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最強のザコ(なろう版)  作者: 或亜豊
第五章 サチとダリア
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18/31

第一部 金剛編 第五章 サチとダリア 第78~85話

『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。


カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856




小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。


また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。


ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。

 第78話 キュウタ。金剛中毒になる。

 

 ◆◆◆◆


金剛中毒(アディクト)が始まっているのですね」


「〈内在〉あるあるだな。体内の金剛(ヴァジュラ)がより強い力を発動させようと脳内にある快楽物質・ドーパミンを分泌し始めたのさ。通称・金剛中毒ヴァジュラ・アディクト。まったくこれだから〈内在〉は」


 呆れたようにサチが話す。


「侵食率が高まるほど、快楽物質が分泌され中毒性が高まる。〈内在〉が邪法となっているのは、金剛中毒(アディクト)に抗うことができないからだ」


「……」


「姫さま。どうします。このままだとアイツ戦闘を解除しませんよ」


「困りましたね」


「キキュウタタ、おおちち着いてて。ここれ以上続けてもも意味はなない」


「黙れ黙れ黙れ! オレはこんなところで負けるわけにはいかないんだ! ここで折れたら……オレは……一生!」


 金剛中毒(ヴァジュラ・ホリック)でタガが緩んだのか、普段、無口なキュウタが饒舌に喋っている。


「父さん、母さん、姉ちゃん……畜生……絶対に……許さ」


 キュウタの声が次第に小さくなってきている。


「ヤバいぞ。意識が金剛(ヴァジュラ)に食われつつある」


 サチの表情が険しくなる。


「ダダリアささん。ボボククたちの負けです。だっ……だから金剛(ヴァジュラ)を解いてください!」


 思いっきり声を出したタイミングでミチオの痺れが吹き飛んだ。


「バカやろう。そんなことをしたら、アイツが暴走して私たちを皆殺しにするぞ!」


「だったらどうすれば!」


「ザコさん。実は私。キュウタさんの力を抑えるのに精一杯なんです。今、彼の力はぐんぐん強まっている。あと一分もしたら〈大黒白鼠(ダイコクシロネズミ)〉はみんな弾き飛ばされます」 


「そんなぁ!」


「実力差がわかれば、負けを認めると思った私が甘かったです」


「姫さま。私が行きます。鼠共が弾かれた瞬間、私が飛び込み、締めて気絶させます」


「わかりました。意識を失ったタイミングで私がアレをやります。そしたら金剛(ヴァジュラ)の暴走は静まる。でも大丈夫?」


「……私の命に変えても」


「……サチさんは動きを止めることに専念してください。ボクに考えがあります」


 しびれが切れたミチオが二人の会話に割って入る。


「バカ、お前に何ができるっていうんだ?」


「それは言えません。ただ、キュウタを気絶させることはできます……多分」


「ちっ。こうなりゃヤケだ。お前を信じてやる!」


 45秒後。キュウタの身体を蝕む金剛(ヴァジュラ)の侵食率が48%を超える。


大黒白鼠(ダイコクシロネズミ)〉たちは身体から振り落とされた。


 意識を失ったキュウタは、声と言うにはあまりに耳障りの悪いノイジーな声で吠える。


 そのタイミングで、ギリギリまで距離を詰めていたサチが飛びかかり、キュウタを羽交い締めにした。


 そして両腕で強く抱きしめる大相撲で言うところの「サバ折り」の形に持っていった。普通の人間なら背骨が折れて即死する強圧だったが、キュウタは全くひるまず、サチの肩に噛み付く。


 皮膚を覆う闘衣を砕き、キュウタの歯がサチの型を深くえぐる。


 やはりダメか。ここで腕の力が抜けたら、なぶり殺しにされる。


 くそ。これが〈半邪鬼(ハンジャキ)〉の本当の力か。読みは甘かった。


 だが、せめて姫さまだけでも避難させないと。


 自らの死を覚悟したサチは両手だけでなく両足でカニバサミをして、キュウタに絡みつく。


 姫さま。逃げてください! 


