表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンブレイカーズ  作者: MRプロジェクト(詳しくはプロフィールにて)
第3章「カナヅチ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/35

「20」雀と陽介

佐伯陽介と佐伯雀の出会いは11年前に遡る。


11年前の≪大怪獣災害≫では3箇所の〈都市〉の同時攻撃を受けた。場所は〈東京〉〈大阪〉〈大分〉と、人口トップ3の〈都市〉。


後にアンブレイカーズ隊員約180万人、各都民合計約300万人の死者が出た進撃に対して迎撃に向かっていたトップ6。

そのうち〈東京〉をトップ1、2である赤井と桃西が担当した。


標的はCc級大怪獣[大怪獣Cc0001(まるまるまるひと)]。大規模都市文明の発達により保全されていた[大怪獣]の統計3000年の歴史の中、日本史上初となる規格の存在。


[大怪獣]の呼称は全てアルファベットで呼ばれ、先頭の大文字で大まかな全長を表す。


つまりは、Aを30m級、Bを50m級、Cを70m級としている。

小文字はaからcで5m以内ごとに記述される。Ccであるならば85mと言う事になる。


後続の数字は歴史的発見個体数を表記している。


Cc級出現以前はBc級が最大値であり、そんな[大怪獣Bc]の強さを元にした兵器が多かった事もあり[大怪獣Cc0001]の討伐対応は後手となっていた。


結果として2人の命を犠牲に〈東京〉と都民が守られ、また同様に〈大阪〉〈大分〉でもトップ6の死亡と引き換えに〈都市〉と人々は守られていた。


その後〈東京〉では壁内中核に及んだ被害が深刻で、都市機能が半ば全壊している為に壁内の再興が優先されていた。ほぼ更地となっている外周の援助はアンブレイカーズ隊員による週1回の巡回と、朝と夜の配給だけ。

防衛は常に手薄で悲鳴はどの時間帯でも轟いていた。


多発する怪人被害は、やがて外周民に自治を余儀なくさせ、その後公的に一時的な自治機能の獲得を受理された。

その中で中核を担って居た1人が佐伯雀だった。

そうして、少ない設備で鍛造された、自治体の中で10番内の強さを誇る薙刀を握りその日も雀は戦って居た。


戦闘の構成は最低10人。内1番レベルが高い人物を筆頭攻撃手とし2と3番手が筆頭の援護。

残り7人は筆頭攻撃手を【能力】で援護ないし道具・環境利用での援護。雀の【能力】は【歯音拘束】という、歯で鳴った音が少しでも届いた相手を指定して3秒間拘束すると言う【能力】。


支援向きでありながら高い戦闘センスを持つ彼女は筆頭攻撃手として活躍していた。


「由美ちゃん!!」

「はいよ!」


【支援能力】により強力な強化を得た由美という女性による剣の一刀が5mの[怪人]の腕を斬り飛ばす。

そして次の瞬間にはその背後へ走り抜けた由美、を見た[怪人]、に落ちた華奢な影。


その影にギュンッと振り返った[怪人]はその薙刀の一筋を仰け反り回避する  同時  鳴り響く歯音が1つ。

刹那で微動だも出来なくなった[怪人]の頸に掛けられた鉄色一刀。鮮血が地を叩いた――が絶命はまだ。


故に影を縫い背後に回り込んだ雀。【支援能力】の対象は由美から雀へ。


格段と違う機微と速度の変化を風の動きで感じ取った[怪人]は死を予見して体を震わせる。が息も叶わぬまま、頭部の自転が見せる空と地の乱高下を前に絶命した。


「……おい、大丈夫かお前」


自治開始から3ヶ月。

肩に乗った結んだ赤毛を背にほって地に伏せている全裸の男に声をかけた雀。

それに呻き声だけが返ってきて、だから雀は男を運んだ。

年齢は20代か。

体は健康的で、以前までは何かを食えてたんだろうと推察を重ねながら医務室で雀は男を看病した。


彼が目覚めたのは数日後。


目を開けるや否や弱々しく何かを探す男。丁度居合わせていた雀は何度か問い掛けるが何も喋らない、いや、喋れない様子で、雀は[怪人]の【能力】で記憶を奪われたのだろう、と一旦ばかりの結論を付けて一先ず水とご飯を用意した。すれば手も食器も使わず口でガッツく男。


