第一部 金剛編 第四章 英雄の船 第48~52話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第48話 ザコくん。〈英雄の船〉に拉致される。
ギャラクと別れた後、ミチオとキュウタは「野良犬」の宿に戻った。
疲れたミチオはすぐにベッドに横になる。
「ミチオ」
「え? どうしたの?」
「明日から3日間、別行動だ」
「どういうこと?」
「行く場所がある」
「シモン?」
「有力な情報を手に入れたから、調べに行く。それだけだ」
「……わかった」
ボクもいっしょに行く。
ミチオはそう言いたかったが、キュウタの無言の圧力を感じて言えなかった。
最初に比べるとだいぶ距離は縮まったが、まだ大きな壁があって踏み込めないでいる。
だが、たいして仲がいいわけでもないのに慣れ慣れしくプライベートに踏み込んでくる同級生よりは居心地がよかった。
◆◆
朝になった。
ミチオが目を覚ますと、キュウタはすでに宿を出ていた。
書き置きもなかった。
せめて一声かけてくれればいいのに。
ミチオはさみしく思ったが、そのそっけなさがキュウタらしいとも逆に思った。
キュウタのいない部屋はいつもより広く感じた。
二人でいる時も必要以上のことを彼はしゃべらなかったので、静けさは同じくらいだった。
だが無言の圧のようなものを感じなくて済むためか、ゴドウ村にいた時のようなリラックスした気持ちになった。
3日間、キュウタは戻らない。
キュウタには何も言われなかったが、この3日間、ミチオは仕事を休むことにした。
これまで二人で行動してきた。
戦うのはミチオで、その姿をキュウタが記録した。
実質戦っていたのは自分なのでやろうと思えば一人でも戦えるだろうとミチオは思った。
だが、彼はザコくんゆえ、とても用心深かった。
一人で行動して何かあったら即命を落とす。
今まで一人で戦えたのは、キュウタという保険があったから。
その保険がない状態で一人で戦うことは、とても危険なことだった。だから余計なことはしない。
そうミチオは考えた。
この用心深さは彼が現在の自分の能力を低く見積もる臆病さゆえだったが、客観的に見てもその判断は正しかったと言える。
しかし、どれだけ自分自身が慎重にふるまったとしても、予想外のことは必ず起きる。
なぜなら予想外とはそういうことだから。
そんな現実の理不尽さを踏まえて行動するほどの周到さを持つには、彼の考えはまだまだ甘く、極めて平凡な15歳の少年だった。
「難しいことは後で考えよう」
ミチオはベッドに倒れこみ、とりあえずそのまま二度寝した。
◆
お昼ごろ、ミチオは目を覚ました。
まずは散らかっている部屋をかたずけた。
二人とも荷物は少なかったが、さすがに滞在するようになって長かったため、生活必需品が部屋にゴミとなって散らかっており、とても埃っぽかった。
ルームサービスのような気の利いたものはなかった。
申し分け程度に小さいキッチンはあったものの自炊をするような二人ではなかった。
せいぜいお湯を温めて、買いだめしたお茶を煎じて飲むくらいだ。
備え付けの冷蔵庫に買ってきたものを放り込んでいたが賞味期限の切れたものも詰まっていたので、ミチオは冷蔵庫を開けていらないものをゴミ袋に放り込んだ。
そして、部屋の中に置かれた箒でゴミをとり、水に濡らした布巾でテーブルや椅子を隅々まで拭いた。
「ふう」
一通り部屋を掃除するとミチオは疲れてベッドに倒れこんだ。
「お腹空いた……」
◆
ミチオは部屋を出ると「野良犬」の一階に降りて、ダイニングバーに向かいカウンター席に座った。
「すみません。何かください」
「サンドイッチでいい?」
「お願いします」
「ビールはどう?」
「すいません。ボク未成年ですので」
「あら。真面目ねぇ」
そういうとダイニングバーで料理を切り盛りするミケノ・ニアは笑った。
「ははは。ザコくんの旧世界ジョークは相変わらず面白いなぁ」
ミチオの耳元で聞きなれた太い声が響く。
「ギャギャギャギャラクさん!」
「噛んでるぞ。落ち着きたまえ」
ホリの深い顔の無精ひげを生やした男が大きな目でミチオを睨んでいる。
「おはようザコくん。いや、こんにちわかな? 重役出勤って奴だな、」
「どうしてここに?」
「おかしなことを聞くな。オレも賞金稼ぎだぜ。カギュウの斡旋所は「野良犬」だけだろ」
「じゃあ……」
「オレたち縁があるようだな」
ただの偶然だろうか。
ミチオはギャラクに待ち伏せされていたのではないかと警戒した。
しかし何のために?