 そうサチは叫ぼうとした。


 しかしキュウタの力は突然弱まった。


「……何が起きた?」


 サチの視界にミチオの姿が飛び込んでくる。


 ……小僧、お前が何かやったのか?


「ダリアさん。今です!」


 ミチオがダリアに向かって叫ぶ。


三摩耶形顕現(サマヤ・アヴァターラ)梵戈(ボンカ)天魔反(アマノマガエシ)〉」


 金剛(ヴァジュラ)で矛を顕現させたダリアは、ミチオ目がけて投げつける。


 サチの身体諸共、矛がキュウタの身体を串刺しにする。

 

 サチが纏っている〈手力雄(タヂカラオ)〉と〈雄猛厳雷(タケミカズチ)〉は矛に金剛ヴァジュラを吸い取られ消えていく。


 そしてミチオの身体を覆う黒い甲冑も同じように吸い取られ、やがて雲散霧消していった。





 第79話 強さゆえの弱さ、弱さゆえの強さ。


 ◆◆◆◆


「〈天魔反(アマノマガエシ)〉は金剛(ヴァジュラ)を吸収する三摩耶形(サマヤ)なんです。だから人体には影響ありません」


「そうだったんですね。サチさんの身体ごと貫いた時はどうなるかと思いました」


「元々、金剛(ヴァジュラ)を効率よく集めるための増幅器として使われていたのですが、金剛使い(ヴァジュラシ)が集めた金剛(ヴァジュラ)を吸収して奪うことで、一時的に金剛(ヴァジュラ)の使用を封じることもできます。まぁ、そんな使い方は滅多にやらないのですが、もしかしたら金剛中毒(アディクト)で暴走状態になった人の治療に使えるんじゃないかと思って、試してみました」


