第一部 金剛編 第三章 ゲ賊 第33~36話
『最強のザコ』は、カクヨムで連載している作品です。
カクヨム版はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818792440121150740/episodes/16818792440121414856
小説家になろう版は、カクヨム版にあった暴力描写、性描写をゆるめた全年齢対象作品となっています。
また、一回の投稿で5000文字以上(3~5話分収録)としています。
ストーリーは同じですが、媒体に合わせて描写や文字数を変えているので、読みやすい方を選択ください。
第33話 ザコくん。ゲ賊と戦う(2)
◆◆
防具屋で小さなプレートが魚の鱗にようにつながっているスケイルアーマーを見て、金剛法術に応用できないかと、ミチオは考えた。
肉体と接触のない〈尖弾〉は〈外在〉、手に直接持つ〈鈍刀〉は〈内在〉の方が速く硬い練成ができる。
では、全身を覆う〈薄膜〉はどうか?
答えは〈内在〉。
〈外在〉で〈薄膜〉を練成すれば時間のロスが増えてしまい、戦いにおいては後手後手となってしまう。
〈内在〉と〈外在〉を自由に使い分けて戦えるのが理想だが、今の自分にその器用さはない。
ならばどうすれば。
もっとも理想的な戦い方ができるか?
と悩んでいた時にスケイルアーマーを見たミチオは、だったらすべてを〈尖弾〉に変えてしまえばいいと考えた。
ゲ・ローとの戦いでミチオは〈尖弾〉を練成することだけに意識を集中した。
武器はサバイバルナイフを使用したが、〈薄膜〉を発動する際には尖弾を魚の鱗のように全身に貼り付けた。
〈尖弾〉を一度に発動できる量は4発+気配の察知されない〈零弾〉の5発のみ。
しかしこれはある程度の攻撃能力を持った大きさと強度の弾を練成する場合のみ。
攻撃のために操ることを考えなければ、小さな鱗状の甲片を練成すること自体は簡単だった。
ぶっつけ本番の危険な賭けだったが、ミチオはこの賭けに勝ったのだ。
◆
「マジかよ。ローがやられちまった」
ゲ賊の4人に動揺が走る。
「でもアイツ、ヘトヘトだぜ。今ならヤれる」
「バカ、後ろにもう一人いるだろ。あいつはあのガキより確実に強い。オレにはわかる。あの目つき、佇まい。タダもんじゃねぇ」
「じゃあ、どーする? 逃げるか?」
「どーする。スーちゃん」
スーは焦っていた。
確かにコイツを倒しても後ろのガキにやられちまう。
ここは退散すべきだ。
これまで積み上げてきた山賊稼業の経験が危険信号を発していた。
俺たちはチンケな小悪党だ。強い奴との戦いを避けて、自分たちより弱い奴を狙う。
今までそうやって生きてきたじゃねーか。
逃げよう。
それこそが最高の選択だ。
そう決意したスーが3人に言おうとした瞬間。ナンバー5の新入りのソーが一歩前に出た。
「やるじゃねーか。おめー」
「おい、ソー」
「賊長。ここはオレに任せろ」
「いや、退却だ。逃げるぞ」
「やりてぇんだよ!」
ソーは大声をあげた。
「おい、ガキ。お前とローの戦いを見てヒリヒリしたぜ。山賊稼業も悪くねーが、やっぱ血が滾るっつーか。これこそVBだよな」
「VB?」
「金剛戦のことだよぉ! ところでお前」
「……」
「イカは好きか?」
第34話 ザコくん。ゲ賊と戦う(3)
◆
「オレは海辺の街で生まれた。生活は貧しいその日暮らしだったが、釣り竿さえあれば食い物には困らなかった。流石に毎日毎日、魚だと飽きるけどよぉ。時々、イカが取れるんだ」
「……」
「オレはイカを焼いて、おやつ代わりに焼きゲソを食ってた。次第にオレはイカのフォルムに見せられるようになった。10本の足、左右に張り付いた目。そして烏帽子のような胴体。知ってるか、イカの身体ってなぁ。足が生えてる方が頭なんだぜぇ」
ソーは延々とイカについて話し初めた。
ソーは新入りで、ゲ賊の中では寡黙で仲間とは距離を置いていた。
粗暴で短慮という意味では5人はそっくりだったが、ソーは他の4人とは違う独自の世界を心の中に持っていると4人は思っていた。
「だからよぉ。オレはいつしかイカになりたいって思うようになったんだ」
「……」
「親兄弟はみんな馬鹿にしたよ。まぁバカにするやつはその度にボコってやったけどなぁ。オレのことをバカにするのはかまわねぇ。だがなぁ、イカをバカにする奴は許さねぇ!」
「何が言いたいんですか?」
「お前、イカは好きか?」
「……食べたこと……ないです」
「はぁ?」
ソーの顔つきが変わった。
「たっ食べたことないだと?」
「だって……うちの村、山奥だから海は見たことないし。時々、市場に売ってたけど、イカ……高くて」
「じゃあ、タコは食ったことあるか?」
「……たこ焼きなら…」
「タタタタ……タコが食えてイカは食えねぇってことか!?」
「それはたまたまで」
「いや違う。おめーはイカを食おうと思えば、いつでも食うチャンスがあった。おめーが身につけている鎧とナイフ、結構な値段だ。そんなもん揃えるヨユーがあるなら、どーしてイカを食わねぇ!」
「……?」
「つまりよぉ。おめーはよぉ。見下してるんだよ。イカのことをよぉ! だからこれまでの人生で一度も食おうと考えなかった。謝れ! イカに謝れ!」
「ごっ、ごめんなさい」
ソーに気迫に圧されてミチオは思わず謝ってしまった。
しかし自分が何に対して謝っているのかわからなかった。
自分はイカを見下していたのか?
