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最強のザコ(なろう版)  作者: 或亜豊
第一部 金剛編 第一章 旅立ち
1/10

第一部 金剛編 第一章 旅立ち 1~3話

『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。

カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856


小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。

また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。

ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。

 第1話 ザコくん旅に出る。


 ◆◆◆


 人間が地上の覇者から転落して、おおよそ200年。


 廃墟となった高層ビルがそびえ立つ旧市街地で、3人の男が睨み合っていた。


「観念しろ石獣(ヒビワレ)! ゴドウ家の名にかけてお前を滅ぼす」


 彼の名はゴドウ・ユキマサ。

 

 年齢は20歳。


 金色の鎧をまとい、背には焔の翼、左手には捕縛縄。

 そして右手には黒龍が絡みつく炎の剣を構え、まばゆいばかりの光の闘気を放っていた。


 整った目鼻立ちでありながら、見る者を萎縮させない優しい表情にはカリスマ性がある。


 ひと目見れば誰もが彼の虜となり、英雄として崇め奉るだろう。


 しかし彼はこの物語の主人公ではない。


「……オレは人間だ」


「だったらその醜い左手は何だ? 全身を覆う醜い裂け目。それこそ石獣(ヒビワレ)の証!」


 彼の名はキシモリ・キュウタ。


 年齢は16歳。


 膝までの短パンに上半身裸。黒い髪は短くおでこが露呈しているため、年齢よりも幼く見える。


 しかし、鋭い目つきでゴドウ・ユキマサをにらみつける表情とへの字になった口元には鬼気迫る凄みがあった。


 何より目が引くのが顔の左半分と左上半身に広がる無数のヒビ割れである。

  

 皮膚は黒光りしており、表面には鍾乳石のような小さな突起がポツポツと盛り上がっている。


 その姿はおぞましく、見る者に嫌悪感と恐怖を同時に抱かせるが、だからこそ逆に、抗うことのできない負の魅力がある。


 その禍々しい姿を見た者は闇の王として彼を恐れ服従すること間違いないだろう。 


 しかし彼もまた、この物語の主人公ではない。


「ユキマサさん。誤解です。彼は人間なんです。ひっ石獣(ヒビワレ)ではありません」


「きみは……ザコくん」


 彼の名はコザカナ・ミチオ。


 年齢は15歳。


 着ているパーカーはボロボロで背にはパンパンのリュックを背負っている。


 茶色がかったボサボサの髪の毛に豆粒のようなつぶらな瞳。


 いちごを思わせる鼻の周辺には無数のそばかすがあり、少しだけ厚みのある唇は不健康な薄紫色。


 そこにはゴドウ・ユキマサのような神々しい美しさも、キシモリ・キュウタのような邪悪なおぞましさも存在しない。


 見るから弱そうな……ザコキャラだ。

 

 しかし、彼こそがこの物語の主人公――人呼んで、最強のザコである。   


 ◆◆◆


 3人が対峙する8時間前。


「えー。卒業おめでとう。今日で君たちは中学卒業だ。明日から君たちは人類復興のためにそれぞれの場所で頑張ってほしい」


 ここはゴドウ国。


 国といっても国民全員が顔見知りの人口1000人弱の小さな集落。


 住民の多くは村だと捉えておりゴドウ村と呼ぶことの方が多い。


 村に一つしかない校舎は、いつになく賑わっていた。


 クラスは1つ。


 生徒の数は10人未満。


 村中の子供たちがこの学校に集まり、9年間の義務教育を受けていた。


「さぁ、今日はお祝いをしよう!」


「やべー。オレンジジュース!」


「チョコもあるぜ。ひゃっほー」


 今日は中学3年生が卒業する日だった。


 老教師のヤマモト・ハルオミは、この時代では貴重品となっているジュースとお菓子を生徒たちに振る舞わった。


「みんなとは今日でお別れか。新天地に行っても頑張れよ!」


 学級委員のヤバシリ・ゴンゾが目に涙を浮かべている。


 彼は進学を希望していたが学力が足りず試験に不合格。明日から精肉工場で働くことになる。


「ゴンゾくん、泣かないで。卒業してもみんないっしょだから」


フジヤマ・モカがゴンゾを慰める。


彼女は明日から村のりんご農園で働く。


「ひどい! モカ。私、帝都!」


「いいねぇ、ユートォーセーサマは!」


オノデラ・ユーカにゴンゾが皮肉を言う。


「しょうがないでしょ。うち病院なんだから……」

 

