第一部 金剛編 第一章 旅立ち 4~6話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第4話 ザコくん。神の光に触れる。
◆
今から2年前。
流行り病に感染し高熱を出して寝込んでいたミチオは、キラキラと煌くなにかが空中を漂っていることに気づいた。
はじめは高熱がみせる幻覚だと思ったが、いくら時間が経ってもそれは消えなかった。
なんなんだこれは?
朦朧とする意識の中、人差し指で光に触れてみた。その瞬間、ミチオの指先にピリっと微弱の電流が走った。
一呼吸置いて、再び恐る恐る指先で光に触れてみた。
指先にしびれが走る。
その瞬間、自分がなにかと繋がったことを、ミチオは身体で理解した。
ミチオは寝込んでいる間、光に指先で触れてはピリッとなる行為を繰り返していた。
それは退屈な時間を紛らわせるための一人遊び。
どうせ熱が下がれば消える幻覚だ。
朦朧とする意識の中でそう思っていた。
◆
しかし熱が下がっても光は消えなかった。
あたりを見回すと部屋の中はもちろんのこと、外に出ても小さな光はあらゆる場所に存在していた。
はじめは昆虫図鑑でみたホタルみたいできれいだ。
世界が眩しい。
輝いて見える。
そう呑気に思っていたミチオだったが、いつまでたってもキラキラと光る“それ”に次第に煩わしさを感じるようになった。
何より厄介だったのは、目をつぶっても光が見えることだ。
あぁ鬱陶しい。
これじゃぁ眠れない。
「うるさい!」
イライラが頂点に達した時、ミチオは思わず叫んでしまった。
光は突然消滅し、いつもの暗闇が世界を覆った。
ミチオは安堵し深い眠りに落ちた。
しかし朝、目を覚ますと光は同じように存在していた。
光はミチオの視界の外にハズレていただけだった。
ミチオは落胆した。
だが同時に、この光は動かせるのではないか?と思った。
人差し指を立てるとミチオは「集まれ」と小さな声で言った。
すると光がゆっくりと指先に集まってきた。
小さな光は衝突を繰り返し、その度にパチッパチッと小さな火花を放った。
〈くっつけぇ!〉
ミチオは強く念じる。
周囲の光が集まり、やがて一塊の物体に変わっていく。
〈〇!〉
ミチオは頭の中で球体をイメージする。
光と光がぶつかりながら融合していく。
やがて光の塊は角が削れていき、いびつな形ながらもパチンコ玉くらいの球体へと変わっていった。
「できた!」
ミチオの集中力が切れて、ぐったりと疲れた。同時に光も拡散していった。
◆◆
厳密に言うとそれは光ではなかった。
光や微弱な電流はそれが発しているエネルギーのようなもので、本体は小さな土塊で、塵や埃に近いものだった。
ミチオはとりつかれたように、この小さな光を弄り回すようになった。
はじめは「動け!」、「集まれ!」と言葉を発して命令をしていた。
だが、何度も繰り返すうちに声に出して「動け!」と命じても、心の中で〈動け!〉と念じても大差がないことに気づいた。
むしろ重要なのは気持ちの強さのようなものだった。
声にして発する方が、気合がこもるような気がしたので、誰もいない時は声に出して念じるようにしていた。
どうやら、この小さな光は自分以外の人間には見えないようだった。
試しにモカの前で光を動かしてみたが、彼女は全く気づいていなかった。
形に関しては最初に作った球体の他にも四角や三角といったシンプルな図形を試してみた。
簡単な図形を模した物体はすぐに作れるようになった。
だが、複雑な形、例えば犬や猫といった具体的な動物の形を作ろうとすると、集中力が続かず、脳がクタクタに疲れてしまった。
おそらく複雑な形のものほど、具体的なイメージと集中力、そしてその形を維持するための持続力が必要となるのだろう。
その意味で勉強やスポーツの特訓と対して変わらないなぁと思い何事も近道はないのだと落胆した。
だが、光の動かし方や光を集めて物質化する方法を模索する行為はとても楽しかった。
なんというか、自分にしか触ることのできない特別な世界を見つけたような感じだった。
これが自分の将来の役に立つかどうかはミチオにはわからなかった。
だが、スポーツも勉強も見た目も人並み以下の「ザコくん」だったミチオにとって、初めて打ち込める「自分だけの特別な何か」だった。
しかしそれが、大きな勘違いだったことを、彼はすぐに知ることとなる。
第5話 ザコくん。キトラに見つかる。
◆◆
光を動かすことが楽しくなってきた頃、ミチオの前に一人の少女が現れた。
「アンタ。ここで何してるの?」
「ゴドウ・キトラ……さん?」
「私のこと知ってるんだ。まぁ、この村で知らないやつはいないか」
「あのぉ、どうしてここに?」
