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アンブレイカーズ  作者: MRプロジェクト(詳しくはプロフィールにて)
第2章「強敵」

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8/35

「8」戦闘開始

結局安置所にはなにもおらず、地下の別室にあった電気設備室はドアが凹型に凹んで倒れていた。


何かが居るのか、それとも居たのか、間違いなくそれだけは確かだった。

その設備室の中にあった予備の大型電源装置などは無事……と思われたがドアが開いていたせいなのだろう。何らかの動物によって配線が食われており使えない状態となっていた。


「…………3本目だな」


光が強く全体を広く綺麗に照らせる分電力消費の激しい懐中電灯。丁度一室見終えた所だ、と頬を緩めモバイルバッテリーに懐中電灯を繋げた。

その後に見た個人・合同病室でも、カーテンを翻しても誰も。どちらかとえばケミカルなシミに塗れたベッドと、その上で白骨化した死体が横たわっている事が多かった。

きっと11年前の≪大怪獣災害≫で見捨てるしかなかった方々なのだろう、と陽介は仏様を見る度に手を合わせていた。


そんなこんなで予後の悪い光景を目にする機会が多かったが、それでも彼らは腹が減る生き物である。

昼になれば腹が鳴るのはある意味正常な証明だ。

彼らが摂る食事は可能な限り簡素なもの。

パウチ型の栄養ゼリーとカロリーメイトだ。普段は固く閉じている、マスクの経口摂取用穴のつまみを回して開け、それらを食べていた。


そうして食事と並行して探索を進め、8時20分頃に開始した「東棟」の探索は6時間と40分程度かけて終わりを迎えた。現在の時刻は15時。

陽介らは27段もの階段を何度も上り詰めて今5階にやってきていた。ここには「西棟」に連絡する渡り廊下があるからだ。


「一本道だから気を引き締めて行くよ。[怪人]が出たら作戦通り俺が初撃を当てに行く。戦闘が継続するならカバーを任せる。おっけぇ?」


その作戦に2人は頷き陽介の背を忍び足で追いかける。


息を吸う音の方が目立つほどに静かな歩みの刻み方。


西日へと移ろう秋の日差し。

渡り廊下の窓枠は小さく少ない。

それもこれも壁を分厚くし渡り廊下を強固にする為なのだが、縦・横幅5mはある渡り廊下。

光の居場所はないに等しい。

加えて、上空から見れば分かるが、棟がH型であるため渡り廊下は両棟の建物の影で満ちやすい。だから蛍光灯が息を吹き返さない限りエントランスよりも青暗いフロアになってしまう。


「……………………」


目測30mの一直線。

その先には「西棟」5階の姿があるだけで何かが居る様子はない。かと言って警戒は怠りはしない。

世の中、もしも、を考えられているか如何かで全てが変わる。

そして今、未来の分岐点が1つの世界を激しい光で照り示した。


(種別、物質系。骨格、人型。全長、推定3m80cm――)


「西棟」5階中央の廊下から曲がって歩行する正体。

背中を前方に軽く曲げて歩行している真っ黒い、巨大なナニカ。

(――黒色の分厚い体。筋肉質。熊の足に似た足部。黒い体液の滴下はないが…――)


0.1秒足らず。高速の思考と、判断。


(――こいつと断定して問題はない)


その時、陽介が感じた0.1gばかりの違和感の輪郭。


胸騒ぎ。

息苦しさ。

気持ち悪さ。

混在し高速で切り替わっていく記憶達――


――ダラッと頬を伝う氷を真似た生汗が、陽介に余力を脱ぎ去り全力を投じる事を強制した。


「ふぅ”っ"!!」



佐伯陽介、【能力】の行使。



【降霊】能力段階「3」

「効果」※能力行使者を甲とし、霊や怪異を乙とする※

【降霊】の行使により干渉した霊の許諾の下短期契約がなされた時、それを経て甲の魂に乙の力を宿す事が可能となる。長期契約では契約中乙が甲の精神世界で居住する事となり何時でも貸与の相談を受けなければならない。尚この時、短期契約以上に甲は乙が提示する代価と気分に即する必要がある。又、何れの場合であっても乙の力を借りる決定権は甲に存在しない。


