異能の真相は何処へ
プロジェクターに映し出された俺の検査結果は目を疑うものであった。だってそうだ。テレビでだってこんなもの、見たことがない。
脳のほぼ全体が赤く変化している。これが示しているのはなんなのか。タブレットの画面を睨んでいる乃木村さんにはわかるのだろうか。
「一応聞きますけど、トラブルがあったとかじゃないんですよね」
「もしそうなら、こうも頭を抱えるようなことは無いわよ。この結果は紛れもない事実なの」
「そうですか」
「それで乃木村さん。こうなると、どう分析されるんですか」
「頼りない答えになるけど、私たちにもまだ、どう言っていいものか分からないのよ」
その答えは否。研究者である乃木村にも、こうなる理由はわからないとのことだった。
「ところで四番目と言っていましたけど、黒宮の他にも同じような検査結果が出た人がいるということですか」
「そういうことだね」
彼女がこの結果に立ち会ったという経験は俺で四人目。一人目は村上慎也。十年以上は前に確認されたそうで、乃木村さんの大学時代の研究仲間だそうだ。今は関西にある研究施設に務めている。
二人目は若草という俺達と同じくらいの歳の少年で、その少年の検査をしたのが一昨年だったという。でも今は何処で何をしているのかは分からないとのこと。ここの生徒ではないそうだ。
そして三人目は立花玲恩。俺達が昨日会った執行班所属の二年。身近にいたというのは驚きであった。
「そして四人目が黒宮だと」
「そういうことね。ちなみここ以外の研究施設でも、同じような例が何件か報告されているの。分かっているもので、日本国内では二百三十六名よ」
そう言われると多いような、少ないような……。
「日本国内の人口を一億三千万として計算すると、だいたい五十五万人に一人。かなりの希少価値となるわ」
「ご、五十五万……」
「レアものだよこれ!」
「紛うことなき。あの男はこのリリーシェの導きによって誘われた……」
「いや、それは無いから」
「辛辣!?」
二年のあいだぐるみで、俺の希少性について盛り上がってしまったが、あの検査結果を見て俺は気になることがあった。
「あのー乃木村さん。聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「どうぞ。答えられる範囲になるけれど」
「俺、能力を使うとどういうわけか疲れやすいんですよ。他の人に比べて。それってこの検査結果と、何か関係があるんでしょうか」
手に持っていたタブレット端末に一度視線を下してから、再び俺のほうを向いてから答えた。
「疲れやすいか。確かにこれだけ脳が使われているとなれば、エネルギーを使うというのも納得いくわね。もっとも、このデータだけだと、そう言える確信はないのだけどね」
「ならいい方法があるよ蓮君!」
「なんだ?」
紅葉が自信満々に言うので聞いてやる。滅相な話、だいたい答えが分かるわけだが。
「いっぱい食べる! そうすれば使ったぶんのエネルギーなんて直ぐに補給できるよ!」
「それは違った意味の解決方法では。使ったあとじゃなくて、使っているとき。現在進行形の解決をしたいんだが」
「ありゃーんー」
予想通りであった。
「黒宮の能力そのものが、これだけ脳を使うという可能性はあるんですか?」
邦岡さんが乃木村さんに、一つの可能性について聞いてみるが、首を横に振って否定された。
「能力の種類が問題ではないと思っているの。さっき言った村上の能力は水の操作、立花さんの能力は身体能力の強化。前者だと崎田さんや草薙さん、北島さんと同じ括りになるの。後者の立花君にしたって同様の能力を持つ人の場合、小脳に強い反応が見られるの。でもそんな彼らでも、今回の黒宮さんと同様の検査結果が出ているの」
「そうなんですか」
「黒宮さんだけが特殊。という訳でもないわね。大凡分類するなら、邦岡さん達と同じようなものになると思うわ」
乃木村さんはタブレット端末を机の上に置くと、今度はこんな話を始めた。
「こんな話を聞いたことはないかしら。人間の脳は様々な機能役割があるけど、そのすべてを使えるわけではない。所説では三パーセント、十パーセントとかいろいろあるけど、明確な数値については今も研究がなされている。稀に例外として、その全てを使える人がいるという説もあるの」
「それを聞くと、蓮君やその特異体の人たちは、例外ってことなんですか」
紅葉が聞くと、乃木村さんはさっきと同様に首を横に振った。
「こんな話題を持ち上げといてあれなんだけど、そういうわけでもないと思うの。いくらそうであるからといって、能力の使用だけで脳のすべてを使うのかというと、これもまた関係性がないと思うの」
「関係性……ですか」
人間の脳の機能のうち、どれだけの割合が使われているのか。それに対する研究は今日も続いている。かのアインシュタインの説、グリア細胞説。その他色々あるようだが、現状では何パーセントが使われているのかは、はっきりとはわかっていないそうだ。
説の一つに、普段は脳の一部しか使われておらず、使用する割合が増えることで超常的な力が解放される。一言にいえば超能力なるものの発現だ。
ただそれを考えると、もう能力という存在自体が日常の一部と化した今の御時世。そうなれば、能力者の全てが俺と同じ結果になるのではと思う。しかしそうならなかったってことは、そういうわけだろう。
「そもそも能力という事象そのものを引き起こしているのが、私たちがこれまで知りえなかったエネルギーが関わっているのではないか。というもの。黒宮さんのような人の場合、他の人に比べてそのエネルギーに強く反応しているのではないかというのが、私たちの研究チームの推論なの」
「未知のエネルギーですか」
「そう仮定するなら合点が着きそうですけど、本当にそんなものが存在するんでしょうか?」
「その答えは、調べてみないことにはわからない。でもそれを追い求めることこそが、研究の楽しさだと思うの」
乃木村さんが机に置いてある紙コップを手に取って、麦茶を一気飲み。口元を左手で拭ってから結びの言葉に入った。
「黒宮さん。最後に言っておくけど、こういう結果が出たからといって、あなたの今後の生活が脅かされるとかはないから安心して」
「わかり、ました」
そうだよな、うん。そんな悪の組織じゃあるまいし。考えてみれば立花さんは不自由なく学園生活を送っているわけだし。
「難しく考えたり、悩んだりする必要は無いわ。若いものは若いものらしく、青春を満喫しなさいな」
「はい! そうですよね!」
「そういう所、紅葉らしいな」
「あらあら元気いいのね。時間があれば、私の学生時代についてたっぷりと語りたいところだけど。私もこのあと研究に戻らないと行けないのが残念ね」
どうも同じ研究員の人に呼ばれているとのこと。
「今日は遠いところからありがとうね。あなたたちの今日の検査結果は、私たちの研究に役立てていくわ」
「よろしくお願いします」
「本日はありがとうございました」
班長である天王寺さんが挨拶し、一礼してから俺たちも一礼。色々考えることがありながらも、研究棟を後にした。
「力加減を抑えるとか? でも蓮の能力の場合、そもそも力加減とかってあるのかな」
「なさそう、ねぇ……」
「そう考えると難しいな」
「じゃあ戦いの前にご飯を……」
「とりあえず紅葉、食い物理論からは一度離れようか」
低燃費でありたい。




