襲撃者
「なんだ!? いったいなんだって言うんだよ!?」
「なんなの一体」
「テロなの!? どうなの?!」
「私まだ死にたくない!!」
突然の事でクラス内がパニック状態と化す。なれない音を聞けばそらそうなるわ。俺だってどうするべきかで頭の中がいっぱいだ。
「どうするんだ!? まずは机の下か?」
正樹。それは地震が起きた時の行動。
「手頃なもので口元を抑えてそれで……」
昭弘。それは火災発生時の行動。どちらも違うだろう。ひとまず冷静になれよと言おうとした時、校内放送が入った。
「全校生徒、並びに職員に通達します。学院正門付近にて不審者が確認されました。慌てず騒がず、速やかに体育館に避難してください。職員は生徒の避難誘導を。また職員並びに執行班は、不審者への対応をお願いします。繰り返します。全校生徒――――」
校内放送による避難指示。それを聞いて生徒が次々と体育館に向けて移動を開始した。
「蓮君!」
「あぁわかってる。急ぐぞ!」
一方で俺達は応援に行かねばならない。紅葉に呼ばれて、すぐさま正門へと向かう。道中で避難指示も飛ばしながら、早足で生徒の流れとは反対の方向へと向かっていく。
不審者の目撃情報があったという学院正門の方に駆け足で到着すると、既に職員数名と袴田さんが待機していた。
「執行班はあなた達で最後。先に来た班長が今交戦中。残りの三人は別の場所で警戒にあたっているわ。君たち二人はここにいて」
「分かりました」
「了解です」
この場に緊張が走る。それはもちろんのこと。今すぐ先には侵入者がいて、その相手と今、天王寺さんが交戦している。
「小松主任は?」
「さっきまで管理局の方にいたとのこと。今大急ぎでこっちに向かっているわ。警察の方もすぐに到着すると思うわ」
「生徒の避難状況は、どうなっていますか」
「大凡が完了。現在点呼を取っています」
「わかりました」
近くにいた先生に避難状況を聞いた。それにしたって、こんなキリッとした目をした袴田さんは、任務のときでしか見られない。普段からこうであるならなおのこと頼もしいんだけど、どうしてこうなったというのだろうか。やる時はやるというタイプなんだろうか。
「班長。だいぶ手こずっているわね」
「見たところ、あまりそうには見えませんけど」
影から向こうの様子を伺う。天王寺さんと不審者との一騎打ちは、拮抗しているように見える。攻めあぐねてるという所なんだろうが、袴田さんはそうでないと言う。
「攻め手を欠いているんじゃないの。攻めが通用していないの一切。それに向こうの勢いが衰えていることも無い。もし消耗戦なら、班長が先にダウンよ」
「だったら――――」
俺が援軍を。支援を。と言おうとしたところで、袴田さんの右人差し指が俺の鼻と上唇の間に押し当てられる。
「分かってる。そのための別働隊よ」
別働隊。ここにいない執行班の残り三人。ってことは。
「悠ですか」
「物わかりが早くて私も助かるわ。もちろん織り込み済み。タイミングはこちらから指示する」
「わかりました」
「でも万が一の時はその時よ。覚悟決めなさい」
「わかりました」
しばらく様子見の後、袴田さんからスマホの通話で悠に合図が送られた。しばらくして――――――
「……あれ?」
確かに悠は撃ったはずだ。しかし向こうの様子にほとんど変化はない。
「どうなったの!? 変化がないよ!?」
袴田さんのスマホ越しに悠の叫びが聞こえてくる。
「悠が外した訳でもないし、睡眠弾が効いていない訳でもない! 全部捌かれたんだ!」
合図を送ってからすぐ。あいつの動きは何かを避けた。と言うよりも受け止めようとした。といってほうがしっくりくるくらいだ。それに距離もほとんどない。死角からとはいえ悠が外すとは思えなかった。
「どうするの!?」
「またこっちでタイミングを図る。今度は向こうに悟られないようにな!」
