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アンブレイカーズ  作者: MRプロジェクト(詳しくはプロフィールにて)
第3章「カナヅチ」

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17/35

「17」慰安旅行(1)

「――んで、そんな守樹さんから『〈大分〉に慰安旅行してこい』との事で頂きました都市間転移チケットと2泊3日の大人数旅館宿泊券ー」


金城さんの成仏を終えた2日後。


今日は清掃のお仕事がない完全に会社として休みの日。

じゃあ休日なのかと言えばそうではない。

うちはもう1つの仕事の性質上仲間との信頼の密度が不可欠だ。その為親睦を大切にしており、皆この日はアンブレイクの事務所2階に集まって団欒としていた。


そんないつもの光景の中でのさっきの雀ちゃんからの話。


「守樹さんってだれだっけ」


お酒の入ったステンレスのジョッキを片手に一成が雀ちゃんにべったりくっついて聞く。


「いや今さっきの話したじゃん。うちのパチ屋の店長。兼任でアンブレ管制塔の偉い人」


雀ちゃんはそんな一成の顔を見る事無くアイアンクロウをはめてそれ以上の接近を拒む。

そうした状況であるにも関わらず一成は何事もないかのように「そっかそっかごめん。にしても慰安旅行かぁ、楽しみだな雀っ」と言葉を連ねた。

彼の怖いもの知らずさには毎度脱帽する。


「お前酒入ると鬱陶しいんだよマジで」


そんな大きな溜息と頭蓋の犇めきに頬を緩める一成。


「一成くんーダメだよダルがらみしちゃー」

「雀ぇー――っいったっ。…え、痛いんだけどほんとに。……え?」


慣れた手つきで引き剥がされ一成がもがいた静流ちゃんの胸の中、その脳天に落ちた小さな拳。しかしかなりレベルの高い彼の体に痛みを与えられる程にその一撃は強力だったようだ。


「新人くんと山葵ちゃんは〈都市〉って移動した事あるの」

「私はありますよ。自身のアンブレイカーズ内の評価上仕事で色々なとこに派遣されてましたね。多い月は3日そこの〈都市〉にいれたらいいなぁ、みたいな感じでした」

「へぇ。上位上層も大変だなぁ。…ほんで新人くんは?」

「僕はぁ……中層と言っても下位なので、派遣以前に拠点付近で経験を積むんのが優先でしてなかったです。なので今回が初めててですね」


そんないつもの空間に咲いた旅の華を愛でていると大きな声が破裂した――三月の声だった。


「あのさー!! もうちょっと暴露の余韻というかさ!!! ないのなにか!!? アンブレの偉い人だよ!? 指揮官補佐だよ!? 監視されてるんだよ!? 今後所属を続けるかどうかのシリアスな空気感とかないの!? なんで何でもなかったみたいな雰囲気なの!!?」


とても真剣で、語気が強くて、不安げで。

なによりツッコミというにはあまりにも冗長的な言葉選び。

顔が夏の木々よりも青々しく、普段の快活さと違う雰囲気に驚いてしまう。


(そういえば三月ちゃんは実感を得るまで危機感のない子だった)


彼女は別に考えなしではない。

けれども危機に直面するまでは自身にメリットがある限り危険行為も許容する性格をしている。

彼女が持つ【能力】や武術は優秀だが、そんな性格がアンブレの実習中に露見し、就業不適合の烙印を押されてクビになった経歴がある。


それを踏まえて、今ある事態はある程度必然的で。

でも守樹さんとの件は冷静に考えれば実は悪くない訳で。


「いっやぁ……むしろ監視下に置かれてる状況でなんか安心してんだよ。ほら、俺達結局は犯罪者だし。監視されてるけど逮捕されないって最高なシチュじゃん。それも偉い人が公認ならある程度取り計らってくれそうだし。何より雀が連んでる相手だ、信用に足るってもんよ」


一成はそう言って雀ちゃんを見た。

雀ちゃんは頷いた。


「ねぇお姉ちゃんはどうなのさっ」

「んー、私も一成くんの考え方と同じねぇ。雀ちゃん、お酒飲んでる時位しか考えなしな事しないし。それに外周・郊外での敵性生物の目撃情報の提供をしてくれるのなら願ったり叶ったりだもの。〈都市〉に何かしらの被害がでる前に対応できるようになる事は素晴らしいわ」

