安息の日々
七月末の土曜日。昨日の大雨とは打って変わっての快晴だ。暑い日差しが降り注ぐお昼過ぎ。俺はバイクのエンジンを吹かせていた。
「お兄ちゃんどこか行くの?」
「まぁな。ちょっとばかし」
「忘れてないよねお兄ちゃん。今日の夜……」
「わかってるよそのくらい。そんな時間のかかる用じゃないし、ちゃんと集合時間までには行くからさ。真琴と先に行っててくれ」
「……はーい」
外に出ていた希愛と玄関前で会い、軽く話をしてからバイクを走らせて行った。
走らせること十五分ほど。到着したのは管理局支部。以前の襲撃の際に損壊したところについても復旧作業が進められているところだ。
駐車場にバイクを止めてから、建物の方へと向かっていく。
「すみません。兼城学院執行班の黒宮蓮です」
財布から名刺を取り出して、受付嬢の方にそれを見せながら話しかけた。そしたら俺の用事を聞かずとも受け答えしてくれた。
「ご面会ですね。今手続きをしますので、向こうの席に掛けてお待ちください」
「ありがとうございます」
言われた通りに近くの席に座り、スマホでニュースを見ながら待っていると、近くを通り掛かったスーツの人に話しかけられた。
「おや。黒宮くんじゃないか今日もまた面会かい?」
「あっ、馬場さん。どうもこんにちは」
「律儀なもんだねぇ」
管理局局員の馬場さんだ。以前の事件の際は、巧みなハンドルさばきを見させてもらった。
「そちらはどうですか」
「だいぶ襲撃犯の真相に近づきつつあるよ。松永やアンタのとこの主任も気合十分って感じだな」
「そうですか」
「それさえ除けば最近は平和なもんだ。大きな事件も起きていないからな。このままこの日々が続いてくれればいいんだがねぇ」
「同感ですよ」
「私らみたいな仕事してる人ってのは、暇な方がありがたいのさ」
「ははは……」
「黒宮さーん。お待たせしました。受付まで起こしくださーい」
「はーい」
馬場さんと数分程話しているうちに、手続きも終わったようだ。
「それじゃあ俺は行きますね」
「はいよ。アンタは学生らしい夏を過ごしなよ。あとの仕事はこっちの担当だからさ」
「そうさせてもらいます」
「面会時間は二十分となります」
「どうも。恐れ入ります」
面会室に通してもらい、その人を待っているとすぐにやってきた。
「久しぶり」
「あぁ。でも前に来たのは三日前だからそこまででもないだろ」
俺が面会をしに来た相手。以前の事件に関わっていた少年。若草優人である。
事件の解決後、襲撃に関わっていた七名全員の身柄を確保。その後事情聴取と身柄の引渡しが行われた。
その際に、この若草優人については年齢が十五であること。主犯の人物によって洗脳されていたことが判明。その後は管理局の要請もあって、一時的にその身柄は管理局にて預けられることになったのだ。
退院した後、事件の詳細を小松主任から聞き、若草優人の身柄が管理局にあることを知った俺は、会って話が出来ないかと頼み込んだ。結果、面会許可が降りることとなったのだ。
あの時以降、彼の口から話が聞きたいと思った。道具に頼ることなく、本人の思うままの言葉を聞きたいと思った。
最初の方こそ会話はぎこちなかったんだが、次第に打ち解けていた。俺とあいつ。色々と似ているところがあるようだ。
同じ特異体であること。両親を失った過去があること。そして……性格も似ていた。誰かのためってなると、自分をも厭わないというところ。
共通点も多くて、話しているうちに楽しくなっていた。最初の別れ際に彼の顔を見ていたら、なんだか嬉しそうな顔をしていた。
でもってここに来るのはこれで三回目。もう学院も夏休みに入っている。
補習や執行班の見回りの仕事こそあるが、これまでに比べれば自由な時間は多い。なのでこうして面会に訪れる機会も自然と増えていくのだ。
「今日は暑いね。いつもより暑く感じるよ」
「昨日は似合わず大雨だったからな。それでまだ湿っぽいんだろ」
「そういう事か……こっちはまた違う暑さだから大変だなぁ」
「しばらくすりゃ嫌でもならるもんだ。変な話だがな」
冗談交じりに笑いながら、会話を続けていく。事件のことを振り返るのではなく、親交を深める意味で話をしていた。
しばらくして、こんな話題を優人に持ちかけられた。
「蓮さん……これから先。俺はどう生きていけばいいんだろうって思うんだ」
「優人?」
「理由や経緯がどうであれ。自分のやってきたことは払拭できない。その過去を背負って生きてかなきゃいけないって考えると、この先が不安でね……」
「……」
今後のことについてを聞かれた。しばらくはこの管理局に居るものの、そのあとのことについてはまだ本人には伝わっておらず、これからの措置についてはまだ決まってないと言う。
それ故に優人も不安になるだろう。
だから俺はこう言ってやる。
「先のことなんかわかんねぇけどさ、俺はそんな先のこととか考えないようにしてるんだ。何かあればその時に考えるようにしてる」
「どうしてだい?」
「俺はとんちんかんってか、難しいこと考えられるほど賢くはないからさ」
「それは、なんとも……」
「それにほら、まだ人生なんてこの先長いんだから、挽回できるチャンスなんていくらでもあると思うんだ。……って、同年代の俺の言っても説得力なんかないわな……」
そう言ったら、優人のやつ笑ってた。
「……ってやっぱ笑っちまうか」
「やっぱり面白いなぁって思って。そんな君に助けられてよかったって、心から思うよ」
「……そうかい」
その後はまた世間話に戻った。馬鹿な話をして大いに笑いあった。
しばらくして、あっという間に期限の二十分が経っていたようだ。
「さてと。時間だな」
「ホントだ。早いもんだね」
「また近いうちに面会に来るよ」
「楽しみにしてる」
面会を終えて、管理局支部を出た俺は、次の要件のために、一度家に向けてバイクを走らせていった。




