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アンブレイカーズ  作者: MRプロジェクト(詳しくはプロフィールにて)
第2章「強敵」

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「4」探索前日準備(1)

1900年初頭。

日本は外国で発明された蒸気機関技術を輸入し、今まで人が行っていた作業、ないし人が出来なかった仕事を何倍もの速度でこなす事で文明と技術を発展させ、電気という力を使いこなすまでに至った。それからは目覚ましく、当時日本列島には10万人規模の〈街〉が点在していたがそれらは徐々に統合。

地形や気候、立地を有効活用出来る場所に継続して200万人規模の〈都市〉が建つようにもなった。

そんな時流を特に乗りこなした3つの〈都市〉は現在三大都市と呼ばれ、人口は600万人以上に上っている。

大抵の〈都市〉は自力をつける為に内地ではなく沿岸側によっており、火力と水力発電を行っている。


1900年代後半。

高層ビルなど建物の高層化技術が確立。耐震、防水、防刃、対衝撃など[怪人]らの攻撃を受けても簡単には破壊されない建物が建設可能に。

技術革新以前より〈東京〉を中心に日本列島が組み立てられていた事もあり、〈東京〉が描く販路や他都市に向かう交通網の多さ、それの安全性と利便性の高さからアンブレイカーズ本拠地がある。

そしてそれらに肖る様に人口が集中し、今や約700万人という規模で〈東京〉は都市を運営している。


11年前の≪大怪獣災害≫が直撃した後も尚、その大都市の気迫は衰えない様子だ。

(高ぇなぁ、何度見ても)


見上げれば視界を覆い食ってくる、太陽に届かんと立ち勇む巨大な防壁。


まだ建設途中ではあるのだけれどそれでも40mはある。壁内にある高層ビル18階で窓拭きをしている清掃員に防壁の骨組みの隙間から手を振ってみるが彼が気づく事はないだろう。


いずれにしても、ここに会社を設立して9年目。日当たりのよかったうちの2階建ての事務所は時折日陰燦々になる低立地事務所になってしまった。

玄関口で育てていた朝顔も少し萎びてしまっている。


「おうおう、相変わらず挟まれたがりだな」

「は、はは。すみません…」


事務所に着くまで先頭を闊歩していた新人君は、けれどいつも事務所に着くと人に挟まれながら入ろうとする。いや事務所だけじゃないな。暗い場所へ入ろうとすれば何処でもこうだ。

不動産屋のような大きな1枚ガラスに貼り付けられている『すべての汚れを根こそぎ綺麗に!』という謳い文句と「株式会社アンブレイク」の看板にそれとなく目をやって戸を開ける。


株式会社アンブレイク。

俺達が勤めている会社の名前で、清掃業を主に取り扱っている。

請け負う業務はオフィスの清掃や窓拭き、マンションの外壁掃除から部屋の掃除まで。壁内外問わず大きい所から小さい所まで、低価格高品質で掃除を請け負っている。この理念は土地価格が急上昇している今も変えず、価格も設立当時からあまり変わっていない。


じゃあ俺達は清掃業者の人間なのかと言えばそうじゃない。

俺達の本来の業務は[怪人]と戦う事。

正しくは、アンブレイカーズが出動できない、出動に時間がかかる場合に代わって[怪人]と戦う事。ただし非公式。……つまりは犯罪だ。

時々倒した[怪人]を回収して素材の転売をしてるし俺達の装備にあてがったりもしてる。それもこれも任務を確実に、安定してこなすために必要な事ではあるがやはり犯罪者だ。エゴ集団な事には変わりはない。外周ヒーローと囃し立てられる事は多けれど、社会規律破壊の発端になりかねない存在でもある。外の目は優しくても内の目はいつだって真夏の太陽みたいな感じ。捕まれば即刻刑務所。刑期は最短10年。

それでも俺達がこの仕事をしているのは一重に、平和を守りたいから。

誰一人として死なせたくないから。

ここに所属している人間の殆どはそう言う正義を以てして足を地面につけている。


そしてそんな活動を円滑に行う為の集会所兼秘密業務連絡所として株式会社アンブレイクがある。基本業務の清掃業は、怪人・怪獣素材の転売をしなかった場合の無収入を補うためだ。


