第9話 さようなら魔王様
「お前何考えてんだよ、母ちゃん誘拐するなんて卑怯だぞ!」
「もっといい情報をくれてやろう。お前の母親はな……私に惚れている」
「何だよ! やめろよ! 母親の色恋の話なんて聞きたくねえよ!」
「恥ずかしがることはない。母である前に女なのだ。お前ももう大人だ。わかるだろう? お前の母親は私に会いたいがあまり、私のいる独居房に引っ越してきた」
「監禁ってそういうことかよ!?」
いやそれは魔王様が家を燃やしちゃったからじゃないの……?
「私という恋の檻に閉じ込められて、もはや出ることはかなわぬ」
「うるせえよ、この野郎!」
魔王は勇者の向かいの席に座ると、食べ残しでぐちゃぐちゃの味噌煮込みカツ定食を勇者に差し出した。
「お前の母親は、いやきよ子は、毎晩私の腕の中で泣いているぞ。息子がグレてしまって辛いとな」
「きよ子って呼ぶな! あと生々しい言い方すんな!」
いやここ異世界でしたよね? きよ子って名前の人もいるの? そしてきよ子の息子はグレたなんてかわいいレベルじゃないし。
「だがな勇者よ、母親が息子を心配する気持ちはいつの時代も変わらないのだ。これを機に心を入れ替え、きよ子を泣かせるようなことをするな」
「だからきよ子って言うなって! ……でも、まあたしかに母ちゃんには迷惑をかけたと思ってるよ。女手一つで俺を育ててくれたのに、こんな親不孝なことをして……」
勇者が机に顔を伏せた。
こんなやつでも、やっぱり母親の言葉は胸に来るのかもしれないな。
「ほんとは俺もわかってたんだ。いつまでもこんなふうに生きていくことなんてできないって。散々人を裏切って、傷つけて、本当に申し訳ないと思っている」
勇者の頬に一筋の涙が流れた。
「姫も、魔王も、本当に悪かった! 許してくれとは言わない。でも俺、変わるから! 約束するよ。母ちゃんに恥じない人間になる!」
「勇者……」
姫がつられてほろりとする。
「魔王ではない。お父さんだ」
「はあっ!?」
「もうすぐきよ子と結婚する予定だからな。そうなればもうお前は私の息子だ。お父さんと呼びなさい」
ちょっと展開早くない!? 魔王VS勇者じゃなくて、ここ親子関係になるってこと!?
泣いていた勇者が不敵ににやりと笑った。
「だれが呼ぶかよ、クソったれ!」
勇者がひらりとテーブルを飛び越えると、さっそうと出口に向かって走り出す。
「もともとこんな場所、さっさと脱走するつもりだったんだ。あばよ、魔王!」
「魔王ではない、お父さんだ!」
魔王様も追いかけようと走り出し、扉の前でピタッと足を止めた。
そして振り返り、私を見つめる。
「やつはとんでもないものを盗んでいった」
え? なに? まさか私の心とか言わないよね?
「あなたの財布です」
えっ!
慌ててポケットを探す。
ない、ない、ここにもない!
……あのクソ勇者!
「まてぇー! 勇者ー!!」
私はメリケンサックを握り締め、魔王とともに勇者を追いかけたのだった。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
次回『エピローグ』
※メタオチっぽくなっていますので、苦手な方はお気を付けください。