だから今までイカを食べなかったのか?
いくら考えてもわからない。
「だからおめーにイカの本当の強さ。美しさを思い知らせてやる」
そう云うとソーは目を瞑り強く念じた。
「金剛星印〈十腕形上目槍頭墨群〉」
ソーの口の中から十本の触手が飛び出す。
触手はそのままミチオめがけて飛んでいった。
ミチオはサバイバルナイフで弾こうとしたが、触手はニュルっと滑り、かわされる。
その隙に別の触手が握っている手を弾き、ナイフが地面に落ちた。
ミチオはソーの顔を見る。
口から触手を出てきたイカは頭部、もとい胴体にあたる烏帽子のような部分だけは腔内に潜ませたまま、ソーの口から顔を出している。
「ゴボゴボゴボォ」
口が塞がっているため、ソーはまともに喋ることができないが口から出てきた金剛の触手が十本の鞭となって自分を狙っていることを、ミチオははっきりと理解できた。
雨あられとなって十本の触手が飛んでくるのをミチオは必死担ってかわす。
「ソーのイカ。相変わらずエグいな」
「コイツを食らって生きてる奴はいねぇ」
「あのガキ終わりだな」
まさか、ここまでとは。
想像を絶する攻撃にミチオは翻弄されながら、なんとか次の一手を食らわせなければと、思考を張り巡らせていた。
触手を避けて頭部の下に潜り込み〈零弾〉を食らわせる?
しかしそれは効くのか?
どうすればいい?
ミチオはキュウタの方を見る。
キュウタは平然としている。
どういうことだ?
ボクがこんなに追い込まれてるのに。
キュウタは何も思わないの?
まさかこのままボクを捨て石にする気?
キュウタに裏切られたという気持ちが一瞬よぎったミチオだったが、今の彼に絶望している余裕はなかった。
沈んだ気持ちに引っ張られて足の動きを止めれば、たちまち触手の犠牲になる。
だから動けるうちは動き続けなければならない。それが生きるということだ。
第35話 ザコくん。ゲ賊と戦う(4)
◆
ミチオが防戦一方となって2分を過ぎようとしていた。
短期間の激しい動きで呼吸が乱れ、動きは少しずつ鈍くなっていく。
このままだと確実にやられる。
やるしかない。
一か八かの賭けだが、このままだと負ける。
そう思ってソーの身体を見た時に、奇妙な違和感がミチオの頭をかすめた。
何かおかしい。
ミチオはソーの口から出ているイカの触手が一回り大きくなっているように見えた。
一方、ソーの身体は一回り小さくなっている。
ソーとイカに対する恐れの感情がやつらを大きく見せているのだろうか?
いや、違う。
これは幻覚ではない。
イカがでかくなり、男の身体が小さくなっているのだ。
もしかして、ソーの金剛は〈内在〉……?
だとしたら体内の金剛で、あのイカを練成しており、金剛は常時、あのイカに送り込まれている。
だからイカの方はでかくなっているが、肝心の胴体は痩せてきている……のか?
同時にミチオはイカの触手の動きが雑な大振りになっていることに気づいた。
一つ一つの攻撃はパワフルだが間隔が大きくなってきており、精度が落ちている。
これなら避けられる。
敵の攻撃をリズミカルにかわすと同時に少しずつ前に足を進めるミチオ。
間合いを狭め、タイミングをみて懐に飛び込もうと考えていたが、そこで触手は間合いを見誤り、触手と触手が接触してお互いを弾いてしまった。
今だ!