「いっしょにいる彼、どうした?」
「キュウタですか。キュウタは今……別件で」
「じゃあ、ザコくん今、一人?」
「えぇ、まぁ」
「そいつは良かった!」
「そうだな」
突然、横から声が聞こえて、ミチオは隣を見た。
「はじめまして。ザコくん」
顔立ちの整った痩せた青年が話しかけてくる。
青年は優しく笑いかけるが、表情は冷たい。
暑苦しいギャラカとは真逆の印象だった。
「あなたは?」
「オレたちは〈英雄の船〉」
「オレたち?」
その瞬間、背後から強い圧を感じ、空気が重苦しくなった。
「オーリオーン」
ミチオの背後に大男が立っていた。
嫌な予感がしたミチオは、即座に席を立とうした。
しかしその瞬間、大男はミチオの両肩に手を置いて軽く掴み、上から下へと押し付けた。
「オォーリオーォン」
「大人しくしなさい。余計な動きをしたらこの場で首が飛ぶから」
ミチオはさっきまでギャラクが居た場所を見る。
彼の姿はいつの間にか消えて、ポニーテールの女が座っていた。
年齢は20歳くらいだろうか?
口紅が塗られた赤い唇はやわらかそうで、大きな目は宝石のようにキラキラとしている。
全身は外套と法衣で覆われているが露出した腕は引き締まっている。
街で見かけたらきれいなお姉さんでわりと好みと思ったかもしれない。
だが、喉元に突き付けた薄い布の先が剃刀のよりに鋭く、そんなことを考えている場合ではない。
そうミチオは思った。
布は女の髪の毛を縛っているリボンのようだが、刃物のように先端が尖っている。
「ちょっと! お店で喧嘩しないで」
「ごめん。ママさん。すぐ出るから」
いつの間にかカウンターから離れた場所にある暖炉の周りにあるソファーに腰かけたギャラカが大きな声で返答した。
ミチオはギャラカのいる方向を見る。
ギャラカの隣にはオールバックの武骨な男と金髪ボブの女が腰かけていて、こちらを見ている。
ミチオは考える。
今、バーカウンターに座っている自分の左右両隣にいる男女と背後にいて自分の両肩を抑えている大男。
そしてギャラカとその両隣の男女。
たぶん、この6人は全員〈英雄の船〉だ。
「ザコくん。ちょっとオレたちといっしょに来てくれないか」
「……わかりました」
彼に選択肢はなかった。
第49話 ザコくん。船に乗る。
◆◆◆◆◆◆◆
ミチオはギャラカたちに拉致されて「野良犬」から出た。
そしてカギュウの門から外に出た。
門を警護する衛兵はミチオを見た。
子どもの背後に大男、両サイドに大人の男女が立つ不自然な姿に衛兵は違和感を抱いたが、特に事件性はないと判断し素通りさせた。
商業都市のカギュウは元々、人の往来が激しく、異国の住人も商売で足を運ぶことが多かった。
そのため、多少珍しい衣服や武器を持っていたとしても、大して珍しくなかった。
ミチオのような賞金稼ぎも多かったため、いちいち取り合っていられないというのが、衛兵たちの判断だった。
そして、門を抜けるとミチオはしばらく歩かされ、村はずれになる廃ビルに連れていかれた。
廃ビルの階段を上り、最上階の5階の大広間へと到着すると背後の大男は肩から手を離した。
その瞬間、ミチオの身体はふわっと軽くなり、その反動で足がよろけ、地面に倒れた。
「オーリオン」
「ごめんよザコくん。少々乱暴なやり方になっちゃって。でも君が逃げたのがいけないんだよ」
「ボクに何の用ですか?」
「要件は昨日と同じだよ。〈英雄の船〉に君をスカウトしたい」
断ることは……できなそうだ。
「悪いけど、昨日から君たちをつけてたんだ」
「……」
「まぁ、オレたちも「野良犬」に世話になってるんで店長に部屋の番号をこっそり教えてもらって、後は交代で監視」
「おかげで寝不足」
ミチオの喉にリボンを突き付けたポニーテールの女が口を開いた。
「ほんと、お肌荒れちゃう」
金髪ボブの女がだるそうにつぶやく。
「でもまぁ、〈半邪鬼〉が出ていったのはラッキーだったよな」