「ありがとうございます」


「それより、キシモリさまの意識が突然途切れたのですが、あれはザコさんの力ですよね」


「そうだ。私の力すら跳ね除け、暴走する〈半邪鬼(ハンジャキ)〉をよく止められたな。お前、そんな力持ってたのか? だったらなぜ、私との戦いで使わなかった?」


「それは……」


 ミチオは言葉に詰まる。


 咄嗟のこととはいえ〈零弾(ゼロダン)〉を使ったことを後悔した。


 しかし、それしか選択肢はなかった。


「答えられないなら答えなくていいですよ。手の内を知られることは命に関わることですから」


「すみません」


 ミチオは安堵した。


「まぁ、姫様には無縁の話だがな」


「そうですね。あんな数の三摩耶形(サマヤ)を同時展開できる金剛使い(ヴァジュラシ)なんて他にいないと思います。驚きました」


 話を逸らしたかったこともあり、ミチオはダリアを絶賛した。


「でも、私。戦闘はてんでダメなんです。だから一人で戦うと、三摩耶形(サマヤ)を出す前に負けてしまうんです」


「だから姫さまには私がついていないとダメなんだ」


「でも、二人なら無敵ですね。実際、僕たちも敵わなかったわけだし」


「いや、あれは私たちの負けだ。〈半邪鬼(ハンジャキ)〉の力を見誤った。それにお前が助太刀しなかったら姫さまの〈天魔反(アマノマガエシ)〉もかわされていた」


「だったら、3人の勝利ですね」


 ダリアがそう言うと3人は同時に笑った。


 そして、笑い声を聞いたキュウタが目を醒ました。


「大丈夫? キュウタ」


「……暴走したのか?」


「うん。3人で止めた」


「……殺せと言っただろ」


 キュウタは後ろめたい気持ちがあったのか、ミチオから目をそらしてそうつぶやいた。


「ごめん。でも、キュウタを殺して一番困るのはボクだから」


「……」


「まだ試用期間中だしね。それにボクにはキュウタに教えてもらいたいことがたくさんある」


「……そうか」


「今回の交流試合は学ぶことが多かったと思うよ。ボクたち……あえてボクたちって言うけど、ボクたちの戦い方は幅が狭すぎると思った」


「……」


「キュウタは強いから気づけなかったと思うけど、どんなに強くても戦い形がワンパターンだといつか手詰まりになる」


「……オレは強くない」


「え?」


「〈内在〉は暴走する。これは致命的な弱点だ。だから短期決戦を狙うしかなかった。……この力は強いけど弱い。いや、強すぎるゆえに弱い」


「うん……」


「お前とは逆だな」


「え? どういうこと」


「お前は弱い。だからこそ強い」


「ごめん。よくわかんない」


「私はキシモリさまの言うことわかりますよ」


「私もだ。ミチオ。お前は強い。ザコはザコでも〈最強のザコ〉だ」


「……なんか、あんまりうれしくないな」


 予想外の角度から3人に褒められてミチオは困惑する。


「とは言え。とりあえず勝ったのは私達ということで問題はないな」


「……あぁ。認める」


「だったら私達の願い、聞いてもらうぞ」





 第80話 金剛玻璃。

 

「3日前、「野良犬」にカギュウ家から新たな依頼が届いたのは知っているか?」


「ナラカ探索か?」


「そうだ。これまでにない大規模探索だ。どうやら最深部にヤバい奴がいるらしい」


「あのぉ、ナラカって?」


 キュウタとサチの会話に、ミチオは恐る恐る割って入り尋ねた。


「なんだナラカも知らないのか?」


「すいません。ボク新人なんで」


「ナラカは金剛(ヴァジュラ)によって作られた天然の迷宮で、石獣の巣になっている」


石獣(ヒビワレ)にとっては居心地がいいんでしょうね。ナラカを放置すると、石獣(ヒビワレ)が大量発生して、その影響で滅んだ国もたくさんあるんです。だから時々、討伐隊を組んで石獣(ヒビワレ)を駆除するんですけど……」


「けど……?」


「ナラカは金剛玻璃ヴァジュラ・スパティカの採掘場でもあるんだ」


玻璃(スパティカ)って?」


「ナラカは金剛(ヴァジュラ)の濃度が濃い。それも地下に降りれば降りる程、濃度が濃くなる。だから最深部には純度の高い金剛(ヴァジュラ)の結晶石……玻璃(スパティカ)がある」


「はぁ……」


「そんなものに何の価値があるんだ? って顔してるな」


「はい。金剛(ヴァジュラ)ってそこらへんに漂ってるじゃないですか。それとどう違うのかがわからなくて」


「見てください」


 そう言うとダリアは人差し指を差し出して金剛(ヴァジュラ)を集める。


 大気中に散らばる粒子状の金剛(ヴァジュラ)の欠片が集まり、6面体の塊に姿を変えた。


「これが金剛(ヴァジュラ)。普段は姿が見えないくらい小さな形状となって大気中を漂っています。その存在を知覚できるのは私たち金剛使い(ヴァジュラシ)だけ。私たちが念じれば一箇所に集まり、念じた者の望む形に姿を変える。まぁ、硬度とイメージの再現度は使い手の力量次第ですけど」


「はい」


「普段はバラバラに分解されていて、念じると実体化する。これが金剛(ヴァジュラ)の素晴らしさです。でも念じ続けないと」


 そういうとダリアが錬成した六面体の塊が砕け散った。


「このようにバラバラになって大気中に散ってしまう。とても不安定な鉱物です」


「だが、玻璃(スパティカ)は雲散霧消しない」


「え?」


「だから〈()〉の間では、とても神聖視されてます。玻璃(スパティカ)で作られた武器を家宝にしている一族も多いんです」


「まぁ、所詮は象徴だがな。私は玻璃(スパティカ)に武器としての実用性があるとは、とても思えない」


「それで、お前らは何がしたいんだ?」


 サチとダリアの説明に、キュウタが口を挟む。


「私たちの目的は、ワシュルカ家に玻璃(スパティカ)を持ち帰ることです」


「姫さまはワシュルカ1の金剛使い(ヴァジュラシ)だが、戦闘能力がないため、須弥山(シュミセン)学院の入学許可を得られないんだ」


「須弥山って帝都の?」


「はい。〈()〉を育成する学院です。私、〈()〉になりたかったのですが、お父さまに反対されて……」

 

