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最強のザコ(なろう版)  作者: 或亜豊
第四章 英雄の船
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11/31

第一部 金剛編 第四章 英雄の船 第38~42話

『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。


カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856




小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。


また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。


ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。

 第38話 ゴドウ三きょうだいの旅立ち


 ◆◆◆


 ミチオがキュウタと村を出て数日後。

 

 ゴドウ家から3人の若者が旅立とうとしていた。


「ヒョンス、キトラ。お前たちは金剛手(ヴァジュランテ)の資格取得のため、ユキマサと共に帝都の須弥山(シュミセン)学院で学んでもらう。しばらく会えなくなるのは寂しいが、二人とも私の自慢の子どもだ。きっと立派な〈()〉となって、戻ってきてくれると信じている」


 ゴドウ家をとりまとめる父長のゴドウ・ダイナソウは、3人の子どもに語りかける。


「父上、私にまかせてください。二人を無事帝都まで連れていきます」


 顔を上げてゴドウ・ユキマサが口を開く。


「そうだな。故郷から帝都に無事たどり着くのも試験の一部とされているが、ユキマサが同行してくれるのであれば問題はないだろう。持つべきものは優れた兄だな」


「はい!」


 ヒョンスとキトラは同時に声を上げた。


「ところで、どうしてお前たちはマスクをつけてるんだ?」


「そっそれは」


「顎を怪我しているのか?」


 ダイナソウは怪訝そうな表情でキトラに尋ねる。


「うん。少し腫れてて」


 キトラは父と目を合わさずに答える。


「大丈夫です。骨には異常はありませんので、数日もあれば腫れは引きます」


 そう語るユキマサの顎も実は真っ赤に腫れていた。


「しかし、どうして二人が同じところを怪我してるんだ?」


「それはですねぇ」


「ヒョンス!」


「兄ちゃん!」


 ユキマサとキトラが同時に声を発し、ヒョンスの声を遮った。


「何だ? 知られたらマズいことか?」


「すみません」


「……まぁ、いい。お前たちくらいの年なれ言いたくないことの一つや二つはあるだろう」


「……」


「だがこれだけは行っておく。もしも怪我の理由がお前たち二人にとって耐え難い屈辱なら、その原因は元から絶て。そうでなければお前達の一生を縛る重い呪いとなる」


「……」


「若い時の失敗は「買ってでしろ」と言われているが、お前たちの人生はこれまで恵まれ過ぎていた」


「……」


「もちろんお前たちは自分たちの境遇に甘えることなく、ゴドウ家の人間としてふさわしい者となるため、腕と心を磨いてきた。そのことは私が一番認めている」


「……」


「だが、その失敗のなさこそお前たちの脆さだ。〈手〉の戦いは何が起こるかわからない。たった一度の失敗が命取りになりかねん」


「……父ちゃん……私」


「言わなくていいキトラ。ただ自分が成すべきことを成すのだ」


「……はい」


「そろそろ時間だ」


「行ってきます」


 ダイナソウはユキマサ、ヒョンス、キトラの3人を同時に抱きしめた。配下の者たちは4人の姿を見て涙ぐんだ。





 第39話 ザコくんと言っていいのは私だけ。


 ◆◆◆


「ちょっと、ヒョン兄! 絶対言わないで言ったでしょ」


