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その遥か昔のこと

全ての戦いの始まりは、何十年も前から組まれていた。

 その遥か昔のこと。人間の誰しもが知りえなかった、大きな戦いが起こった。

 戦火により消えた生命の輝き。敵対せしものに鉄槌を下した閃光。塵となり、堕ちる時に燃え尽きた幾多の戦場の証。

 眩く暖かい光となって、地上に降り注いだ――――




 人間共には決して入り込むことの出来ぬところ。遥か高くにあるとも語られる、眩き空のそのさらに上に存在するとされるもの。


 それこそが天界であり、天使たちの住まう世界であった。



 多くの天使たちによって永きにわたって栄え、神に仕え、地上の生命に安らぎと英気を与える。それが天使としての役目であり、地上に住まう人間の伝承となっていた。



 ある所。天界に君臨せし王がいた。繁栄をもたらし、民に愛され、迫り来る驚異を退けた。その栄誉に、歴代最高の王とさえ称された。


 その王には四人の孫がいた。

 優れた賢さと知恵を持つ男。何物をも寄せ付けぬ逞しき力を持つ少女。慈愛に満ちた優しき心を持つ少年。そして、何者にも染まらない、無限の可能性を秘めた少女だ。

 将来は誰がこの賢王の地位を継ぐことになるのかと、日や話題となった。


 本来ならば、かの賢王の子が次ぐことになるであろうが、そうと思うものなど誰一人としていなかった。

 賢王の二人の子のうち、一人は王政の道より外れ、研究者としての人生を歩んでいた。その男はやがて自分達を否定し、可能性を求め、そして地上へと降り立った。その後今に至るまで、天界に帰ってくることはなかったと言う。

 もう一人の子は四人の孫を残し、原因不明の病により若くして倒れた。



 しかし我々には賢王の血を継いだ四人の孫がいる。これから先の未来、さらなる発展が約束されるであろう。誰もがそう思っていた。

 しかしそれは、わずかな刻を持って崩壊することとなった。




 今より十年程前のある日のこと。

 賢王が何者かの手によって殺された。その事実に、民衆は大いに嘆き悲しみ、哀悼の意を捧げた。

 何故かの王が死ななければならなかったのか。かの王が何をしたというのか。王を妬み嘲笑うものなど誰一人としていないはずだ。ならば我らが王を殺したのは誰だと言うのか。


 認めたくない事実に負の感情が混ざり合い、大いなる混乱を呼び込んだ。



 それからひと月と経たぬ内。その主犯として処刑台に誘われることとなったのは、賢王の孫の一人である力を持つ少女であった。

 その理由など、真実など。民衆には理解出来ぬことであるし、認めたくないことであった。


 何故王の孫である彼女がそのようなことをするのか。殺す理由など無いはずだ。

 しかし相反して、王位を狙ってのことか。己が力でねじ伏せたのか。などと、悲痛の言葉を放つものも、少なくはなかった。



 しかしその少女は、処刑が下されるその直前で忽然と姿を消してしまった。

 その者の罪でないと最後まで抗った者共による造反。かくてはその少女自身による逃亡。

 多くの推論が挙げられることとなったが、多くの民衆がその真相を知らぬまま、真の犯人をも知らぬまま。今日を迎えた。



 そしてそれだけにとどまらず。今度は知恵ある男が天界から姿を消してしまったという知らせが伝わり、益々の混乱に陥れることとなった。

 王家の血筋はわずかふた月にも見たぬうちに、現王と二人の孫を失うという悲劇に見舞われたのだった。


 残された二人の孫のうち、心優しき男が若くして王位を継承することとなった。

 そしてもう一人の可能性在りし少女はと言うと。先の事件以降、民衆の前に姿を見せることは無かったという。




 そして、悲劇の事件から五年が経った頃。民衆も落ち着きを取り戻し、天界にも平和な日々を取り戻されようとしていた。

 王位を次ぐこととなった心優しき者も、助力を貰いながら建て直し、賛同を得ていった。

 しかし五年が経ったにも関わらず、かの少女は姿を見せることは無かった。蒸発したのではないかという噂も一時期立ったそうな。

 その噂を次第にかき消され、民衆は再び訪れた安泰な生活に心を落ち着かせていた。


 しかし忘れてはならない。賢王殺害の一件の騒動は、解決していないのだから。





 安泰の日々は、そう長くは続かない。

 天界に、そして今度は地上へと。とうとう地上に生きる人間達へと、その脅威が迫ろうとしていた…………。






 七月も終わりを迎える頃。梅雨も明けたと言うのに、はたまた台風が来ているわけでもなく。この日は強い雨に見舞われていた。この夏の時期にとっては、こうして雨の降る日というのも少ないものだ。


 雨が降りしきる山の中を、一人の少女が走っていた。

 傘は差しておらず、代わりに青色のフードを被ってはいるが、雨は少女の思っていた以上に強く、フードは既にびしょ濡れとなっていた。

 靴ははねた泥水によって汚れ、微かに雨水が染み込んでいた。

 そのフードの内からは少女の神妙な表情が見て取れ、銀色の髪と緑色の目が覗かせている。


 彼女は濡れたフードを弄っかしく思ったのか、それともこの時期の蒸し暑さに苛立ちを感じたのか。フードを被るのをやめて近くの軒下へと避難し、雨を凌いでいた。


「……」


 軒下から空の様子を見ていた。夏であることを感じさせない灰色の雲は厚く、とてもすぐにはこの雨が上がりそうには無い様子だ。

 それでも彼女には立ち止まっている余裕などなかった。


「探さないといけない……あの少年を……」



 雨は止まずとも、少し待っているうちに弱くなっていたようだ。その隙を見た少女は素早く軒下から飛び出し、道路に沿って山道を降りていった。


 降りた先。住宅街を抜けていけば、車の行き交う大きな通りがあり、街がある。

 少女は街を行き交う人混みの中へと紛れていった……。




「……対象捕捉」


 山をおりていく影を上から見下ろす存在がひとつあった。


「以降の行動に着いて、指示を求める」

「――――――」

「……了解」


「命令に従い、追跡を開始」




今回の話を、よく覚えておいてください。

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