「それで入学の条件として玻璃(スパティカ)を持ち帰れと命じられたんだ。いくらなんでも姫さま一人では無理だと直訴して、私も同行させてもらったんだが、無理難題だ」


「お父さまは私に帝都に行ってほしくないんですよ。心配してくださるのはありがたいのですけど……」


「それで二人で玻璃(スパティカ)の手がかりを探して旅をしていたのだが、旅先でナラカの最深部に発生するという噂を聞いたんだ。だから、ナラカがありそうな場所を手当たり次第、回ってたんだが、そんな時、カギュウ家がナラク遠征隊を募集しているのを知って」


「お願いします。私たちといっしょにナラク遠征に参加していただけませんか?」


「ナラクは何が起こるかわからない金剛(ヴァジュラ)の迷宮。おそらく地上では見たことのない凶悪な石獣(ヒビワレ)の巣窟だ。できるだけ便りになる味方がほしい」


「探索隊の人数は?」


「上限10パーティ。1パーティあたり3~5人ってところですから50人くらいでしょうか?」


「それだけ人数がいるのなら、別に僕らが行かなくても……」


「何だミチオ。断るのか?」


 サチが笑いながら尋ねる。


「いや、そういうわけじゃないですけど……」


「多すぎるな」


「えっ?」


「どういうことキュウタ?」


「人数が多すぎる。逆に危険だ。弱い奴が金剛病(ヴァジュラ・ホリック)に感染して石獣(ヒビワレ)化する」


「それに参加する賞金稼ぎが全員まともだとは思えない」


「どういうこと?」


「わかります。ナラカとは旧世界の言葉で「地獄」という意味。つまり、無法地帯なんです」


「探索隊に紛れ込んで仲間を殺したなんて話はザラにあるし、そのままナラカに住み着いた猛者もいるという噂だ」


「だから、一人でも信用できて強い金剛使い(ヴァジュラシ)を味方にしたいんです」


「まぁ、私たちも討伐にかこつけて玻璃(スパティカ)を採掘しようとしてるから、似たようなものだけどな」


 ダリアとサチの話を聞いて、自分のナラカに対する認識が甘かったとミチオは思った。


「今回の探索隊、何が目的なんですかね?」


「公式には石獣(ヒビワレ)駆除だと発表されているけど、何か別の目的があるのかもしれません」


「まぁ、カギュウ家の都合なんてどうでもいい。私たちの目的は玻璃(スパティカ)だけだ」


「もちろん雇用契約を結ぶので、可能な限り依頼には答えるつもりですが……」


「キュウタ、どうする?」


「契約する。どうやら目的はオレと同じようだ」


 そう言うとキュウタは壁の張り紙に目を向けた。





 第81話 チーム・ダリア結成

 

 ◆


「オレが追ってる人型石獣(ヒトガタ・ヒビワレ)、覚えてるか?」


「確か二人組の……」


「シモンズ。二体だから複数形でシモンズだ。渦巻状の仮面を被っているような顔だったろう。その形状が指の指紋シモンに似ているから、そう呼ばれている」


「なんか安直だなぁ」


「特徴から命名された仮称だ。……オレはシモンズを追っていた。「野良犬」に通っていたのも、シモンズの出没場所が知りたかったからだが、どうやらナラカ周辺で確認されたようだ」


