特異体
「この明桜学園研究棟の管轄をしている、乃木村です。今日はよろしくね」
しかし想像していたものとは違っていたんで驚いた。代表者って言うんだから、もうちょいとばかし年齢のある方かと思ったが……若い。
「早速なんだけど、あなた達に一つ。協力してもらいたいことがあるの。ちょっとばかし検査を受けてもらいたいの」
「け、検査ですか」
検査と言われ、俺に限らず班員皆がたじろぎ、微々たるながらも動揺を隠せずにいた。
「検査と言ってもそう身構えなくてもいいわよ。貴方達が能力を使っている時の、脳の活動についてを測定したいと思っているの」
「と言いますといったい」
「ウォーカー理論にもあるんだけど、人の能力と脳器官とは深い関わりがあるの。まぁ詳しいことは、検査結果が出た時にじっくりと語ってあげるわね」
検査の内容については至ってシンプルなものであった。脳波を測定するためのパッチを頭にいくつも貼り、その状態で普段通りに能力を使ってもらう。たったそれだけであった。
検査が終わったあとは、全員分の結果が出るまで二、三十分位はかかるとの事であったので、その時間を利用して、渡辺さんに研究棟内を案内してもらった。ちょうど一回りしたところで検査結果が出たとの連絡が入ったので、再び乃木村さんの研究室まで向かうことに。
「まずは研究棟の見学ツアー、お疲れ様。冷たい麦茶を用意したから、飲みながらでも話を聞いてもらえるかしら」
「ありがとうございます」
紙コップに冷えた麦茶を注いでもらい、すぐさま一口。歩き詰めで疲れた体に、心地よく染み渡っていく。一口、とはいったがコップの中はあっという間に空っぽに。一気飲みしていたようだ。
「飲み物はそこに置いておくから、ご自由に。それではお待ちかねの、皆さんの測定結果を発表したいと思いまーす」
乃木村さんは用意していたタブレットとプロジェクターの電源を入れた。
「脳の活動を測るって言ってましたけど、もしかしてだけどテレビで見るようなあの真っ赤になるやつですか!?」
「まぁそこは崎田さんの言ったままね。色が赤く変化しているところは、その時に活性化、使われた部分ってことになるの。それを見ることで、能力の大凡の区分わけができるのよ」
「脳にも部分ごとに役割があって、身体に指示を送るもの、言語に関するもの、記憶にまつわるもの、五感。色々とあるわけで、能力もまたこれに関係するってこと」
話しながら用意が終わったようで、いよいよ検査結果の公表となる。
「まずは三年の邦岡さんと袴田さんからね。貴方達から見て左が邦岡さんの検査結果ね」
タブレットの画面と、プロジェクターの画面とを、乃木村さんの視線が往復している。しばらくしてからプロジェクターに、所々が赤く変化している二つの脳の画像が表示される。
「えーっと。それぞれ対象の硬度の操作と幻術能力ね。どちらも自分を含め、周りに変化を及ぼす能力であるから殆ど同じような結果になったわ。脳の器官の中でも、空間認知に関係する頭頂葉の部分が活性化しているの」
「成程。こうしてみると一目瞭然だな」
「次に黒宮君を除いた二年の三人。こっちはそれぞれ炎、銃火器、植物の生成及び操作ね。能力によって何かを作り出す。という共通点があるから、この場合は前頭葉がよく発達していたわ」
「ほえー」
「特に崎田さんは他の二人に比べて強く活性化していたわ。普段の使い方が結構面白いのね」
とここまで五人の結果が出て、あとは、俺と天王寺さんの結果のみとなったわけだが、何故だかタブレットに視線を向ける乃木村さんの表情が固くなっていた。
「それで。天王寺さんと黒宮さん。あなた達の結果発表を後にまわしたわけだけど……。あなた達二人はちょっと変わった結果が出たのよ」
「か、変わった結果って!?」