ミチオは一気に間合いを詰めて、ソーの真下に入りこむ。
そこから〈零弾〉をソーの下顎めがけて発射した。
〈零弾〉の直撃を下顎に受けたソーは脳震盪を起こし意識を失った。
◆
意識を失い、ソーの身体は地面に倒れた。これでミチオの勝利は確定したかに思えた。
しかし、ソーの口から露わになったイカの触手はまだぐにゃぐにゃと蠢いていた。
すでに金剛と本体の主従関係は逆転していたが、ソーの意識が失われたことで肉体の主導権は完全にイカの側へと移ったのだ。
ブシュー。
イカは外套膜から大量の水を吹き出すと自らの身体を天高く吹き飛ばす。
そして、ミチオたちから遠く離れた場所に落下し、砂煙が舞った。
何が起きたんだ?
予想外の行動にミチオの動きが止まる。
ミチオだけでなく、ゲ賊の3人もあっけに取られて動けなくなっていた。
「逃がすな!」
キュウタはミチオめがけてそう叫んだが、その瞬間、再びイカは自らの身体を天高く吹き飛ばした。
今度は落下してこなかった。
グライダーのように頭部のヒレを翼にしたイカは空中を漂いながら、はるか遠くへと飛んでいった。
同時に上空からなにかが落ちてきた。
それは、かつてソーだったものの肉体だった。
まるで脱皮するかのように、ソーの口から抜け出したイカの金剛は、空の彼方へと飛んでいった。
なんだったんだあれは?
さっきまで命のやり取りをしていた男はイカに身体を乗っ取られて姿を消してしまった。
これが金剛なのか?
「イカって飛ぶんだ……」
あっけにとられたミチオは思わずそうつぶやいた。
第36話 ザコくん。ゲ賊と戦う(5)
◆
気持ちを切り替えよう。
ミチオはゲ賊を見た。あと3人。しかし、ゲ賊は残り2人となっていた。
「コーのやつ。さっきのどさくさで逃げやがった」
「どーするスーちゃん」
「投降しよう。命あっての物種だ」
ゲ賊のリーダー・スーは両腕を上げた。
「ちっ」
ナンバー2のドーもしぶしぶ手を上げる。
ナンバー4のコーは逃亡。
ナンバー5のソーも巨大イカとなって逃亡。
人間部分は遠方の砂漠に落下。回収できず。
「ミチオ、終了だ」
「え? ……うん。わかった」
◆
キュウタはゲ賊の3人(スー、ドー、ロー)の手を縄でしばり後手にして拘束すると、3人の姿をタブレットで写真に収めた。
記録をとらなかったゆえに報酬の支払いが遅れた前回の失敗を繰り返さないため、キュウタはミチオの戦いの一部始終を動画で記録していた。
実はこれまでにも咄嗟の戦闘になり、倒した証拠となる記録を取れなかったがゆえに、報酬の支払いが遅れたことが何度かあった。
案件によっては支払いそのものがなくなることもあり、記録係を別に入れることも検討していたのだが、なかなかメンバーが揃わなかった。
「今回は記録できたね」
「あぁ」
「キュウタが戦う時はボクが記録するの?」
「頼む」
「二人で戦う時は?」
「動画は無理だ」
「戦い優先だもんね」
二人は軽い雑談をしながら峠を降りていた。
「なぁ、これからオレたちはどうなるんだ?」
ゲ賊のナンバー2、ドーがキュウタに話しかける。
「カギュウ家に引き渡す。その後は向こうと話せ」
「なぁ、俺たちは悪事を働こうと思ってこんなことをしたわけじゃねぇんだ」
ドーは弁明を始める。
「最近、街の出入りが激しくなっただろ。中には見るからに怪しい異国の組織もいる」
「……」
「少しでも危ない奴らを村に入れないように、俺たちは自発的に関所を作って、ヤバい奴らを排除してたんだ。言うなれば自警団って奴だ」
「カギュウ家に言え」
「なぁ、お前たちからも減刑を提言してくれないか? いっしょに戦った仲だろ」
「見苦しい真似はよせ。ドー」
「スーちゃん!」
「だからその呼び方はやめろって」
「でもよぉ~。街のために頑張ったんだぜ。俺たち。それが最後はムショ行きだなんて。あんまりだよぉ」
「なぁ小僧。逃げた仲間はどうなる?」
スーはドーを無視してキュウタに話しかけた。
「報告する。決めるのはカギュウ家だ」
「そっか……」
「……ねぇ、キュウタ。あのイカも石獣なんだよね」
「あれはむしろ三摩耶形に近い存在だ」
「イカは口から出てきた。あれは……」
「〈内在〉だ。おそらく体内に蓄積された金剛を具現化されたのがあのイカだ」