「それって」


「ナラカはあいつらの巣かもしれない。オレはシモン討伐。あんた達は玻璃(スパティカ)の採掘。そのためにパーティを組む。どうだ?」


「ありがとうございます」


 ◆◆◆◆


 ミチオたち4人はパーティーを組んだ。

 リーダーはダリアだったため、チーム・ダリアと名乗った。


 4人は「野良犬」で、ナラカ探索隊にエントリーした。翌日、ダリアたちはカギュウ家に呼ばれた。


「君たちのことは「野良犬」から聞かされている。どうやら腕利きの賞金稼ぎのようだね」


 面談はカギュウ家の当主、カギュウ・ヨシカゼが直接応対した。


「思ったよりメンバーは若いんだね。お嬢さんは、確か……?」 


「ワシュルカ家の第5王女・ダリアンヌです」


「君が噂の才女か。噂はこのカギュウ国にも伝わっているよ」


「滅相もありません」


「それじゃあ、3人は君の従者かね?」


「いえ、従者はサチだけです。お二人は私とパーティを組んでいるキシモリ・キュウタさんとザコさんです」


「君たちは確かゲ賊を退治した……その節は世話になったな」


「ありがとうございます」


 ミチオとキュウタは頭を下げた。


「経歴は見せてもらった。ザコくんの戦歴が少ないのは少々気になるが、あのゲ賊を倒したのなら問題ないだろう。探索隊のリーダーはカギュウ家の6男・ゴロゴロスが務めている。明日になったら現地に向かってくれ。時間は何時でも構わない」


「あのぉ。探索の目的は?」


 ダリアがヨシカゼに尋ねた。


「ナラカを根城とする石獣(ヒビワレ)の駆除だ。殲滅が理想だが、そう簡単にはいかないだろう。だから討伐した石獣(ヒビワレ)のランクに応じて報酬を出す。最低で銅貨1枚。最高で金貨10枚出す」


「それは金貨10枚を払う価値のある石獣(ヒビワレ)が潜んでいるということですか?」


 ダリアは優しい口調で聞き返した。


「最下層まで行けばわかることだ。検討を祈るよ」




 第82話 ザコくん。夜の街でサチと出会う。


 探索隊に参加する前日の夜。


 ミチオは眠れずに夜の街を歩いていた。


 夜になると歓楽街はにぎやかになり、大人しか入れない飲み屋や女性が接待するバーもたくさん開く。


どれもゴドウ国にはなかったお店ばかりだ。


「ボク~、お店よってかない?」


「初めてなら安くしとくわよん」


 ひらひらとした露出の激しい衣装を着た化粧の濃い女が次々と話しかけてくる。


 どの女性も自分より年上の大人のお姉さんだとミチオは思った。


 常に命の危険に晒されている賞金稼ぎは、自らを鼓舞するため、ミッション前日に大人の店で散財するという噂話を耳にしたミチオは、カギュウ国一の歓楽街「トロキュル・ストリート」、通称トロストに足を踏み出した。


 だが、大人のお姉さんたちを前に萎縮した。

 