 ユーカの家は村に一つしかない総合病院だった。


 この時代、中学を卒業した若者は農園か工場で働き、18歳になると結婚して子供を作ることが当たり前だった。


 しかし特別なスキルが求められる職業、たとえば医者になるためには進学して医術を学ぶ必要があった。


 そのためユーカは帝都にある医大に進学するため、生まれ育ったゴドウ国を旅立つ。


「私だって、村にずっといたいよぉ。でも私……一人娘だから。家……継がないといけないから……」


「よしよし。大丈夫だよ。帝都に行ったらかっこいい恋人もできるから」


 ユーカの頭をモカがやさしく撫でる。


 人形のように手足が長くスレンダーな体つきでロングヘアーのユーカと、胸と尻が大きく丸みを帯びた体つきでショートヘアのモカのじゃれ合う姿は、男子生徒たちにとっては眼福だった。


 そのため、二人を見ることだけが生きがいだったという生徒も少なくなかった。


 子猫のようにじゃれ合うモカとユーカの姿を見て、生徒たちは最後に尊いものを見せていただいたと、心の中で神に感謝した。


「村を出るのはオノデラさんだけじゃないですよ」


「え? セパも進学?」


小柄ながらも声が大きい、ポン・セパタが得意げに話し始める。


「いえ、ボクは丁稚奉公です。遺物回収業者(サルべージャー)になるんです!」


遺物回収業者(サルべージャー)とは石獣戦争(ヒビワレドン)によって失われた旧世界の遺物を回収する仕事だ。


「戦前は音楽や映像を再生することができる円盤が多数出回っていたそうです。ボクはそんな戦前の音楽を回収して、現代に復活させます!」


「そんなもんより、空飛ぶ円盤とか掘り出せよ!」


「わかりました。回収した際には真っ先にユースケくんに売ってあげます」


「んだよ。タダじゃねーのかよ?」


 穀物農園で働くことが決まっているユースケ・ベルバルタンがツッコミを入れると生徒たちは大笑いした。


 生徒と教師は青春の思い出を懐かしみながら、将来の目標について熱く語り合った。


しかし、窓際にいるコザカナ・ミチオだけは、浮かない顔で外を眺めていた。






 第2話 ザコくん。卒業したはいいけれど。


 ◆


「コザカナくん、ちょっといいか?」


 宴の後、ミチオは担任のヤマモトに呼び止められた。


「君だけ進路が決まってないのだが?」


「あっそれは……」


「試験のことは残念だったね。でも、悔やんでいても仕方がない。現実を受け止めよう」


「でも、ボクは……」


「コザカナくん。夢を見るには資格が必要なんだよ。私も君くらいの時は旧世界の文化を研究する考古学者になりたかった。だが、きっぱり諦めて、今はゴドウで教師の仕事をしている」


