デデムシ
遺書
前々からの用意のもので申し訳ございませんが、これをもって私、碓久辺都子の人生の結語に代えさせて頂きます。
誰も怨みには思いません。
先立つ理由を以下に三点書き記させて頂きます。
まず一点、私が生涯をかけて打ち込むと決めていたものが、最早楽しくないのです。
研究に打ち込むほど見当違いの方向を向き、ついぞ一文字も筆が進まなくなってしまいました。
生きる意味を失って、なぜまだ徒に時の牢獄に囚われる必要がございましょうか。
二点、私はお見合いなど望んでおりません。
家やしがらみに縛られまいと、夜遊び、男漁りなど浅ましくも淫蕩の限りを尽くしましたが、それでも私はあなた方の愛娘であって、御家の血脈を繋ぐ縁であると、そこからはとうとう逃げ切ること叶いませんでした。
生きて虜囚の辱めを受けず、などと高説振るつもりもございませんが、耐え難い現実から逃避する弱さをどうかお許しくださいませ。
三点、自由に生きてみようと考えましたが、どうすれば自由になり得るのか、象を喪ってしまったのです。
普通の生き方をしてみようと、各種企業に応募をするも悉くに落選。
かと言ってこの道の先行きは停滞と鬱屈。
さりとて女の幸せなどに縛られたくもございません。
酒を鱈腹飲もうが、性の快楽に身を任せようが、最後には決まって渦の中心に引き戻され、もはや行き場もございません。
事ここに至り、では自由とは何かと今一度考えを改めまして、このように世を去る決意を固めた次第です。
以上三点、到底納得に足るものではないということは百も承知にございます。
しかし、敢えて述べるのであれば、私は放逸をこそ望み、享楽をこそ愛し、強迫をこそ慈しみ、戯れに生きて戯れに死ぬ、そんな生き物として生を受けたのです。
どうか先立つ不幸をお許しください。
あなた方の愛娘は、人間として不適格でした。
さようなら。
追記
かの詩仙に肖って末期に水面の月でも掬おうか、などと飲酒に興じる最中の思いつき故、乱文ですが書き加えさせて頂きます。
この遺書は敢えては誰にも公表することなく、私の亡骸と共に秘密裏のうちに荼毘に付してください。
この世にたった二人だけ、嫌いに思う人間が居るのです。
私の死を巡って藻掻き彷徨う蛞蝓共の矮躯に、天上からぱらぱらと塩を掛けてやりたい気分なのです。
自己満足のことですので、分からなくとも構いません。
せめて死にゆくものの願いとして、叶えてくだされば幸いに存じます。
碓久辺都子