「ちょっと、その名前はやめて!」
「へいへい」
オールバックの男は、ポニーテールの女に軽く謝った。
「目的はキュウタじゃなかったんですか?」
「うーん。そりゃ、彼は賞金稼ぎとしても金剛使いとしても優秀だと思うよ。ただチームプレーとなるとちょっと色々と難があってね。でもザコくんは俺たちとうまくやれると思って」
「もし断ったら……」
「彼……キュウタくんが帰ってきたらどう思うんだろうね。突然、相棒がいなくなって」
「……今、ボクは研修期間中なんで、逃げたとしか思わないとおもいます」
「うーん。君は自分の評価を低く見積もりすぎかな。ボクは君に凄い可能性を感じる。いずれはキュウタくんを追い抜くんじゃないかな」
「そんなわけないっしょ」
ポニーテールの女が嘲笑する。ミチオはイラっとしたし、少しでも好みと思った自分に腹が立ったが、確かにそのとおりだとも思った。
「買いかぶりすぎです。ボクは……ザコです」
「オレはねぇ、自分で自分のことをザコだと言う人間を簡単には信用しないよ。ザコくん」
そう言うとギャラカは笑ったが、目は真剣だった。
「ザコくんに足りないのは星印だけだ。契約さえすれば、君は強くなれる。金剛手と同じくらい。いや、それ以上に」
ギャラカの声は優しく自信満々だった。
ミチオは自分が一番欲しがっている言葉を言われたと思ってうれしかった。
しかし、だからこそ嫌な感じがしてならなかった。
だが、この状況でギャラクの申し出を断ればどうなるかは、彼を取り巻く5人の目を見れば明らかだった。
「わかりました。船に乗ります」
ミチオは観念した。
「おぉ、気の利いたこというね」
そう言うとギャラクは笑った。
「で、どうすればいいんですか?」
「まずは守護星を決めよう」
第50話。ザコくん。守護星を決める。
◆
「〈英雄の船〉に乗る者は、まず守護星を決めてもらう」
そういうとギャラカは指先に金剛を集めて、壁めがけて光の粒を発した。
壁に無数の光が点灯する。まるで宇宙に輝く星だとミチオは思った。
「驚いたか? 俺だってこれくらいはできるんだぜ」
「この光って恒星ですか?」
「おっわかるのか?」
「学校の図書館にある天体図鑑で何度か見ました」
「さすが、ザコくん!」
そんなことで褒められても。とミチオは思ったが内心まんざらでもなかった。
「じゃあ、話は早いな。この光は旧世界でなんとかっていう世界的団体が名前をつけた恒星で、その多くは星座を司る星となっている。この意味わかるか?」
「選んだ守護星によって使用できる星座の力が使えるってことですか?」
「そういうことだ」
「つまりそれが三摩耶形?」
「星印よ」
「すいません」
ポニーテールの女に怒鳴られて、ミチオはとっさに謝った。
向こうの言葉で言わないから怒ったのは頭では理解できたが、さっきからこの女だけどうも当たりが強い気がするとミチオは思った。
「まぁまぁ、とにかくそういうことだ」
「その……守護星を決めて、それにちなんだ星座がわかれば星印が使えるようになるということですか?」
「ははーん。そんな都合のいいことなんてあるのか? なんかリスクがあるんじゃないかとか考えてるな。ザコくん」
そういうとギャラクは自分の顔をミチオに近づける。
タバコと酒の臭いが鼻を刺激しる。
「えぇ……まぁ、その前から思ってたけど、ただ星印がもらえるだけじゃ、ボクの方にあまりにも有利過ぎて」
「……」
「普通、高額の報酬を払うとか、難しい任務に無理やり参加することになるとか、そういうのがあると考えるのが当然というか」
「煮え切らない男ねぇ。もっとスパッといいなさいよ」
「私はいいと思うな。ザコくんの洞察力すごい」
ポニーテールの女がミチオを批判すると金髪ボブの女がフォローするかのように褒める。ポニーテールの女は金髪ボブの女を睨むが、金髪ボブはそれ自体を楽しんでいるようだ。