「一体なんだと言うんですか!? も、もしかして脳そのものに異常があるってことですか!?」
「「どうなんですか!?」」
突拍子に深刻なことを言われたもんなんで、天王寺さんと揃って立ち上がっていた。
「ひとまず落ち着きなさいな。少なくとも、二人の脳は正常よ」
「そうだ二人とも。せめて話を聞いてからにしたらどうだ」
「「すいません」」
邦岡さんと乃木村さんに言われ、とりあえず席に着いた。話を聞かないことには、何が変わっているのかなんて分からない。
「まず先に、天王寺さんの方からね。能力は高速移動。自身に影響をもたらす類の能力ね」
そう言った後、プロジェクターに一枚の脳の画像を映し出す。
「これが天王寺聖の検査結果」
「私と袴田の検査結果に似ていますね、これ」
「確かにそうねぇー」
その検査結果は、画像の真ん中上部。頭頂葉の辺りが赤くなっていた。乃木村さん曰く、自身に影響をもたらす身体強化系の能力の場合、小脳と呼ばれる後頭部下にある部分が特に活性化されるとのことであった。しかし天王寺さんの検査結果は、その小脳だけでなく、頭頂葉の部分も同様に活性化しているというデータがとれたのだ。
「そう。これが示すのは、彼の能力は自分以外にも効果をもたらす可能性があるということなの。天王寺さん。能力を自分以外に使った経験なんかはしたことあるかしら」
「一度も無いです」
「そう……。ならその可能性を探るという意味で、ちょっとばかし実験しましょうか」
そう言うと乃木村さんは机の引き出しからコピー用紙を一枚取りだした。何か書くのかと思ったが、それを丁寧に折り始めていく。三十秒も経たないうちに、それは形になっていた。
「ほい完成」
「なんで、紙飛行機なんですか」
「まぁいいからいいから。さてと天王寺さん。今からこの紙飛行機を飛ばしてみるから、これに向かって能力を使って貰えないかしら」
「口で言うのは簡単ですけど、できるものなんですか?」
「わからないからこそ試す。それが実験というものよ。それに難しく考えなくてもいいのよ。飛ばした紙飛行機をじっと見て、そこに意識を飛ばすような感じでいいから」
「そう言うなら、やってみますが……」
天王寺さんの返答を聞いてニコッと口元をほころばせてから、乃木村さんは、右手に持っていた紙飛行機をゆっくりと飛ばした。
広い研究室内をふわりふわりと紙飛行機が飛んでいる。
天王寺さんはその飛行機を目で追っている。
「!?」
ゆったりと飛んでいた紙飛行機は、ブースターでも吹かせてたのかと言わんばかりに急加速して行った。紙飛行機は、壁に衝突して床に落ちていく。その様子に、見ていた俺たちはただ黙って驚く他なく、それに対して乃木村さんは思った通りといった顔をしていた。
「飛んでいた紙飛行機が貴方の及ぼした力によって加速した。これでなんとなくだけど分かってきたんじゃないかしら」
「よく、わかりました。しかし、そう言われてもどう使えばいいものか」
「自分の持つ能力をどう使いこなすかはあなた次第よ。じっくり考えて、自分なりの答えを見つけてみなさい。同じ能力、はたまた似たような能力でも、当人の使い方によって様々に、多岐にわたって変化するのが面白いところだと思っているの」
「そうですか。考えるのは苦手ですが、何とかやってみます」
「その意気よ。さてと、待たせてしまってごめんなさい。最後に黒宮さん。貴方の検査結果なのだけど」
最後に俺の検査結果の発表。なんだが、より一層乃木村さんの顔が悩ましいものに。
「それでどうなんですか?」
「一言で言うなら異端。私が四番目に確認した特異体……と言いましょうか」
「言われたはいいがどう使えばいいんだ?」
「誰かに使えば、一気に前に飛ばしたりは出来そうですよ」
「カタパルトか」
「僕は御遠慮願うかな。飛ばされるのは」
試行錯誤、考えてみようか。




