第38話 突入前
今回は、勇者回です。
ゆるく読んで頂けると嬉しいです
そこは人間領の西端、魔領域にほど近い、監視塔がそびえ立つ街だった。
石造りの監視塔には松明が灯り、その炎の向こうに、魔領域の影が揺らめいていた。
ティア
「もう、皆さん聞いてますか!?」
アポロ
「…ん?あぁ聞いてるよ」
ティア
「…魔領域が近いから、ナーバスになるのはわかりますが…」
エンキ
「悪い、悪い…ただ、シグリは眠いだけだな、多分」
シグリ
「ね、眠くないし!」
エンキ
「おねむな時間だろ?」
シグリ
「お子さま扱いするなし!」
ティア
「もう!いい加減にして!」
アポロ
「はは…続けようか」
ティア
「はい…」
ティアは、机の上に広げた資料を指先で軽く叩いた。
古びた羊皮紙。
王都の紋章が押された封蝋。
魔領域周辺で集められた、断片的な報告書。
そのどれもが、妙に重く見えた。
ティア
「明日、私たちは魔領域に入ります。その前に魔王軍の幹部…主要戦力を改めて知っておく必要があります…」
アポロ
「魔王軍…」
アポロがそう呟くと、部屋のロウソクが少し揺らめいた。
ティア
「魔王軍の最高戦力とされている魔物たちを説明します…1人目は鬼の王…温羅」
エンキはその名前を聞き、少し俯いた。
ティア
「温羅は魔界一の剣の使い手で魔領域の門番とされています…それに人間に対して強い憎悪を持つと聞きます…」
エンキの唇が、何かを言いかけて止まった。
シグリ
「ん?どうしたの」
エンキ
「なんでもない。ティア続けてくれ」
ティア
「はい、次は2人目…淫魔の姫リリン。その姿をみた者は誰しもが魅了されてしまう…特に異性は逃れられない…」
ティアは目を伏せた。
エンキ
「ティア?……あー、アポロは大丈夫、大丈夫。クソ真面目だからな」
アポロ
「僕?僕の心配は無用だよ。エンキの方が危ないんじゃない?」
エンキ
「そういうことじゃないんだけど…まぁいいか…」
シグリ
「鈍感ですなぁ」
アポロ
「?」
ティア
「続けますね。3人目…古代軟体生物レヴィアタン。異常な打たれ強さ、高い再生能力…ほぼ不死身とも言われてます」
アポロ
「…」
ティア
「全てを絡め取る粘液を出し、見た目は醜悪を極め、視認したものに強い倦怠感を抱かせるそうです」
エンキ
「おぞましいな」
ティア
「それに、わけも分からない言葉を使い相手を混乱させると…」
ティアは資料にある情報を読み進めた。
エンキ
「…なぁ、そいつの情報多くないか?」
ティア
「このレヴィアタンは魔物から得た情報が異常に多くて」
シグリ
「キラワレてるのかな?」
アポロ
「罠かもしれない。普通はそんな情報流さない」
ティア
「そうですね…皆さん、ここまでで何か質問はありますか?」
シグリ
「ドラゴンは?」
ティア
「いますよ…それが4人目の邪竜リンドヴルム」
シグリ
「邪竜…ドラゴン君…自分のこと聖竜って言ってたからなぁ…違うかぁ…」
ティア
「聖竜とは真逆です。そもそも、聖竜は魔領域にいないし、魔王軍の幹部が人間領に姿を現さないと思いますよ。」
シグリ
「そっかぁ…どんな特徴なの?」
ティア
「古竜を思わせる、不遜な言動。身体から滲み出る魔のオーラに草も花も枯れ果て、その牙に、砕けぬものはない。翼は嵐を呼び、咆哮は全てを燃やし尽くす…と」
シグリ
「草も花も枯れ…不遜な言動…!?ドラゴン君かも…でも牙も抜けて硬いもの食べれなかったし、翼から微風しか吹かなかったし…口からは温風しか出なかったし…やっぱり違うか…うーん」
エンキ
「何ブツブツ言ってんだ?」
シグリ
「うー」
ティア
「次は最後…5人目…原初粘体カオス」
アポロ
「…カオス」
ティア
「はい、形を持たない魔物です。スライムに酷似していると。物理的な攻撃は効きません。逆に、考えうる物理攻撃は全て行ってきます。」
アポロ
「弱点はないのかな?」
ティア
「特定の条件で、紫色に変色するそうです。その状態の時だけ、攻撃が通るみたいです」
アポロ
「特定の条件?なんだろう」
ティア
「すみません…それは…不明です」
エンキ
「ま、まぁ、それがわかれば苦労はないよな」
アポロ
「ティア謝らないでくれ。魔王軍の中枢の情報だ。今までの情報でも十分貴重だよ…」
エンキ
「5人の幹部…相手にとって不足なしだな」
アポロ
「…」
アポロは、資料に目を落とした。
鬼の王 温羅
淫魔の姫 リリン
古代軟体生物 レヴィアタン
邪竜 リンドヴルム
原初粘体 カオス
どれも、伝承の中にいるような名だった。
だが、それらは伝承ではない。
今も、魔王軍に属している。
ティアは、さらに一枚の資料を出した。
エンキ
「まだいるのか?」
ティア
「はい。魔王の参謀…悪魔魔道士」
アポロ
「…」
エンキ
「…」
シグリ
「…」
4人の間に、誰も説明できない間が生まれた。
エンキ
「あー悪魔魔道士からの…なんかないの?」
ティア
「えっ?どういうことですか?」
エンキ
「今までのやつは二つ名と名前じゃん。悪魔魔道士が二つ名だろ?名前は?」
ティア
「あっ…悪魔が二つ名というか苗字で、魔道士が名前みたいです」
エンキ
「そうなんだ…」
アポロ
「…」
ティア
「はい…悪魔魔道士は、非戦闘員ですが分析、統制、補佐を担い、魔王軍の頭脳とされているようです。それに魔王への忠誠心が誰よりも高いそうです」
アポロ
「…そういう相手が一番怖いかもしれないね…ティア続けて」
ティア
「はい…最後に…魔王です」
アポロ
「…魔王」
ティア
「魔を統べる者…弱体化してるとの話もありますが…真偽は不明です。正直なところ情報も眉つばなものばかりで…」
エンキ
「どんな?」
ティア
「飲んだくれ…スケベ…変わり者…怒らせたら怖い…」
エンキ
「はは確かに眉つばだ。意外にいいやつかもしれないな…」
困惑感の漂う空気の中、アポロが重い口を開いた。
アポロ
「数年前…魔王の魔力を感じた。凄まじいものだった。あの力が解き放たれた時、世界は闇に落ちる。だから僕はやり遂げなければいけない。」
松明の炎は、激しく揺れていた。
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