第一部 金剛編 第四章 英雄の船 第66~70話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第66話 アルレシャ。左手に食らいついた大魚の剣に恐怖を抱く。
◆◆
「なっ!」
突然のミチオの奇行に、アルレシャは困惑する。
何だ? 何が起きた?
コイツ……何が目的だ?
アルレシャは次のミチオの行動が読めずに次の行動に移れない。
彼女は大魚に目をやる。
左手の拳を突っ込まれた大魚はミチオの腕に噛みつく。
「くっ!」
ミチオは苦悶の表情を浮かべる。
大魚が嚙みついた左手からは血がポタポタと垂れている。
痛いのか? フォーマルハウト!
だとしたらこの行動にはどんな意味があるのか?
アルレシャの脳裏に無数の?が浮かぶ。
大魚は尻尾を振ってバタバタと暴れるが、やがて動きが止まる。
ミチオは左手の手首を掴み、魚の尻尾をアレクシャめがけて突き出した。
自分の手に食らいついた大魚を武器として構えるミチオの姿は、客観的に見て、とても滑稽だった。
だが、アルレシャは大剣を持った戦士のようだと畏怖した。
見た目の印象で相手を舐めると痛い目を見る。
それは星印を武器に戦う上で誰もが一番初めに言われる戒めだった。
その教えをアルレシャはこれまで忠実に守ってきた。
だからどんなに弱そうな相手や武器でも、油断しないよう心掛けてきた。
何より彼女が武器として使用するリボンと二匹の魚という組み合わせそのものが見た目と能力の落差で舐められてきた。
だが、彼女は舐められていることを逆手にとり、相手を倒してきた。
女の金剛使いというだけでも、自分のことを舐めてかかる男はたくさんいた。
そんな男を彼女は軽蔑し、返り討ちにしてきた。
だが、闘いに勝利しても、舐めた真似をされたことに対しては、とても屈辱的だった。
だから、女としても金剛使いとしても舐められないと思ってた。
だからザコくんと呼ばれて周囲から舐めた態度をとられているのに、ヘラヘラとしているミチオのことが許せなかった。
だから彼女はミチオのことをザコくんとは呼ばずに、フォーマルハウトと呼んだ。
それは相手に舐められたくないし、舐めてはいけないという、彼女なりの戒めだった。
「そういや旧世界の言葉で秋の刀と呼ばれている魚がいたな」
魚の姿を模した剣。
これがフォーマルハウトの星印?
「つまり……私と同じということか」
だったら。
アルレシャは空中を漂う赤いリボンで結ばれた〈右の愛魚〉を右手で掴んだ。
そして赤いリボンで〈右の愛魚〉ごと右手を包んだ。
アルレシャの右手は先端が、魚の頭部を模した真っ赤な籠手となった。
彼女は腰を落とし右手を前に出して構えた。
〈英雄の船〉に入会したことをきっかけに知り合った、とある金剛使いから、アルレシャは戦闘拳法を学んだ。
先程見せた飛び蹴りもその拳法の一つだった。
その本領は〈右の愛魚〉+〈あなたを決して離さない〉でコーティングされた右腕による一撃を放つ際にこそ発揮される。
つまり、これから彼女が繰り出す右手の一撃=エロスパンチは、彼女にとっては奥の手。
どの闘いも、この一撃で終わらせてきた。
逆に言うと、この技を見せるということは「次はもうない」という彼女なりの覚悟の現れだった。
それくらい、左手に食らいついた大魚のことをアルレシャは警戒していた。
アルレシャは再び、ミチオの左手に食いついた大魚を見る。
大きくなっている? 周囲の金剛を取り込んでいるのか?
時間が経つほど、あれは大きくなる?
おそらく強度も高まっている。
当たれば痛そうだな……。
時間が経つほど、自分がフリになる。
ならばここは。
「くらえフォーマルハウト・エロォォォーーース・パァアンチィ!!」
アルレシャは一歩踏み出し、ミチオめがけて愛の一撃を放った。
第67話 大魚の剣の口の中
◆◆
ミチオが振りかぶった大魚の尾と、アルレシャの放つ〈赤い右の愛魚の頭拳〉は真正面から激突した。
金剛の硬度と武闘家としての体術はアルレシャの力の方が、圧倒的に上だった。
土壇場でミチオが星印を生み出したことには驚いたが、そんな付け焼刃の星印で何ができる?