「それから射撃ポイントを変更する。悠君は私のところに来て。くれぐれもバレないように」
「わかりました。至急向かいます」
ひとまず悠に移動してもらい、もう一度睡眠弾を撃ち込む作戦に。それまでは警戒を厳に待機だ。
「というか天王寺さんも全力出してる」
「班長があそこまで本気になるの、なかなかないわよ」
「でもこれで無力化出来れば!」
とうとう天王寺さんも全力で相手をしようとしていた。能力を発動し、素早い動きで相手を撹乱させている。これなら行けそうだ。
そして、俺たちに天王寺の姿が見えたその時、全力の一撃が繰り出されたわけなんだが――――――
「!?」
その攻撃は襲撃者によって完璧に受け止められてしまった。
「!!」
そればかりか、間合いを詰めた天王寺さんが反撃を受けてしまう。派手に飛ばされ、校舎の壁に、激突しそうかという直前で、何とか職員らによって受け止められた。
「攻撃が効いていない!?」
「しかも天王寺さんが返り討ちに?!」
「どういうことだ! あれだけの一撃を受け止めたって言うのかよ!」
有り得ない。何があったどういうことだ。
「っておい待て紅葉!」
「二番隊行きます!」
出来れば睨み効かせて悠が来るまでは待っていたい。しかしお相手は悠長に待ってくれない。なおかつ相手の目的が分からないとなるとどう動くかを素早く慎重に判断しなければならない。要はゆったりしていられる状況ではないわけだ。
「勝手に突っ込むな! おい!」
「紅葉ちゃん!!」
だからといって攻めに転じればいいという訳でもない。俺と袴田さんの忠告を聞き入れることも無く、紅葉が相手の方に突っ込んでいく。
今度の相手の動きは天王寺さんの時とは違っていた。さすがに炎で出来た刀を受け止めようとはしないわけだ。軽い身のこなしで避けている。
というか紅葉。いくら峰打ちとは言えもうちょい自重してください。御相手さん焼け焦げるから。目的は倒すことじゃなくて、あくまでも時間稼ぎ。もうすぐ警察も来る。それまで踏ん張ってくれるだけでいいから。
それにしてもあれを見ていて感じるこのもやもやはなんだ。相手がただ避けているようにも思えない。それに紅葉の持っている刀が、時折なんだか揺らいでいるようにも見える。どういうことだ。
「蓮君も薄々感じているの? 違和感に」
「何となく。ですがね」
違和感を感じているのは袴田さんも同じなようだ。
そうなると――――――
「紅葉!!避けろ!!」
「‼」
俺の叫びを聞いて、紅葉は咄嗟に上に回避運動を取った。これまで特訓していた飛行術を使って。両腕の先に炎を集め、最大出力で飛びたった。
そしてその瞬間、凄まじい衝撃波が紅葉のいた方に向かって放たれた。幸いその方向、他に人はいなかったので人への被害はなかったが、向こうの方の壁に少々亀裂が入り、窓ガラスが割れていく。
予感は的中していた。隙を伺いつつも、この一撃のために身構えていたのか。そうなるとそろそろジリ貧どころの問題ではない。持たせられない。
「袴田さん。警察と主任が車でどれくらいかかりそうですか」
「もう数分もないと思うわ。でもどうするつもり?」
「紅葉を援護します。おそらく俺の能力なら少しは何とかなるかもしれません」
俺の無茶な要望を、袴田さんは黙って聞き入れる。少し悩んでから返事をくれた。
「君って時々、思考と行動あべこべなのね。それに冷静で真面目に見えて、言っても聞かないところあるだろうし」
「そういうもんですよ、俺は」
そう言ったあと、袴田さんはため息ついてから目の色変えて応えた。
「いいわ。でも悠君と合流して、あの作戦をまた敢行する。それまでの時間稼ぎよ」
俺は袴田さんの言葉を全て聞き終える前に走り出していた。そしてそのまま「分かってますよ」と答えた。
突然現れたのは、未知の強敵。




