男友達の理想
お昼休みの昼食を取っている時間が、俺にとっては学院内にいる中で、最も肩の力を抜くことができる時間だ。男友達と馬鹿話をしながら時間を過ごす、この時間が楽しいのである。
話題の内容についてはゲームだとかアニメの話が大半になってくるわけなんだが、今日この日は、どうもそういうわけにも行かないようなのであった。
「さて。そろそろ梅雨でしみったれた六月も終わりを迎え、残すところ一ヶ月と無いわけだ」
「そうだな。今の俺達にとっては由々しき自体ともいえよう」
「そこで本日は我らが盟友立ち会いの元、大作戦会議を行いたいと思う」
なんか妙な盛り上がり様である。お前らいつから俺という名の魔王の傘下にでもなったつもりなんだ。無論そんなことなどないし、そうするつもりもない。
「でだ。黒宮に色々と聞きたいことがあるわけだ」
「そもそもなんの会議だこれ」
「わかんないのか!」
「七月になり、一学期が終わればそう!」
「「「夏休みの到来じゃあないか!」」」
「へいへい分かったからあんま叫ぶな暑苦しい」
教室内はエアコンが効いているので涼しいんだが、今俺の周りだけはこのせいでむさくるしく感じるわで。後で自販機行って冷たい炭酸飲料でも買ってこようか。
「課題も多い夏休みだけど!」
「それさえ除いちまえば自分の時間有り放題なわけで!」
「冷房ガンガン効かせた自分の部屋で、ゲームや漫画を楽しむのもありだけど!」
「やっぱり学生の夏だ!遊びに行きたいんだ!花火大会あるし、海とかプールにも行きたいわけだし!」
「アウトドアだって歓迎だ! キャンプしたりな、山登り行ったりな!」
「そんなに行きたけりゃお前らで行きゃいいだろ。誘ってくれるなら俺も行くからさ」
「「「おいおいおい。そうじゃないんだ!」」」
尚更顔が近い。そして暑苦しい。エアコンの効いた教室にいてもこの熱気がしばらく抜けそうにないんだけど。帰りにコンビニでアイスでも買おうか。
「高校生の夏休みだ。青春真っ只中なわけだ!」
「だったら思うところはひとつだろう!」
「「「女の子と一緒の方が百倍楽しいし、できるならこの夏、カノジョが欲しい!」」」
「とりあえず言いたいことはわかった。だから離れろ暑苦しい」
この三分と無い短時間のうちに、「暑苦しい」と三回も言っていた。エアコンという文明の利器が、三人の男共の情熱に負けた。
かいてしまった汗をふこうとスボンのポケットからハンカチを取り出した。額の汗を拭ってポケットに戻した時、今度は違和感が。
家の鍵ではない、なにか丸いものがポケットに入っていた。なんとなくの感触だけど、もしかしたらあのペンダントではなかろうかと思う。ポケットの中で手を動かしてみると、今度はチェーンの感覚が。
間違いなくそうだ、あのペンダントだ。なんでこんなところに入っているんだ。
知らない間にポケットに突っ込んでいたのかは分からんが、今はどうでもいいだろう。それよりもこの三人の話を聞いてやるしかなさそうだ。
「だってお前そうだろう! 崎田さんを彼女に持っておきながら、柏葉という幼馴染に一個下には妹さん。オマケにあの執行班の麗しい女子メンツだぞ! これだけあってお前の夏休みが充実しないわけないだろうよ!」
血が繋がってないとはいえ、妹は身内だからそこにカウントしてもいいものなのかとは思う。
「まずはなんと言っても崎田さんだ。恋人なんだし、アクティブだから絶対夏休みはどっか遊びに行こうって誘いに来るのが定石だろうよ。そんで二人でデートとかするんだろうよ」
「次に柏葉は幼馴染。頼りになるやつだし、何かとツンツンしてるところがあるかと思ったら、手のひらくるーっと返すばかりの恥じらいぶりもあり。しかも聞けばお隣さんなんだろう! 何も起きないわけないだろう! お泊まり会とかするんだろ!?」
「あと執行班の皆さんも! あれだけでもたまらんもんだろう!」
何を勝手に盛り上がっている。それともうそんな歳でもねぇよ。小さい頃だったら希愛の頼みで何度かはあったがな。
あと個人的に、ツン八割でデレ二割だと思っている。いやもしかしたらツンが九割かもしれない。
「邦岡さんは普段こそ笑っているところあまり見ないとは言うが、この前友人から聞いた話、捨て猫撫でていた時の邦岡さんはその捨て猫以上に可愛かったとかっていう話じゃないか!」
「ギャップ萌えってやつですよ。だから水着姿とか想像してみろ。間違いなく赤面してる邦岡さんが浮かぶ」
「わかる。水着の種類に関わらず眼福もんだわ」
「袴田さんなんて、あのおっぱいと見せびらかしてるような絶妙なアングルからのむっちりした太ももとか、もう同年代の男どもにはホイホイされろと言ってるようなもんだよ! 聞けばこの前、誰かを膝枕してたとかいう噂があるし!」
「六組の北島さんも実はけっこういい体してるって言うのもあるし、何よりあの二人は一部男子からの受けが非常にいい!」
先生。ここに変態が二名居まーす。
「オタク趣味のある男子を理解してくれる!それだけでどれだけ光り輝く存在であろうか!」
「オタサーだったら間違いなく姫様!いや女王様!」
「それで収まるものか!女神様と呼ぶのが相応しい!」
三人で勝手に盛り上がっている中、俺は聞くフリして弁当を黙々と食べていた。聞いていてやっぱし暑苦しい。
てか膝枕の話は誰から聞いた。あの人らはさすがに言いふらしたりはせんだろう。俺のあの時のメンタルのこと考えれば気を配ってくれると思うし。もしくは全く別の案件だとありがたい。
ただそうなると今度は袴田さんのスキンシップを考え直す必要が出てくる。
「そういうわけでだ黒宮」
どういうわけか整理してから言ってもらいたい。
「こんな青春ラブコメアニメみたいな恵まれた環境の中にいるお前だ。これでいて夏休みが楽しみじゃないわけなかろう!」
アニメ好きな正樹はそう語り。
「これがギャルゲーかエロゲだったら、俺はルート選択で半日は悩める自信がある」
ゲーマーの昭弘は自慢でもないことを語り。
「故にだ。どうしたらそんな優雅な夏休みが送れるものかと聞きたいわけだ!」
そして将星からのこの結論というわけだ。
執行班の人達とは、仲が悪いことは無いが、かと言ってそこまで親密な関係かと言われるとそういう訳でもない。
任務の時以外となると、向こうから話しかけてくる場合を除けばそんなに多くはない。せいぜいが同じクラスで彼女の紅葉と、学年も性別も同じな悠くらい。全員が休日に集まって遊びに行ったりとかそういうもんでもない。
それらを踏まえた上で、果たしてどう説明したらいいものか。
このあと起きたことによって、言い訳をすることから逃れることになった。が、それが穏やかなことでないのは、考えるまでもない事だった。
「ってなんだ!?」
「向こうの方だ!すごい音がした!」
突然の衝撃音が、学院中に響き渡った。
「日常アニメのようなサマーバケーションを」
「純愛ギャルゲーのような夢のひとときを」
「青春らしい夏休みを」
「「「満喫したいんだ!!」」」
「へいへい」
聞いてるだけでも暑苦しい。