そして、魂の移行に伴い主な肉体の主導権は乙に譲渡される(・・・・・・・)。


(九尾狐様、お力をお貸し下さいませ)


陽介が契約している怪異の数は3匹。そのうちの1匹。9つの尾を持つ二足歩行の狐の怪異。

陽介のその要望は、乙が提示した代価の承諾を持って――叶えられる。


暗黒色の[怪人]との対峙と同時、グバッと膨れ上がった陽介の肉体。舜転、その肉体にブワッと生え誇った黄金長毛と長い耳。元の肉体とは打って変わって顔は動物的に、肉体は細く、更に筋肉質な肉体へと成り変わる。壁に脱ぎ捨てるゴーグルガスマスクバックパック、ブーツ。同じくして陽介の足の形状が伸び、変質する。


生まれ変わった4つの獣指、黒色こくしょくの肉球。

獣となったその手でベルトを胴で縛り直して剣を握る。

陽介の面影のない長身細身の黄金獣。

その力は契約に基づき半分だ。


同時、その体勢が大きく前に傾いていく  瞬間  マントが強く翻るように舞い上がった紫炎の灯光。頬を、鎧を、床を、その全てを紫紺に染め上げた激烈なる大火たいかは、けれども周囲を焼き焦がす事はない。ただし、その火の熱は、自傷に類するものではある。


紫焔を纏う獣の体毛も鼻元から垂れている白銀の長髭も、黒く燃え焦げている。

それでも焔は囂々と焚き上がり続ける、次の瞬間、怪人と瞳が交錯した――同時、刹那の息遣い。

黄金獣が宙に描いた鋭い朱の瞳光  瞬間  疑似暗夜は朱に割れ――


「ぁ"あ"ぁぁ"ぁ………」


――紫焔に包まれていた。


巨大な怪人が背にしていたガラス張りの壁景色。そこに映りこみ、そして身を翻した黄金獣。

酷く炭化し赤熱している脚部。焼け焦げた臭いがここに充満している。


「ぁあ"………」


溶けた目玉。

吐き捨てる、肌が焦げる程の熱を孕んだ白い蒸気。

遅れて舞い込んだ鼓膜を圧し潰す程の爆発音。

フロアを走り回る風の大波に金毛は震え、流れる。

そんな強烈な風の波に倒れてしまいそうな細い脚を、しかし黄金獣は気にも留めず地に打ち付けた。

バキッと音がなり、それは容易く折れ崩れ、黄金獣は地に落ちた――否、地に構えた。


再生する損壊部位。

顔にある2つの黒い穴に朱い瞳の色が戻っていく。

その最中で黄金獣は本来の獣たる四足の姿形しけいとなり、両の手で地を掴み、紫紺の焔を口から吐き出した。


「…………」


目の前で今、落ちて床に転がった頭部と巨大な黒い肉体。

だが、まだ、警戒を怠らない。それは単純に、この[怪人]の絶命が確定していないから。


[怪人]らの本体は心臓ではなく、脳の中にある脳核という球とそこから送られる意識を胴体に繋いでいる脊椎である。脳核は[怪人][怪獣][大怪獣]という生物を形作る情報を司っている根源であり真の心臓。これを破壊、損傷が出来れば絶命へ至らせる事ができる。


脊椎を狙う場合は平均的に首の中央より上を切断する事で確実に絶命させる事が出来る。逆を言えばそこからズレれば絶命の確率は大きく下がる。

脳核を狙う手段もあるが、脳核は硬質体という、[怪人]らの身体の中で最も硬い透明な骨に脳が覆われている為に攻撃を通す事は容易でない。それを狙うのであれば次いでの硬質な部位ではあるが脊椎の損傷を狙う方が確実であり、容易であった。


