答えを導くためのピース
「遅くなりました!」
「何があったんですか!」
紅葉と屋上から駆け足で階段を下りて、二階にある応接室、俺たち兼城学院執行班の本部へと向かう。
息を切らせながら、勢いよくその扉をこじ開けた。
既に他の班員五名は揃っていた。しかし小松主任の姿は見当たらない。
「管理局が襲撃されているとの一方を受けた。それにあたり、我々執行班に応援依頼が来た」
「小松主任は現場で対応に当たっている。他校からワゴンを手配してもらっているから、到着までに各自準備を整えてくれ」
「わ、わかりました」
「了解です」
その後は手早く、各自で自分なりに準備を済ませていく。管理局の制服に着替えると、紅葉や悠達は自分の能力の確認をしている。天王寺さんはストレッチをしており、邦岡さんと北島さんはパソコンに向かって、通信の待機をしている。
用を足してから軽くストレッチをしていると、何やらタブレットを注視している袴田さんの姿があった。真剣そのものである。
近づいて、何を見ているのか聞いてみることにした。
「袴田さん。何を見ているんですか?」
「これ? この前の襲撃の時の映像データ」
「なんでそんなものがここに……てか関係あるんですか?」
「あると私は思っている。十日前の襲撃。そして今起こっている管理局への強襲。さっき入った報告だと、例の少年も目撃されたという情報が入ってきているの」
「マジですか?!」
「そうマジ。だからこそこうして何か得られるものはないか探しているの。これは学院の監視カメラのデータを管理局として頂いたものなの。あの時にカメラが壊れてなくて良かったわ」
俺は羽織っていた制服に袖を通し終えると、袴田さんに頼んでその映像を見させてもらうことに。
そこにはあの時の光景が映っていた。遠くから撮られたもの故画質はあまり良くはないが、なんとか誰が何をしているのかは把握できる。
映像を巻き戻してもらい、天王寺さんと交戦していたところから再生してもらう。そして俺が介入してしばらく、彼が逃げていくまでを見た。
「注目すべきはもちろん彼について。能力ってのもそうだけど、動きを見ていれば、ある程度目的についても推測が立てられるの破壊行動なのか、誘拐なのか。私だとそのくらいしかわからないけど、それが分かるだけでも先に進んだとは思わない?」
「確かにそうですね……それでどう思ったんですか?」
「後者ね。建物への被害こそあったけれど、戦闘による二次被害がほとんど。でも時間がなかったからか、この襲撃は失敗って言うべきなのかしら」
「すいません。もっとうまく立ち回れていれば、被害は抑えられましたよね」
「今更過ぎたこと。悔やんだって仕方がないでしょう。それに蓮君一人の責任ってわけじゃあないんだから」
「袴田さん。俺、ずっと彼の能力について考えていたんですけど、なにか心当たりとかありますか?」
「蓮君はどう考えているの」
自分のこれまで考えてきたことを整理して彼女に話した。と言っても、俺は答えを導き出せた訳では無い。まだ何か足りないものがあるように思う。
「拳に剣戟、そして銃撃。どんな攻撃をも寄せつけず、それでいてこれだけの被害が出るほどのパワー。しかし単なる身体強化系の能力とはまた違う・・・確かに難しいわね」
「袴田さんはこれを見ていて、何か思うことはありませんか」
「私が気になることといえばこの襲撃犯。かなりのスタミナがあるって所かしら。これだけの動き、そして攻撃。班長や紅葉ちゃんが戦闘で疲弊していくにも関わらず、この襲撃犯はまるで息が乱れているようには見えないの。一体どこにこれだけのエネルギーがあるんだって思うのよ」
「エネルギー。体力バカ……じゃないですよね」
さすがにそうでも無いと思う。それじゃあ人間の範疇を超えてしまっている。能力云々の問題ではなくなってしまうだろう。
「どうかしらね。でもだからといって一撃にすべてを任せた速攻勝負ってわけにもいかない。班長のあの攻撃ですら、この少年は完ぺきに受け止めてしまったんだから」
「ですよね」
「かと言って、ある程度互角の土俵に持ち越せる蓮君の能力に頼りすぎる訳にも行かない。そうしたら今度は蓮君の方がきついでしょう」
「ごもっともです」
「気になるなら、班長に聞いてみたら?」
そう言うので、向こうの方で屈伸している天王寺さんに聞くことにした。
「天王寺さん。ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「以前の襲撃のことについてです。彼とやり合って、思ったことについて聞かせてくれませんか?」
「別にいいが、今それとなんの関係があるんだ?」
「先の報告で、例の少年も目撃されたという情報が入ったそうです。もう少しで、彼についてわかるかと思ったので」
天王寺さんは少し横を向いて考え込み、そして俺の方を向き直して話す。
「受け止められるとは思わなかった。高速で動き、奴の視界から外れたところを狙った一撃だった。しかしいとも簡単に受け止められてしまった」
また考え込んでから、こう続けた。
「なんと言えばいいか……そうだな。何か体から抜けていくようなような感じがした。あの時お前と手合わせをした時に似ているようにも思った」
「十分です。ありがとうございます」
ちょうどその時、通信の入る音が室内に響いた。
「用意は済んだか! 車が到着した。すぐに向かうぞ!」
車の止めてある学院正門に向かう途中、横を歩く紅葉が話しかけてくる。
「答え。見つかりそう?」
「これまで思ったことが全部ひとつに結び付けられるって言うなら、おそらくは」
「そう」
少し歩くペースを落とし、七人の後ろを歩いていた俺は、胸元に付けられたペンダントを左手で制服越しに握っていた。
「(もしそのための力があるとしたら、力を貸してほしい)」
ピースはこれで揃った。