執行班としての決意
研究棟の視察も終わり、ここを離れるまでの二、三十分程ではあるが、移動用のバスの用意が完了するまで自由な時間があった。俺は考え事がしたいからといって、皆から離れて一人でベンチに座って考え事をしていた。
指先を動かし、右手の手のひらをじっと見ながら感慨に更ける。もちろんさっきのことだ。特異体であると言われたこと。もしかしたら俺自身、人間ではないんじゃないかと一瞬は疑ってしまいたくなるが、流石にそれはないなとすぐに冷静になった。
それと、もともと抱えていた問題が解決していないこと。手がかりになりそうなことといえば、乃木村さんの暫定的な考えにはなるが、能力の使用時に人に比べて疲れやすいのは脳が過敏に反応しているからだという。
ならどう解決していくのが筋道なのか。限りある体力の使い方なのか。それともうまいこと調整すれば案外行けるものなのか。何にしても、簡単に解決するような問題ではなさそうだ。
「黒宮さん。研究棟の視察、お疲れ様です」
「立花さん」
「なんか難しい顔してましたけど、考え事ですか」
「まぁそんなとこです。研究棟で言われたことについて、考えてました」
ちょうどやって来た立花さんが俺の座るベンチにどっぷりと座り込む。研究棟での検査で、俺が立花さんと同じ特異体であったことがわかったこと。それについて考えていたことの詳細を話した。
「俺と同じですか」
「立花さんはそう知った時、どう思いましたか」
「まぁ、君同様に驚いたよ。そうであるなんて今までわからなかったんだからさ。俺はその時に執行班にスカウトされました。色々考えはしましたけど、最後は自分の願望が勝ちました」
「願望って、執行班になることがですか」
「少し違うかな。戦って活躍して、誰かのために働く自分。って言ったところですかね。要は憧れですね。と言っても俺、アニメとかに影響されやすくて、形から入るようなそんな感じなんで。そういう黒宮さんのほうはどうなんですか?」
「俺も発端はスカウトでした。でもそれは学院側じゃなくて、紅葉から。たまたま街で絡まれていたところを助けて、それが彼女の目に止まって執行班に勧誘されたんですよ」
「それはまた面白い展開で。それで入ったわけですか」
「さすがに即決はしなかった。むしろ最初は断ってました」
「なんでですか!? あの崎田さんの目に留まるって凄いことなんじゃないんですか!?」
立花さんはグイッと近づいて、迫真の顔でこっちを見て……いやあれは睨んでいる顔だな。テンション上がってきている彼に乗せられないよう、態度も話し方も変えることなく話の続きをした。
「元々争い事とか、他人との面倒事とか、人一倍嫌っていたんで。執行班になるってことはそういうのは避けられないじゃないですか。だから最初はきっぱり断った」
「でも今は執行班してますよね」
「自分でもなんでだろうって、時々考えるんですよ。周りの人にも適任だと言われたからなのか、紅葉の押しに負けたからなのか、もしかすればそうなるように仕組まれていたのか。結局分からずじまいですよ」
「なんか面白いっすね」
「全くもってだけどな」
両手を肩の辺りで開き、首を横に振る。やれやれといったところだ。
「立花さんにはあったんですか。決め手というか、そうなるきっかけというか」
「そうですね。しっかりと決意が固まってきたのは入ってから一カ月経った頃でした。その時の班長だった人に言われたことがあるんです。自分たちが戦っているのは力を持たない人、戦いたくてもそれができない人。その人たちの信念を背負っているからだといっていました」
「背負っているものっていうのは」
「そのための力を持つ者には、それ相応の責任と義務がある。最初はよくわからなくて当てつけのようにも聞こえましたけど、しばらくして少しばかりかは、意味が分かるようにもなってきました」
「責任と義務」
「小さい頃に読んだスポーツ漫画に、こんな台詞があるんです。選ばれた者は、選ばれなかった者の思いも背負っているのだ。こんな台詞がね」
選ばれた者。今回で言えば執行班になった人のことか。皆から選ばれて、学校の代表として、日々困難と向き合っている。それにしてもそうでない者の思いも背負っている・・・か。憎いがそれくらいないとやっていけないのかもな。
「だいたい分かった。俺も自分なりに探してみるよ。執行班としての在り方をな」
さてと。決意の話はまた考えるとして、俺自身立花さんに聞きたいことがあるんだった。考え事が増えると忘れそうになっちまうよ。
「さっきとは別で、聞きたいことあるんすけどいいですか?」
「もちろん」
「立花さんって能力使ったら疲れやすいとかありますか? 乃木村さんからは身体能力の強化とは聞いてますけど」
「さすがに連続で使うと疲れはしますけど、任務に支障をきたすようなことはなかったですね。それでも他の人より体力使っているんじゃないかとは、思いますね」
笑いながらそう答えていた。能力の詳細について聞いてみると、身体の一点に力を集めて解放することで、爆発的なパワーを発揮できるとのこと。拳に集めれば強力なパンチを打てて、足に溜めれば早く走れるようになると言う。なかなか面白い能力だ。
「これ使って色々出来ないことはないかって考えて、やってみるんですけどなかなか思ったようにはいかないんですよ。時々反田さんに止められることもありますし」
「ちなみにどんなことを?」
聞いてみたら、とんでもない内容ばかりであった。
「脚力だけでアスファルトを隆起させて防壁を作ったり、巨大な落石を拳一つで粉砕したり、銃弾や小型ミサイルを受け止めたり……」
「取り敢えずやべーことしようとしてるのは伝わった。そりゃあの人も止めるわ」
俺は見た事ないけど、どっかのアニメの大人がそんなことしてませんでしたっけ。それはいくらなんでも無理あると思うよ。袴田さんがこの話聞いてたらどうするんだ。絶対食いつくぞおい。
「そんなに大袈裟なことかな」
「自覚ないのが尚更怖いと思うよ俺は」
その後は立花の憧れ話を聞き、相槌を打ち、時折ツッコミを入れて話は進んでいった。こういう馬鹿話してると、だんだん楽しくなってくる。気づけばあっという間に時間は過ぎていった。
「そろそろ時間みたいなので。失礼します。二日間ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ。あと一つ頼んでもいいですか」
「なんです?」
「連絡先、交換しましょう。もっと色々と話がしたくなりました」
「俺も同じだ」
手早く連絡先の交換を済ませる。こうして遠くの地で新しい友達が出来たのは嬉しいことだ。
「お元気で。石川に戻っても頑張ってください」
「あぁ。そっちもな」
二日間に渡った東京遠征は、色々な経験もたらしてくれた。
「今度は……」
「それ以上はやめといた方がいい」
「どうしてですか! やれば出来るってもんですよ!」
「度が過ぎるとそれは無謀って言うんですよ」
次回。蓮がまたエライ事に。