雀は推定ではあるものの記憶を失っている人間の相手をするのは初めてで、様々な人から知見を得、記憶が戻るまでは赤子と同じ、という理解からイチから教育を施す事にした。


「男を家に上げるなんて旦那が知ったら吐きながら泣いて痙攣してそう」


雀は自治の担当時間を終えると毎日せっせこと崩れ去った図書館の瓦礫を掘り起こし、赤ちゃんや子供用の教育本を見つけて自宅に持ってきていた。


流石に医務室の清潔なベッドを健康な男だけに使う事は良くなかった。


雀は自宅に彼を住まわせ、半年掛けて言葉と生活を教えた。


『死ぬほど困ってもう自分でどうしようもなくなったら、恥も外聞も捨ててでっかい声で助けを乞え。そしたら全員は来ないが誰かが来てくれる。力を貸してくれる』

下手したてに出る時は僕って言え。分かったな』

『何かをしてもらったら感謝をしろ、いいな』

『約束は絶対に守れ。守れない奴は人間じゃない。信用足る良い人間になれ』


そうした格言的常識論は男の世界の認識を整えた。


そんなこんなで暮らしていれば「おい」「なぁ」と不統一な呼称を撤廃し名前が与えられた。


その名は「陽介」。

明るく、暖かく、積極的に人を助けられる人間になれという名。


当時の陽介自身はまだその言葉の意味を理解するのも難しく、雀にあやされるように笑われていた。


当時の陽介の年齢は推定20歳。

雀は16歳。


そんな年齢差があっても尚、陽介は気にした様子はなく真剣に言語と文化習得に取り組んでいた。



大体出会って1年程度経った頃、漸く大人程度の会話力を手に入れた陽介と全ての本を仮図書館に返した雀。意思疎通が自由にできるようになった事もあり疑問を口にする様になった陽介は、雀の寝室で埃を被らず立っている、赤ちゃんと、男性がひらがなの50音表を指している写真について触れる。雀は「あー」と空を見上げ悩んだが「まぁいっか」と過去を口にした。


中学三年生に上がる前、15歳になる前に産んだ子供。


はじめは堕胎をする事を両家から言われたが、雀とその夫は育てる事を決意して譲らなかった。

しかし経済的な問題、学校の問題、周囲からの目線、と大人からは当然と現実を突きつけられた。

けど、それでも2人の言い分は変わらなかった。


『[怪人]が街に現れたから、お父さんとおばぁちゃんが死んだんじゃん。…私たちには戦う力も権利もない。だからこそ壁の中で暮らさなきゃ行けない。でもお金だってないから壁の中で暮らせない。いつ死ぬか分からない世界で、それでも今をもっと幸せにしようとするのがダメなの。それに私はこんな世界でも幸せだった。子供も幸せにするしなれるって思ってる。……お母さんもおじいちゃんも、子供を育ててもいい世界だから育てたんじゃないの。私も、そう思ったから育てたいの。……お金に関しては今は自由に用意する事は敵わないけどちゃんとほんとにちゃんと返すから、周りからの目線なんか、目先の苦労なんか、未来の苦労だって全部全部背負って頑張るから…智樹との……子供を育てさせて…』


その後いろいろと話し合いをし、厳しい精査と約束を結ぶ事で両家は産むことを許した。


同時に大人として扱うとして出産費用やベビーグッズなど、今後必要になってくる費用は建て替えるが、しっかり利息をつけて払うという契約を結んだ。


その後卒業間近ではあるものの中学校への登校をやめて単位の為だけの送付プリントをこなし卒業。通信制の学校で高等学校の学位習得に励みつつバイトと子育てを頑張ろう、そういう考えで日々の幸せをかみしめていた。その一枚が、これだった。


毎日10枚以上撮影している中でこれを選んだのは、子供の成長の一部を見ることが出来たから。

そして、それが最後の成長の瞬間だったから。最も新しい記憶を忘れたくなかったから。


12月、≪大怪獣災害≫が発生。


建物の倒壊。[怪人][怪獣]の襲来。[大怪獣]による攻撃。広く大きすぎる戦闘の余波。


雀が目撃する、コンクリート壁の下敷きになり5本の鉄筋が夫を貫いている光景。


血溜まりが嫌なほど早く広がっていく様子。

置いていきたくないのに置いていかないといけない苦しみ。

[怪人]らに見つからないように泣き叫ぶ子をあやさなくてはいけないという異常な緊張感。


1日足らずで[大怪獣]とは決着がついたと言うのに[怪人]は蔓延ったまま。


しかしなんとか極限状態の中で息を繋いだ3日目の朝。星の光よりも小さい避難所の光が確かに見えた、日が登ろうとする中での道のり。

その半ばで出会った、小柄な[影怪人]が1匹。


朝日を受けながら(・・・・・・・・)、そいつは雀達を見ていた。


「燕…だめ、泣かないで。お願い。お願いっ…」


泣き叫ぶ子をあやすももう時は既に遅く、[影怪人]は燕を見つめて歩みを進めた――逃げよう。

そして子よりも大きな声を出して身代わりになろう。


でも、口から出たのは掠れた声、脚に入れた力は抜けて行き息が直ぐに切れる。雀はそして、腕の中のモノを奪われてしまった。


「やめて…たべ、ないで……」


……髪の毛も…目も、歯も爪も、血も、何も。

何も……残らない。


強烈な咀嚼音と臓物が破裂する音だけが雀の脳に残って、離れなかった。


その後[影怪人]は暫くの間棒立ちをして、少しして瓦礫の海に消えていった。


そんな過去を語り、陽介は覚えたての気の利いた事を話そうとしたが何も出てこず口を噤んでいた。そんな彼に雀は優しい笑みを浮かべて背中を叩く。


「ま、過ぎた事だから。辛いけど、でも今はへこたれてない。私には2人のお墓を立てるって目標があるし、大往生をするって言う壮大な夢があるから生きる意味がある。だから大丈夫。それに……陽介と暮らしてて、良い意味でなんか子育てしてる感じで毎日楽しめてるから」

