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最強のザコ(なろう版)  作者: 或亜豊
第四章 英雄の船
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12/31

第一部 金剛編 第四章 英雄の船 第42~47話

『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。


カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856




小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。


また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。


ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。

第43話 ザコくん。〈英雄の船〉に誘われる(1)



「お前ら〈英雄の船(アルゴ―)〉に入らないか」


 カギュウの露店街を歩いていたミチオとキュウタは突然、彫りの深い顔の男に話しかけられた。


 無精髭を生やし、ギラギラとした目、太い眉毛という暑苦しい顔。


 だが、歯が真っ白で身なりが綺麗だからか、清潔感と愛嬌を感じさせる男だ。


 そうミチオは思った。


「〈英雄の船(アルゴ―)〉?」


「簡単に言うと野良(ノラ)金剛使い(ヴァジュラシ)の互助団体だ。お前ら、金剛(アダマス)が見えるんだろ?」


「えぇと……アダマスって?」


「隠すなって。お前が空中を漂う金剛(アダマス)を目で追ってたのは、見てたんだぜ」


「あっ金剛(ヴァジュラ)のこと」


「ほら。やっぱり知ってた」


「あ……」


 ミチオはしまったと思った。


「もしかしてお前ら〈()〉か?」


「それは……違います」


「ははーん。試験に落ちたな」


「……」


「隠さなくてもいい。〈英雄の船(アルゴー)〉の多くは〈()〉になれなかったならず者の集まりだ」


「そうなんですか?」


「飯をおごる。少し話を聞かないか?」


 ◆


 男に誘われ、ミチオとキュウタは露天街の外れにある小さな飲食店に入った。


「好きなものを頼んでくれ」


「では、オレンジジュースを」


「水」


「遠慮するな。ここはクラフトビールがうまいぞ」


「ボク……未成年なので」


「はは。お前面白いな。旧世界ジョークか?」


「酒は好きじゃない」


「そうか。じゃあ、オレだけ頼む」


 そういうと男はウェイターに飲み物を注文した。


「時間がない早くしろ」


「キュウタ!」


「はは。随分、せっかちだな。おっ、自己紹介がまだだったな。オレの名はギャラク。お前らと同じ野良(ノラ)金剛使い(アダマスター)だ」


「アダマ?」


「悪い悪い。金剛使い(ヴァジュラシ)の俺たち流の呼び名だ。」


「あっ、そうですか。よろしくおねがいします」


「〈英雄の船(アルゴー)〉は野良(ノラ)金剛使い(ヴァジュラシ)の互助団体だが、金剛使い(ヴァジュラシ)じゃない賞金稼ぎも入会してる」


「メリットは?」


 キュウタは冷たい口調でギャラクという男に話しかける。


 一方、ミチオはギャラの姿を注意深く観察していた。


 身長は180cmくらいで筋骨隆々。鍛えられた身体と自信満々の態度を見るに賞金稼ぎの戦士みたいだ。


 そして改めて見ても顔は彫りが深く暑苦しいが、愛嬌があり、何を言っても嫌な感じがしない。


「お前ら。三摩耶形(サマヤ)ほしくないか?」


「……三摩耶形(サマヤ)は〈()〉しか持てないんですよね。それも代々、〈金剛手(ヴァジュランテ)〉の一族に生まれた貴族だけ」


 キトラのようなゴドウ家の者。と心の中でミチオは付け足した。


「おっ詳しいな。じゃあ言い方を変えるぞ。三摩耶形(サマヤ)のような特別な力がほしくないか?」


「〈英雄の船(アルゴー)〉に入るとそれができるんですか?」


「そういうことだ」


「そんな事……」


 三摩耶形(サマヤ)とは金剛を用いて生み出された特殊な武器や防具、あるいは生物だ。


 その名称、造形、能力は旧世界の神々に由来するものとなっており、ゴドウ家の三摩耶形(サマヤ)は旧世界におけるインド系の神々の武器や神獣に由来していた。


「お前らゲ賊と戦っただろう。金剛使い(アダマスター)が二人いなかったか?」


「それは……」


「ルーキーの数は少ないからな。バレバレだ。特にキシモリ・キュウタが連れてきた仲間だからな。


「野良犬」では話題沸騰だ」


「そうだったんですか?」


「お前ら目立ってるぞ。キシモリ、お前は気付いてたろ」

 

