今日は花火大会
一度バイクで自宅に戻った後、今度はバスに揺られ、途中からは歩いていって川沿いまで。まだ夕方の五時前ではあるが、多くの人で賑わっている。
今日は一年で一度。この河川敷にて花火大会が開かれる日だ。
【黒宮蓮】そろそろ到着する
スマホで連絡を飛ばしてやったら、すぐに返答がきた。
【黒宮希愛】オッケー。今真琴姉と一緒にいるよー
【柏葉真琴】例のとこにいる
【黒宮蓮】はいよ
二人のいる場所もわかったので、すぐにその場に向かうとしよう。
言われた通りの場所。集合場所に決めていた鉄道の高架橋付近。二人を探して見れば、その見慣れた顔はすぐに見つかった。
「おーい」
俺が二人に向かって呼びかけてやると、向こうは手を振って反応してくれた。
「お待たせ」
「他の人らはまだ来てないのか」
「夏鈴ちゃんはもうすぐ来るよーってさっき連絡きたの」
「そっか」
二人は浴衣姿だった。希愛は紺色の夜空のような色合いの生地をベースとした花火の柄。真琴は水色ベースに、所々に魚の模様があしらわれたものだ。
対して俺は、上は紺のTシャツで下は生地薄めのベージュのデニム。靴も普段登校の時に履くスニーカー。素足を晒すのがどうも好きではないためだ。
「久々に引っ張り出してみたんだけど……どうかな? 変なとことかない?」
「だいじょぶだいじょぶ。問題ないし、よく似合ってるよ」
「そう。ならよかったわ」
「フィットしないとかでもないんだろ。ならそう不安になることもないだろ」
「そうね」
「お兄ちゃん。希愛のはどうかな?」
「よく似合ってる。可愛らしいぞ」
「よーっす黒宮ー」
「おぉ。将星か」
「俺らもいるっての」
真琴と希愛の浴衣を見ているところに俺のクラスの友人。扇将星に須田明弘、東原正樹の三人もやってきた。
色合いこそそれぞれ違うが、服装は揃ってかゆったりとしたTシャツとハーフパンツというシンプルなもの。靴もサンダルのため涼しさを感じさせる。
「柏葉と、そっちは……」
「蓮の妹さんだ。一個下で同じ兼城に通ってるんだと」
「どうも……」
希愛のことを知らない二人に、将星が彼女のことを紹介してやると、意気揚々と自己紹介してきた。
「俺、須田明弘な! 黒宮のクラスメイト!」
「でもって俺が東原正樹だ!」
「よろしく、お願いします」
「てか。なんだあんたらその目は」
真琴は俺の後に来た三人組の方をジトーっとした目で見ていた。
「やっぱり、女子の浴衣っていいもんだなーつわて思ってな」
「生じゃ滅多に見れないもんなー」
「二人ともよく似合ってます!」
「あら~。褒め言葉として受け取っとくわねー」
目付きのわりに、真琴のあしらい方は大人だった。
俺が同じことしていたら、おそらくは頬を抓られそうだと言うのに。
「それでーあと来てないのって誰なんだ?」
誰が集まるのかについては事前に打ち合わせしているので、見ればすぐに分かることなんだが、将星が真琴に聞いた。
「あとは希愛ちゃんのクラスの友人が一人と、それから――――」
「おーい!」
もう一人の名前を言おうとしたところで、それに待ったをかけるように近づいてくる声が一つあった。
「おー待たせー!」
その元気な可愛らしい声だけでなく、その服装もまた注目を集める。
可愛らしく揺れている赤いポニーテール。ピンクを基調にした色とりどりな花柄の浴衣に身を包んだ紅葉がやって来た。
金箔なのかは分からないが、浴衣の一部が輝いて見える。知識がなくとも一目でお高いやつだなって分かる。やっぱり名家のお嬢様ともなれば、装いも違うということか。
「よっ。紅葉」
「うん!やっほー蓮君。それにみんなも!」
「可愛いですねその浴衣……」
「着付けに時間かかっちゃってー……どうかな?」
ファッションショーでもしてるみたいに、来るんとその場で一回転してみせる。
「すごく似合ってると思います! 崎田さんのイメージにあうって感じで!」
「もうなんというか……輝きが違うって言うか……」
「やっぱり崎田さんは何着ても似合う! 特にこんな和服とかだったらもうヤバいって具合に!」
「そうかなー。褒めたって何も出ないよー」
「そうだ! せっかくなんでちょっと構えてもらっていいすか!いつもの執行班みたいな感じで!」
「じゃあちょっとだけ………」
明弘に頼まれて、紅葉は右手に炎の刀を生成して仁王立ち。
向こうではたちまち歓声が上がっていた。
「コレが人気者ってものなのか……」
「紅葉は皆から慕われてるから」
「なんか悪いな……」
「いいのよ。本人も乗り気みたいだし。それにあの時のアホに比べりゃまだいいほうだと思ってるから」
「それって……あれか」
聞かないではおいたが、答えはなんとなく想像がつく。いつぞやの親衛隊隊長のことだろうよ。
「すみません。お待たせしました」
「あっ、夏鈴ちゃん」
向こうで盛り上がってる間に、最後の一人、南原さんも到着。彼女も浴衣で、こちらは黒い生地に菊の花があしらわれている。
「もう皆さんお揃いでしたか?」
「そうだな。これで全員だ」
「崎田さんは……」
「向こうだ。なんか撮影会始まってる柄」
「本当ですか?! 私も一枚!」
「あっ……おーい」
俺の制止も聞かずに行っちゃった。でもって生き生きとした顔で連写してた。
結局のところ、あまりに夢中になっているもんだったから俺達がいくら呼び掛けようとも耳に入らず。向こうのほとぼりが冷めたところでようやくと言ったとこだった。
「すいません熱中してしまって……」
「ありがとうございました崎田さん!」
「いえいえー」
「んじゃあさっさと行くぞー」
こうして総勢八名の集団で、会場に向けてもう一歩きするのだった。




