佐藤さんと初仕事
大木の件が片付いてから、一週間が経った。
私は事務所で、古びたソファに座り、煙草を燻らせていた。すると、扉がノックされ、ゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは、あの女性だった。彼女は、少し緊張した面持ちで、しかし、以前の悲壮感は消え、まっすぐな瞳で私を見ていた。
「あの…」
彼女は、何かを言い淀んでいるようだった。
「何か用か?」
私が尋ねると、彼女は意を決したように言った。
「…私を、雇ってください」
私は、煙草の灰を灰皿に落とし、彼女をじっと見つめた。
「助手、ということか?」
「はい。あなたみたいに、人助けがしたいんです。私には何もできないかもしれないけど、でも、誰かの役に立ちたい。そう思って…」
彼女の言葉は、以前とは全く違う、力強い響きを持っていた。私は、少しだけ考えてから、静かに頷いた。
「いいだろう。ただし、報酬は出ない。その代わりに、私が食わせてやる」
彼女は、驚いた顔で私を見上げた。
「本当ですか…!」
「ああ。ただし、仕事は選べない。君が嫌がるような仕事も、時にはやってもらうことになる」
彼女は、それでも構いません、と言って、私の前で深々と頭を下げた。
「ありがとうございます…」
「名前は?」
「佐藤莉子といいます」
「そうか。佐藤さん、君の今日の仕事は、清掃だ」
私はそう言って、立ち上がった。莉子は、不思議そうな顔で私を見つめた。
「清掃、ですか?」
「ああ。とあるマンションの、空き部屋の清掃だ。準備はいいか?」
私は、彼女を連れて事務所を出た。向かうは、新宿のとある高級マンション。そのマンションは、この事務所のオーナーから依頼された仕事だ。
事務所のオーナーは、昔、私が助けた老人だ。彼は、自分の命を救ってくれた私に、恩返しがしたいと言って、この事務所を無償で貸してくれている。そして、定期的に仕事を回してくれる。その仕事は、奇妙なものばかりだが、今回はただの清掃だ。報酬は驚くほど良かった。
マンションの一室で、私たちは黙々と清掃を続けた。助手は、私が指示した通りに、ゴミを集め、床を磨き、窓を拭いた。彼女の動きはぎこちなかったが、その真剣さに、私は何も言わなかった。
数時間後、部屋はすっかり綺麗になった。助手は、汗を拭いながら、達成感に満ちた表情で部屋を見回した。
「すごい…こんなに綺麗になったんですね」
私は、無言で彼女の隣に立ち、静かに言った。
「誰も住んでいなかったこの部屋に、再び人が住めるようになる。これも、人助けだ」
莉子は、驚いたように私を見た。そして、その顔は、次第に温かい笑みに変わっていった。
「これで依頼は完了だ」
私たちは、部屋を出て、エレベーターで一階へと向かった。
エレベーターの中で、助手は私に尋ねた。
「…そういえば、あなたの名前、なんですか?」
私は、何も答えなかった。ただ、彼女の顔をじっと見た。そして、口を開いた。
「私の名前は、黒瀬だ」
数日後
「あの、死神さん、ですか?」