 ミチオは驚いた。これまで、自分たちがどう見られているかなんて気にする余裕なんて彼には全くなかった。


「野良犬の店長とは腐れ縁でな。ちょくちょく情報をもらってるんだ。最近面白いガキが入ったって言われてな。気になってあとをつけてたんだ」


「……はぁ」


「話を戻すぞ。ゲ賊の二人。あいつらも実は〈英雄の船(アルゴ―)〉に席を置いててな」


「そうなんですか?」


まぁ、交流はほとんどなかったし、やつらが山賊稼業で悪さしてたことは仲間内でも問題になってたんで、俺たちで粛清するつもりだったんだ」


ミチオはゲ賊の二人との戦いを思い出す。


ゲ・ローは燃える吐瀉物を吐いて攻撃する時に確かデュオニソスと行っていた。


 そしてゲ・ソ―は体内からイカの化け物の触手を吐き出した。


 確か名前はイカロス。


「あっ……あの人たち、金剛(アダマス)星印(アスタリスク)って言ってました」


「あぁ。星印(アスタリスク)三摩耶形(サマヤ)と同じ、特殊な金剛(アダマス=ヴァジュラ)を錬成する法術(ダルマ)だ」


「イカロスとデュオニソスって確かギリシア神話に出てくる名前ですよね。……イカロスはイカじゃないですけど」


「おっ詳しいな」


「学校の図書館に籠もってたんで」


 そう言うとミチオは恥ずかしそうに笑った。


「だったら三摩耶形(サマヤ)の由来もわかるか?」


「仏教……ですか?」


「他にも色々あるが、まぁ正解だ」


「じゃあ、星印(アスタリスク)はギリシア神話由来の三摩耶形(サマヤ)


「そう捉えてくれてOKだが、良い意味で何でも有りだ」


「目的を言え。なぜオレたちを誘う?」


 キュウタが会話に割って入った。


「目的か。まぁ、困った時に助け合おうって感じだ。会費はもちろんノルマも特にない」


「興味ない」


 キュウタはぶっきらぼうに返答した。


「まぁ、君はそうだろうけど。でもザコくんは違うんじゃないかな」


「どういうことです?」


星印(アスタリスク)、欲しくないか?」





第45話 ザコくん。〈英雄の船〉に誘われる(2)



「それは……」


 ミチオはゴドウ村で感じた屈辱を忘れてなかった。


 三摩耶形(サマヤ)さえあれば、ゴドウ一族に舐めた態度を取られずにすんだ。


 だがナメられていたからこそ、キトラとユキマサを出し抜くことができた。


 そう考えると結果的に三摩耶形(サマヤ)を持たない凡人生まれの境遇は自分にとってプラスに働いていたと言える。


 だが三摩耶形(サマヤ)があれば〈()〉になりエリートコースを歩めた。


 そうなればもっとラクに生きられたかもしれないが、そしたら今キュウタとも会っていなかった。


 つまり三摩耶形(サマヤ)の有無によって被った損害も祝福も対した差ではないようにも感じる。


「気持ちわかるぜ。〈()〉になれなかった屈辱は野良の金剛使い(アダマスター)なら誰もがわかることだから」


「何が言いたい?」


「オレたち〈英雄の船(アルゴ―)〉の目的は〈()〉と野良の勢力均衡化だ。だから〈()〉に匹敵する三摩耶形(サマヤ)、つまり星印(アスタリスク)を持つ野良の金剛使い(アダマスター)を一人でも増やしたいと考えている」


「……」


三摩耶形(サマヤ)と違って星印(アスタリスク)は特別な生まれの者だけが独占できる力じゃない。金剛使い(アダマスター)なら誰でも習得できる開かれた力だ」


「凄いですね」


「どうだいザコくん。〈|英雄の船《アルゴ―』〉に入らないか。そしたら金剛星印(アダマス・アスタリスク)を顕現させる方法、教えてやるぞ」


「ご注文のクラフトビール、オレンジジュース、ミネラルウォーターお持ちしました」


 その時、ウェイターが飲み物を持ってきた。


「おぉ、来たな。デュオニソスに乾杯!」


 そう言うとギャラクはビールを飲みほした。


 一方、ミチオはオレンジジュースのストローに口をつけ、一気に飲みきると「キュウタ出よ」と言って席を立った。


「ザコくん?」


「すいません。用事があったのを思い出しました。あっオレンジジュースありがとうございます。この御礼は後日改めてします」


 そういうとそそくさとミチオは店を出ていった。





第46話 ザコくん。ヤバイと感じる。


店を出てカギュウの露店を早足で歩くミチオにキュウタが話しかける。


「どうした?」


「ごめん。勝手に決めて」


「オレは構わない。だが、ミチオにとっては悪い話じゃなかった」


「だからかな」


「どういうことだ?」


「条件が釣り合わない場合、何か向こうが隠している可能性がある。でもそれが何なのかボクにはわからなかった」


「あいつは何も隠してない。オレはそう思う」


「実はボクもそう思ったんだ。でも“だからこそ”やばいと思った」


「……」


「それにギャラクさん。凄く感じが良くて、いつの間にか向こうのペースに巻き込まれてた。たぶん、あと数分話してたらボクはあの人に好感を持って信用してたと思うけど……」