ほかにも外周ヒーローと呼ばれる組織がある。

その中での役割としてアンブレクは外周内よりも外側、より郊外に近い場所での討伐、発見漏れの[怪人]らの討伐を担っている。


事務所の1階は表の仕事用の為の部屋。少し広々としたオフィスはけれど1階に仕事用の道具の保管場所を設けている為本来の半分程度の広さしかない。

そんな暗がりな部屋に電気を灯し事務区画より奥にある階段を上る。

2階はほぼ窓のない広いF字型の形状。

微かに残るコーヒーの匂いを掻き分け、白いカーペットを踏みテーブルと黒革のソファーを避け歩く。


「やっぱり鳳さんたちがいないと静かですね」

「だな。あの開口一番一発芸を披露してくれる鳳がいないと寂しいよ」

「一体誰と間違えてるんですか?」


リビングを抜ければ壁に沿ったキッチンがある。

その隣を突っ切り奥手にある2つの扉の内右手へ進もうとしている新人くんは振り返り「あれ先輩? こないんですか?」と問う。それに俺は喫煙のジェスチャーをしキッチンのダクトを強めに回す。そしてポケットに入れていたザ・プローの12mmを焚いて食む。

真っ白い煙。黒いダクトに向けてそれをフッと吐き出せば、まるでブラックホールに吸い込まれていくように歪んで消えていく。


(田所山葵。南雲信二。鳳一成。長本静流。長本三月。佐伯雀。佐伯…何だっけ。俺の名前)


最近は専ら自分の名前すら思い出せないでいる。


それもこれも恐らく11年前に[怪人]の【能力】によって俺の記憶が奪われたからだ。


記憶を失った事でかけがえの無い雀ちゃんとの縁ができた事は良いが、それとこれとは話は別だ。どうやら【能力】によって記憶を大部分欠損させられた生物はいずれ廃人になるようで、お陰様で俺は今廃人までのカウントダウンが進んでいる。ただ、人によって廃人に至るまでの時期が異なる。つまりはいつ廃人になるかは運次第で、11年経っても正気で居る俺はかなり運が良い方なのだ、が、もうその運も尽きかけ。雀ちゃんが俺の記憶を奪ったであろう[怪人]を捜索してくれているが未だ尻尾は愚か毛の一本の正体すら分かっていない。


大きく煙を吐いて嗜み切り、お盆にお菓子や飲み物を乗せて俺は2人の後を追った。


「うい2人とも、糖分補給のお時間ですよーん」

「わぁ! チョコパイだぁあ!!!」

「人ってこんなに目をキラキラにさせる事ができるんですね」

「いっぱい食べな、苦労かけてるからいつも」

「はい! 苦労かけられてるので気にせず頂きます!!!」

「苦労の重みをその笑顔から感じるぅー」


飲食用の机にお盆を置けば早速とチョコパイを貪る山葵ちゃん。その恍惚とした表情を瞬く間に助長させるブラックコーヒー。

相も変わらず糖分に飼われている彼女をよそ目にキャベツ太郎を箸でつまみ、起動してくれていたパソコンの前に座る。


「ほいじゃ、今からこの[物質系怪人]についての情報をまとめます。んで担当ですが、俺は土地と建物関連の話まとめます。んで、新人くんにはこの目標の情報をまとめてもらいます」

「それ僕がやってしまっていいんですか……? 観察報告書作成の経験はありますけど」

「ああ、全然いいよ。なんたって今回は危険度が暫定「1」だからね。流石に危険度「3」とか「4」なら俺達が担うけど、不良の再研修としては持ってこいだよ。とにもかくにもこの報告書の内容と目標の写真を元にアンブレのHPに載ってる過去の怪人データとを組み合わせて目標の情報の解像度を上げてほしい。一応現地で見たものが全てだけど、準備をしたり基本戦略を考える為には必要な話だからしっかりね」

「途中棘が僕に絡みついてきましたけどわかりました」

「山葵ちゃんは探索地域周辺について、過去3年間のアンブレイカーズによる巡回調査記録の精査および概括を任せたい。巡回記録の精査はマジで大事だ。周辺に別の[怪人]がいるかどうかってのは任務の達成難易度に大きく関わってくる。よろしく頼んだよ」

「はひっ、おまはへふははい!!」

「こら、食べながら話さない」


そうして始まる書類の作成。


(さて……佐伯陽介君が仕事をしちゃうよーん)

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