「俺雀ちゃんよりも年齢高いのに…」


雀は陽介が頬を掻くそんな様子に楽しそうに笑って「ま、記憶も何もないんだから今は1歳児みたいなもんでしょ」と言った。


それから数日後、外周地区に4匹の[怪人]と2匹の[怪獣]が襲来した。


アンブレイカーズはその事態に流石に急行したが[怪獣]同時討伐の困難性から、4匹の[怪人]と1匹の[怪獣]と即時戦闘し、[怪獣]1匹を外に向かわせ討伐を遅延させる方向で動いた。しかしその作戦は失敗。


簡易避難所に進撃を開始した[怪獣]の前に自治体が立ちはだかった……が、怪獣レベルの相手は最近まで一般人だった人間には高すぎる壁となっており、その壁の高さに雀もぶち当たっていた。結果として、状況は最悪を極めていた。


陽介は当時自身の【能力】についての理解がなく、己の【能力】がどう言った力なのか、そもそも【能力】を有しているのかすら不明だった。故に肉体強度のあった彼は救援物資の運搬や救護と言った裏方仕事に徹していたのだが、現場で雀が危機に晒された様子を目撃した時。


「…守らなきゃ。…雀ちゃんを。倒さなきゃ。……悪い[怪人]は。[怪獣]は」


陽介は自身の【能力】を理解した。


凡そ28mはあるだろう、口から霜を吐きだす巨大な象の見た目の[怪獣]。


高層マンションの支柱の様な巨大な長鼻。[怪獣]はそれを容易に振って一帯の全てを易々と薙ぎ払う。


その目下【能力】の反動で動けないでいる雀。

周囲に彼女を守る【能力】も力を持つ者もおらず彼女を見捨てるしかなかった。

そして、雀の命はその一振りで絶たれてしまう。


――その時、[象の怪獣」に向かい風が吹き荒れた。


響き渡った、壁と壁とがぶつかり合ったかのような重く震える音色。


半壊したアスファルト道路が更に大きく砕ける様。人影を感じて彼女がその目に収めたのは、陽介とは似つかわない男性の容貌。筋肉量。そして普通の身長と普通の顔。


死灰しかい


それは、死神の手と揶揄されていた【能力】。


触れられれば、その場所を中心に砂時計の様に身が滅び落とされ大地に還される力。


その【能力】の持ち主は、アンブレイカーズトップ1、赤井陽介のモノ。


[象の怪獣]は雪崩れ込むように灰になっていく鼻先を見て、息を大きく吸うと鼻の中で多量の水を破裂させて無理やり鼻を切り落とした。


弾け飛ぶ血肉と灰塵の風。大きな2つの鼻穴が赤井達を見下ろしている。


とても冷静に。

暴れもせず、激昂もせず。

見つめ合う赤井と[象の怪獣]。


その膠着状態を好気と[象の怪獣]は全身の汗腺から水を流し、瞬時に冷却して分厚い氷の鎧を羽織った。

切断された鼻穴から勢いよく噴射された水も瞬時に凍結され、その大鼻は擬似再生を果たした。


しかしその氷達は氷とは似ても似つかわず、凝固してなお高い弾性と柔軟性をまとっていた。


[象の怪獣]は周囲の建物を鼻で叩き瓦礫を掴んで赤井に向かって投げ飛ばす。

それ1つで人が10人まとめて潰れてしまう程に大きな瓦礫の雨々。赤井は一息強く吐くと瞬く間でそれら全てを弾き飛ばし[象の怪獣]を殴打で転倒させた  転倒の最中  勢い強く鼻から水を噴射し体勢を立て直そうとした[象の怪獣]。


そこに響く歯が噛み合う音色。


喘息気味の呼吸と多量の鼻血を垂らす雀の姿。

2人はそうして巨影に立ち向かい、3秒で討伐を果たした。


その際に得たレベルアップは、2人をアンブレイカーズ中位上層程度の強さに繰り上げた。


先の戦闘を経て、負った傷の治りが早い陽介。骨折や臓器損傷の治りの緩やかさに呻く雀はそんな彼を羨ましく思いながら彼に医務室で世話を焼いてもらっていた。


「俺が雀ちゃんを守るから」


そんな中、ふと囁かれた一言に「急に何だよ」と身震いを起こす雀。


「雀ちゃん、1人だから。俺が側にいて守るって話」

「なんだそれ告白か? …生憎この前話した旦那と結婚したまんまでこれを解消する気は一生ない。だから返事はノーだ」

「いい。別にそう言うのじゃないから。本当にただこうして会話できる様になるまで付き添ってくれて、ご飯も居場所もくれた雀ちゃんに恩を返したい。一緒に居たい。それだけだから」

「新手の事実婚業者ですかぁー? …はぁ好きにしろ。出ていく時はちゃんと報告しろよな」

「……うん。出ていく時はね」

3人称終了です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