 ベテルギウスといっしょの時は堂々と入れたが一人となるとやはり自信が持てず、どの店にも入ることができずに通りを抜けてしまった。


「よぉ、ザコくんじゃないか」


 聞き慣れた通りのいい声が背中越しで響く。

 オノウエ・サチだ。


「どうした、こんなところで。女遊びか?」


「そのつもりでしたが……」


「その顔は怖気づいて入れなかったって感じだな」


「そんなことは……あります」


「まぁ、今日が人生最後の休暇かもしれないからな。自分へのご褒美は奮発しても構わないと思うぞ」


「そうですよね。でも……ボクはやっぱり」


「やっぱり?」


「好きじゃないんです。女の人とそういうことをするのはどうも」


「なんだ煮え切らない奴だな。そういや〈半邪鬼(ハンジャキ)〉はどうした?」


「キュウタは部屋で寝てます。誘ったんですけど「意味ない」って言われました」


「まぁ、あいつはほっといても女がよって来るタイプだからな」


「そうなんですか?」


「女はああいうクールでシュッとした奴が好きだからな。姫さまもアイツのことが気になっているようだ」


「え?」


「まぁ、あくまで私の想像だがな。ああいう育ちのいいお姫様は自分にはないものを持ったクールでどこか影のある男に惹かれるものなんだ。これ、姫様には内緒だぞ」


「……はい」


「まぁ、私はどちらかというとお前の方が好みだがな」


「ちょっオノウエさん。なっ、なにを」


「ははは。顔が真っ赤だぞ。どうだ、そこの路地裏で一発スモウでもとるか?」


「スモウって……」


「実はワシュルカにいる時はモテモテだったんだ。若い頃は私も暴れん坊でな。手当たり次第、スモウを挑んでた」


「スモウってそのぉ~」


「今はほら、姫様をお守りしないといけないから、素性のわからない男とのスモウは辞めてるんだ。変な病気をもらうと冒険に支障が出るしな。だから、お前みたいな童貞とだけ、スモウをとることに決めている」


「ボクはそのぉ」


「ハッハッハ! 隠さなくていいぞ。男は誰でも最初は童貞だ!」


「……ちょっと、オノウエさん」


「ん? もしかしてお前、童貞じゃないのか?」


「プライバシーの侵害です」


「旧世界の言葉か? ザコくんは難しい言葉を知ってるなぁ。おりこうおりこう」


「からかわないでください!」


「まぁ案外、お前みたいな奴の方が、女をヒイヒイ泣かせるのかもな」


「そうなんですか?」


「自覚がないとは恐ろしいことだ」


 そう言うとサチはニカッと笑った。





 第83話 キュウタ。ダリアの悩みを聞く。


 ◆◆


「あっ」


 ミチオとサチがとろストで話していた頃、キュウタとダリア「野良犬」のカフェで顔をあわせた。


「あの女は?」


「サッちゃんは街に出てます。ザコさんは?」


「街だ」


「そうですか。残念」


「すまない」


「あっ、キシモリさんが嫌ってわけじゃないです。私、二人がいっしょにいるところを見るのが好きなんです。なんか、お似合いですよね。お二人?」


「……意味がわからない」


「あっ変な意味じゃないです。あくまで相棒としてです」


「ミチオは今、試用期間中だ」


「そうなんですか? なにか問題でも?」


「アイツには問題ない。闘うごとに強くなっている。優れた金剛使い(ヴァジュラシ)になる」


「だったらなぜ?」


「問題はオレだ」


「……」


「オレの金剛(ヴァジュラ)見ただろ」


「すごかったです。〈内在〉の金剛(ヴァジュラ)。初めてみました」


「だが、アンタに負けた」


「〈内在〉型の金剛使い(ヴァジュラシ)は長時間の発動に耐えられない。やがて暴走して自滅する。だから遭遇したらやるべきことは時間稼ぎ。ワシュルカの金剛使い(ヴァジュラシ)なら最初に学ぶことです」


「並の相手なら初動でケリがつく。だが、時間稼ぎをされたら負ける」


「フフ。サッちゃんがいたのは想定外でしたね」


「あの女は強い。だが、お前がいなければ勝てた」


「でも私一人なら初動で消されていました」


「そうだな」


「否定しないんですね」


「事実だ」


「優しいですね。優しくないのがすごく優しい」


「意味がわからない」


「私。一人じゃ何もできないんです。サッちゃんがいなければ、こんな冒険なんてできなかった」


「あいつは従者だ。姫のために命を捨てるのは当然だ」


「そうですね。そうなんですけど」


 ダリアは涙ぐむ。


「私、怖いんです。私を守っていつかサッちゃんが命を落とすんじゃないかって」


「……」


「私が死ぬのはいいんです。お姫さまって言っても第五王女で、上に4人もいるんです。本当はおまけなんです。私。いてもいなくても同じ。むしろ邪魔だと思われてる」


「……」


「だから早く国を出て〈()〉になろうと思いました。それなのに……。サッちゃん。ワシュルカで一番の力士だったんです。すごく強かったし人気者で国の英雄だったんです。私はよく知らないんですけど、なにか事情があって各界を追われて」


