきりと見えるんですね」
「それだけじゃない」
「キュウタ、どういうこと?」
「金剛を使えばわかる」
「ミチオさん。入り口から漏れてくる金剛の種類はわかりますか」
ミチオは目をつぶって光に意識を集中した。
微妙に色が違う黄色い光の粒が流れてくるのがわかる。数は1体2体……。
「8体ですね」
「私もそう判断しました。でも、他にも敵が潜んでいるかもしれません」
「どういうことですか」
「チーム・ハヤブサさんが戻ってこない理由。なぜだと思いますか?」
「賞金稼ぎとして功を焦ったんだろ」
「サチ、本当にそう思う?」
「どういうことですか? 姫様」
「私はあの人が言ってたことは本音だったと思います。戻ってこなかったのは、勝機があると判断したのか、それとも」
「撤退する前にやられた」
キュウタがボソっとつぶやいた。
「……そんなに敵は強いってこと……ですか?」
ミチオの心に不安がよぎる。
「金剛の気配から察するに、一匹一匹の強さはそれほどではありません。私が倒すのは無理ですが、一対一ならザコさんでも倒せます。それにここはまだ第一層です。先行したチームは2つのエリアを突破している。人型を倒す力量はあったと考えるのが普通です」
「気配を消している石獣がめちゃくちゃ強いという可能性はどうですか?」
ミチオがダリアンヌに尋ねた。
「ゼロではありませんが、こういう迷宮は奥に潜んでいる敵ほど強くなっていくというのが常識です。第一階層でそこまで強い石獣が出るとは思えません。だとすれば……」
「数が多い?」
「先行した2チームはおそらく、私たちと同じようにここから敵の数を判断しいて8体ならイケると判断したのだと思います」
「でも、数はもっと多くて一気に襲われた……ってことですか?」
「あくまで仮説ですが……」
「……先行した2チームの人たちが生きてる可能性はありますか?」
「もう殺されてるだろうな。まぁ、死んでる方がマシだが」
サチはダリアの顔を見た。
「どうします?」
「行くぞ」
ダリアの問いかけにキュウタは即答した。
「恐いなら待ってろ。オレ一人でやる」
「駄目です。キュウタさん」
「そうだよ。また暴走したらどうするんだよ」
「それでケリがつく。オレが消滅した後、お前らは入れ」
「キュウタ! なんでそんなこと言うんだよ」
先日のことを思い出して、思わずミチオは声を荒げてしまう。
「あぁー。めんどくさい。ガキの喧嘩ならよそでやってくれ」
サチが割って入る。
「私が先行する。本当は姫様の盾に徹するつもりだったが、全滅したら意味がないからな」
「一人で行くんですか?」
「そこまでバカじゃない。まず私が囮になる。と言っても死ぬつもりはない。姫様の三摩耶形で武装した私がフロアに入る。敵の数はわからないが、おそらく私目がけて突撃してくるだろう。私は防御に徹して敵をおびき出し、後からお前たち二人が続き、最後に姫様の三摩耶形で殲滅する」
「わかった。お前が入って30秒経ったら後に続く」
キュウタがうなずいた。
「ザコくんは姫様の護衛を頼む。もしも姫様になにかあったら承知しないからな」
「わかりました。キュウタの後、30秒経ったらボクたちも入ります」
ミチオがうなずく。
ミチオはゴロゴロスから渡されたタブレット端末に電源を入れ、カメラを起動させ録画モードにする。
タブレット端末には紐がついており、首にかけると丁度胸のあたりに来る。
「これを使え」
サチはミチオに何かを投げて渡した。
「そのままだと映像がブレブレだろ」
骨折した時に身体を固定するテーピング用のテープだ。
ミチオはテープでタブレットを胸の位置に固定する。
「〈半邪鬼〉お前もだ」
ミチオはキュウタにテープを投げて渡した。
「動きづらい」
「我慢しろ」
キュウタも胸の位置でタブレットを固定する。
そしてキュウタはテープをサチに渡し、サチとダリアもタブレットも胸の位置で固定した。
その後、ダリアンヌは目をつぶり、意識を集中した。
「三摩耶形が発動すれば中のやつらも私たちに警戒する。一気に行くぞ」
「三摩耶形顕現・金剛闘衣〈手力雄〉」
ダリアンヌがそう唱えると、サチの身体は金色の装甲に覆われた。
「行くぞぉ!」
第89話 チーム・ダリア。餓鬼と遭遇する。
◆
〈手力雄〉を纏ったサチがフロアに入ると、すぐに無数の視線を感じた。
中にいたのは8体の人型石獣。
体型は小学校低学年の子供ぐらいで身長は130㎝ほど。
頭部は肌がむき出しで申し訳程度に髪が生えている。
顔も手足もやせ細り骨格が浮き出ている。
しかし腹部は大きく膨れ上がっている。
そして全身には石獣の特徴である亀裂が走っており、皮膚の表面に突起のようなものが生えている。
「まるで餓鬼だな」
仏教で語られる貪欲な小鬼を思わせる人型石獣は、何か棒のようなものを手に持ち、ガリガリとかじっている。
それが人間の腕だと、サチはすぐに察知した。
「貴様ァ!」
自分たちに向けられた強い怒りに反応した餓鬼が、サチに飛びかかった。
やせ細った身体は脆弱でサチの張り手であっさりと吹き飛び、壁にぶつかると粉々に砕け散った。
なんだ大したことないな。
サチはさっきまでの作戦会議は無駄だったなと思い、残りの7体を片付けようと足を動かそうとした。
しかし足は動かない。
どういうことだ?