「……」


「私にも君にも夢を見る資格がなかった。ただそれだけのことだ。それは決して恥ずべきことではない」


「……」


「今はどこも人手不足だからね。工場と農園なら明日から働けるよ」


「あのぉ……少しだけ考える時間をもらえないですか?」


「わかった。明日、学校に来なさい。必ずだよ」


「はい。わかりました」


「……お母さんを悲しませるんじゃないよ」


 ヤマモトの険しい表情と突き放したような声が、ミチオの耳に響いた。


 ◆◆◆


「ヤマモト、怒ってたでしょ」


 廊下を歩くミチオにフジヤマ・モカが話かける。


「……たぶん、呆れてたんじゃないかと思う」


「進路が決まってないなんて、前代未聞だもんね」


「わかってる……」


「え? もしかしてザコくん。まだ進路決まってねーの?」


「もしかして進学キボー? まじかよ。お前、俺よりバカじゃん」


 先生との話を盗み聞きしていたセパタとユースケが二人の会話に割ってる。


「ザコくんはザコくんらしく、この村でがんばれよなっ。な!」


 セパタが茶々を入れる。悪意はないのがわかっていてもミチオはイラッとした。


 ザコくんとはミチオの仇名だ。コザカナという名字とパッとしない外見ゆえ、子どもの頃から彼は“ザコくん”と呼ばれていた。


「ちょっと、やめてよ。ザコくんにはザコくんの事情があるんだから。農園で働こ。私といっしょにりんご作ろ」


 うつむいているミチオの顔を下から覗き込んでモカが話しかける。


「近いよ」


「おばさま。心配してたよ」


 ミチオは母親の顔を浮かべた。


「うち、おとーさんしかいないじゃん。だからおばさまは私にとっては実のおかーさんと同じなの。おばさまもモカちゃんは娘みたいなものだからって、言ってくれる」


「モカのことは、家族みたいなものだと思ってるよ」


「何、その上から目線。ザコくんのくせに生意気」


「茶化すなよ」


 ミチオは恥ずかしくなって顔をそらした。


「ねぇ。今夜、私の部屋に来て」


「えっなんで?」


「大事な話があるの」





 第3話 ザコくん。キトラと最後の授業。


 ◆◆


 学校を出たミチオは「商店街に用事があるから」と言ってモカと別れた。


 夕暮れの商店街は夕食を作るために野菜、果物、肉を求める人々で活気があった。


 昨日は行商のトラックも来たため、露店には新商品が入荷していた。

 

 異国の服や装飾品も売られている。


 そのため、子ども連れの若い夫婦が買い物を楽しんでいる姿も多く見かける。


 村には発電所がないため薄暗かった。


 だが、旧世界の遺物である太陽光パネルが建物全てに設置されていたため、生活用の電力には困らなかった。


 テクノロジーの発展が止まり、文明レベルは年々後退していた。


 それでも旧世界の遺物を有効利用し、生き残った人類は平和な日々を過ごすことができた。


 村の外に出ない限りにおいては。


 ◆◆


 商店街を抜けてミチオは村の外れにある雑木林へと向かった。


 そこは国を治めるゴドウ家の敷地。


 本来なら立ち入り禁止だったが、ミチオは秘密の裏口の扉を開けて、中に入った。


「遅い!」


 鈴の音のような澄んだ声が響く。待っていたのは小柄な少女だ。


 彼女の名前はゴドウ・キトラ。


 現在14歳。


 ミチオより1つ年下だ。

 

