狙ってみましょうか
いざ会場に来てみれば、多くの人で賑わっている。
「ほえー……」
「なかなかのもんだろうよ。こっちの花火大会も」
明弘が自信満々そうに俺に言ってくる。
「懐かしいと思ってな。小さいころ見たものと変わってねぇなって思って」
「あぁ。そういや昔はこっち住んでたんだったな」
「そうだ。なら向こうの花火大会ってどんなもんなんだ?」
「あぁー……」
将星に向こうでのことについて聞かれたので、思い返してみる。総じて言えば、当時の俺にとってはあまり思い出でもなかったがな。
「もうそれはそれは……人であふれかえっていたよ。ここのなんざ比べ物にならねぇくらいにな」
「マジか……」
「うん…。とにかく人いっぱいだった」
「もうテレビで見るような満員電車とか以上に人だらけでな。電車の中もそうだし各駅ですらいっぱいいっぱいだったよ」
「いや……こっちの方だって駅には人いっぱい集まるぜ……」
正樹が震えた声で言うんだが、さらに追加でこう言ってやった。
「ちなみになんだが……俺らが東京の花火大会行ったとき、偶然だが謀られてかはわからねぇが、ちょうどその時はコミケも重なっていた。おかげで凄まじいがまでの人が集まっていた」
「あ……」
「それは、災難だな…」
「ねーねー。話してないで早く行こうよー。私お腹すいたー」
将星らと話していたら、紅葉が俺の左腕を掴んで引っ張ってくる。
「そうか……すまんかった。行こうか」
「やったー! まずはたこ焼きでしょー。それから焼きそば、フランクフルトとイカ焼きに……そのあとはかき氷と……」
「そっか。てかエライ食うな…」
「お祭りなんだからそれくらい普通だと思うよー!」
「いやー暑いのに相変わらずだなー」
「流石は学院公認カップルだな…」
「いつからお兄ちゃんたちそう呼ばれるようになったんですか…」
「さぁな。俺は噂伝いで聞いただけだから、誰からとかいつからそう呼ばれ始めたとかは知らねぇや」
「もしかして、また榊さんだったりするんでしょうかね……」
「「「あぁー……ありそう……」」」
男子三人が声をそろえていった。女子のほうも、やれやれといった顔をしている。
「そういえば入学当初といい、付き合いが発覚した後といい。毎回のように関わっていたわね」
「最初のほうの事情は私知っていますけど……黒宮先輩の執念を感じました」
「そういや崎田さん達で追っかけまわしていたっけ……」
「あったなぁそんなこと………」
「てか話してるうちに姿が見えなくなっちまったんだけど」
「二人っきりにしときましょう」
「蓮くーん次はあっちいこっかー!」
「わかったわかった。屋台は逃げねぇから」
食べ物の屋台をある程度連れまわされてから次にやってきたのは射的の屋台。
「射的かぁ」
「去年のリベンジをしようと思って!」
「いったい去年何があったんだ……」
「一発も当たらなかった!」
「そうか……俺もやってみようかな。悠に少しは仕込まれたからな」
屋台のほうに向かい、店主の親父に声をかけた。
「すいませーん。二人分お願いしまーす」
「あいよー! 二人分で六百円ねー」
お金を払ってからコルクの弾を四発分受け取った。
「さて。何狙おうかなー。あれかなーそれともこっちかなー」
「慣れないなら無難な奴を狙うのがいいんじゃないか」
「それもそうかなー」
「あんまり欲をはると、またえらい目見るんじゃないか?」
という俺たちの会話を聞いてた店主の親父さんがニヤニヤしながら俺たちに話しかけてくる。
「なんだい。嬢ちゃんたちカップルかい!」
「あ、はい!」
「若いねぇー高校生かい! 付き合ってどのくらいたつんだい!」
「二カ月くらいですかね」
「ほやほやかぁーいいもんじゃないか!だったらおじさんのおすすめはあれかな!」
元気よくそういうと、棚に乗せられた景品のうちの中段左端のほうを指さした。
「二個入りのブレスレットだよ!」
「ブレスレット!」
「頑張ってな!」
紅葉はニ発目でお菓子の箱を撃ち落とすと、その後は親父さんに勧められたそのペンダントを狙ってみるが、こっちは当てることが出来ず。
「外れちゃった……蓮君お願い!」
「なはは……あいよ。残弾は三つか」
弾を一発込めて狙いを定める。悠に言われたことは確か…ぶれないようにしっかりと狙いを定めて……
「おし! 当たった!」
「やった!」
「おぉやるじゃないか兄ちゃん! ほれ!」
親父さんから景品のブレスレットの入った箱を受け取った。その後はキーホルダーを獲得して終了。次に行こうとしたところで紅葉のテンションが何故だか上がっていた。
「見てよ蓮君!十万円分の旅行券があるよ!」
「凄いな……でも的が小さすぎるんだろ……」
おそらくこの屋台の目玉賞品であろう旅行券だが、その的は他の標的に比べて遥かに小さく、ガチャガチャのカプセルの直径くらいの大きさだった。いや、もう一回りくらい小さいかもしれない。
常人が狙おうとしても、そう容易く当てられるものでは無いだろう。
「たしかに小さい……」
「俺らが狙おうとしても、弾を無駄にするだけかもな」
「じゃあ僕が狙うとするよ」
入れ違いで入った客からそんなことを言われた。随分と勇気があるようで……って待て。今の声……
「悠か!?」
「あ。誰かと思ったら蓮と崎田さんじゃないか」
男物の浴衣を着た悠がいた。
「ということでおじさん。一回分お願いしまーす」
「はいよぉー。三百円だ」
お金を払って弾を貰った悠は、真っ先にそれを狙うのかと思ったが、最初に当てたのはお菓子の箱だった。
「狙うんじゃないのかよ」
「まずはこの銃に慣れようと思って。普段使うのとは違うからさ」
「あぁ……そういうこと」
「うん。もう慣れたかな」
そう言うと再び銃を構え直して、今度こそ狙いを旅行券の的に定めたようだ。
そして二発目。
「せいっ」
その的を狙って玉を撃つ。真っ直ぐに向かっていき、的のど真ん中に命中させた。
「楽勝……!」
「すっげぇ……」
「凄いよ草薙君!」
まさかの一発。悠の射撃技術の高さを俺達は知っているが、一発とは恐れ入った。
近くにいて、それを見ていた人たちからは賞賛の拍手が送られた。
「おめでとう! ほれ約束の品だ!」
旅行券が入ってるであろう封筒を手渡された。
「おめでとう。そういや悠は誰と回ってるんだ?」
「学院の友人たちと」
「良かったら一緒に回ろうよー」
「いいよ。皆に声掛けてくるから待ってて」
悠が連れの友人を呼びに行っている間に。
「そうだ蓮君! さっきのやつ……」
「あぁ。そうだったな」
さっき獲得したブレスレット。箱を開封して取り出してみる。中には赤と青のブレスレットが一つずつ入っていた。
「どっちがいい?」
「赤い方で!」
「はいよ。じゃあ俺は青い方な」
赤い方のブレスレットを紅葉に手渡すと、それをすぐさま自分の左腕に通す。
「似合ってるかな?」
「あぁ。よく似合ってる」
「良かったぁ~ってひゃうあぁ?!」
「紅葉?」
背後から誰かしらの腕が伸びていて、紅葉の胸を鷲掴みしていた。
「この野郎!」
直ぐにそいつを見つけ出してお縄にかけようと思ったんだが……




