「28」[怪獣ノア]vsアンブレイク(1)
朱円玲司が大怪獣Cc0001と接敵する30分前。
甘井が最後の怪獣の討伐をした直後、「怪獣ノア特別討伐隊」ことアンブレイク一行とアンブレイクを支援する能力者10,800名は、山や木々によって生まれる影がほぼ存在しない所定の平原にて戦闘を開始しようとしていた。
様々な【支援能力】が乗った【空間領域拡張】の効果は、四角形で構築された最大10m範囲内の空間を3倍に拡張する従来のものの100倍にまで拡張されている。
つまり、[怪獣ノア]とアンブレイクらを覆う最大1kmの【空間領域拡張】が両軍に見せるのは、300kmの青々しい大自然。
それは〈東京〉から〈大阪〉まである広さ。
自由に暴れ回る事が可能。
ただ、【能力】の発動地点が範囲の中心に近づく程に、【能力】の効果範囲に適用されていた100倍の増幅効果が1倍に近づくという点には注意する必要がある。
「ひっさびさだわ、この能力に支援されてる感覚」
「だね〜。私も久しぶりに強くなれてワクワクしてる」
「………そうだね」
一成と静流はやる気に満ちた様子で言葉を交わすが、背後に立つ三月は暗い表情をしていた。
「再三言ってるが、無理なら今からでもいい、帰れ。邪魔だ」
そう三月に声をかける雀は一成の横に並び、薙刀を軽く振って腰を落とす。その様子に三月は更に歯噛みをして、眉を顰めて、けれどそれでもと特製のナックルを握りしめて、いやでも……と田所に助けを求めるように目を向ける。だが田所もやはりと覚悟を決めた様子。
井熊も同様だ。
三月は『みんな何で苦しくないの』と思いを抱く。
そんな彼女に田所は言った。
「皆んな割り切ってないよ。ただ、やらなきゃ誰がやれるのかって話だから、やるの。それに、陽介さんの力を一番よく知ってるのは私たちだからやらなきゃダメなの」
「………ぅん」
「陽介さんは、人間で居たかった様子でした。でもそれは敵わない。…だから怪獣になってしまった陽介さんを止めてあげる事が、彼の願いを叶え救いになるのだと私は考えています」
その一言が三月に覚悟とは違う使命感を植え付けさせた。
「さて。……やるか」
自身を鼓舞する一成の小さな一声。
陣形は1番列に一成が立ちアタッカーを担当。その半歩前で三月がタンクアタッカーを担当。
2番列に田所が立ち、拘束能力と高い技術力を持ってして[怪獣ノア]の離脱を妨害するスクリーンブロッカーを担当。
3番列に雀が立ち[怪獣ノア]の隙を伺い確かな有効打を撃ち込むアサシンを担当。雀の隣に立ち、戦況を読んで味方を離脱参加をさせる静流も雀同様の役割を担っている。
4番列には井熊が立ち、雷の壁などで視界を隠すアクションブロッカーを担当。
計6人と、後方200km〜300km先で待機中の10,800名の支援者による陣形。
対し、ただ1匹の[怪獣ノア]。
3mもの巨体と骨骨を引っ提げて、酷い猫背で[怪獣ノア]は1人を見つめる。
「す……ず…め」
言葉の際を歩いているかの様な掠れた声で呼ぶその名。[怪獣ノア]は何度となく脳に響く雀の名を繰り返し繰り返し唱え続けた 刹那 [怪獣ノア]の疾走。
それと相対するように手を伸ばしたのは田所山葵。
(意識遮断:衆)
同時、[怪獣ノア]の元から大きく後退したアンブレイクの面々。糸が切れたように倒れる[怪獣ノア] 次の瞬間 強烈で苛烈で絶烈な光が極む束々が、神が地に拳を打ち付けたかのような音と地鳴りを響かせて[怪獣ノア]を漫然と覆い貫いた。
断続的な10秒間の光の照射。
最早質量を獲得したその攻撃は【光線】の能力を元に全都市招集数約56万人の隊員の4割以上、約222,000人もの【能力】を連ね合わせた結果の光。