「……」


「でも違う国に行けば全然活躍できると思うんです。だから私がいなくなればって……思ってたけど、こんなことに巻き込んでしまって」


「存在自体が迷惑だな」


「……ひどい。ひどいこと言いますね。でも、ひどすぎて笑っちゃう」


 涙を流しながら、ダリアの口角が上がる。


「オレも同じだ」


「……!?」


「オレの力が暴走した時、そばにいる奴は全員死ぬ」


「……」


「だから仲間を作らなかった……」


「でも、できちゃったんですね。ザコさんが」


「……」


「いつかオレはアイツを殺してしまうかもしれない」





 第84話 ザコくん。サチに夜のスモウに誘われる。


 ◆◆


 同じ頃、キュウタとサチはカギュウ中央公園に移動していた。


 日が暮れて子供を連れた家族はいなくなっていたが、その代わり、公園のベンチには多くのカップルが座って暗がりであることをいいことにイチャイチャとしていた。


「どうだザコくん。絶景だろう」


「オノウエさん。こんなところにいたら」


「ここではサチと呼べ。私たちは付き合って二ヶ月の恋人だろう」


「サチ……さん」


「サチだ」


「だったらボクのこともミチオと呼んでください」


「バカッ、男の名前を呼ぶなんて、そんなこと、はしたない!」


「恥ずかしがるポイントおかしくないですか?」


 ミチオはその後、無理やり飲み屋に連れ込まれ、サチにお酌をした。


 ミチオも無理やり飲まされそうになったが、酒の匂いに耐えられず、飲むことができなかった。


 サチが酒を大樽ごと飲み干して、ほろ酔い気分になったところで、ミチオにスモウをしようと安宿に誘った。


 巨体の酔っ払ったサチに絡まれたら命の危険があると思ったミチオは、なんとかサチを言いくるめて、夜風に当たろうと公園に誘ったのだが、そこはカップルがいちゃつく名所だということミチオは知らなかった。


「ここに誘うたぁ、君もスケベだな」


「知らなかったんですよ。ここがそんなハレンチな場所だなんて」


「またぁ~」


 酔っ払ってガードが甘くなったのか、サチはミチオに身体を寄せる。


 女性の身体だが流石鍛えられている分だけ、硬いとミチオは思った。


 サチの表情がニヤける。


 崩れた顔を見て、この人も女なんだなとミチオは思った。


「なぁ、ザコくん。私はこう見えて、いつも不安なんだ」


「何がですか?」


「いつも思うんだ。私に姫様を守れるのだろうかと……」


「……」


「私は金剛(ヴァジュラ)が使えない。姫様の金剛(ヴァジュラ)をまとうことでかろうじて戦える。姫様がいなければ。金剛(ヴァジュラ)が使えないただのデカブツ。私こそザコだ」