「で、でも捕まるかもしれないんだよっ」

「それは最早今更、と言うのが妥当な評価かと」


山葵ちゃんは淡々とそう告げた。その目はとても純粋で、三月は顎を顰めさせて床を見た。


「まぁそうですね……赤信号、みんなで渡れば怖くない。けど、信号機の前に警察が立っていたらその限りではない。例え周囲が渡っていても。今の三月さんの心理です。なのでこう考えてはいかがでしょうか。自警団が公的な警務員と業務を提供できるようになった、と。後ろめたさは全員抱えています。私も、ずっと。なんたって犯罪者ですから。私、曲がったこと嫌いなので、ここに勧誘された時は通報を考えたくらいですし。…でも佐伯社長の性格や理念、今のアンブレイカーズを補う役割を担いたいという切な思い。そして黒くない仕事だからここに私はいます。胸を張れています。その上で公認なら箔が付いたも同然です」

「…うん」

「なので、今は警察と同じ立ち位置にいると考えてはいかがでしょうか」


そんな説得を促す言葉に三月は暫くの沈黙を添えて、周囲からの視線を浴びて、静流ちゃんの方に目を一瞬向けてそして頬をパンッと叩くと「ごめん私が変だった」と前を向いて言った。


「よし、じゃあ全員残るという事で、これからもアンブレイクをよろしく。…そーんで、2泊3日の〈大分〉慰安旅行に行きたい奴はこの紙に名前と、直近の予定があるならその曜日を。んで絶対アレルギーに関する情報は書いてくれー」



――――



そうして全員の予定の調整を行った結果 翌々日となった〈大分〉への出立。急いで揃えた荷物達を色んなバッグに押し込んで、今は朝9時。

俺達は転移屋にやってきていた。


転移屋。


都市間の移動を一瞬で執り行ってくれるお店。

バスやフェリー、ヘリコプターと言った陸海空の都市外民間路線は存在していない。


それもこれも[怪人][怪獣]の存在がある為法律で固く禁じられているほか、単純にアンブレイカーズの邪魔になる為重犯罪として捉えられている。

……ではどうやって一般人の〈都市〉間移動や個人荷物の運搬をするのかというと、転移や転送の【能力】を利用する事になる。


一定範囲内にいる条件を満たした人と物をまとめて移送する【転移能力】。

重量や大きさ関係なく範囲内の物を移送する【転送能力】。

これらは結構希少な【能力】だ。

1万人に1人いたらいいなという数で軍事で大きく活躍する為、そうした人材の大半はアンブレが抱えている。


ただ結局【転移・転送能力】の連続使用、高頻度使用が難しい場合が多く、そうした使用制限などでアンブレが求めているような規模を扱えない事が多い為、この【能力】は基本的に高価であったり丁寧な扱いが必要となる機器や部品の転送、技術者の転移に利用されている。


だが中にはその利用基準に満たない人材もいる。特にこの【能力】は性質上能力段階を上げにくい、故に伸びしろが小さく、だから【能力】を活用するよりも陸海空路を使用した方が早いかどうかを基準に招集の有無が決定されている。


しかしそのまま放置するには有用な【能力】である為、【長距離転移・転送】は都市間移動、【短距離転移・転送】は都市内郵便、といった風に民間向けに棲み分けがされ、アンブレの厳重な認可のもと業界が成り立っていた。


ただアンブレに買われない【能力】という事はかなり欠点がある訳で、そうした不足点を補うために大体客1人あたり10人が関わる事となっており、また日に頻度高く【能力】の行使が出来ない場合が多い事から利用客制限のために料金がかなり高価格となっている。


多分俺達7人の行きだけで軽く2000万は掛かっているんじゃないだろうか。

守樹さんはどうやら俺たちとかなり前向きに長い付き合いをしていきたいらしい。



――――



「わぁー! ついに来た!! 〈大分〉!!!」

「新人くんの目キランッキランしてる……おじさんには眩しいよ…」


都市間移動を3回ほど中継しながらやってきた場所。紅葉と木柵とに囲われながら白煙を立てる湯の池の数々。これが所謂温泉の香りかと肺にめいいっぱい吸い込んで周囲に目をくべる。


