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アンブレイカーズ  作者: MRプロジェクト(詳しくはプロフィールにて)
第1章「アンブレイク」

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「3」大きな口約束

(さぁて、私はこの当たり台の続きを打つとしますかねぇ)

佐伯雀がそんな事を思い席に座って早10分。


「おきゃくさーん、なぁにしてるんですかぁー?」


ドンッという音と共に落ちた人影。にゅるりとした機微で雀の横顔を見つめる男が一人。

雀はその双眸を前に顎先に募った汗を細脚の隙間に落として息を呑む。


「も、守樹もりき店長。筐体に肘打ち付けるの、やめましょっか。警報、鳴っちゃう」

「はは。コンプラ無視してドツいてやろうか?」

「あはは。…………すみません、つい」


初老の悪い渋みを全て備えている、パツパツの黒服を着た男。横に大きな影を鈍く動かして、顔を抑えて「ところで」と続けて、鋭い目つきを宿して、彼は重々しく口を動かした。


「お前、俺のパソコン勝手に解析してアンブレの巡回データ盗っただろ」


鼓膜に響く、1000年樹木の様なズッシリとした言葉の羅列。

スケートリンクの様に雀の表情を抉りながら駆け走った悪寒。それを取り繕う雀に彼は言う。


「郊外記録。118,766番。危険度1。担当隊員3か月目。下位下層」

「……お手上げ」


スマホもペンも地面に投げ捨て、両手を後頭部で組みながら地面に座した雀。

男は薄い髪の毛を掻きむしって舌打ちをした。


「はぁ……タバコ吸いた。…………落としたもの全部拾ってついてこい」


そうして室外にあるスタッフオンリーの喫煙スペースにつけば開口一番男は言った。

「通報はしない。犯罪行為だがな、トリプルで」

トリプルでというのは、パソコンを無断で解析し不正利用した事、陽介らに入手した怪人の情報を開示し討伐を斡旋した事、一般人が怪人らを討伐する仕事を請け負った事、の3つ。


「なんで通報しないんですか」

「……一般人が怪人討伐しちゃいけないってのは、曲げるつもりはないがアンブレも今は切羽詰まってるからな。11年前に最上位のトップ6全部と6割の隊員を失った事が始まりではあるが、大量採用で粗悪な人間を入れた事、大災害対応のために最上位隊員を抱え込でる事、危険度の高い任務に最上位をあてがえないから上位の隊員を向かわせてる事、任務の安全性と達成必然性を上げる為に動員人数を多くするしてる事、探せば山だ。こういう要因の積み重ねで対応任務が飽和してて……まぁ、ほんとに元凶として過去の反省を盾に上層部が逃げ腰なんがいけないんだが…まぁうん。だから今はお前らみたいな自由に動ける正義の人手が欲しい」


カチカチと音を鳴らしてライターを点けようとする男。しかし全く火のつかないそれに男は舌打ちをし小刻みに踵を打ちつける。漸く火が点けば「イライラ2倍だから本数も2倍だ」と言ってデルタ12mmを2本食んでいた。そんな風景を前に雀は言う。


「じゃあ活動の補助組織を作る名目で一般人の討伐を一時的に解禁したらどうですか。11年前みたいな自治権を与える程じゃなくても資格制にしてアンブレが管理すればいい」

「それじゃあ法律の戒厳性が薄れちまう」


男はタバコを咥えたまま「お前だって赤信号渡ったことくらいあるだろ」と問いかける。

雀はそれに頷き「俺もある」と男も続く。


「けど信号と違うのは後ろに引けない事だ。……一般人は弱い。危険度1の怪人相手でも勝てない。それが自然の摂理だ。それなのにブンブン車が走ってる中全員が大手を上げて信号を渡り始めたらそれこそ終いだ。しってっか? ダムってのは制御できているから体のいい発電装置になってんだ。制御を失えば、ただ水を貯めてる大きな器になるんじゃない。全てを飲み込み破壊する無差別兵器になるんだ。そしてそれは不可逆だ。貯まっていた水はなくなるまでずっと流れ続ける。誰にも止められない。それはいけない。統治ができない都市は都市じゃなくてただの自滅推奨都市だ。だから何が何でも一般人の自己防衛を悪としている。対してお前らみたいな組織はあくまで正義を前提に、惰性でも、受け身でもなく、能動的に動いている」


男はタバコを指で挟み持ち言葉を連ねる。


「つまり、ノリで戦わないんだよお前らは。下調べをちゃんとして、戦い方を研究して、能力の使い方を理解して武器を扱う訓練をしてる。ここが明確な一般人との差。それと生きる執念と死ぬ覚悟を持ってる事、既に怪人の討伐経験がある事。そこが一般人と違って特別に追及されてない最大の理由だ。……アドリブがおもろいんはプロのお笑い芸人だけよ、ほんま」


苦い思い出に浸る男はガムを噛んでいないのに噛んでいるような音を一瞬鳴らす。


「はぁ……」


そうして過剰なストレスを隠すために男は鼠色の煙を雑に吸い込む。

吸い込んで、空に向かって大きく息を吐き出して、口ずさむ。


「……アンブレイカーズ。怪人、怪獣、大怪獣、敵性宇宙人。それらが人の領域を侵犯する事態を防ぎ、対応するための組織。もっと正確に言えば」


揺蕩う灰煙が色濃く舞い上がる中で男は言う。


「人間の安寧と平和を壊させない為の人間による、人間の為の、人間にとっての正義の組織」


男は一気に息を吸ってタバコを短くさせる。

そして縦に長いスチールの灰捨てにグリグリとタバコを押し付け、手放した。


「……ダブスタをするってのはかなり危ない橋を渡る事だ。お前らだけ特別扱いするのは限界があるし、それを不満視する人間も出てくる。そこの抑制ってのはすんっごいな、しんどい事なんだ。けど、それでも、お釣りが出るだけの価値が今はお前らにある。だからお前たちも人間にとっての正義であると約束しろ。もしできないんならお前たちはただの犯罪者だからな、法律が立ちはだかるぞ。アンブレ周りの罪は重たい。法に人生潰されてみたいか」

「いえ」

「じゃあ守れ。平和を壊させないための組織であれ」

「そりゃ約束しますよ。なんだったら行動理念がそれまでありますから」

「……言ったな。じゃあ見逃すだけじゃなくて協力してやる」

「あー……協力って具体的には」

「安定した情報提供をする」

「え、マジっすか」

「大マジ。……まぁお前のアジトについても教えてもらうが」

「……だとしたら、ちょっとこの話持ち帰らせて下さい。お願いします」


ザッと振られた深いお辞儀を前に男は大きなため息を吐くと言った。


「…変なイザコザでお釈迦になられちゃ意味ねぇからな…ほんましゃーなしやからな犯罪者」


持ち場に戻るよう雀に手を煽った男は、雀の感謝の言葉に丸い煙を吐きつけて、そして再びとタバコの箱を叩けば、肺を汚して明日を耽った。

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