しょせん、こんなものはハリボテの魚。大した強度はない。
ミチオの星印に〈赤い右の愛魚の頭拳〉が衝突した瞬間、アルレシャのそれは確信に変わった。
すかすかだよ。フォーマルハウト。
アルレシャの拳が大魚の剣を破壊する。
バラバラに砕け散った大魚の金剛は塵芥となり、空中に散開していく。
アルレシャの拳はそのままミチオの胸に直撃。そして心臓を貫いた。
アルレシャは勝利を確信した。だが、自分の胸に強い違和感を抱いた。
違和感のある場所はやがて熱を持ち、数秒後、全身に激痛が走り、アルレシャはのけぞった。
そのため、踏み込みが足りなかった。
ミチオの胸は拳でえぐれ、血が噴き出し、ミチオものけぞった。
何が起きた?
アルレシャの拳は、ミチオの胸を貫くことができなかった。
焼けるように熱い右胸をアルレシャはみる。
アルレシャの身体は〈左の愛魚〉で錬成した鱗状の金剛戦衣で覆われている。
そのため、並大抵の攻撃ならはじき返すことができた。
しかし、アルレシャの右胸の金剛戦衣は貫かれており、何かが刺さっている。
これは?
アルレシャの胸には小さな刃物……と呼ぶにはあまりに武骨な、動物の牙のような短剣が刺さっていた。
その牙のような剣にアルレシャは見覚えがあった。
「貴様ァ……どうして貴様が、これを使う⁉」
アルレシャは怒りを露わにする。
絶叫するアルレシャを見ながらキュウタは痛みをこらえながらも、満足感に浸っていた。
「できた……」
ミチオがアルレシャに突き刺したのは〈内在〉によって錬成した武器で、キシモリ・キュウタの〈牙剣〉の見様見真似だった。
◆
ミチオはまず、みなみのうお座の金剛星印を〈外在〉で錬成した。
イメージは漠然としたものでとにかく口の大きなデカい魚を錬成した。
大魚を鈍器のように叩きつけることしか考えてなかった。
いくらなんでも、そんな単純な攻撃が通じるわけがなかったが、それは織り込み済みだった。
つまりこれは囮で、あらかじめ破壊されることを前提に錬成したものだった。
だが、いくらなんでも魚でこん棒のように直接殴るのでは、芸がなさすぎる。
そんな雑な攻撃をすれば、すぐに囮だと気づかれる。
それにこちらに関心を向けさせると同時に〈内在〉で錬成する〈牙剣〉についてもギリギリまでその存在に気付かれてはならない。
木を隠すなら森……もとい、魚の口。
苦し紛れに魚の口に左手の拳を突っ込んだ。
その瞬間、魚の口が閉じて噛みつかれたのは想定外だった。
だが、もしかしたら自分の意思を読み取ったのかもしれないと、ミチオは思った。
実際、大魚の口に包まれたことで、口の中で〈内在〉によって〈牙剣〉を錬成しても金剛の気配を読み取ることがアルレシャにはできなかった。
大魚を錬成する際に用いた〈外在〉の金剛は〈内在〉の気配を打ち消すくらいには強大なものだった。
〈外在〉の金剛で〈内在〉の金剛の気配を隠すという高等テクニックをミチオは無意識のうちに用いていた。
噛みついた大魚の尻尾を先端にして大剣にように使用するというのもまた、苦肉の策だった。
あらかじめ囮として用いていたので、硬度や造形に対するこだわりはなかった。
それが逆に良かったのかもしれない。
大魚の剣を構えた時、ミチオは何かしっくりきた。
このしっくりきたという経験はミチオにとって大きかった。
のちに本格的に〈星印〉として使用する際に、このイメージは大きなヒントとなる。
そしてミチオは大魚の剣が砕かれるとすぐさま〈牙剣〉をアルレシャの胸に突き立てた。
キュウタの〈牙剣〉を訓練で見ていたこともあってか、硬度と鋭さは大魚の剣よりも強くイメージもはっきりしていた。
何より〈内在〉に必要な金剛はプレセぺの〈黄金蟹〉の殻をかじり、口に入れることで蓄えていた。
どう使うかは考えず、ある種に保険として食えるだけの蟹をかじっていたが、そのことも慣れない〈内在〉による武器の硬度を高める要因となった。
◆◆
「畜生。前なんかがキューサマの……」
再び聞くキューサマという言葉がミチオは気になったが、今はそれどころじゃなかった。
今のアルレシャは〈牙剣〉のダメージでロクに動くことができない。
今なら〈零弾〉を当てることができる。
〈零弾〉は最後の一手。
決まれば勝負を終わらせることができるが、外せば最後の一手を失うことになる。