「……」


「そのことが「とても怖い」と思った。だからひとまず逃げたんだ」


「そうか」


 キュウタはそれ以上聞かなかった。

 

 ◆


 ミチオとキュウタは露天街に置かれている商品を眺めていた。


「野良犬」に戻るとギャラクと鉢合わせになり、また向こうのペースに巻き込まれるんじゃないかと不安だった。


 キュウタはそんなことはどうでもいいという感じで無関心だったが、あのまま話を聞いていたら知らず知らずのうちに〈英雄の船(アルゴ―)〉に入ってしまうんじゃないかと心配だった。


 悪意を持って睨みつけてくるヤツよりも愛嬌を持って近づいてくるヤツの方が何倍も恐ろしい。


 そう感じるのは、幼少期に行商といっしょに現れた宣教師に無理やり入信させられそうになった嫌な思い出があるからなのかもしれない。


 そんなことをミチオは思い出していた。


 露店街の端まで歩き店がなくなった所で、大きな広場が広がっていた。


 もう行き止まりかと思ったミチオは「野良犬」に戻ろうとしたが、広場から怒鳴る声がして振り返った。




第47話 地獄のカギュウブラザーズVS異教徒軍団



「貴様ら、異教徒だな! ツラを見せろ!」


「……」


 屈強な男5人がフードで顔を覆った5人に絡んでいる。


 絡まれている5人は体型がバラバラで、それぞれ怪しげな仮面を身に着けている。


「あいつらは地獄のカギュウブラザーズ。カギュウ一族の王子様だ」


 突然、背中越しに話しかけられ、ミチオは振り返る。


「ギャラクさん?」


「突然逃げるなんて酷いなぁ、おじさん傷ついちゃう」


 そう言うとギャラはニカッと笑った。


「つけてきたのか?」


「いやぁ、偶然歩いてたら君たちを見つけて」


 ギャラクはしらばっくれる。


「でもまぁ、ここで偶然会えてよかったよ」


「どういうことですか」


「見ろ」


 そう言うとギャラクは広場に目をやった。


「あいつら5人はカギュウの王子様。通称・地獄のカギュウブラザーズ。全員〈手〉だ」


 カギュウの男たちは全員屈強な肉体の持ち主で、顔には象徴文字のような刺青が施されている。


 そして彼らの周辺には凄まじい量の金剛(ヴァジュラ)が渦巻いている。


 一方、異教徒集団は一人だけカギュウの男たちに匹敵する巨漢がいる。


 だが、他はカギュウ兄弟と比べると小柄で、体型から想像するに女と老人も混ざっているようにも見える。


 勢力的には5人対5人だがまともにぶつかりあえばカギュウブラザーズの圧勝で、勝負にならないだろう。


 圧倒的な暴力によって異教徒を屈服させようとする高圧的な姿は醜悪そのものだが、この国においてカギュウ一族は絶対的存在。


 下手に介入すれば、国家反逆罪で投獄されるか死刑。


 だから自分とは無関係な怪しい異教徒に助け舟を出そうというものは、そこに誰もいなかった。


 それはキュウタとミチオも同様で、あくまで他人事として事の経緯を見守っていた。


「なんだお前」


 小柄の戦士が一歩前に出て、人差しをクイクイと動かした。


 それは「かかってこい」という露骨な挑発だった。


 ボロボロのマントをまとった異教徒集団の中でも最弱に見える戦士がナメた態度を取ったことに対してカギュウブラザーズの一人が怒りを露わにした。


 そして、背中に背負った金棒で殴りかかった。


 だが、異教徒の戦士はサラリと変わった。


「てめぇ」


 他のカギュウ兄弟も武器を手に殴りかかる。しかし異教徒は軽やかにかわしていく。


 その姿は子どもが鬼ごっこをしているかのようだが、遊んでいるのは異教徒の側であり巨漢のカギュウ兄弟は完全にコケにされていた。


「はぁはぁはぁ」


 カギュウ兄弟は疲れ果て呼吸が乱れている。恐るべきは異教徒の側だ。


 小柄の戦士が逃げ回っている間、残りの4人は平然としていた。


 それは戦士に攻撃は絶対に当たらないという絶大なる自信の現れであった。


 小柄の戦士カギュウ兄弟にくるりと背中を向けて歩き出す。


「ふざけんじゃねぇ」


 兄弟の一人が力を振り絞り起き上がると手に持った金棒に金剛を集約する。


三摩耶形顕現(サマヤ・アヴァターラ)……。牛頭鬼角(ゴシャルーシャ)獄卒阿傍(ゴクソツアボウ)