 村を牛耳るゴドウ家の長女で、羽織っている上着とミニスカートは色鮮やかで品質の良い生地が使われている。


 顔には薄く化粧が施されており、両耳にはトパーズのイヤリング。


 前髪は細い眉が見えるぱっつんで、ツインテールに縛った金髪はふんわりとしている。


 背丈はミチオよりも小柄で手足は細く華奢だった。


 猫のように大きな吊り目で、小さな鼻。


 笑うと白い八重歯が光る村一番の美人と評判である。


 睨むような鋭い目つきと口角の上がったピンクの唇からは、自分自身に対する圧倒的なプライドが伝わってくる。


 彼女のプライドは刺すような空気となり、常に周囲を威圧していた。


 ゴドウ家の才女という肩書きもあってか、同世代の男にとってキトラは近寄り難い存在だった。


 きらびやかなアイドルとして遠くから仰ぎ見られる高嶺の花。


 そう言えば聞こえはいいが、実際のところ、彼女は村では腫れ物扱いで同世代の子供たちの間では孤立しており、学校にも通っていなかった。


 一方、ミツオはゴアゴアのくせっ毛で、目はつぶら。


 鼻の上にはそばかすがあり、汚れたイチゴのようである。


 顔中にしみとほくろがあり、お世辞にもかっこいいとは言えない。


 また来ている服もズタボロで、この村の多くの若者がそうであるように、容姿にお金と手間をかける経済的な豊かさを持ち合わせていなかった。


 本来なら絶対に関わることのない階級と言っても過言ではないミチオとキトラだったが、この2年間、二人は人気のない雑木林でこっそりと会っていた。


 とは言え、そこで行われていたことが秘密の遭い引きではないことはかけ離れたものだった。


 ◆◆◆◆◆


「師匠。よろしくお願いします」


「ザコくん。卒業おめでと。今日が最後のレッスンだから。アンタの力。全部出し切って、私にぶつけてみなさい!」


 キトラに挨拶すると、ミチオは上着を脱ぎ、上半身裸になった。


 小鳥の囁く声、木々の葉が風で揺れる音。


 そして二人の呼吸音だけが耳に聞こえる。


 ミチオは指先に意識を集中する。

 

 キラキラと輝く光の粒が大気中に現れる。

 

 それらはやがてひとつに凝縮され、小指の第一関節ぐらいの大きさの(やじり)へと姿を変えた。


「〈尖弾(センダン)〉」


 小さな声でミチオは呟く。


 鏃は猛スピードで飛び、キトラの額を狙う。


 しかし彼女は表情を変えることなく首を傾げ、鏃をかわす。


「次」


 ミチオは怯むことなく鏃を作り出し、二発、三発、四発、五発と連発する。


 しかしキトラはバレリーナのようにくるくると回転させながら鏃を交わし、一気に距離を詰める。


 射程距離に入られた。


 ミチオは警戒して後ろに下がると同時に、掌の中に意識を集中する。


「〈鈍刀(ドントー)〉」


 刃物というよりは鈍器に近い不細工なナイフがミチオの手に現れる。


 柄にあたる部分を強く握るとミチオはキトラめがけて斬りかかるが、一撃も当たらない。


三摩耶形顕現(サマヤ・アヴァターラ)


 ミチオの3倍のスピードでキトラの両手に銀の細身剣が現れる。


双剣(ソウケン)無熱(アナヴァタプタ)〉」


 巧みな手捌きで、無数の突きを繰り出すキトラ。


 ミチオは両腕で顔を庇い致命傷を避けた。


 だが、蜂の巣のように全身穴だらけとなり、シャワーのように血がピューと噴き出した。


 地面に倒れるミチオ。普通なら命に関わる致命傷である。


 しかしキトラはすぐにミチオの側に近づくと傷口に手を当てる。


甘露(アムリタ)螺旋白蛇(クンダリーニ)〉」。


 空中に漂う光の粒子がキトラのツインテールをコーティングしていく。


 ツインテールは白い蛇を思わせる姿に変わり、うねうねと螺旋の動きをしながらミチオに絡みつき、傷口を甘噛みする。


 白蛇の牙から抽出された光の粒子がミチオの傷口をみるみる埋めていく。


 急激に血液を失ったことでミチオは貧血状態になったが、すぐに白蛇の甘露によって回復する。


 この貧血状態からの体力回復はなんとも言えないむず痒さと心地良さがある。

 ぼんやりとした意識の中、おそるおそるキトラの顔を覗きこむと彼女は勝ち誇った表情でミチオのことを見下ろしていた。


 ◆◆◆◆


「〈尖弾(センダン)〉の連打からの〈鈍刀(ドントー)〉。攻撃の流れ自体は悪くなかったかな」


「かすりもしなかった……です」


 朦朧とする意識の中、キトラの膝枕で仰向けになったミチオは、ボソリとそう呟いた。


「手数の問題ね。たったの“四発”じゃ話になんない。飛び道具で敵を圧倒するならその倍は必要」


「倍でも無理だと思……います。師匠、速すぎるから」


「まぁ、私のスピードをとらえられるのはウチでも、父ちゃんだけだし」


 キトラは得意げに笑う。


 キトラの上から目線の自慢話を聞かされるのも「今日で最後か」と、ミチオは思った。


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