故に[怪人]ら討伐の鉄則として首を切り落とす、という行動がとられている。


「…………」


情けなく地に転がる黒い頭部。巨大な筋肉質の胴体。生命の脈動を微塵と感じない塊。


1秒、2秒、3秒。

静寂が凄まじく喧しい――4秒。

ガラス越しに聞こえてくる外の風の方が静かで――5秒。

だからこそ  バンッ  と鳴った音は。


「……」


黄金獣の心臓と身を劈いた。


真っ黒くて大きなその手が塩化ビニルの床を酷く、強く叩く。それはバン、バンバンバンバンと次第に激しく叩きしだく。乾いた重たい音が一帯に広がっていく――そして、それは両腕を大きく、高く、仰々しく、鳥の羽ばたきの様に軽やかに天に翳して、床を全力で叩き上げた。


[怪人]はその反動で一気に体を起こし、ダラリと、ノッソリと、体を前屈させる。


そうしてすぐ首を弄り、近くに転がっている頭部を見て体は黒い触手を伸ばした。

頭部も(・・・)それを伸ばしていた。


それはつまり、全てにおける前提が覆った瞬間。


そして、もしも、の想定の超越は、もしもの備えのほぼ全てを無に返した。


「信二! 全力の雷を[怪人]に撃ち込め!!」


トランシーバー越しの焦り声に南雲は即座に極太の雷を打ち込んだ。


(………。やっぱ無理かっ…)


水の塊が溶鉱炉に落ちて蒸発する。そんな爆発に似た音色と共に黒煙を立てる[怪人]は数歩後退りながらもネットリとした動きで南雲を睨み見た。それはある種の予定調和でもあった。


「ぁ"あぁぁぁああ"ぁ"ああぁああ!!!!」


黄金獣の強烈な雄叫びは[怪人]の注意を搔っ攫う――時を同じくして、田所は特殊な回線を利用したスマホで雀に連絡を取り、こう告げた。


「対象が物質系ではなく非物質系である事が確定。現場3人、光成総合病院【西棟】5階で接敵中。至急応援を」


田所は酷い冷や汗を垂らして手の甲でそれを払った。


[怪人][怪獣][大怪獣]は4つの種類に分類される。


「1.物質系」

「2.液体系」

「3.気体系」

「4.電磁波系――便宜上、非物質系」


日本怪人等統計では「99%」が物質系となっていて、この事から物質系こそが[怪人][怪獣]の基本形であると言える。


物質系の定義は「脳・脳核・心臓・肺・肉体を持ち、身体に打撃および斬撃が有効である存在」を指す。物質系は特別な【能力】や道具を用いる必要がない為危険度が低い傾向にある。


対してほか1%のうち0.9%を担う気体系、液体系は物質系の約5倍の危険性を孕んでいるほか討伐には特定の【能力】および道具の使用が求められる。


そして残り0.1%である非物質系、即ち[影怪人][光怪人]は、存在しているだけで有害であり、最低でも危険度は「9」に位置付けられる。


討伐に必要な有効機器及び【有効能力】を万全に使用できる場合であっても危険度は下がらない。と言うのも非物質系は脳核を持たない上に物理攻撃、光・闇を除く事象攻撃が通用しない。

身体は変幻自在で、隠れられれば発見は困難。

1日足らずで100万人規模の〈都市〉を壊滅に追い込めるという大怪獣相当の被害を発生させる可能性と、それを可とする潜在能力がある。

ただ、その規模の強さを[非物質系怪人]らが得るには今しがたの命の積層が必要。


生まれたばかりであればまだ、辛うじてまだ潜在能力の発露が少ない為手は届きやすい。


そう。この[影怪人]は生まれて間もない生物で、赤子と言って差し支えない。

そして、唯一[影怪人]に対応出来る人材がここにいた。その者は、光に属する能力【雷電操術】を有するアンブレイク入社7日目、元アンブレイカーズ隊員下位中層、南雲信二である。


