エピローグ
数年後。
リジーは部屋の片づけをしていて偶然落ちてきた布を手に取った。
そこには下手くそな字で「勇者」と書かれている。
「懐かしい……」
思わず笑みがこぼれる。
あのとき勇者になんとか追いついたリジーは、愛用のメリケンサックで勇者をぼこぼこにし、戦利品としてゼッケンをむしり取ったのだ。
リジーは現在もあの酒場で働きながら、趣味で書いた小説を、この異世界の投稿サイト『小説家になるお』に細々と投稿していた。
しかし閲覧数が伸びないことに悩んでいた。
そうだわ、この思い出話を書いたら、閲覧数が伸びるんじゃないかしら。
思い立ったリジーは、一晩でこれを書き上げた。
リジーが書いていた小説は、トレンドとは程遠い、悪役令嬢も勇者もざまぁも俺Tueeeも何もないものだったから、これらのキーワードを使って 短編を作れば、本命で書いている小説、『ダンジョンで拾い食い!~ダンジョンで落ちているもので3分クッキング~』の閲覧数が増えるのではないかという打算的な考えもあった。
こんなにばかばかしくてスベリ倒している話を書いたからには、閲覧数が増えてくれないと困るわ。
いい年下大人がスベるとただの怪我じゃすまないのよ。良くて骨折よ! 最悪死ぬわ!
精神的ダメージは文字通り身を滅ぼすのよ!
それだけのリスクを負うんですもの、当然見返りがあってしかるべきだわ!
リジーはわかっていた。
これを投稿することで自分が愚かで哀れな底辺『なるお作家』だと世界に発信することになると。
閲覧数が伸びないことを、タグやタイトルのせいにして目を背けていたが、単純に面白くないのだと評価されることが怖かった。
あの頃は楽しかったな。
リジーは遠い目をする。
その後、魔王はきよ子と結婚し、勇者の弟も誕生したという。
みんなの幸せ、次々に届く結婚式の招待状、年賀状の家族写真、それら全てがリジーを苦しめていた。
リジーにはわかっていた。
これを投稿してもなお閲覧数が増えなかった時のダメージは、スベることの何百倍もでかいということを。
だがしかし。
リジーはメリケンサックを握りしめた。
黒ずんだ勇者の血がまだ付いている。
魔王とともに勇者を追いかけた甘酸っぱいあの夏を思い出す。
遠くから山下達郎の歌が聞こえてくる。
覚悟は決まった。
「よろしくお願いしまーーーーす!」
リジーは震える手で投稿ボタンを押した。
その後その小説がどうなったのかは、神のみぞ知る。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
『ダンジョンで拾い食い!~ダンジョンで落ちているもので3分クッキング~』は架空のもので存在しません。
もしよければ、ほかの作品も読んでみてていただけると嬉しいです!




