混ざり狂う思考
俺は一目散に、襲撃者の方に向かって走り出した。
「でぇりぃやぁあああ!!」
右腕を振りかぶって奴に向かって飛びかかり、大ぶりの一撃を喰らわせようとするも、さすがに隙がありすぎるため軽々と避けられてしまう。しかし一旦は、あいつと紅葉を引き離すことが出来た。これで紅葉と話が出来る。
「蓮君!」
「加勢する。倒すなんて考えなくていいから、とにかく時間稼ぎをするんだ」
「何か作戦は?」
「さっきも言ったとおり、また悠に頼ることになる。ただそれ以外は何も無い。だから紅葉は好きなように動いてくれ。俺がフォローする」
「いいけど、できるの?」
「意地でも食らいつくさ」
意地っ張りでも建前でも、できると自信満々に言えたものでは無い。でも他にできることがあるのかといえば、ないというのが現実だ。
「さっきはありがと」
「礼なら、目の前の奴を何とかしてからだ」
「おっけー」
二人で身構えて、襲撃者と相対する。俺は拳を握り、紅葉は再び刀剣を創り出した。
「……やっと、出てきた」
二人で連携をとりながら、襲撃者と対峙する。
まずは紅葉が前衛となって、相手に斬りかかっていく。刀による連続攻撃を畳み掛けたところで俺が前線に突入。素早く位置を入れ替わって攻撃のリズムを変えていく。
後衛に下がった紅葉は、炎で奴の周りに壁を貼り、動きを制限していく。
しばらくして、俺の軽めの一撃があいつに当たる。さっきのあのことを考えればダメージなどないだろう。もとよりそんなつもりで攻撃を当てた訳でもない。
しかし。だんだんと相手の攻撃が重くなってきたようにも感じる。こちらが攻撃すればするほど、相手の攻撃力が上がっているように感じる。天王寺さんの一撃を受止め、そのあとの一撃。まるでその攻撃をそっくりそのまま返したのかというような攻撃だった。
もう推測でもなんでもない。相手は間違いなく能力者。丸腰とはいえ、自分の力だけで天王寺さんや紅葉を相手できるとしたら、そうとしか考えられない。
ならばこちらも、能力を使う他ないみたいだ。極力節約しながらも、タイミングを測って使わねば。俺が前衛にいる今がその時だ。間合いを少しずつ詰めて、能力を発動。そして即、流れるように攻撃に移る。
能力を使った時の俺の一撃は、確かに奴にダメージを与えていた。微量であるものの、ダメージが入ったと確かに言えるものだった。天王寺さんでも紅葉でも出来なかったことをしてのけた。そうなると、これまでダメージが入らなかった原因は奴の能力とみて間違いないだろう。
ならなんの能力だとと言うのか。でもそれを考えるのは今ではないだろう。今は目の前に集中だ。
奴にもう一撃、俺の攻撃が入りそうかと言うその時だった。
「(もう……戦いたくない!!)」
「‼」
いきなり脳に叫びが飛んできた。誰の声だ。戦いたくないだなんて言うのは。俺ではない。確かに戦うことは避けたかったがそうでは無い。
俺はそれに驚き、攻撃は左にそれてしまった。勢いよくすれ違ったので、幸い反撃を受けることはなかった。
それでも隙を作らないようにすぐ振り向いて、距離を保ちつつ紅葉と合流。
「悪い。勢いよく行き過ぎた」
「大丈夫。でもそろそろだと思うよ」
紅葉の予測のとおり、パトカーのサイレンの音が徐々に高くなっていく。もうすぐ駆けつけてきた警察が到着する。
それに気づいたのか、襲撃者は突如として身を翻し、こちらに近づこうとはしなくなった。そして一瞬だけ自分の周りを見回してから、住宅街の方に逃げて行ってしまった。
「逃げ……た?」
「多分な。でも一体なんでこんなことなんか……」
結局二次作戦が決行されることはなく、襲撃者は撤退していった。ひとまずの目的は果たされたのだろうか。とも言いきれないだろう。襲撃の理由が不明だし、可能であれば現行犯で捕まえて聞きたいところだったが、それどころでもなかっただろう。
改めて辺りを見回してみた。地面や校舎、窓ガラス。所々が損壊しており、天王寺さんを始め怪我人も数名。もしこのまま戦闘を続けていれば、より大きな被害が出た可能性もある。
逃げて行ってから一分と経たぬうちに警察が到着した。
「二人とも大丈夫!?」
辺りに誰もいなくなり、取り残された俺と紅葉の元に、悠がやってきた。襲撃者が居なくなってもなお、拳銃構えて警戒態勢である。
「襲撃者は逃げていった。今は警察がその捜査に当たっているってさ」
「あと私達は大丈夫。それより天王寺さんが……」
「天王寺さんなら、体育の村上先生と柔道部の井上先生が受け止めたおかげで大怪我こそないけど、やっぱりさっきの戦闘でいくらかダメージがあるみたい。念の為病院で検査を受けてもらうって」
その二人の先生はうちの職員の中でも若く、肉体自慢の体育会系だ。それなら大丈夫だろう。
「わかった。小松主任が来たら、俺がそう報告するよ。邦岡さん達は?」
「邦岡さんと北島さんは体育館に向かっている。袴田さんは近くにいるよ」
「わかった」
「僕達も、今は体育館に向かおう。後のことは管理局と警察に任せて」
「そうだな」
向こうに止まっているパトカーをじっと見てから、生徒玄関の方に向かおうと思った時、あるものを見つけた。
「どうかしたの蓮」
足元にあった銀色に光る何かを見つけ、それを拾い上げてみる。
「これ、弾か?」
悠があの時に撃った睡眠弾だろうか。それがこの場所に落ちていた。戦闘時はさすがにそこまで気が付かなかったが、こんなところに。
「それ、確かに僕が撃った睡眠弾だ。なんでこんなところに……って蓮が通信で言っていたっけ。相手が銃弾を捌いてしまったって」
「あぁ。確かにそう言ったが」
あの通信のとき、俺は相手が悠の銃撃を捌いてしまったと言った。相手に変化がなかったし、外したとは思えなかったからそう言ったのだ。しかし―――――――
「やけに綺麗だな」
「それがどうかしたの?」
「なんでもない。早く行こうか」
紅葉と悠が先に歩いていく中、俺はスボンのポケットに右腕を突っ込んだ。そしてあるものを取り出す。
「(もしかしたら。でもないのかもな。こいつが教えてくれたのか?)」
あの時の白いペンダント。
前にも起こった現象。それと同じことがさっき起こった。戦いたくない。その声は俺のものでもなければ、紅葉のものでもないだろう。そうならば、あの襲撃者の声ということになるのか。
だったらなんでこんなことをする。誰かに命令されたからか? 操られているからなのか? でも俺が能力を使ったのだから、後者であればあの時に我に帰るはず。でもそれは当人の意思に反していて……あぁもう! 考えていてもわかんねぇ!!
ペンダントをズボンのポケットに突っ込んだ。
頭の中でその事と、相手の能力のこととが混ざらないように考えながら、二人に少し遅れて生徒玄関の方に駆け足で向かった。
謎多きままに