「アンタ、やったでしょ」
「やった?」
「隠しても無駄。あんな派手に発動してんだもん、すぐわかるって」
「すいません」
思わずミチオは謝ったが、何について謝っているのか、自分でもよくわからなかった。
「もしかしてはじめて?」
「何がですか?」
キトラはニヤっと猫のような表情で小さく笑うと、大気中に漂っている光の粒をデコピンで弾いた。光はビリヤードの球のようにぶつかりながら、連鎖的に火花を散らした。
「キトラさんにも見えるんですね?」
「ボクだけが使える特別な力とでも思ってた?」
「……」
「あれれれぇ? 何も知らなかったの? それで調子に乗って力を発動し続けた結果、私にバレた。ルーキーあるあるね。ダサッ!」
「この光、何なんですか?」
「アンタ、本当に何も知らないの?」
「熱出して寝込んでたら、なんかピカピカと光るこれが見えるようになって」
「金剛ってわかる?」
「あっ、授業で習いました」
◆◆
21世紀末。石獣と呼ばれる謎の生命体が突如として姿を表し人間を襲うようになった。
硬質化した強固な皮膚を持つ石獣に対し、銃火器等の兵器は無力で、最終手段として投下した核兵器も通用しなかった。
後に石獣戦争と呼ばれる戦いで、人類の9割が命を失った。
それから、おおよそ200年の月日が流れた。
異種交配を繰り返すことで石獣は繁殖し、地球全土を制圧。
わずかに生き残った人類は石獣の驚異に怯えながら、ひっそりと暮らしていた。
しかし、唯一の希望が金剛である。
金剛は石獣の出現と同じく頃、地球上で発見された未知の鉱物。
金剛によって錬成された武器だけが、石獣の硬い皮膚を貫くことができた。
金剛を操る力を持った者は金剛手と呼ばれ、人類を守る戦士として特権と名誉が約束された。
いずれ金剛手の中から人類を救う救世主が現れ石獣を滅ぼしてくれる。
それだけが弱体化した人類に残された唯一の希望だった。
と、中学の教科書に書かれていたのをミチオは思い出した。
◆◆◆
「金剛って特殊な鉱物ですよね。確か鉱山とかで取れるやつじゃなかったんですか?」
「そっか。君みたいなザコくんには何も知らされてないんだっけ」
「?」
「驚いた。私、知っているよ。君がみんなからザコくんって呼ばれてるの。最初は酷いあだ名と思ったけど、君の顔見たら、あー確かにザコくんって感じで凄い納得」
ミチオは自分よりも年下の少女にザコと言われて少しムッとしたが、キトラがあまりにも堂々と口にしたので、萎縮して何も言えなかった。
「金剛はね。普段は塵芥となって大気中に拡散しているの。黄砂とか花粉をもっと小さくした感じ。だから普通の人は見えない。わかる?」
「はい」
「でも、主が念じると姿を表し、主が念じる姿へと変わる。金剛にはね。流れがあるの」
「流れ?」
キトラは深く深呼吸し、両手の指と指を複雑な形に絡め、印を結ぶ。
「見える?」
「指の先に光の粒が集まってます」
「目を瞑って」
「はい」
言われるまま、ミチオは目を瞑る。
「わかる?」
「うまく言えないけど、気配……みたいなものが伝わってきます」
「金剛は微弱な電磁波を発していて、お互いに信号を送り合ってる。
その電磁波は普段は一定の流れを保っているけど、大量の金剛を一箇所に集めようとすると、流れに変化が生まれる。
その発動起点に向かえば、金剛を動かしたのが誰か、すぐにわかる」
「だから……ボクのことがわかったんですね」
「呑気ね。なんで私がここに来たかわかる?」
「なんでって?」
「ゴドウ家のお仕事、わかる?」
「村を襲う石獣の駆除ですか?」
「せーかい。でも60点かな」
「-40点は?」
「キミみたいな危険分子の排除」
第6話 ザコくん。キトラにハチの巣にされる。
◆◆◆
「危険分子……」
「金剛を悪用する犯罪集団って多いんだ。瞬時に武器を出せるんだから犯罪にはうってつけの力だよね」
「そんな。ボクは犯罪なんか」
「みたいね。正直、脱力。どんなヤバいやつかと思ったら、冴えないガキんちょでがっかり。まぁ、本当に頭がキレる悪いやつだったら、いきなり尻尾を出すような真似するわけないんだけど」
「なんかすいません」
お前だってガキだろう。僕より年下じゃないかと言いそうになるのを、ミチオは抑えた。
「でもまぁ、ザコくんはラッキーだよ。見つけたのが私で。もしも父ちゃんや兄貴に見つかってたら、秒で消されてた」
「……そんなヤバいんですか? 金剛って」
「う~ん。使い方次第かな。でも突然、力に目覚めたやつはロクな使い方しないから」
「ボクはそんなこと」
「しないって言い切れる? 今はそう思ってても、いつか悪用するかもしれない」
「そんなことないです。ボクはこの力を人類のために使いたいんです」
「思ってもないこと言っちゃって」