サチの足には無数の餓鬼がしがみついていた。
「しまった!」
その瞬間。キキィキーという不気味な泣き声が天井から聞こえるのを感じた。
「マジか?」
天井にも無数の餓鬼が張り付いていた。
彼らはフロアの壁と同化し仮眠状態にあった。
だが、サチのまとう金剛闘衣の気配に触れたことで目を醒まし、壁から離れ、サチ目がけて飛びかかった。
天井と地面、そして壁に張り付いている餓鬼が一気にサチへと飛びかかる。
前言撤回。
姫様は間違っていなかった。
作戦会議は大事だ。
自分の浅はかさをサチは恥じつつも、すぐに意識を切り替え、両手で顔を覆うと身体を丸め、防御に徹した。
◆
30秒後、キュウタがフロアに入った。
サチの身体は無数の餓鬼が飛びかかり、巨大な球体の塊となっていた。
「死んだか?」
「馬鹿野郎! 私は生きてる!」
サチの声を聞いたキュウタはフロア全体に意識を集中した。
どうやらサチの身体に張り付いている無数の人型石獣と、背後に構える7匹の人型が、このフロアの敵だとキュウタは判断した。
「私に張り付いている餓鬼どもは姫様が一掃する。お前は他のやつを潰せ」
「わかった」
キュウタは左半身に金剛を集め〈半邪鬼〉の力を開放する。
そして、右手に使い捨ての短刀・〈牙剣〉を錬成し、7匹の餓鬼に挑んだ。
いつもなら、左半分を覆う黒い兜と左手を覆う黒い篭手が生まれ、一気に殲滅しただろう。
だが、キュウタはいつもと違う気配を感じ、力を開放するのを抑制した。
その結果〈半邪鬼〉は発現せず、餓鬼たちと同じように左半身に無数の亀裂が現れるだけだった。
「ちっ」
キュウタは舌打ちをすると、右手の〈牙剣〉を餓鬼に振りかざした。
◆
それから30秒後、ミチオはダリアンヌの前に立ちながら恐る恐るフロアに入った。
ダリアンヌはサチを覆う巨大な餓鬼の塊を見るやいなや「三摩耶形顕現・霊獣〈大黒白鼠〉」と叫んだ。
部屋中の金剛が集結し、無数の白鼠が現れた。
そして、サチの身体を覆う餓鬼たちに噛み付いた。
餓鬼たちはおぞましい声を上げながら一体、また一体と食い殺されていく。
餓鬼を白鼠が食い殺していく様子は圧巻で、幼い子どもがこんな力を出せるのかと、ミチオは三摩耶形の恐ろしさを改めて実感した。
「油断するな! 来るぞ」
白鼠を生み出しているのがダリアンヌだと気づいた餓鬼たちは、標的をダリアンヌに変えて襲いかかってくる。
「わかってますよ」
ミチオは左手に持った小型タブレットで撮影しながら、右手には、すでに錬成していた〈鈍刀〉を持ち、飛びかかってくる餓鬼を一撃の元に粉砕した。
あっけなく餓鬼は砕け散り、塵芥へと変わっていく。
どういうことだ?
