影は荒れ狂う
手配してもらったワゴン車に乗り込んだ俺たち七人は、時折はいつまてくる通信を聴きながら、目的地である管理局支部に向かっている。
運転してくれているのは、以前お世話になった馬場さんだ。
さっき入ってきた通信によれば、襲撃者は総計七名。うち一人は、先日の襲撃者の少年であるとのこと。
すぐさま厳戒体制がしかれ、施設周辺の避難誘導等は六十パーセントが完了。執行班班員は到着次第、避難誘導の支援に当たれとの事であった。
俺は窓の外を眺めつつ、少しでも気持ちを落ち着けようとした。ただ流れてくる景色を見ているのは、普段にしてみればつまらない物だが、今はそうとも思わない。じっと座っているよりかは、こうしている方が、自分が自分でいられるとさえ思っているからだ。
しばらく外を眺めていると、こちらに接近してくる車両が一台。
「あれ……近づいてきますけど」
「こっちからは他に聞いてないが……どこにいるその車は」
「右手の方、黒のワゴン車ですが……」
俺がそう言い切らぬうち、その車はさらに接近してきた。そして―――――
「ってなんだ一体!!」
何を思ってかはわかったものでは無いが、こちらに向かって水流が押し寄せてくる。荒れ狂う龍をも思わせる激しいものだ。
「なんだって言うんだよ?!」
窓からそれを見ていた俺は、迷うことなく能力を発動させる。俺たちの乗るワゴンはその水流に飲み込まれる事態はなんとか回避する。
「助かった黒宮!」
「なんなんですかあいつら!」
「恐らく襲撃犯の片割れだろう! 応援が来るのを妨害しに来るとはな……」
こうまでする連中の目的が分からない。わざわざ管理局や兼城学院を襲ってくるってことは、向こうにとって不都合があるとでも言うのだろうか。
それにしても不思議な感覚であった。普段なら三十秒も持続して能力を使っていれば、軽く息切れするくらいに疲れるんだが、今は全くその疲れを感じない。それにいつもより範囲も広かったようにも思う。どういうことだ?
なんて考えていられる余裕もなかった。少し距離を離したかと思ったが、今度は窓が空いてお目見えするは――――
「何処のテロ組織だよ主犯格は?!」
息をつかせる間も与えない。そう言わんばかりに窓から伸びるは銃口であった。そしてなんの躊躇いもなくこちらに向かって発砲してくる。
「頭を抑えてろ!」
「今は私がどうにかしているが、このままじゃ駆けつけるどころじゃないぞ!」
銃弾が車のボディにカンカンと弾かれている音を聞くに、邦岡さんが能力で銃弾から防御している。しかしこうも絡みつかれては、応援に迎えない。そのための奴らなのかこいつらは!
「俺がなんとかするか!」
「そんなことしてみれば、振り切る前に事故って終わりますよ!」
天王寺さんの案は却下。確かに振り切れるが、そうなればこの車は制御不能のドラッグマシーン同然だ。
「じゃあ私たちが……」
「今この中の方が遥かに安全だ。下手に顔だしたらタダじゃ済まない!」
紅葉が言うようにじっとしてられないのでこちらから反撃して打開しよう。と言って下手にここから降りるという訳にも行かない。しかしこのまま閉じこもってる訳にも行かないのが現状。
「じゃあどうすれば?!」
「このままじゃ持たない!」
「なら私達で」
「どうにかしてみせる」
次にそう乗り出したのは、袴田さんと北島さんであった。
「策があるって言うのか?!」
「少し遠回りにはなりますけどね」
「構わない! どうすればいい!」
「……川の方まで誘導します」
それを聞いた馬場さんは、返事をすることなく、コクリと頷いた。
「あんたら、怪我したくなかったらシートベルト外すんじゃねぇぞぉ!」
彼女は、その外見には似合わない勇ましい声でそう忠告すると、急加速。後続の黒ワゴンを相手に逃げ切りの体制に。
それを見た向こうも、誘いに乗るようにしてあとを付けてきた。
車の列をかき分け、高台を降りたところにある川までたどり着いた。
「どうするんだここから!」
「そのまま河川敷に!」
馬場さんはノーとは言わず。ハンドルを切って滑り込むようにして河川敷に乗り上げる。
そして二人の指示で加速。追走する黒ワゴンと距離をとる。
チラッと後ろを確認する。目測で15メートルかは離れただろうか。それを見たふたりが合図をだす。
「「そしてぇ!」」
二つの車の間に、童話の豆の木を思わせるほどの巨木が凄まじい勢いで地面から伸びてくる。これで行く手を遮り、追っ手を振り切れた。かと思えばそうでもない。
向こうのドライバーも相当な腕っ節なのだろう。巨木の合間を凄まじいがほどの変態軌道で交わしていく。
「まずい!」
「いやそれで十分!」
そう袴田さんが叫んだと同時、突然としてその軌道はさらにおかしさを増していく。気持ち悪いがくらいに上手い。ではなく、あきらか酔っ払いが飲酒運転でもしてるんじゃないかと言わせるぐらいのふらつきように。
そして巨木に一度ぶつかると、そのまま黒ワゴンは明後日の方向に流されていき、姿勢を崩したまま川の中へとダイブしていった。
「上手くいったわね♪」
「これも我が……いえ、我々の力!」
黒ワゴンの行く末を見届けた二人は軽くハイタッチを交わす。
「まさかここまでしてのけるとはな」
「派手にやるなぁ……」
「誰かしら欠けていれば、こうはならなかっただろうな」
北島さんの能力で相手を足止め、撹乱し、そして意識が乱れたところに袴田さんが更なる追い打ちをかける。
結果相手を惑わし、追跡もままならない状況に陥れた。
「今連絡を入れたわ。あいつらは警察に任せましょう」
「わかりました」
「一応聞くけど、けが人はいないかしら?」
「大丈夫ですよ」
「ヒヤヒヤしましたけどね」
一度切っていたエンジンをかけ直し、方向転換して今度こそ管理局支部に向かおうとしたところで、馬場さんがこんなことを呟いていた。
「にしても不気味だねぇ」
「なにがですか?」
「連中がどんな奴らなのか全く想像つかねぇんだ。プロにしてはやり方が横暴すぎるし、かと言って素人がわざわざ管理局の施設を襲おうなんて思うか?」
「よくは分かりませんが……そうなんですか」
「こんな真昼間に周りをお構い無しで堂々と。それも単騎で追いかけてくるなんざ、奴らは知識が無さすぎる」
「確かに、乱暴ですね」
「というか馬場さんは一体どんな人生送ってきたんですか……。こんな知識を持ち合わせていることの方が、今は怖いんですが」
「さぁね。そうペラペラと語らないのが私だよ」
この人。ひょっとしたら国際組織のエージェントとかじゃないんだろうかと思ってしまう自分がいた。
「まぁんな事考えるのはあとだ! 遅れた分飛ばすからな!」
ともかく、今はそういうことを考えるのはやめにして。目先のことをどうにかしなければいけない。
本格的にアクション入ってきてる感。
今月中にこの章終わらせたいです。