「ごめん。でも親父たぶん、怪我の理由、わかってたと思うよ」


「えぇ?」


「まぁ、詳しいことまではわかってないと思うけど、二人が誰かと戦って負けたことぐらいは察していたと思うな。あぁ見えて勘の鋭い人だから」


「……」


「でもオレも信じられないなぁ。キトラはともかくユキマサ兄さんまで、やられるなんて」


「「私は」ってどういう意味よ?」


「まぁまぁ、そうつっかかるなって!」


 あの日、キトラとユキマサはミチオに敗北した。


 数時間後、ミチオの攻撃で気を失っているキトラとユキマサの姿を発見したのは、ヒョンスだった。


 二人の話を聞いたヒョンスは、二人がコザカナ・ミチオという男と戦い、同じ理由で負けて意識を失ったことを知って驚いた。


「二人が意識を失った理由は、顎に何かが直撃したことによる脳震盪。そう考えて間違えないと思う」


「状況証拠だけを考えると確かにそうなる。だが、私は彼の攻撃を受けた瞬間の記憶がないんだ」


「私も……」


「顎を直撃したのは、コザカナ・ミチオの三摩耶形(サマヤ)?」


「それはない。ザコくんは庶民の生まれだし、金剛(ヴァジュラ)の存在を知ったのはわずか二年前。むしろ、三摩耶形(サマヤ)が使えないことに悩んでた」


「それ自体が、嘘だったとしたら?」


「はぁ? 何でザコくんが嘘つくのよ?」


「キトラをいつか倒すため?」


「……」


 キトラは俯いて、ぶるぶると震えている。


「ごめん。でも現実はちゃんと見つめないとね、今後のためにも」


「……うん」


「一番気になるのは、ザコくんの攻撃が二人に命中したことなんだ。金剛(ヴァジュラ)を発動すれば必ず気配が生まれるし、金剛使い(ヴァジュラシ)ならすぐに察知できる。でも二人はその気配を察知できなかった。だから攻撃が命中した。それで間違えないよね?」


「あぁ」


「……うん」


 ユキマサとキトラはしぶしぶ頷いた。


「でも、そんな法術(ダルマ)ってある? ゴドウ家の経典にもそんな三摩耶形(サマヤ)は書かれてなかった」


須弥山(シュミセン)の経典にもそんな三摩耶形(サマヤ)はないよ」


「待ってよ。ザコくんは私たちゴドウ家のような由緒ある家柄の生まれじゃない。単なる庶民のガキ。それは2年間いっしょにいた私が保証する」


「そうだね。キトラはザコくんのこと、何でもお見通しだからね」


「どういう意味よ!」


「別に」


 そういうとヒョンスは笑った。


「お前たちは相変わらずだな」


「どういう意味よ!」


 キトラがぷんぷんと怒っているのを見て、ユキマサとヒョンスが笑った。


 ◆◆◆


「ところでキトラ。ザコくんといっしょにいた、あの男は誰だ?」


「え? 誰?」


「たしかキシモリとか呼ばれていた。元々、私たちが追ってた金剛(ヴァジュラ)の気配は、彼のものだった」


「村外れで感じたアレ?」


「あぁ。あの気配の源流を探ったところ、私はあの男と遭遇した」


「ボクとキトラはそのキシモリって奴は見てないけど、どんな奴だったの?」


「鋭い目つきの少年だった。年齢はヒョンスと同じくらいかな。それ以上に驚いたのは顔半分と左手が硬質化していた」


「それって」


「あぁ、あいつはおそらく、石獣(ヒビワレ)だ」


「でも兄貴はあいつと喋ったんでしょ。ってことは意識があるんじゃないの? それって人間ってことじゃん」


人型石獣(ヒトガタ・ヒビワレ)ってやつだ。おそらく彼は金剛(ヴァジュラ)で皮膚自体を硬質化している」


「そんなことって」


「〈()〉の間では〈内在〉と呼ばれている法術(ダルマ)だ。須弥山(シュミセン)では邪法として禁止されている」


「そんなヤバい奴なの?」


「印象でいうと……悪鬼羅刹、いずれは魔王クラスのバケモノに堕ちるかもしれない。キシモリに脅されて、ザコくんは私と無理やり戦うことになったが、先にキシモリと戦っていたら、私の命がなかったかもしれない」


