第8話 かけ子姫の物語
勢いよく開いたドアから現れたのは、豊かな金髪と美しい青い瞳の女の人だった。
だけどぼろぼろの服を着て、全体的に薄汚れている。
「こんのクソ野郎っ!」
女の人は勇者の姿を見つけると敵意をむき出しにして叫んだ。
ガラが悪い。勇者の知り合いってことはどこかのチンピラかもしれない。
また変なのが増えたよ、と思っていると。
「おー姫、どうしたんだ、こんなところで」
平然として勇者が言った。
姫?
そういわれてみると、どっかで見たことがあるような。
「あんた、よくも父上をだまして私をあんなところに監禁したわね!」
なんかすっごく物騒な話になってきたんですけど。
「おいおい姫、人聞きの悪いこというなよ。だいたいもうけ話に乗ってきたのはそっちなんだぜ」
「そんなの、父上だって魔王討伐した勇者が嘘の非公開株の投資話をしてくるなんて思わないじゃない! あんたのせいで、私がどんな目に遭ったかわかってんの!?」
「まあ座れよ」
「座れよじゃないわよ! 私はあんたにだまされてシャムランド王国に送られてからずっと、狭い部屋に監禁されて、お年寄りをだます電話をかけさせられていたのよ!」
それっていわゆるかけ子!?
勇者お前、この国の姫になんて事させてんだ!
「もしもし? 私よ、おばあちゃん。ちょっと会社の上司にパワハラで訴えられちゃって。ううん、たいしたことはないの。でもちょっと慰謝料が必要で……振り込んでもらえる? って言い続けた私の気持ちがあんたに分かるの!?」
うわあ……クズというより、匿名流動型犯罪グループの元締めみたいなことやってんじゃん。犯罪者じゃないか!
そりゃあ真っ黒な作業着着せられて強制労働させられるはずだわ。
でも姫もなかなか演技に気合が入っている。しかも上司にパワハラって……。
「だまされる方が悪いんだよ。俺がその気になればこの国だって簡単に乗っ取れるんだぜ?」
勇者がにやりと笑う。
いますぐその作業着に書かれた名前を悪魔に変更してやりたい。
姫がポケットから隠し持っていたナイフを取り出した。
「ひどすぎるわ! くたばれ、勇者!」
勇者が驚愕の表情で姫を見つめる。
そのナイフがゆっくりと振り下ろされる、その時。
「話はすべて聞かせてもらった」
魔王様が姫の手首を掴み、ナイフを止めた。
「美しい手を、こんな男のために汚すことはあるまい」
「あなたは……」
たぶんすごくいいシーンなんだろうけど、魔王様の頭にはまだブリカマがかぶっている。やむを得ないとはいえ私がやったことだからちょっと申し訳ない。
「誰だ、お前」
ポケットに手を入れ、下から上に睨みつける典型的な悪役の姿勢で勇者が魔王様の前にやってきた。
「まさかとは思ったが、こんなところで会えるとは思わなかったぞ勇者。この顔を忘れたとは言うまい」
「……ほんとに誰だ、お前」
「…………」
魔王様はわずかに動揺して、それから頭のブリカマを取った。
「私だ。魔王だ」
「ま、魔王!? なんでここに!」
「お前の家に放火した罪で捕まった。だがお前に会うためでもあった。この過酷な炭鉱で労役をしていれば、必ずやお前がやってくると思っておったからな!」
「へっ、俺に会って、それで? どうするきだったんだよ」
「お前に謝罪と訂正を求める。すべての罪を私になすりつけ、自分は勇者だと英雄になった。そのことを謝り、国民の前で私の無実を証明しろ」
「っははははは!」
勇者は大声で笑った。もう悪役が板につきすぎている。
「だからこのお姫様にもいったように、すべて、自己責任だろ? 俺を批判する暇があったら、愚かでまぬけな自分を呪うんだな」
「やはりな。一筋縄ではいかないことは分かっていた」
「なんだよ、何か策でもあるっていうのか? 見せてみろよ!」
勇者が嘲笑う。
「それでは私の策を見せてやろう。……私はいま、お前の母親を監禁している」
「なっ!」
それにはさすがの勇者も、いやこの店中の人たちが驚いて魔王を凝視した。
魔王様……やることやってるっていうか、やりすぎだよ!!
次回『さようなら魔王様』