やはり待ちゆく人は皆現地の方が多いようで歩みに迷いがない。俺達がやけに目立っていた。


スマホを何度も見ながら先導する雀ちゃんの背を追いかける俺達と、未だ空と湯気を仰いでゆっくり歩いている山葵ちゃん。そんな後ろにいる彼女に声をかけようとした時、楽し気にはしゃいでいる子供の兄妹の宇宙人と山葵ちゃんがぶつかりそうになっていた。


「ゴ! ゴメン、ン、サイ!!!」

「すっすみません! よそ見してました!!」


持ち前の高い反射神経で避けた山葵ちゃんは大きな声を上げて頭を下げた。


そんなところに慌ててやってきたワインレッドのニットと黒い外套に身を包んだ大きな宇宙人。彼は黒のハットを胸に沿えると山葵ちゃんと同じく深々と頭を下げ、謝罪し、顔を上げた。


「いやぁ地球は素敵な星ですね。初めて地球旅行に来たのですが、木々の色彩と空の青さ、香り、人が築く自然との共存文明、目が奪われて仕方ない。……おっと子供から目を離す言い訳が過ぎましたな。気を付けて歩きます。あなたも〈大分〉旅行、楽しんでください」

「私も気を付けます。そちらも楽しんでください」

「ありがとうございます。…後、お詫びと言ってはなんですがこちらを」

「これは……?」

「こちらで言う名刺です。私は所謂友好性宇宙人でして、宇宙連絡センターにも署名しております。確かめていただければ幸いです。それとワタクシ医師をしておりまして、なにかお困りでしたらこちらの電話にお繋ぎください。宇宙電話センターを経由して繋がりますので」

「そんな。ただぶつかっただけで。それも私の不注意で……」

「……そうですね。実の所ワタクシ共はこうして友好性を周知する努力義務がありまして、助けると思って是非に受け取って頂きたいのです。困り事に対しての協力はほんとにほんとに本意ですが。……長話を失礼しました。ではワタクシ達はこれで。◇▽●●◎、▽△▲□○◎」

「▲▲□。……ホントウニ、ゴメンナサイ!!!」


大きな宇宙人に言われもう一度山葵ちゃんに言葉を伝えた宇宙人の子供。山葵ちゃんは子供の目線に合わせてしゃがみ、4本の腕のうち2つの手を軽く握ると「旅行、楽しんでね」と言った。親の通訳を介せば子供は猫の様な尻尾をブンブンと振って笑顔で頷いた。


そんな4人の宇宙人の家族を見送っていれば、いつのまにやら側に居た雀ちゃんが「あんな感じで友好的だと受け入れられるんだけどな」と言った。その話に山葵ちゃんも同意だそうで。


「そうですね。……なんとか宇宙戦争に勝っていただきたいものです」


宇宙戦争。

聞きなじみのない単語に問えば山葵ちゃんが教えてくれるそうで。


「ここで言う宇宙戦争というのは、平たく言えばこの銀河系の支配権を巡った同じ宇宙人同士の争いを指します。争いの理由は派閥の違いで、さっきみたいに私たちの言語を覚え、文化を楽しむ方々を友好性宇宙人と言い、銀河系の支配及び資源の自由活用をしない、宇宙人が自然宇宙に干渉させない様にしたいという派閥を指します。反対に敵性宇宙人は銀河を支配し、宇宙資源を自由に活用、それこそ星丸ごと使いきるような銀河系の調和の破壊を厭わない宇宙人の事を指します。もし敵性宇宙人がこの戦争で勝った場合恐らく私たち人類は根絶やしに。それか太陽エネルギーの活用に伴い私達生物が生存できない状況に陥ると考えられています」

「んー。要するに世界の存亡をかけた戦いがあってここにいる宇宙人は皆な友好性宇宙人と」

「そうです。宇宙での戦争ではあまり人資源を使う事はなく、基本的に量産機器の性能の高さで勝てるかが決まるそうなので仕事に余裕のある方々が傷心を癒やす為にこちらへ」

「なるほどねぇ。勝ってほしいもんだな」


その時、アンブレイカーズ緊急急行道路を走り、瞬く間もなく消えていった武装集団。余韻のある大量の足音達。そして山葵ちゃんの呟き。


「オレオ、隊長……」

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