陽介の意識は身体から切り離され、さながら映画を見ている様な感覚で陽介は状況を把握している。その上で「息が詰まる」。そう陽介は固唾を下し、作戦を組み立てる。


有形を模倣する無定形の影の生物。それは今人と動物の特徴を真似て黄金獣の元へと歩みを寄せていた。

その大手の中で聳えているのは暗黒色の長物。

その手にかなり余る小さい長剣の模倣品が、今、黄金獣に振り下ろされた――が。


(一撃が重そうだけど、その利点があまりあまって掻き消える程に一挙手がおっそいっ)


走り込む速さ、剣の振込み。足運び、重心移動、踏み込み。全てが遅く、なにより拙い。

無知者の真似事と言う二つ名がこれ以上なくそぐわった動き。

子供のお遊戯会の方が断然愉快な程に稚拙で退屈な光景。強烈な一撃は床面を大きく抉った。風が強く黄金獣の耳の中に流れ込んだ。……それでも、脅威とは思えない。


再び落とされた剣筋を再びと容易く横に回避する――


「ゥァッ!?」


――その刀身が不時着しようとした時、刀身が変質し熊の頭部となって黄金獣に食い掛った。


(コイツの主食は熊だな間違い様もなく。人型なのは巡回戦闘中のアンブレを見たからか?)


未だ二足の狐の獣は寸での所で[影怪人]の背面へ跳び、長い爪を天井に刺しぶら下がった。


様子見はしない、それを告げるように紫焔が揺蕩う。


膝まで再生している脚部は天井に押し付けられ、炭脚は再び朱に染まる  同時  紫焔の矢と化した黄金獣が射貫いた[影怪人]の巨躯。


その肉体が爆散すると同じくして轟く破裂と破壊の大合奏。

散る大火の


股関節で床を激しく滑走し、炭文字と深い爪痕を描いて渡り廊下の入り口を背に構えた黄金獣。

その時、陽介は自身の体の惨状に戦々恐々としながらも冷静に進言をした。


(九尾狐様。[影怪人]は話に聞けば食べた生物の力や動きを模倣し、又、見た事のある動きを真似るそうです。あまり大技を行使していると僕たちが苦しめられる事になるかもしれません。もしこの[影怪人]が幼体ならなお情報吸収力が高いので一挙手が重要になってきます)


その進言に黄金獣は歯ぎしりをし、耳をグデッと落とした。


(……作戦がございます。少し、お聞き願えませんでしょうか)


高威力の一撃に赤子の落書きかの如くグチャグチャに肉片を散らばらせた影怪人は、しかし何もなかったと言った様相でそそくさ体を繋ぎ合わせていく――時を同じくして黄金獣の姿は一変。

瞬く間にその肉体は陽介の硬派なモノに変化した。


(やっべぇー、意識飛びそぉー……)


半身の喪失。

焼き焦げた内蔵群。

サウナの溶岩石の中にいるかのような高体温。

重ね連なり積層し続ける激痛と苦痛に呻き声も脂汗も最早出てこない。

陽介はただ、短くも長い時間を生きる為に必死に息を継いだ。来たる時を待った。

我慢した。

堪えた。


そしてその時が来た。


メキメキ、バキリ、メキリバキと、薄い甲羅を割っているかの様な乾いた音が陽介の体から鳴り始めた。

始めればそれは瞬く間に重なり合い連なり合い、響く音も大きくなっていく。炭となった股関節。

その中で激しく躍動し絡み合い伸びていく筋肉繊維の発露。否、手や顔から這い出て来た筋肉繊維の束々が175cmばかりの肉体を瞬く間に覆っていく。


変質に身を窶す陽介よりも先に完全体となった影怪人は、そんな陽介の異変を顧みず鈍足ながらも明確な殺意を持って剣を叩き込んで陽介の左腕を斬り絶った。

鮮血が空気に溺れた。

多量の血が肉体を伝った。

腕が落ちる音が鳴った。

そして再びとその剣は陽介に向けて掲げられた。

陽介の体が黒い影に染まり染まった。


(さぁさぁ、来るぞ――)


脳天を割かたんと振り落とされた一刀。それはただの1つの所作で容易く受け止められた。


(――うちの大黒柱がよぉ……)

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