最新の影怪人討伐機器の凡そ1333倍の威力を持った光攻撃により地層諸共[怪獣ノア]を焼き溶かす。
そうして、[怪獣ノア]は跡形もなく蒸発し消え去る。
「…………す、ずめ…」
そのはずだった。
プスプスと、焼き焦げたカルメの様な漆黒に身を染めながらも形を保とうと骨を纏い唐傘を脱ぎ去る影の蠢き。
巨大な土壁を登りつめ、地表に身を露わにした[怪獣ノア]は、体の大きさが縮んでいた。
全長目測1.7m。
そんな[怪獣ノア]は、そして――
「――す”ず”め”ぇ”えぇ”ぇぇ”ぇ”ええ”え”!!!!!!!!!」
雄叫びを上げると同時、急加速した。
草土が高らかに舞い、邪魔な風の波を押し退けて暗黒色の外套をはためかせる。
その時、小さな足音が咲き誇った。
「陽介兄ぃ!!!」
[怪獣ノア]の進路を見据え前に出た三月。
拳を握る彼女の身体は金色に輝き、瞳が赤色に染まっている。【無敵】が発動している事の証明だ。
そんな妨害を前に[怪獣ノア]は進路を変えず猛進し、三月と激突する――
「っ…!?」
――瞬間、[怪獣ノア]が裂けた。三月だけを避ける様に体の正中線をバッカリと開けて。
そして三月を抜け切ると分裂箇所をくっつけて、トップスピードのまま走り出した。だがある時、[怪獣ノア]は電流が走ったかの様に即座に踵を返し100m後方に飛び込んだ。
「三月の【能力】に対する動きと言い……覚えてるか、私の【能力】の事も」
雀の能力【歯音拘束】の有効射程範囲は10m。爪の端ですら範囲となり、効果が全身に掛かる。
故の退避。
だが、その動きは隙を生み出す反応でもあった。
「ふんっ"!!!」
残像を纏って走り込んだ長本静流。
彼女が握る、指先から肘先程度の大きさの白銀のメイスが描いた彗星の轟。
[怪獣ノア]の心臓をぶち叩いたそれは瞬く間で骨の外装を叩き割り、[怪獣ノア]の脈のない白い心臓を破裂させて豪速に吹き飛ばした。
そうして地面を翔け転がる[怪獣ノア]は一転、地に未だ足を着けられていないながらも変幻自在の体で黒い円を描き、体を真っすぐ起こし、そうして口腔で光り輝かせたそれを解き放――
――[怪獣ノア]は空を見上げていた。
顎をメイスで叩かれた。
それに気づいた時には後頭部から降った重みに流され土を食う。
が、それを直ぐに吐き出せと腹に蹴り込まれた一撃に[怪獣ノア]は地面にほぼ接地しながら等速直線を描いて吹き飛んだ 瞬間 [怪獣ノア]は何かに激突し「つ」の字を体現した。そこには黄金の光を纏う、目の色が赤から黄に変わった三月。
不動直立――同時、迅風の喝采を纏い光を輝かせる双刀を[怪獣ノア]の体に幾重と落とした一成。
[怪獣ノア]は黒い煙を薄く上げて、けれど即時再生させた怪獣は、音を置き去りにしそうな威力で蹴り飛ばした一成を追いかけ、抜く、瞬間、拳を投げ込んだ。
「ん"んん"ら"ぁ"ああ!!!!!」
が、一成はその腕の外郭に剣を添えて火花を散らす。拳が一成の残像を射抜く頃には後方の青草が纏めて引き千切られている――その音は目印となる。
[怪獣ノア]は充填させていた光の煌めきを振り向きざまで撃ち放つ――
(もう緑に行きそうなんだけどっ)
――カンッと甲高い音が響いた。
一成の目の前に白く淡い光を纏った三月が現れ光線を受け止めていた。その瞬間を縫った一成の肉薄に向けた[怪獣ノア]の口腔は、しかし意識とは反対を向き地面を裂いた。
(【意識反転】……)
間を置かず冷静な瞳で怪獣の顔面に振り込んだ蹴りが届く寸前、一成を見ないままに[怪獣ノア]は正確に大拳を一成に打った――その瞬間、再び三月が現れ甲高い音と共に攻撃を防ぎ、明確に目の色を緑に変えた。