「あいつ。途中から動きが変だった」
「金剛が本体を侵食して、肉体の使用権を奪ったんだろう。ミチオの最後の一撃がダメ押しになって意識も奪われた」
「あぁ」
「〈内在〉の一番の問題点はそこだ。長時間使用している肉体における金剛の侵食率が高まっていく。侵食が進むほど金剛の力は増していくが、それと引き換えに肉体の主導権がうばわれ、最後は心も食われる」
「……だからキュウタは手だけなんだ」
「オレは25%に侵食率を抑えている。30%を超えると兆候が現れ、50%を超えたところで肉体の主導権を奪われ、心が食われると先生から言われた」
「そっか……」
「ミチオ、気づいてたんじゃなかったのか?」
「え? 初めて知った」
「逃げることで時間を稼ぎ、侵食率が50%を超えるのを待っていたんじゃないのか?」
「……キュウタにはそういうふうに見えていたんだね」
ミチオはキュウタが何も指示を出さない理由を知った。
「〈内在〉には時間稼ぎが一番の攻撃になる。覚えとけ」
「わかった。ねぇ、あのイカ。どうなったの?」
「あの男の潜在意識に残された欲望に従って行動する」
「人を襲うってこと?」
「それはねぇだろ」
キュウタとミチオの会話のスーが割って入った。
「アイツはゲ賊の中でも一番優しい奴でな。女を輪姦す時も一人だけ仲間に加わらなかった。だからどうにもノリが合わなくてな。実力はピカイチの癖にイカのことばかり話して鬱陶しかった」
「いつもスルメを食ってるから、イカ臭かったしな」
「だが、オレはアイツのそんな純粋なトコが嫌いじゃなかった。あいつ、いつも言ってたぜ。生まれ変わったらイカになりたいって。だから本望じゃねーか」
「それは別に……人を襲わない理由にはならないと思います!」
ミチオは身勝手なゲ賊の言い分にイラッとして、お思わず口を挟んでしまった。
「あぁ?」
「すいません……」
「ソーを倒した奴が何ビビってんだよ。戦闘力とリアクションが噛み合ってないんだよ。テメーは」
「はぁ」
「アイツはイカになって、たぶん故郷の海に飛んでったんだと思う。まぁ、砂漠の先の先だから、無事たどり着けるかわかんねーけど。うまく帰れたらいいのにな。海に」
「そうですね」
できれば人を襲わずに静かに暮らしてほしい。そうミチオは思った。
第37話 ザコくん。コードネームを決める。
◆
街に入るとキュウタとミチオは街の治安を守る警察官のいる派出所に向かった。
派出所からカギュウ家に連絡が行き、ゲ賊の3人は回収された。
どうやら街の刑務所に収監され、その後、カギュウ家によって裁判が行われるらしい。
ゲ賊に対しては何の思い入れもなかったが、できれば死刑は避けてほしいとミチオは思った。
ゲ賊の三人を引き渡した後、その足でキュウタとミチオは「野良犬」に向かい、仕事が終わったことを報告した。
警察で受け取った証明書と記録の動画を受付で提出すると、報酬はその場で支払われた。
逃げられた二人の懸賞金を差し引いた銀貨90枚が支払われた。
同時にミチオが賞金稼ぎとして正式登録が認められた。
金剛使い(ヴァジュラシ)との二連戦を一人で戦ったことが評価された。
「新人でここまでヤれたのなら文句はないだろう。正式登録の証だ。受け取れ」
そう言うと受付の男は、塗装が剥げ落ちた古い小型タブレットを渡した。
旧世界で使用されていたこの電子デバイスはアプリ機能の多くが使用不可となっており、電話やインターネットも使用できなかった。
しかし、写真、動画、文書作成といった内部の機能は健在だったため、「野良犬」では賞金稼ぎに登録された人間に対して一台支給することとなっていた。
タブレットで戦いの様子を記録し、報告の際に提出するというのが、野良犬の取り決めだった。
「キュウタ。タブレットを貸せ」
受付の男はキュウタからタブレットを受け取るとケーブルをつないで、今では希少となった旧世界の遺物・ノートパソコンに記録を移動させた。
「それで、コードネームは決めたか」
「お願いします」
「なんだ、弱そうな名前だな」
「昔からこう呼ばれてて。でも結構、好きなんです」
ミチオは名前の記入欄に「ザコ」と書いた。
掲載は不定期です。




