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アンブレイカーズ  作者: MRプロジェクト(詳しくはプロフィールにて)
第3章「カナヅチ」

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「21」鏡の怪人

[影怪人]討伐から約4ヶ月後。


廃墟まみれの郊外地区には人以外の命が強く根付いていた。


苔に花、雑草。青臭さと甘さを食べる蜂や芋虫、てんとう虫。群をなし鳴く鳥の姿。それぞれがそれぞれ、人の生活を取って代わって彩と騒がしさを演奏している。


風が吹けば草木は流れさざめいて、毎年咲く桜は花びらを散らす。しかし今日ばかりはその花びらたちは見慣れぬ地へと飛んでいっていた。


その風の波の源泉。廃ビル6階。弾け飛びシャラシャラシャラと地に足をつけた窓ガラス達。人っこ1人いないはずのこの場所で響く人間の疾走音。


「っはぁっ、はぁっ」


守樹からの報告で急行した陽介、田所、南雲。


対峙したのは三面鏡の体を持つ[鏡の怪人]。


接敵時、事前情報から危険度「3」程度と予想し対応をしていたが、あらゆる攻撃を反射する特性、その特性を近くのガラスに転化する特殊なミストを噴出する機構。


そして心を奪う[鏡の怪人]の【能力】で事態は急変。【能力】の対象者は1人のみだが行動不能は確実。

その上対象者は自死に向かわされる為、対象者の拘束が必要で、実質的に[鏡の怪人]を1人で相手取る必要が出る。


しかしこの[鏡の怪人]には物理的な攻撃も電撃といった事象系の攻撃も反射され通じない。寧ろ全てが反射されて陽介らに返ってくる為に厄介が極まっていた。


そんな中で最高戦力である陽介が心を奪われ早10秒。田所による【意識剥奪】で復帰を果たし、陽介は南雲にこの階にある全てのガラスに外に向かっての破壊を指示。


次々と爆ぜ散るガラス音。

その中に混じった、異質なバギッという音。


3人の前にいた三面だった[鏡の怪人]は突如として分離し、中央だけが起立して残った。

そして[鏡の怪人]は背中についていた手で自身の体だったものを手にした  瞬間  南雲はガラスの破壊を止め一点集中で雷を溜めた――次点、[鏡の怪人]がそれを投擲した時南雲は即座に鏡を撃ち落とした。そしてここで雷が反射する。その予想と目の前の事実が面々の表情を曇らせた。


「吸収も出来るんですね…」


田所は雀に守樹への連絡を頼もうとした。だが、陽介はそれを静止し言った。


「作戦がある。その為には俺1人にならなくちゃいけない」


その時床に顔をつけていた鏡が刹那の電撃を地面に放ち反動で陽介達に飛来した。

そして――


『雀ちゃんは、俺が守る』


――1人――


『やめて…たべ、ないで……』


――微睡に落ちた。


『赤井ー。僕もヒーローになれるかなぁー』

『んー…? ぁー……んー、なれるんじゃないか? …まぁただ、ヒーローは人から認められて初めてヒーローだからな。ちゃんと五体満足、命の等価交換をしないように戦い続けられる強さがいると思うよ。後は君がその為にどう強くなるかだからー…君次第?』

『なんかもっと大人が子供に夢を見せるみたいな言い方で教えてよぉ。普通で無難すぎぃ』

『ほんと君マセてるよね。マセガキだ』

『はぁ!!? マセてないし! 今の子供はこんなもんだし! 赤井が古いんだし!』

『ごめんごめん、そんな暴れんな。アイス奢ってあげるから』

『……はぁ。物で釣られるのは癪だけどいいよ。でもミニストップのアイスね』

『いーよー』


パチンコ店の光景が一変、真っ黒い世界に身が落ちていく。


(俺は、誰だ…)


記憶を辿れど辿れど見える世界は全て闇。いや最早自身に過去は存在しないのでは。そう思う程に底知れない恐怖心に呑まれ、彼は逃げたいと言う気持ち一心で自身の首に手をかけた。


「陽介さんっ!!」


「――っぁ、ありがと…。えっと…これとこれと…服は――もう雀ちゃんに謝るわ」


陽介は急いで武器や防具を着脱し、南雲がそれらを持った。


「お気をつけて」


レベルの高い田所は南雲を担いで隣の半壊したビルに飛び乗り、地上に向かってパルクールで降りていく。それを背で見ながら陽介は九尾狐を降ろし、眼を見開いて言った。


「……竈」


途端、ブワッと膨れ、一帯を支配した牡丹の色に塗れた煙の波。


(打撃も雷も反射。剣も通らない上に精神干渉をしてくる厄介さ。だがあくまでこいつも生物。それも[怪獣]じゃなくて[怪人]。まだ生物的な要点から逸脱した存在じゃない。だから、生きる上で必要なモノを奪えればなんて事はない)


[怪人]も陽介も包み込むそれの中、陽介は更に「薪炭」と、言葉を刻み、9本の尾を華の様に立たせると口ずさんだ。



「…点火」



紫煙の中に満ちた轟熱の世界。


中にあるモノ全てが有する水を無かった事にし、そして陽介も[鏡の怪人]も、赤熱し溶解する暇もなく真っ黒く身体が焦がされる。深海の様な質量を宿した熱の勢い。

それに圧し潰されボロボロと崩れ落ちていく細胞だったもの達。酸素が完全に無くなっても尚猛る炎天業火。


まるで太陽の中心の様な世界で、けれど陽介は生きていた。


[影怪人]との戦闘を経て【降霊】の能力段階が少し上がっていた為、長期契約者の同時降霊が可能になっていた。

そして今、陽介は唐傘の怪異を上半身に宿して生きながらえていた。


紫煙の中で激しく煌めく光の脈動。


田所達はそれが密かに暮れ行く様子を息を呑み見ていた。


「陽介さん…」


そんな心配そうな声に南雲は「大丈夫だよ」と声をかける。


「それは、分かってる。けど、あの人自分の体を大切にしないから」

「……まぁそれは確かに。…でもそこをカバーするのが俺たちじゃん。行こ」

「うん…」


2人はそうして現場に向かい走っていった。


陽介は倒れた達磨の様に転がっていた。

眼前の闇は続いていた。紫煙の触覚機能で[怪人]の死滅を見届けたから焦る事はない。

だから陽介は、ただただ静かに身体の再生を待っていた。


その最中脳裏に映り続けていたのは赤井の姿だった。


『ヒーローになるんだ。みんなのヒーローに』


陽介は映り反響する声にか細い声で自身に語りかける。


「ぉれぁ………だれ…ぁ……」




少しして、現場に到着し6階に向かった南雲と田所。


その階層の殆どが真っ黒く暑い。

懐中電灯の光で道を灯せばその光を遮った炭の塊が1つ。

多量の汗に体を沈めて呼吸を浅くしている2人は、それでも近寄ろうとした。


が、地面の熱に靴が溶けてしまい近づけずにいた。

だから仕方なくと一旦帰還し冷却装置を持ち寄ろうと外に出れば、昼の日差しを下腹部で受けている陽介がそこにいた。


「それ都市内なら犯罪ですよ」

「別に俺だってなりたくて露出魔になってるんじゃないよ」

「じゃあせめて残った上半身の服で下半身を覆ってください、全く」


田所はバッグの中から陽介にピッタリの服を手渡した。


「陽介さんすぐに裸になるんですから」

「いゃぁ………申し訳ない」

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