だから、絶対に当てることができると同時に、周囲に金剛使いがいない時にしか使用できない。
ベテルギウスとの時は、やむを得ず使用したが、他の〈英雄の船〉がベテルギウスを見て〈零弾〉の仕組みに気付くかもしれない。
ましては、もう一人、同じ攻撃で倒れているのを見られたら、正体を知る確率はどんどん大きくなる。
この金剛は一撃必殺だが、知られてしまえば対策が立てられ、存在自体が無効化されてしまう。
ここで逃げるために〈零弾〉を使うことは、後々のことを考えると大きなリスクとなる。
だが、アルレシャは使わずに逃げ切れるような相手ではない。
そう考えたミチオは覚悟を決めて〈零弾〉を錬成し放とうとした。
「二人とも、勝負はそこまでだ」
背後から聞き覚えのある声が響く。
ミチオは振り返る。
そこには〈英雄の船〉のギャラク、プレセぺ、ヌンキ、サダルメイクが立っていた。
第68話 ザコくん。神液を注ぎ込まれる。
◆◆◆◆◆◆
「フォーマルハウトくん。そこまでだ」
「ギャラクさん……」
「ちょっと! 私はまだ」
アレクシャが叫ぶと、彼女の胸から血が噴き出し、足元がふらつく。
「サダちゃん」
ギャラクの呼びかけに反応し、サダルメイクはアレクシャめがけて何か投げる。
震える身体でアレクシャはそれを受け取る。
それはステンレスの水筒だった。
「飲め」
「……でもコレ……アンタのアレでしょ」
「そうだ」
アレクシャの顔が激しく歪む。
「どうした。死にたいのか?」
「私は別に。まだまだ平気だから……」
「いいから飲め。何を恥ずかしがっている。初めてじゃないだろ」
「その言い方はやめて」
「だったら、フォーマルハウトに渡せ。お前は直接だ」
「……わかった!」
そういうとアレクシャは水筒の蓋を開けて中身をゴクゴクと飲み干した。
そして残りを直接傷口にかけた。
中に入っていた液体が傷口にしみ込んでいく。
「くっ……」
アレクシャの頬が赤く染まる。
それは何かを我慢しているようだったが、苦痛ではなく気持ち良さに対する抵抗だった。
「……」
アレクシャの傷は回復した。
しかし、同時に身体に力が入らなくなり、その場に尻もちをついてドンと座り込んだ。
「それも星印ですか?」
ミチオはサダルメイクに尋ねる。
「そうだ。私のみずがめ座の星印は〈神液を注ぐ美しき少年〉、私が錬成した〈神液〉を飲めば、傷はすぐに癒える」
「……すごい」
ミチオはキトラの三摩耶形、甘露〈螺旋白蛇〉のことを思い出していた。だが、治癒系の金剛法術としては、はるかに上位ランクの力だ。
そして、アレクシャが回復したことで、ミチオの勝算はなくなった。
あの時、アレクシャに攻撃が決まった瞬間、〈零弾〉を打ち込んで彼女をダウンさせていれば、逃げ切れたかもしれない。
いや、すでにギャラクたちが背後から迫っていた以上。それは無意味だった。
もはや、ここまでか。
ミチオはアレクシャを見る。
「何よ?」
「えーと……」
尻もちをついて座り込んだアレクシャは立ち上がろうとしない。
「回復した私がアンタを攻撃すると思った? フォーマルハウトくん。馬鹿にしないで。そこまで落ちぶれちゃいないから」
「それじゃあ」
「コイツを飲んだ時点で私の負けってこと。そうでしょ。ギャラク」
「そういうことだ。フォーマルハウトくん」
「……よかった」
ミチオは安堵した表情を浮かべる。そして同時に全身から力が抜けるを感じた。
「フォーマルハウトくん!」
地面に倒れそうになったミチオを、サダルメイクが抱きしめる。
「すまない。水筒はアレ一本しかなくてね」
「え? それじゃあ……」
ボクは死ぬのか? せっかくここまで頑張ったのに。
ミチオの意識が遠のいていく。
「だから、直接。私の神液を君に注ぎ込む」
「え?」
そう言うとサダルメイクはミチオを抱きしめ。口づけをした。
ミチオの咥内に生暖かい感触が広がっていく。
ミチオの目前にはサダルメイクの顔が近づいている。
突然、とんでもないことをされてミチオは戸惑いドキドキする。
しかし振り払う力はミチオにはなかった。
肉体的苦痛と咥内に広がっていく生温かい感触によってミチオの意識を失った。
「マジでアレだけは勘弁だわ」
ミチオを抱きしめながらマウストゥーマウスを楽しむ、サダルメイクの愉悦の表情を見ながら、アレクシャはそう呟いた。
第69話 私のガニュメデス
◆◆◆◆◆◆