「そんなこと……」


「私に金剛(ヴァジュラ)が使えたら……姫様はお前たちを雇うことはなかった」


「……すいません」


「謝ることはない。お前たちには感謝している。ただ、私は怖いんだ。いつか私の失態で姫様を窮地にさらしてしまうのではないかと……」


「サチ……」


 オノウエ・サチは涙を流していた。


「おっ。名前を呼んだな。ワシュルカでは名前を呼んだ相手とはスモウを取らねばならないのだぞ」


「え?」


「そしてスモウに負けたものは相手の言うことに絶対服従だ」


「本当ですか?」


「ウッソだよぉ!」


そう言うとサチはミチオに張り手を食らわす。間一髪のところでミチオは交わした。


「何するんですか!? 当たってたら死んでますよ」


「いいか。ザコくん。よく聞け。本当に強いやつはなぁ。スモウしなくても強いんだよ。私は姫様にスモウをせずとも負けた!」


「はいはい。姫様のことが好きなんですね」


「好き? そんな言葉で私の気持ちを語るな。この気持ちはなぁ、お前の邪な薄汚れた欲望まみれの下衆な勘ぐりとは程遠い、もっと尊くて偉大な~」


「ちょっと。サチ! サチ!」


 サチはその場で眠ってしまった。




 第85話 明日で最後だ。


 ◆◆


 眠っているサチをミチオは背負って街を歩き、なんとか「野良犬」まで連れてきた。


「サッちゃん!」


「姫様ァ!」


 酔っ払ったサチが絶叫する。


 普通ならバーで飲んでいる賞金稼ぎたちから「うるせー」という怒号が飛び交うが、サチの巨体を見た同業者たちは何も言えない。


「すいません。オノウエさん酔っ払っちゃって。部屋まで運びます。キュウタ。足を持って」


「あぁ」


「サッちゃん。こんなに酔っ払ったの初めてです。何があったんですか?」


「何がって……すいません。秘密です」


 言ったらサチに何をされるかわからない。そうミチオは思った。


「秘密ですか……ふふ」


「あっ変な意味はないです。誤解しないでください」


「サッちゃん。私の前でこんな姿見せたことないです」


「それは姫様の前ですから」


「ちょっと、うらやましい」


「え?」


「ザコさんには心を許してるんだと思います」


「都合よく使われただけですよ」


「そうなんですか?」


「そういうこと多いんです」


 ミチオはキトラのことを思い出していた。


「だったら、今度は私にも都合よく使われてください」


「え?」


「やっぱり、キュウタさんだと言い方、キツすぎるんで」


「キュウタ。何、言ったの?」


「……」


「ザコさん。聞いてくださいよ。キュウタさんひどいですよ。全然優しくないんです」


「思ったことを言っただけだ」


「程度ってものがあります。私、12歳の子供なんですよ」


「関係ない」


「それに、お姫様なのに」


「関係ない」


 最小の単語で辛辣な返事をするキュウタをダリアが面白がっている姿を見て、ミ 二人の間に何があったんだ? とミチオは思った。

 

 ◆◆


 ダリアを部屋に入れてサチを見送ると、ミチオとキュウタは自分たちの部屋に戻った。


「遅くなっちゃったね。寝ようか」


「ミチオ……」


「ん?」


「明日で最後だ」


「試用期間のこと?」


キュウタは無言でうなずいた。


「じゃあ、明日の成果しだいで正式な相棒に昇格だ」


 キュウタは無言でうなずいた。


「ボク頑張るよ。キュウタに認めてもらえるようにがんばる」


 キュウタは無言でうなずいた。


「おやすみ」

 

 ◆◆◆◆


 翌朝。ミチオたち4人はカギュウ国を出て、指定された地図を頼りにナラクのある方向に移動した。


「はぁ~気持ち悪い。頭がクラクラする」


「飲みすぎですよ。昨日大変だったんだから」


「昨日? なにかあったのか」


「覚えてないのですか?」


「ザコくん。ひょっとして君は私になにかしたのか?」


「何もしてませんって」


 むしろ、されたのはこっちだとミチオは思った。


「君の背中、気持ちよかったぞ」


「覚えてるじゃないですが!」


「戻ってきたら、今度こそスモウしような」


 不安定な山道を超えて、昼に食事休憩を終えた後、洞窟にたどり着いた時には日が暮れはじめていた。


「さすがに遅くなりすぎましたね」


「すみません。私の責任です」


 酒臭いサチが謝る。


「サッちゃんは悪くないです。それだけ危険な任務ですから」


「すみません」


「大人になったら一緒に飲もうね」


「はい」


 ダリアの予想外の一言にサチは狼狽した。


掲載は不定期です。



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