〈鈍刀〉がいつもより硬いことにミチオは気づいていた。
それに身体がやけに軽い。
次々と襲いかかってくる餓鬼を次々とミチオは斬りつけ倒していく。数は膨大だったが、それ異常にミチオの体術。そして鈍刀の硬度が餓鬼たちを上まっていた。
「いいぞ、身体が軽くなってきた」
しがみついていた餓鬼の数が減ったことで、サチは身体を動かせるようになった。しがみついている餓鬼を強引に引き剥がし、得意の張り手で吹き飛ばしていく。
「三摩耶形顕現・月輪〈夜刀角蛇〉」
刀のような鋭い角の生えた蛇をダリアが顕現させる。
尻尾を加えた〈夜方角蛇〉は身体を円状にして回転しながら餓鬼たちに飛びかかっていく。
餓鬼たちの胴体はズタズタに切り裂かれていき、やがてフロアにいる餓鬼はすべて消滅した。
第90話 金剛が濃すぎる。
◆◆◆◆
「やりましたね」
ダリアがサチとハイタッチをしながら喜んでいる。
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶダリアをサチは優しい表情で見ている。
作戦は成功し、フロアの餓鬼は全滅した。
しかし、キュウタは一人浮かない顔をしていた。
「どうしたのキュウタ?」
「……」
ミチオたち3人がサチの身体に取り付いた無数の餓鬼と交戦していた頃、キュウタは7匹の餓鬼と戦っていた。
闘いはキュウタの勝利に終わった。
だが、キュウタの力があればすぐに片付けて、ミチオたちの闘いに参戦できたはずだった。
しかしキュウタの闘いは難航し、逆にミチオたちが参戦することとなった。
「お前、〈半邪鬼〉を発動しなかったな。なぜだ?」
サチがキュウタに話しかける。
「できなかった」
「どういうことだ?」
「金剛が濃すぎる。いつもどおり発動してたら、一気に侵食されていた」
「そっか。だからボクの〈鈍刀〉も、あんなに切れ味がよかったのか」
「私の三摩耶形もいつもより強力でした。少し怖いくらい」
「ザコくんと姫様にとってはプラスだったみたいだが、〈半邪鬼〉は使えないのか?」
「わからない」
「わからないってお前……」
「しばらくは〈牙剣〉だけで闘う」
そう言うとキュウタは目をつぶり、手を合わせた。
「何やってるんだ?」
「キュウタ。敵を倒すと金剛化した敵を吸い込み、手を合わせるんです」
「死体を食うってことか? 〈内在〉の考えることはわからん」
サチがあっけに取られていると、ミチオも手を合わて息を吸った。
粒子化した無数の餓鬼の体だったものが金剛となってミチオの体に入ってくる。
「サッちゃん。私たちも」
「私たちは食わないからな。ちっ、何でこんなやつらに」
サチはダリアに言われて、嫌々ながらも目を瞑ると手を合わせ、餓鬼たちが成仏するよう祈った。
第91話 ダリア。ゴロゴロスと秘密の取引をする。
◆◆◆◆
フロアを制圧させたミチオたちは一度、中央フロアに戻り、ゴロゴロスに報告した。
「なんかブレブレだな」
「すいません。それどころじゃなくて」
戦ってる最中に、丁寧に撮影する余裕なんてないとミチオは言いたくなったが、怒られそうなので我慢した。
「そうか。……で、これ何体だ?」
「ちゃんと数えてないですけど。たくさんいたと思います」
ミチオが撮影した記録動画を見せたところ、ゴロゴロスは驚いていた。
「……とりあえず銀貨8枚だな」
「おい、最低でも一匹、銅貨1枚じゃなかったのかよ?」
「サッちゃん!」
声を荒げるサチをダリアが咎める。
「あれは……えーと。チクショウ! ー何で数でカウントしちまったんだ。これじゃあ破産しちまう」
「だから何体だ? 50体はいたぞ!」
「あのぉ。とりあえず8枚でいいです」
「姫様!」
立場を忘れて、ゴロゴロスを怒鳴りつけるサチの間に入り、ダリアが譲歩した発言をする。
「そうかそうか。すまないな。助かる」
「ただ、一つお願いがありまして」
「何だと?」
「私たち。ナラカであるものを探しているのですが、それを見つけた際に報酬としていただくことはできないでしょうか?」
「何だそれは? お宝か?」
「とりあえず最下層にあると思いますので、見つけたらその時に報告します」
ダリアは金剛玻璃のことは伏せた。
「うーん。そのお宝が、お前らが倒した人型と釣り合う価値があるようだったらお前にやる。だが、そのお宝に、それ以上の価値があったら渡すことはできん」
「じゃあ、私たちがもっと人型石獣を倒したらどうですか?」
そう言うとダリアはごろごろ素を見て、満面の笑みを向けた。
「なるほど、換金する代わりにお宝を買い取るってわけか。悪くない取引だ」
「ありがとうございます」
あんなキラキラした笑みを向けられたら、断れないよなぁとミチオは思った。
◆
「あと、これはチーム・チーム・ハヤブサさんとチーム・ギリアムさんの遺品です」