「はっはっは。前も言ったけど、ノルマもペナルティはないよ。強いて言うなら強い仲間が一人でも欲しい。それが我々、〈英雄の船〉の求めていることだ」
「そうですか。わかりました。それで、どうすれば守護星は決まるんですか?」
◆
「大切なのはインスピレーションだ。気になった星を選びたまえ。それが君の星名となる」それが君の星名となる」
「星名……?」
「〈英雄の船〉でのコードネームといったところかな」
ミチオは宇宙の星を模したであろう金剛の光に目をやる。
図書館で星座の図鑑を見たのでなんとなくの位置関係はわかるが、恒星の種類まではわからない。
それにミチオが見た天体図鑑は旧世界のもので〈英雄の船〉のこの星の配列と同じかどうかは今の彼には判断できなかった。
「あのぉ、選びたい星座から逆算して守護星を選ぶってのはダメなんですか?」
「ん?」
「そっちの方が合理的かなぁと思って」
「それはつまり、ザコくんの中では選びたい星座がすでに決まってるってことなのかな?」
「三摩耶形も星印も大事なのはイメージですよね。イメージが明確じゃないと金剛の実体化は難しい。だったら……」
「最初から実体化が明確な星座を選びたい?」
「そうです」
「ちなみにザコくんが選びたい星座は?」
「うお座です」
「ザコくんだけに」
「はい……」
第51話 ザコくん。星名を得る。
◆◆
「そうかそうかそうか。つまりザコくんは〈魚〉という存在に何かを感じてるってことなんだね」
うお座と言ったのは、単純に自分の苗字がコザカナで昔からザコくんと呼ばれていたからだった。
だから、魚、それも小さな魚をイメージしただけなのにとミチオは思ったが、それも含めて自分は〈魚〉のイメージに何かを感じているのだろうか?
半信半疑のまま、ミチオは「はい」と答えた。
「先に答えを言うと逆引きで守護星を決めるのは有りだ。オレたちが望んでるのはあくまで強い仲間だ。そこに強いこだわりはない」
「じゃあ」
「ただ、うお座の席はもう埋まってるんだ」「ただ、うお座の席はもう埋まってるんだ」
「……」
「うお座も含まれる黄道12星座は一番人気でね。今は全部埋まってる。でもどうしても君が欲しい星座があれば、方法はあるんだけど」
「どうすればいいんですか?」
「戦って奪う」
「え?」
「殺してもいいよ。それも掟に含まれてるから。どうする?」
ギャラカがミチオを見る。背後の5人もすさまじい形相でミチオを睨んでいる。
「すいません。そこまでしてほしくないです」
ミチオは頭を下げた。
嫌々入った組織で所属メンバーを殺してそのポジションを奪うなんていくらなんでも不条理だ。
そんなことをしてまでエゴを貫いたら、他のメンバーにどう思われるかわからない。
無駄な争いは避けたいし、争ってまで星印なんて欲しくない。
何より、余計な恨みを買いたくない。
というのがミチオの正直な気持ちだった。
「そうか。でもインスピレーションは大事だと思うよ。そこまでイメージが明確なら、そうだな「みなみのうお座」なんでどうだ?」
「ピスケス・アウストリヲス?」
「みなみのうお座。水瓶座から流れる水を口で受け止める魚の星座だ」
ギャラクが人差し指を向けると、指の向こうにある7つの星が光る。
どういう原理で光ったのか、ミチオにはわからなかったが、この7つの星を結んだ線がみなみのうお座だということは理解できた。
「あまり強そうじゃないですね。でも……それでお願いします」
ボクの身の丈にぴったりだとミチオは思った。
「わかった。では君の星名はフォーマルハウトだ」「わかった。では君の星名はフォーマルハウトだ」
「フォーマル……ハウト?」
なんか偉そうな名前で恥ずかしいとミチオは思った。
その直後、ギャラクと後ろの5人が拍手をはじめた「おめでとう、フォーマルハウト」、
「おめでとう、フォーマルハウト」とミチオにエールを送った。
「ありがとうございます」
ミチオは恥ずかしがりながらも、頭を深々と下げてお辞儀をした。