とっさに出た薄っぺらい言い訳は、キトラにあっさり見抜かれた。
「覚えといて。金剛を発動すると、その動きは即座に〈手〉に伝わる」
「手?」
「金剛手のこと。外ではみんな略して〈手〉とか〈手の者〉って言う。いわゆる隠語ね」
「授業で習いました。金剛手って、石獣と戦う人類最強の戦士ですよね」
「ぷっ!」
キトラがバカにしたように笑った。
「何かおかしいこと言いましたか?」
「だってぇ、人類最強って~」
「おかしいですか?」
「別に。ただ蒼いなって思って」
「どういう意味です?」
「別に、特に深い意味はないから。ところでキミ。私みたいな小娘に敬語を使うんだ?」
「ゴドウ家の方に何か失礼なことがあると後が怖いので」
「その言い方。逆に失礼。 家は家。私は私!」
「キ…キトラ……は」
「今度は呼び捨て? 何いきなり距離詰めてんの? ずーずしい。これだから男は。すぐ彼氏面!」
「……じゃあ、何て呼べば」
「師匠」
「はぁ?」
「これから私のことは師匠と呼びなさい。ヴァジュラのこと、私が全部教えてあ・げ・る」
「……タダじゃないですよね」
キトラが出した条件は、金剛について教える変わりに、彼女の練習台になれというものだった。
「私、〈治癒〉の練習がしたいんだ。でも、怪我しないと傷って治せないでしょ。それで、怪我してくれる人が欲しくて。ヒョン兄にお願いしたら逃げられちゃって困ってたんだよね」
ヒョン兄とはゴドウ家の三男・ヒョンスのことだ。ゴドウ家は6人きょうだいだ。
キトラの上には3人の兄がいるとモカが昔、話していたのをミチオは思い出していた。
「つまり、ボクを怪我させて、傷を回復させたいってことですか?」
「訓練に怪我はつきものでしょ。君が特訓で怪我したところで、あたしが回復させれば、君の傷は治るし、あたしの治癒の勉強にもなる。どっちもお得で一石二鳥。そう思わない?」
「でも、それってすごく痛いですよね」
「大丈夫よ。死なないように致命傷になるトコは避けるから」
「……わかりました。師匠。よろしくお願いします」
「契約成立ね。ところでザコくんフルネームは?」
「コザカナ・ミチオです」
「コザカナ? え? どういう字書くの?」
「小さな魚……です」
「ぷっ。だからザコくんなんだ」
「はい。みんなからもそう言われてます」
「みんな……。へぇ、そうなんだ。じゃあ、改めてよろしくね。ザコくん」
嫌な予感がしたが、悩んだ末にミチオはキトラの申し出を受け入れた。
金剛手の存在は知っていたが、学校では深く教わっておらず、まるで神話の世界のようだと、ミチオは思っていた。
金剛を用いた戦闘術はゴドウ家のような由緒ある一族にしか伝えられていなかった。
そのため、〈手の者〉は2世3世がほとんどで、ミチオのような庶民は、金剛の存在を感知できたとしても、そこから独学で腕を磨くことは困難だった。
キトラに習うことでゴドウ家に伝えられてきた金剛の戦闘術を少しでも学ぶことができるかもしれない。
そう思ったミチオは弟子入りを受け入れたが、最初の組み手でミチオの体は双剣〈無熱〉によって蜂の巣にされた。
その時の攻撃によって、ただでさえズタボロだった服が穴だらけになってしまったため、特訓の時は上半身裸で行うようになった。
◆◆
それから2年間。キトラは毎日のようにミチオを蜂の巣にし、穴だらけになった体を〈螺旋白蛇〉で治癒してきた。
一方、ミチオは基礎的な知識をキトラから習い、
遠距離攻撃用の鏃を作り出す〈尖弾〉
近距離戦闘用の刃物を作り出す〈鈍刀〉
身体の表面を薄い金剛で覆うことで防御力を高める〈薄膜〉を習得した。
ただ、この三つは基礎の基礎で、キトラに習わなくても、自然と身に付いていたのではないかとミチオは考えていた。
おしゃべりが大好きで特訓中も終始機関銃のように喋るキトラだったが、ゴドウ家の内情について口にすることはなかった。
おそらく門外不出と厳しく言われているのだろう。
そもそも、二人が話すのはコゴドウ家の敷地にある雑木林で特訓する時だけだった。
それ以外の場所で会った時にキトラがミチオに話しかけてくることはなかったし、ミチオからキトラに話かけることもなかった。
二人でいる時は高圧的で乱暴な口調で喋るキトラだったが、それ以外の場所ではキトラは猫をかぶっていた。
何度か外で彼女の姿を目撃したことがあるが、その時はゴドウ家の召使いらしき女性と、帝都で流行っている最新のファッションやお菓子について楽しそうに喋っていた。
その時の彼女は、自分が師匠と呼んでいるキトラは全くの別人のように感じた。
だが、あの時のキトラが本来の姿で、特訓している時の乱暴な口調の方は裏の顔なのだろうと、ミチオは思った。
掲載は不定期です。




