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アンブレイカーズ  作者: MRプロジェクト(詳しくはプロフィールにて)
第2章「強敵」

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「7」光成病院探索

この廃病院は、以前は都内有数の総合病院としてその名を振るっており、更には西棟と東棟に分かれている為に病床が多く、受け入れられる患者が多い事で有名だった。


(さ、行くか)


白い光が霧散すると陽介は2人に目を焼べる。

陽介は直刀を、田所は可変式の大太刀を、南雲は双刀を握っていて、全員目には覚悟の色を宿している。そしてマウンテンバイクを揃え置けば「東棟」の大エントランスへと歩き出した。


建築法上、怪人らに簡単に破壊されない為に公共施設は広義の意味で頑強でなければならず、加えて、屋内戦闘の対応を可能にする為全体的に高さや幅を大きくとる必要がある。

特に病院は廊下幅 縦 5.5m、横 5mと定められていて外観からして酷く高く広い。


面の大きな外壁。元の色は土砂色に染まって面影がない。11年前の≪大怪獣災害≫によるものだろう。

窓ガラスだってほぼないに等しい。

その他に直近で戦闘があったのか戦いの余波で抉れた地面や壁が散見された。それでも周辺の瓦礫具合と比べれば異様なくらい綺麗だった。


(これの為に投じた大工さんも使ってる建材も凄いからな)


見えてくる玄関口の様相。何かに押しのけられたかの様に歪んでいる自動ドアの太い金属フレーム。ガラス片は散らばっていない。陽介達は5m程の高さのある2重の玄関口に入りいる。


(今日の天気は晴れ、降水確率は10%。対象は[物質系怪人])


スッと差し込んでいる黄色い斜光に照らされて愉快に漂う細やかな埃の姿。そんな陽光の戯れは奥へ行く程に鎮まり返る。ジュシャッ、と小砂利を踏み締め、カツッとアスファルトの破片を蹴飛ばし、そうして玄関口を抜ければ寂れたエントランスに落ちる燦々とした闇色が3人の視界を覆った。

ここから先の光は懐中電灯だけだ。


見上げ眺めた40mはあるだろう吹き抜けたエントランスの様相。それから目を離せば次はグルッと周囲に目を通す。


(光成総合病院。対怪人用建材使用の築30年。病院の耐用年数は39年だし、そもそも莫大な資金をかけて建てられた強靭な建物だから結構暴れても大丈夫)


倒れたゴミ箱の中には空き缶が沢山あり、蛍光灯も備え付けられたまま。100席程度あるクッション製の待合席は小動物に食われてボロボロだったり一部欠けていたり、そもそも席がなくなっていたり。白い大きな植木鉢に入っていた観葉植物は土に還ってしまっていた。


( 「西棟」地上6階、162床。「東棟」地上8階、108床。地下は1階だけ。「東棟」と「西棟」は1階、3階、5階の渡り廊下で移動が可能)


何もかもが11年前のまま。本当に[怪人]がいるのかも怪しい。


(ま。もしも、があるからな。[怪人]が【能力】持ちじゃない事を祈るばかりだわ)


光を吐き出さない自動販売機。

想定される[怪人]の体躯からありえなさそう……だが、怪人の特殊性を鑑みて陽介はスッ、と強烈な懐中電灯の光をそれの背面に照らしつけた――


「――っ」


配線と埃、ドングリだけが詰まっていた。

陽介のガスマスクが安堵に白く曇った。


エントランスで探れるものはそう多くない。

残りは受付だ、と受付カウンターの下の隙間へ自撮り棒を取り付けたスマホを差し込み撮影、確認。

蛇が居る事だけ確認して真っ先に陽介がカウンターを飛び越えれば、蛇の威嚇を見る事なく陽介が一刀両断した。


それから山積みの書類やネズミに齧られたのであろう固定電話。ひっくり返った革椅子。それが収まっていたであろうデスク下に光を灯す。はたまた部屋を移動して更に探索をする。途中真っ黒い野良ネコと出くわしたがすぐに逃げていった。南雲は心臓を撫でおろしていた。


「なぁ新人くん、君の【能力】の反動は酩酊状態になる事だろ? 解除してくれないか」


南雲信二。身長170cm。中肉中背。小学生時代はかっこいい男の子としてクラスで評判だった。

そんな彼の【能力】は【雷電操術】能力段階「2」。

雷を自身の身体から放出する能力。

雷電自体に電流という概念が存在しておらず、雷電は行使者の指示の範囲を超えて動けない。つまりこれによる感電は存在しない。ただし熱を有している為焼却能力は見込める。


南雲は精緻な操作力を有しており、15m以内であれば問題なく的の中心を射続けられる。

ただ、能力には反動があり、南雲の場合【能力】の連続使用で段階的に酩酊状態が進行する。実質的な戦闘不能状態への移行。そんな大きすぎる側面を有する【能力】である故に慎重に運用せねばならないというのに、南雲は異様に足首の部分だけ太い雷の鎧を身に纏い周囲を仄かに照らしていた。

だがそんな彼も流石の陽介の言葉と田所の目線に渋々応えて解除した。


「暗い所が怖いの?」


そんな陽介の言葉に歯切れ悪く南雲が頷くと、陽介は南雲の肩をポンポンと叩くと「まぁ幽霊なんてそこら中にいるから、暗さなんて関係ないから」と励ますように言葉をかけた、がそれは南雲が求めていた言葉じゃなかった。


「いや幽霊が怖いんじゃないんですよ、暗い所が……嫌なんです」

「あー、そっか。ごめん。……ちなみにそう思うようになったのに原因あったりするの?」

「お2人とも、雑談は事務所に帰ってからにしましょう」


それからエントランスを抜け1階全体の探索を開始した―その時だった。


真っ黒く、大きな生き物の姿を強烈な懐中電灯の光が包み込んだ。


各人即座に腰を据えて身構えた。

耳を澄まさずとも鼻息の荒さがよく聞こえた。

そしてそのご尊顔は熊の顔をしていた――例の[怪人]……いや、あれはただ痩せこけているだけの熊だ。


陽介達を見るや否や熊は覚束ない足取りで、けれども全力で床を蹴り抜き走った。

ドダドダと疾走する巨獣の影。

陽介が構えた鈍色の刀身。

それが一閃を筆する――その瞬間、田所が陽介の影を踏み抜いた。


「ふっ……」


熊の下へと一気に間合いを詰めた田所  刹那  風の束が太刀の切っ先に酷く鳴いた。

刎ね飛んだ熊の頭部。翔けた切っ先を追いかける逆袈裟の残影に見下ろされながらその頭部はそして、自身の胴体が強烈な蹴りにより壁に叩きつけられた瞬間を見収めると地を転がった。


「脚、存外使えるみたいです」


肉の鈍い音が短く響く中田所は淡々と血糊を払い、手首に巻いていた黒いタオルで刀身を拭って息を吐く。その落ち着いた様子に陽介は「けど無理は禁物っ」とサムズアップした。


「はい」


田所もその親指を立てるハンドサインを真似て、少しばかり可燃性の勇気を胸に投げ込んだ。


広々とした廊下。

窓際探索。


一面ガラスだったであろう外窓側に近づくほどに土砂や枯れ葉、ドングリの転がりを目にするようになる。

全体的に明るくはあるが、同時に足場不良が続く故にかなり警戒して歩き進む。

それから10分程度で1階の捜索を終えた3人。

地下にあった死体安置所はドア越しでも臭いが酷く虫音も激しかった。陽介はそれでもと大きく息を吸いサッと1人で探索して後にした。


「もう帰りたい」


陽介は涙目だった。

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