「ちなみにフォーマルハウトが選ぼうとしたうお座が彼女」
「えっ?」
「おめでとうフォーマルハウト。私の星名はアルレシャ。これからもよろしくね。フォーマルハウト」
ポニーテールの女は笑顔でミチオを見ながら笑顔で話しかける。
目は笑っていなかった。
第52話 ザコくん。鬼ごっこすることに。
◆◆
アルレシャに続く形で他の者たちも自己紹介をはじめた。
「星名はヌンキ。守護星座はいて座だ」
オールバックで長身の中肉中背の男はヌンキと名乗った。
「星名はプレセぺ。守護星座はかに座どえーす。よろしくねフォーマルハウトくん」
金髪ボブの女はにやにやと笑いながら自己紹介した。
デニム生地のショートパンツ、へそ出しのシャツ、ゴツゴツとした黄色のスニーカーという、肌の露出の多い服装は健康的な色気が漂わせていた。
そのためミチオは、思わず目をそらしてしまった。
そんなミチオの戸惑う姿を見たプレセぺは、ニコッと微笑んだ。
「オォーリィオーン」
ミチオの肩を押さえつけていた巨漢の男はオリオーンと叫んだ。
「彼の星名はベテルギウス。守護星座は狩猟神座。べーやんはオーリーオーンしか言えないんだ」
ギャラクがベテルギウスについて説明する。
「オリオリオリ――――オーン」
「ごめんごめん。厳密に言うと、オリとオンの数を使い分けることで、微妙なニュアンスを表現してるんだ」
「オーリオン」
「はいはい」
ギャラクはべテルギウスと話しているがミチオにはベテルギウスが何を言っているのかさっぱりわからない。
「大丈夫、すぐ慣れるから」
「あたしは今だに何言ってるかわかんにゃいけどね」
そういうとぺルセぺが笑った。口元から八重歯がちらっと見えた。
ミチオは再び、ベテルギウスの顔を見た。
顔は端正で整っており鍛え抜かれた巨漢からは動物的色気が漂っているが、知性は一切感じられないと思った。
「星名はサダルメイク。守護星座はみずがめ座だ。フォーマルハウト、こんごともよろしく」
サダルメイクは淡々と自己紹介すると頭を下げた。
6人の中では一番丁寧な挨拶だったが、一番冷たく感じた。
見た目は華奢で手も足も細い。
顔はつるんとしていて、少女と言われても納得しそうだ。
だが、6人の中で現実感が感じられない。
一人だけガラス細工の彫刻が混ざっているようで、肌も青白く透き通っているかのようだとミチオは思った。
「そして俺がギャラクだ。君を〈英雄の船(アルゴ―)〉に歓迎しよう。君を〈英雄の船(アルゴ―)〉に歓迎しよう。フォーマルハウトくん」
「ありがとうございます」
「ただし、ここを無事に出られたらな」
◆◆
「え? どういうことですか?」
「なーに。単純な鬼ごっこだ。ここから猛ダッシュで一階まで降りて、「このビルから脱出すできれば、フォーマルハウトくんは晴れて〈英雄の船〉の仲間入り」
「鬼は誰が?」
「オレを除く、この5人だ」
「えっ?」
5体1。しかも5人は星印を持っている金剛使い。
「そんなの無理です」
ミチオは即座に断った。
「まぁまぁ、落ち着け。これはあくまで試験だ。こいつら5人を倒せって言ってるわけじゃない」
「私は参加しない」
サダルメイクがクールに口を開いた。
「えーサダっち、なんで?」
「私の星印は元々、戦闘用じゃない。だから見物させてもらう」
「そっか。よかったなフォーマルハウトくん。じゃあ4体1だ」
サダルメイクとギャラクは不参加。
それでも未知の金剛使い4人を相手にするなんて、いくらなんでも分が悪い。
「あのぉ、星をお返しするってんじゃダメですか?」
「それはダメだな。どんな理由であれ、君は自らの意思で星を選んだんだ。フォーマルハ ウトくん。その運命に逆らうことはできない」
「ちっ!」
ミチオは舌打ちをするやいなや、下に降りる階段めがけて走った。
「いい判断だ」
ギャラクは走り去るミチオの背中を見て、そう呟いた。
掲載は不定期です。




