第41話 エンキとオーガ その2
今回は、ちょっと重い話です。
ゆるく読んで頂けると嬉しいです
少し昔の話である。
当時の温羅は穏健派の親人間といって差し支えなかった。
温羅
「阿佐ただいま」
阿佐
「あなた、お仕事お疲れ様」
温羅
「ああ、炎鬼は?」
阿佐
「まだ、剣の練習をしているわ。ふふ、あなたに勝つんだって」
温羅
「そうか。あいつは筋がいい。すぐに私も抜かれるかもな」
阿佐
「…あなたがあの子を連れてきた時は驚いたけど、今は私達の大切な存在ね」
温羅
「ああ、そうだな」
炎鬼は、拾われた子だった。そんな炎鬼に温羅とその妻は無償の愛を注いでいた。
一家は幸せだった。あの日を迎えるまでは。
その日、温羅は和平交渉のため、人間の宰相を迎えていた。
しかし、現れた人間たちは、和平を結びに来た者の装いではなかった。
その空気は、まるで戦場へ赴く兵のそれだった。
温羅
「その兵士たちは?」
宰相
「ひひ、道中危険ですので」
温羅
「そうか…入ってくれ」
宰相
「ひひ、ありがとうございます」
違和感は感じていた。
だが、人間への信用と、自身の強さへのおごりが、警戒を緩めてしまっていたのかもしれない。
温羅
「さて、早速だが和平の条件を聞こうか?」
宰相
「ひひ、私どもの条件は不戦の契りを交わすこと。」
温羅
「それは願ってもない話だ。我々とて無駄な血を流すことは望まない。魔王様もお喜びになられる」
宰相
「ひひ、本当ですかな?貴方は、理知的で頭がいい…だが魔物だ…」
宰相はニヤけた表情を見せたが、その目は笑ってはいなかった。
温羅
「何を言っている?」
宰相
「…あなた、奥さんとお子さんがいましたね…」
温羅
「…貴様…殺されたいのか?」
宰相
「ほら、ほら、それが貴方達の本性ですよ」
宰相は相変わらず、ニヤけた表情をしていた。
その表情は仮面が貼り付いているように、不気味なものだった。
宰相
「連れて来い」
人間の兵士が、乱暴に2人を連れてきた。
温羅
「阿佐!炎鬼!」
阿佐
「あなた!」
炎鬼
「オヤジ!」
宰相
「ひひ、家族ごっこですか?…貴方達は、危険なんですよ…和平交渉?ひひ、笑わせます」
温羅
「貴様ぁ!」
宰相
「おっと、手を出したら貴方の家族がどうなるか…わかりますよね?」
温羅
「ふざけるな!」
宰相
「やれ」
温羅の体を光が包みこんだ。その光は、温羅の体を縛り抗うことを許さなかった。
温羅
「何を?」
宰相
「魔王軍最大戦力の一人…貴方は邪魔なんですよ…死になさい」
次の瞬間、非情なる刃が温羅の腹部を貫いた。
温羅
「ぐ……っ」
膝が崩れる。視界が揺れた。
阿佐
「あなた!」
炎鬼
「オヤジ!」
叫び声が聞こえる。だが、温羅の体は動かなかった。
薄れゆく意識の中で、兵士の声が聞こえる。
兵士
「この二人は、どういたしますか?」
宰相
「殺せ」
その一言が、温羅を絶望の闇へと引きずり込んだ。闇の中で反芻する『殺せ』と言う言葉が。
絶望の中で目覚めた温羅の傍らには、阿佐の亡骸が静かに横たわっていた。
その日、温羅の中で人間を信じる心は凍りついた。
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