ダリアが神妙な顔でそう言った後、サチが3つの鉄兜と4本の鉄の剣、そして両チームに支給されたタブレット端末を、ゴロゴロスに見せた。
「すみません。フロアで確認できたのはこれだけでした。後はおそらく……」
「食われたか。気にするな。やつらも賞金稼ぎだ。覚悟はしていただろう。遺書を確認し、遺族の元に返しておく。その際に、討伐で得た報酬も渡す」
ゴロゴロスは声のトーンを抑えて淡々と話した。
その口調はとても事務的だったが、重々しいものをミチオは感じた。
「ありがとうございます」
ダリアがそう言うと4人は頭を下げた。
「そういや、お前たちは遺書を提出してないみたいだが、いいのか?」
「姫様は私が守る。そんなものはいらん」
「そういうことです」
「必要ない」
「ボクはえーと」
ミチオはゴドウ村の母親のことが頭に浮かんだが「必要ないです」と答えた。
第92話 サチの疑念。
◆
その後、ミチオたちは先程の左通路に向かい、今度は右の路地を曲がった。左通路の奥にあったフロアは行き止まりだったからだ。
しばらく歩くと再びフロアがあった。どうやらまだ誰も挑んでいないようだった。
「ミチオ、金剛の気配わかるか?」
キュウタにそう問われたミチオは目をつぶった。
多重のヒダのようになっている天然の扉の奥から、金剛の粒子が漂ってくるのがわ
かる。粒子は黄色と緑と紫で、それぞれひし形、金平糖、丸。
「はっきりと種類の違う粒子が3パターン。おそらく石獣は3体」
「オレもそう感じた」
「わたしも同じ判断です」
「さっきのフロアみたいに、他の敵が気配を消して隠れている可能性は?」
「ゼロではないとおもいます。ただ……」
「色と形状がここまで違う粒子を漂わせているということは、3体の種族はバラバラ」
「こういうタイプはあまり徒党を組まないんですよ。強い個性をもった人型石獣が3体……だと私は判断します」
ダリアは冷静に現状を分析した後、話を続けた。
「どうします。またサッちゃんが先行して一分後にキシモリさん、それから一分後にザコさんが私を護衛しながら私が突入して三摩耶形で全滅させますか?」
「いや、その作戦はもうやめましょう」
「え? どういうこと、サッちゃん?」
「私の目的は姫様を守ることです。私が先行するのはどう考えてもおかしい」
「でも……さっきは上手く行ったのに」
「ザコくん。もしも後続隊が姫様の命を狙ったらどうしてた?」
「そんなことあるわけ……」
「なぜそう言い切れる」
サチは険しい表情でミチオを睨んだ。
「前に話したようにナラカでは何でもありだ。賞金稼ぎの中にド変態の快楽殺人鬼が潜んでいてもおかしくない」
「サッちゃん。それはいくらなんでも飛躍しすぎでは?」
「先程、ゴロゴロスは遺品を回収しました。なぜ、彼は私達のことを疑わなかった?」
「え?」
「私たちが報酬のために、チーム・ギリアムとチーム・ハヤブサを殺した。そういう可能性を一切疑わなかった」
「そんなの?」
「当たり前だと言いきれるか?」
「……」
「確かにそういう考えもありだと思います。性善説。実に結構だ。だが、私は逆だと考えている」
「どういうことですか?」
「彼らにとって先行チームが石獣に殺されたとしても、私たちに殺されたとしても、どちらでもいいということだ。大事なのは石獣を倒したという結果のみ」
「つまりその……ボクたちがフロアに入り、石獣を殺した後、後続のチームがやってきて私たちを倒した後、私達の手柄を横取りしたとしても」
「どっちでもいいんだ。あいつらにとって。もしかしたら他のルートではチーム同士の内紛が起きているのかもしれない」
「サッちゃん。いくらなんでもそれは考えすぎじゃ」
「そうですよ。だから動画撮影をしろと」
「可能な限りな。逆に石獣の遺体さえ撮っておけば、いくらでもごまかしがきく」
「それは」
ミチオは言葉に詰まる。
「あくまで仮説です。ですが、姫様の仮説は当たりました」
「……」
「正直に告白すると、私は姫様の判断は考えすぎだと思っていました。そんな回りくどいことしなくても、全員で入って一気に殲滅すればいいと思っていました。ですが、部屋には気配を消した無数の餓鬼が潜んでいた」
「……」
「姫様の考えすぎとも言える判断のおかげで私たちは勝つことができた。だから私も考えすぎます」
「……サチさんの考えはわかりました。それでボクたちはどうすれば?」
「私は姫様の護衛に徹して前後を見張る。お前たち二人は先行してフロアに入れ。1分経っ動きがなければ私たちも続く」
「わかりました。撮影はよろしくお願いします」
「ミチオ。お前はフロアに入ったら右に行け。オレは左に行く。それで一網打尽は避けられる」
「うん」
ミチオとキュウタは頷くとフロアの中に入った。
掲載は不定期です。