目を醒ますとミチオは、ベッドの上で寝ていた。
「……」
朦朧とする意識でミチオは周囲を見回す。
そこはキュウタと泊っている「野良犬」の宿だった。
「気がついたかい。私のガニュメデスくん」
耳元で誰かの囁く声がした。
「わっ!」
ミチオの目前には青白い表情をした彫刻のような美しい青年の顔があった。
「サササササ……」
「驚かせてゴメンね。私だよ。サダルメイクだよ。ガニュメデス……いや、フォーマルハウトくん」
サダルメイクはクールな表情で毛布から出る。
「あなた……何を?」
ミチオは慌てふためく。
「そんな言い方ないだろう。君を〈神液〉で癒し続けたボクに」
「……」
「廃ビルでのことは覚えてるかい? 私は星印で君を直接治療した。おかげで君の命は助かった。そこまではわかるかい?」
「はい」
「だったら少しは感謝してほしいかな」
「はい。……ありがとうございます」
ミチオは釈然としない気持ちだったが、とりあえずお礼を言った。
「でも、その後、君は気絶しちゃったんだ。いわゆるオーバーヒートってやつだね。君、内在と外在を同時に使ったでしょ。凄いね。でもそんなことすれば身体にどれだけの負担がかかるか想像できるかい?」
「……」
「まぁ、そこまで無茶しないと潜り抜けられない状況だったことは確かだよ。だから仕方ないし、むしろそんな無茶をさせたこちら側に責任があるとも言えなくはない」
「はぁ……」
「それに私の〈神液を注ぐ美しき少年〉は傷を癒すことはできるが、万能ではない」
「……」
「傷を癒すというのは、つまり細胞を活性化させて傷口を無理やり塞ぐことなんだ。だからその分だけ体力は消耗する。君の身体は無理やり力を使った影響で全身ボロボロだった。その疲れが一気に噴き出し、意識を失った」
「そうだったんですか」
「だからその後、私たちは君をこの部屋まで運んでベッドに寝かせた。そして私の〈神液〉を君の身体に染み込ませた。」
「あのぉ。最後まで言わなくていいです」
ミチオは遠回しに断った。
「でも、その後、君は気絶してしまったんだ。それにこれまでの無茶が祟ったようだね。君の身体はボロボロだった。だからボクの汗から錬成した神液で君を癒すために」
「あのぉ、それ以上は本当に聞きたくないです」
「君の寝顔。まるで天使のようだった」
「え?」
「全く君は罪な少年だよ」
そう言うと、サダルメイクは潤んだ瞳でミチオを見つめた。
ミチオの身体にどっしりと重たいものがのしかかる。
「こういうの何っていうのだろうね。確かひとめ」
ガチャ。
サダルメイクがミチオに何か言おうとした刹那、扉を開く音が聞こえた。
第70話 ザコくん。改めて〈英雄の船〉に加わる。
◆◆◆◆◆
「オーォーリィオーン」
「おー。ザコくん。目を醒ましたか」
サダルメイクが一目ぼれと言おうとした瞬間、ドアが開き、ギャラクたち〈英雄の船〉のメンバーが部屋の中に入ってきた。
「フォーマルハウトっしょ。ギャラっち」
「そうですよ。何であなたが星名で呼ばないんですか?」
「えー。なんかザコくんの方が言いやすいんだよね。だからザコくんで良くね」
ギャラクたちは自分の家に戻ってきたかのようにリラックスしている。
「あのぉ、ここボクの部屋なんですけど」
「なんだ。命の恩人に対してそんな言い方はないだろう」
「すっすいません」
ヌンキの威圧的な言葉にミチオはひるんで何も言えなくなる
「冗談よ」
「オーォーリィオーン」
プレセぺとベテルギウスが笑うがヌンキの顔は笑っていない。
「とりあえず服を着なさい」
「すいません」
アルレシャに睨まれてミチオはベッドにもぐりこんだ。
◆
その後、ギャラクは改めてミチオに試験に合格したと伝え〈英雄の船〉に招き入れた。
あんな殺し合いをした後で仲間だと言われてもミチオは困惑しかなく、もうこの人たちとは関わりたくないと思った。
だが、断ると余計こじれると思ったミチオはしぶしぶ承諾し、フォーマルハウトの星名を正式に譲り受けた。
ミチオとしては、こいつらとはこれっきりで二度と御免だという気持ちだったが、何故かギャラクたちには気に入られ〈英雄の船〉の面々はちょくちょく、ミチオを呼び出しては、カギュウの歓楽街に連れ出すことになった。
始めからミチオを買っていたギャラクはもちろんだが、意外なことに彼のことを一番気に入ったのはベテルギウスだった。
