埋もれた手がかり
能力の存在が当たり前となったこの世界において、それらを悪用した犯罪行為等に対処するために、政府によって設立された治安組織。
管理局二十五号支部。そこではあるデータの解析に追われていた。
施設内のオペレータールーム。その一角でパソコンと向き合う男性に、小松主任が尋ねた。
「お疲れさん。どうだ?」
「あぁ、どうも。ありがとうございます」
持ってきた差し入れの缶コーヒーを、デスクに向かう男性に手渡した。以前彼と話をしていた西村と言う男だ。
「お前だけか? 他には誰もいないのか?」
「先輩は今、用を足しに行っていますので。すぐに戻ってくるかと」
「そうか。ならここに置いて置こうか」
小松主任は、左手に持っていたもう一本の缶コーヒーを、空いているデスクの隅の方にそっと置いた。
デスクのパソコンに向かう西村は、液晶のキーボードを叩きながら、小松主任の質問に回答を送る。
「複雑に暗号化されていて、今もなお解読作業がすすめられています。現状で三十パーセントにも満たないといったところです」
「そうか。この前のこともあるし、進展がないというのは、もどかしいものだな」
このデータの解析は二カ月も前から行われていた。以前に管理局が調査で見つけ出した怪しいポイント。後日その位置情報を頼りに調査団を派遣、そしてその場所が地下に作られた何らかの研究施設であったことを突き止めたのだ。
もぬけのからで人の気配さえ感じさせなかったが、当時の様子からつい最近まで使われた痕跡をいくつか確認している。今解析しているデータは調査の際に発見した生き残っているコンピュータから得たものだ。
「何分、今まで見たことのないモノばかりでして。この言語? らしきものが何なのかがわかれば、それだけで大分作業が進むと思うんですがね」
解析作業を何よりも難航させているのは、複雑な暗号ではなくこれまでに見たことがないという不可解な文字であった。アルファベットでもなければヒエログリフのような古代文字でもない。かといって子供の遊び心によって作られたオリジナルの文字というには無理がありすぎるであろう。
そうして今置かれた仮の結論というのが、我々の知らない未知の生命体、あるいは別世界の存在。そうでなければこの言語の存在理由自体が危ぶまれる。
無論こんな情報、今は仮定段階とはいえ公に広まれば大きな騒ぎとなるだろう。現時点においてこの情報は、管理局の監視のもと厳重に取り扱われている。
「どう見ますかね、小松主任?」
「さぁな。こういうことは俺の管轄じゃないんでな。後で馬場のやつが来た時にでも聞いてみた方がいいだろう」
「そうしておきます。それで小松さん。そちらの方はどうなんですか。以前学院の方に襲撃があったという件は」
「こっちも難航している。相手の出方が伺えないとなると、しっぽを掴めないのでな。せめて相手の目的さえわかれば、だいぶ違ってくるがな」
「もう一週間でしたね。あれ以降は襲撃はないと聞いています」
「しかし、あまり長引いていては、地域住民に不安を与えることになる。解決を急がなければならない」
あの日の襲撃からはや一週間が経とうとしていた。襲撃犯は現在も逃走中。目撃情報も少なく、捜査は難航。管理局側も下手に動けないため、進展がほとんどないというのが現状である。
考え事のさなか、小松主任は、胸ポケットから一本のUSBメモリを取り出す。
「そうだ。こいつを渡しておこう。以前の襲撃事件に関する調査報告書だ。と言っても、前とほとんど代わり映えはないがな」
「いえいえ。ありがたく頂いておきますよ。何か新しい発見があるかもしれませんから」
「だと、いいんだがな。苦労をかける」
「いいんですよ。こういうのは僕らの担当ですし、小松さんには小松さんの役割があります。適材適所ってやつですかね。だからそっちに専念してください。こちらもこちらで頑張りますから」
「そう言って貰えるのなら、俺としてもありがたいな」
西村は頂いた缶コーヒーを一口飲んでから、男性が小松主任に質問をする。
「小松さん。ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「今回の襲撃犯。上からの報告によると、二年前に確認された特異体であったと聞いています。確か小松さんの統括しているところにも一人、同様の結果が出た生徒がいたと聞いています。」
「黒宮のことか。それがどうかしたのか?」
「なんというか、自分の考えではあるんですが、それが今回の襲撃に関係してはいないのかと思いまして」
「あの後本人に聞いてはみたが、特に自分を狙っているような行動はなかったと言っていた。最も状況が状況だから、そこまで手が回らずに撤退したとも考えられるが」
「そもそも自分は、その特異体とやらについて、あまり知識が無いものですので」
小松主任は少し考えてから自分なりにまとめ、返答する。
「俺はあの時、直接検査に立ち会ったわけではない。資料に目を通しただけだから、あまり詳しいことはわからない。なんでも能力を使用する際、脳の器官が他の人間、能力者に比べて活発に働いている人のことを指しているそうだ。しかしそうなる理由については解明されていないし、だからと言って他の能力者に比べて強い力を有しているのかと言われても、そうでも無いそうだ」
「ともあれ、普通の人とはまた違っている。ということですね」
「大雑把に言ってしまえばそういうことになるな」
「あっ小松さん。お疲れ様です」
「おう。差し入れ持ってきたから、適度に休めよ」
「お粗末さまです」
トイレから戻ってきた男性は、小松主任に挨拶をしてから仕事に取り掛かる。そしてしばらくしての事だった。
「先輩!」
「どうした?!」
「研究施設より発見されたデータベース。先程ロックの解除されたものの中に、気になるものが!」
「何処だ!」
新しい手がかりが入ったとの報告に、室内に居たもの皆の視線が、西村の操作するパソコンに集められる。
「ファイル、開きます」
開かれたファイルの中に入っていたデータ。久しく読めるものであった。
「英語だな。何かの報告書か?」
「翻訳します」
ツールによって、その文面が日本語に翻訳されていく。そしてそこには記されていたものは―――――――
「これは!」
「でかしたぞ西村! これで奴らの正体を掴める!」
決戦は近い