「ユキ兄……」


「すまない弱音を吐いて。だがお前たちにだけは本当の気持ちを言っておきたかった」


「そうじゃなくて。……ザコくんって言うのはやめて」


「ん?」


「ヒョン兄もだよ。ザコくんをザコくんって言っていいのは師匠のワタシだけだから!」


「ぷぷぷ」


「ちょっと、ヒョン兄なんで笑ってるの」


「別に」


「もー」


「二人とも、ケンカはやめよう。とにかく私の言いたいことは、ザコくん、じゃなくてえーと」


「ミチオ、コザカナ・ミチオ!」


「あぁ、ミチオくんだったね。彼はあのキシモリに操られているんじゃないかということだ」


「じゃあ、ザコくんが使ったのは、邪法の力」


「それなら、私とキトラがやられたことにも納得がいく。そうじゃなければ、ザコくんがそんな力を出せるはずがない」


「……」


「ザコくんはキシモリに洗脳されてるのかもしれない」


「うーん。現時点では情報がなさすぎてわからないな」


「きっとそうだよ。そうじゃなきゃザコくんが私に逆らうわけない」


「で、どうするの?」


 ヒョンスが二人に問いかける。


「ボクたちはこれから帝都に向かうんだけど、二人のことを追う?」


「……」


 ユキマサとキトラはヒョンスの顔を見た。


「父さんが言ってたことってそういうことでしょ。黒幕がキシモリかどうかはわからないけど、二人がザコくんに負けたのは確かだよね」


「うん」


「このままザコくんたちを無視して帝都に言っても二人はこの敗北を一生引きずると思うんだ。特に兄貴はこのことを須弥山に知られたら〈()〉の資格を剥奪されるかもしれない」


「それは……」


 須弥山学院では在学中に金剛手(ヴァジュランテ)の資格試験を受ける。ユキマサはすでに金剛手(ヴァジュランテ)の資格を習得し〈デーヴァ〉の位に登録されている。

 

 里帰りのためゴドウ村に戻れたのも、彼が〈()〉の資格を所持していたからだった。


 見ず知らずの男に敗北したことでペナルティを受けることは仕方ないだろうとユキマサは覚悟していた。


 だが、須弥山(シュミセン)に戻るまでに、キシモリ・キュウタとコザカナ・ミチオを倒すことができれば、汚名を挽回できる。


「二人はザコくんを追うべきだと思うよ。まぁ、僕は無関係なんでどっちでもいいけど」


「帝都には向かう。だが、立ち寄った街で二人の情報も集めよう。ザコくんはともかく、キシモリが邪法を操る金剛使い(ヴァジュラシ)、あるいは人型石獣(ヒトガタ・ヒビワレ)ならば、〈手〉として見過ごせない」


「わかった。キトラもそれでいい」


「いいけど……二人ともザコくんって言わないで」


「あっ」


「ははっ、ごめんなんか本名よりも言いやすくて」


「それにキトラの手紙にずっとザコくんザコくんって書かれてたら、なんか他人って感じしないんだよな。ちょっと親しみが湧くというか」


「何よそれ? とにかく、ザコくんって言っていいのは私だけだから!」





 第40話 ザコくん。熊型石獣と戦う。


 ◆◆


 ゲ賊討伐を果たした後、ミチオは「野良犬」に貼り出されている依頼をこなしていった。


 依頼の多くはカギュウの国境に出没する行商を狙う盗賊や野生の石獣の討伐だった。

 

 賞金は討伐対象一体につき、銅貨1~5枚(現在の日本円で1~5万円)。


 ゲ賊のナンバー5が銀貨5枚だったことを考えると格下である。


 ただし、賞金の額とターゲットの強さは必ずしもイコールではなかった。


 銅貨1枚の敵であっても10体以上いることもザラである。


 敵の潜伏先によって戦い方も大きく変化する。


 また、賞金首の金額が上昇するのはその被害が確認されてからで、個人や団体が賞金を書けない場合は、そのエリアを統括する一味(カギュウ国ならカギュウ一族)が懸ける。


 逆にいうとターゲットの情報や被害状況が少ない場合、懸賞金は低く抑えられている。


 ゲ賊のナンバー5のゲ・ソーが銀貨5枚だったのは、彼が金剛使い(ヴァジュラシ)であるという情報がなかったからだ。


 もしもその情報がカギュウに伝わっていたなら、懸賞金は間違えなく引き上げられていた。


 暴走した時の危険性を考慮するならば金貨1枚でも足りないくらいである。


 銅貨1枚の賞金首とは情報がほとんどない状態を示しており、実は恐ろしい能力を秘めていることも少なくない。


 だから油断は禁物だった。

 

 その日、ミチオとキュウタは村外れに出没する石獣(ヒビワレ)の討伐へと向かっていた。クマガタ

 