彼はミチオを呼び出しては、お酒が飲めるセクシーな恰好をした女の人がたくさんいるお店をハシゴした。
「オーリーオーン」としか言わないベテルギウスが何を喋っているのかミチオには理解できなかった。
だが、何度も合って声を聞いていると、発声やイントネーションの微妙なニュアンスの違いで、イエスとノー、機嫌が良い時と悪い時の違いくらいは理解できるようになった。
ベテルギウスを倒す際に使用した〈零弾〉のことを、彼がどの程度認識しており、その秘密を他の人間に漏らすかどうかがミチオの懸念材料だった。
だから彼の誘いを断れずに慎重に探りをいれようとしていたのだが〈零弾〉のことを言われたことは一度もなく、今もよくわからないまま、彼の夜遊びに仕方なく付き合っている。
プレセぺは、黄金蟹の甲羅を途中でかじって金剛を補給したことを話したら、二度とそんなことはするなと怒られた。
だが、それ以降は付かず離れずミチオとは付き合っていて、会えば世間話をするくらいには仲が良い。
ただ、彼女の相棒のヌンキは、ミチオのことをあまり良く思っていないようで、彼に気をつかってか、彼女から積極的にミチオに連絡することはなかった。
そして、サダルメイクはあれからミチオに話かけようとしなかった。
時々、「野良犬」のカフェですれ違うこともあったが、ただ遠くからミチオのことをジト―っと眺め、目が合うと「にたぁ」と笑みを浮かべるだけだった。
一方、ミチオに対しては敵意むき出しで、本気で殺そうとしたアルレシャだったが、その後は同じうお座として同朋意識を感じたのか、はたまた弟のように感じているのか、頻繁に話しかけてくるようになった。
どうやら最後の決着に彼女は納得がいってないようで、会う度に再戦をしようと誘ってくる。
ボクに勝てるわけがないでしょと言って、いつもミチオは断っていたが、彼女はそれが気に入らないようで、だったらアンタが私に勝てる自信がつくまで、金剛使いとして鍛えてやるといって、頻繁に「野良犬」のトレーニングジムに連れ出されるようになった。
ある日、ミチオはアルレシャが試験の時に言っていた「キューサマ」ってなんですか? と彼女に尋ねた。
アルレシャは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに「キューサマはあんなの大切な」と言って口ごもった。
ミチオは少し考えて、それがキシモリ・キュウタのことだと気づいた。
「もしかして、キューサマ(様)ってキュウタのことですか?」
「そうよ。他に誰がいるのよ」
「なんでキュー様って呼んでるんですか?」
「だってあの方は私の……って言わせないでよ。もう、バカ!」
そう言うとアルレシャはミチオの身体をポカポカと叩いた。
「ボクがキュウタの相棒だったから、あんなに怒ってたんですか?」
「そうよ。アンタみたいな、冴えない奴がキュー様の隣にいるなんて許せなかった。だからアンタをぶっ殺して、私があの方の相棒になろうと思ったの」
「さらっと酷いことを言いますねぇ」
「でも、アンタと戦って考えが少し変わった。あんたはショボいザコくんだけど、ただのザコくんじゃない。立派なフォーマルハウトよ」
「意味がよくわかんないです」
「金剛使いとして認めるってことよ。でも恋のライバルとしては絶対に認めないから!」
「ボクとキュウタは、そんなんじゃないですよ」
「じゃあ、何なのよ?」
「相棒……ですか。まだ使用期間中ですけど」
「そう。だったら私を応援しなさい」
「応援って何をすればいいんですか?」
「何ってそれは……」
「ミチオ。何してる?」
「あっキュウタ。実はこの人は〈英雄の船〉の」
「誰もいないぞ」
「あれ? アルレシャさん?」
憧れのキュー様に見られたアルレシャは、顔を真っ赤にして、その場から逃げ出した。
その後、キュウタは何度かアルレシャを紹介しようと試みたが、その度に彼女は逃げ出し、結局、遠くからキュウタを見つめることができなかった。
「なんで逃げるんですか」
「だって……」
キュウタの前から逃亡したアルレシャは、その度にミチオに愚痴をこぼした。
こんなに顔がかわいくてエッチな身体してるんだから、もっと自信を持てばいいのにとミチオは思った。
だが、それを自分が言うと変態野郎と怒られると思ったので、黙って彼女の愚痴を聞き続けた。
掲載は不定期です。