 男の金棒に金剛(ヴァジュラ)が絡みつき、先端に牛の頭部が現れる。

 カギュウは二対の角を異教徒に向け、突き刺そうとする。


 だが、異教徒の戦士はすぐさま振り返り、牛角に触れる。すると金棒を覆う金剛が飛び散り、雲散霧消した。


「馬鹿なッ!」


 カギュウ兄弟は戦意喪失。異教徒たちは無言でその場を立ち去った。





第46話 呼び名の違い。


  

「何が起きたんだ?」


「主導権を奪ったんだ」


「主導権?」


金剛(ヴァジュラ)の。そして三摩耶形(サマヤ)を解体した」


「そんなことできるんですか?」


「いや、俺も初めてみた……」


 ミチオはギャラクの顔を見る。額からべっとりとした脂汗が流れ、上下の歯を強く噛みしめている。


「おそらくあいつらの国の金剛魔術(アダマス・マギア)だな」


「あの人たちも金剛使い(アダマスター)なんですか?」


「そうだな。呼び方は違うだろうが」


「呼び方?」


「お前らが呼んでいる金剛(ヴァジュラ)……あれは〈()〉の呼び名だ。俺たちは金剛(アダマス)と呼んでいる。それは知っているな」


「はい」


「各国の金剛使い(アダマスター)……まぁ、この呼び名も国によって異なるみたいだが……待機中に漂うアレの呼び名は国によって異なるし、顕現できる存在も三摩耶形(サマヤ)星印(アスタリスク)など様々な呼び方がされている」


「言語みたいなものですか」


「そうだな。ある国ではりんごと呼び、ある国ではアップルと呼ぶ。だが内実は同じ赤い果物だ」


「なるほど」


 ギャラの得意げの解説に、ミチオは納得した。


「本当は同じものなのに呼び名が違うせいで別の存在のように思われている。厄介だよな。統一してほしいよ」


「どれにだ?」


 突然、キュウタが割って入る。


「え?」


「どの言葉にだ?」


「それは」


「もちろんアダマスだろ」


 そういうとギャラクがニカッと笑った。


「……」


「何だ、お前らとしてはやっぱ、ヴァジュラか?」


「興味ない」


 吐き捨てるようにキュウタは言った。


「これが原因だ。たった3人でも意見がわかれる。統一なんてできるわけがない」


「じゃあ、仕方ないですね」


「だが、そうは問屋が降ろさない」


「何が言いたい?」


「言語を一つに統一するかのように自国の概念で金剛ヴァジュラを統一したいと思う組織がいたとしたらどうなると思う」


「戦争だ」


「御名答。バァーン!」


 ギャラクは戦争と言ったキュウタに人差し指を向けて、拳銃を撃つような構えをして、そう答えた。


「残念ながらそれがオレたちの現実だ。そしてカギュウを含めたこのエリアは帝都に支配されている」


「……」


「帝都を束ねるのは須弥山の〈()〉、対する〈英雄の船(アルゴ―)〉は野良の互助会。人数はそこそこいるが、戦力差は絶大。正直に言うと対立にすらなってないのが現状だ。理由は」


三摩耶形(サマヤ)……」


「オレたち風に言うと星印(アスタリスク)


「サマ……星印(アスタリスク)の使い手を増やすことで〈()〉に対抗するってことですか?」


「最初っからそう言ってたじゃねーか」


「でも、何かペナルティがあるんじゃないですか。その……星印(アスタリスク)を身につけると」


「呪いみたいなものか? ないない。あと、誤解してるかもしれないが〈英雄の船(アルゴ―)〉に入ったからと言って〈()〉と敵対するってわけでもねーから」


「そうなんですか?」


「まぁ、野良ノラ金剛使い(アダマスター)は所詮、下請けだからな。奴らが本気を出したら俺たちなんてイチコロだ。だからせめて安く買い叩かれないようにしたい。そのためにはある程度の人数と力が必要なんだ」


「だからボクたちを」


「いきなり勧誘したのは悪かったな。入会はとりあえず保留で構わないが、星印が欲しくなったらいつでも声をかけてくれ」


 そういうとギャラクは歓楽街に消えていった。








掲載は不定期です。



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