 ターゲットの石獣(ヒビワレ)熊型(クマガタ)。報酬は銅貨5枚。


 皮膚の表面に赤い水晶がびっしりと張り付いている。


 大きさは4つんばいになった小学生の子どもぐらい。つぶらな瞳がとてもかわいい。


 同時に赤い水晶が放つ光はどこか魅惑的で、かわいさと妖しさが全体からみなぎっていた。


「何かかわいいね。ぬいぐるみみたい」


「外見に惑わされるな」


「……うん」


 ミチオは熊型の前に立って戦闘態勢に入る。


 装備はゲ賊と戦った時のままだった。


 革の鎧の中にはすでに鏃状にした〈尖弾(センダン)〉を仕込んでいる。


 鏃を立てて皮膚に張り付けた状態は魚の鱗のようで、並の攻撃ならこれで弾くことができる。


 だから防御に関しては準備万端だったが……


「爪に気をつけろ。当たれば即死だ」


 キュウタの言葉を聞いたミチオは意識を集中する。


 大気中に散らばる金剛がミチオの周辺に集まる。


 金剛の流れが変わったことに熊型が気づく。


 相手はすでにこちらの気配に気づいていたが、ミチオたちが殺気を向けない限りにおいては無関心だった。


 おそらく自分を襲う人間や野生動物と何度もやりあってきたのだろう。


 殺し合いに相手は慣れている。


 射程距離に入ったらすぐに襲ってくる。


 お互いの射程距離が重なる瞬間に全てが決まる。


 こういう時の戦い方は2つ。


 あえて敵の攻撃を受けて、耐えきった所で攻撃にうつる。


 もしくは相手が攻撃を繰り出す前に攻撃を仕掛ける。


 前者の場合、敵の攻撃に耐えきる防御力があることが前提だ。


 どんな相手でも攻撃の後は必ず隙ができる。そこを付けば勝てる。


 だが、相手の攻撃力がこちらを守備力を上回っていた場合はこちらが終わる。


 では先手必勝を狙うか? 


 この場合は一撃でこちらが仕留められなければ、反撃に遭って終わる。


 両者の攻撃力と防御力が拮抗していれば、二手三手の戦略が立てられるが、熊型のような野獣タイプにそれは通じない。


 だったら一撃で仕留めないといけない。


 ミチオは射程距離を測り〈零弾(ゼロダン)〉での決着を狙った。


 問題はどこを狙うか?


 人間と同じように顎を狙うとして熊にそれは通じるのか?

 

 相手が人間ならば複数の尖弾に紛れ込ませて攻撃を放つが、こいつの場合は一発だけの方がいい。


 むしろ攻撃してくること自体に気づかれてはならない。


 ひっそり、ゆっくり、殺意を込めずに冷静に撃つ。

 

 大丈夫だ。これまでにもうまくやってきた。


 いける。


 そうミチオが考え〈零弾(ゼロダン)〉を放とうとした。


 だが、その時、熊型石獣(クマガタ・ヒビワレ)の背中に光る無数の赤い水晶がミチオ目がけて放たれた。





 第41話 ザコくん。熊型石獣と戦う(2)


 ◆◆


 熊型石獣(クマガタ・ヒビワレ)の攻撃は鋭い爪による攻撃で、射程距離に入らなければ安全だとミチオは考えた。


 しかし熊型(クマガタ)の攻撃パターンはもう一つあった。


 それが背中の赤い水晶を〈尖弾(センダン)〉として発射する遠距離攻撃だった。


 動物ゆえに単純な攻撃しかできない。


 そう思った賞金稼ぎはミチオと同じように距離をとって様子を伺ったが、その隙をついて攻撃されてバランスを崩したところで鋭い爪で肉を引き裂かれ、命を落とした。


 人間のように高度な知性を持たない石獣(ヒビワレ)には金剛使い(ヴァジュラシ)のような高度な金剛(ヴァジュラ)は使えない。


 せいぜい金剛(ヴァジュラ)でコーティングした皮膚や爪で攻撃するのみ。


 そう推測して動く人間の油断を利用して熊型はこれまで生き残ってきた。   

 

 だから熊型(クマガタ)はミチオに対しても、これまでと同様、赤い水晶の〈尖弾(センダン)〉による遠距離射撃を仕掛けてきた。


 これまでの金剛使い(ヴァジュラシ)ならこれで勝負は決まったのだが、熊型(クマガタ)もまたミチオを過小評価していた。


 ミチオは鱗状にしていた〈尖弾(センダン)〉を一気に解き放ち、熊型の赤い水晶による〈尖弾(センダン)〉を迎撃した。全弾命中し赤い水晶は空中で全て砕け散った。


 何が起きた? 


 熊型(クマガタ)は困惑して動きが止まった。

 

 そこに生まれた一瞬の隙をミチオは見逃さずに〈零弾(ゼロダン)〉を放った。


 狙ったのは右目だった。


 熊の毛皮、そして皮膚を覆う赤水晶が顎に覆われていた場合、人間と同じように攻撃が入らない可能性があるとミチオは考えた。


 右目に〈零弾(ゼロダン)〉が命中したことで熊型は混乱して冷静さを失う。


 その混乱をついて、ミチオはあえて懐へと飛び込んだ。


 そしてサバイバルナイフで、左目を突き刺した。


 両目を失い、さらに混乱した熊型は赤水晶の〈尖弾(センダン)〉を四方八方に放出しながら、鋭い爪を振り回す。


 しかしその攻撃は威勢の良さとは裏腹にまったく根拠のないもので、引いた目で見ればそれが悪あがきであることは誰の目にも明らかだった。


 一方、ミチオは〈内在〉を用いて〈鈍刀(ドントー)〉を錬成。


 〈内在〉ゆえに意識の伝達率が高まったためか、刃先は鋭く尖っている。


 それをそのまま熊型の心臓の位置に突き刺した。





 第42話 ザコくん。熊型石獣と戦う(3)


 ◆


 ミチオの攻撃で絶命した熊の体が赤い粒子となって大気中に散っていく。


 ミチオはいつものように赤い粒子を口の中に吸い込んだ。


 これまでは生理的に抵抗のあった石獣(ヒビワレ)の捕食だが、今回は迷いなくその行為をおこなった。


 一歩間違えば命を落とすという極度の緊張感の後だとためらう気持ちは全くなかった。


「キュウタも喰べる?」


「お前の獲物だ。オレは何もやってない」


 タブレットデバイスで熊型(クマガタ)の遺体を撮影しながらキュウタは答えた。


「そうか。そうだね」


「それにこいつを喰っても意味がない」


「どういうこと?」


「こいつの皮膚の金剛(ヴァジュラ)、赤いだろう」


「そうだね」


金剛(ヴァジュラ)には色がある」


「うん」


「赤を取り込んでもあまり意味がない。ものによっては副作用の危険もある」


「そうなんだ。ってじゃあ、ボクは?」


「体調はどうだ?」


「どうって言われても?」


「吐き気や悪寒がないなら問題ない」


「キュウタは?」


「透明と黒以外は口に入れてすぐに吐いた」


「そうなんだ」


「なんともないのか?」


「と思うけど……」


「お前……凄いな」


「そうなの? よくわかんないけど」


 ◆◆


「オレたちが金剛(ヴァジュラ)とひとまとめにして呼んでいるものは、実際は様々な鉱石の集合体らしい」


「そうなんだ」


石獣(ヒビワレ)が死んだ時に雲散霧消する粒子の多くは無色透明で微弱な電流を発するが、まれに赤、青、黄、紫、黒といった違う色の光を発つものがある」


「……」


「この熊型はおそらく赤い光を放つ金剛を大量に摂取したんだろうな」


「そうなんだ。色の違いって何なの?」


「もしかして、見えてたのか?」


 色の話をしても平然と返答したミチオに、キュウタは驚く。


「はっきり見えるようになったのは最近だけど……」


「……」


「見えるのは基本的には透明のやつだけで、電流が走る時の金の光くらいだけど、時々、青とか紫とか、いろんな色の光が見える時がある。でも目の錯覚かなぁと思って」


「色は見てるものじゃない。感じてるものだ」


「そうだね」


 ミチオは金剛を知覚した時のことを覚えていた。


 金剛の光は目をつぶっても見える。


 それは視覚とは違う感覚で金剛の気配を感じているからだった。


「それで、赤い金剛を取り込むとどうなるの?」


「さあな」


「さあなって」


「おそらく一定量の光を取り込むと覚醒する」


「覚醒?」


「新しい金剛法術(ヴァジュラ・ダルマ)……あるいは三摩耶形(サマヤ)


「キュウタの左手みたいな」


「これは……別のものだ」


「そうなんだ……」


 ミチオはキュウタの左腕について聞こうか迷ったが、それ以上は何も聞けなかった。


 当初よりは会話は増えたが、キュウタには気軽に踏み込むことができない世界があるとミチオは思っていた。





掲載は不定期です。



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