ココロを求める男の言葉
「とても貴重な話が聞けましたね」
「俺にはよく分からないことばかりだ」
「哲学って言うんでしょうか。あぁいうのって」
「わからん」
「でも流石だなって思えたよ。言葉の一つ一つ、重みがあったと思うんだ」
午前の講演会が終わり、今は立食パーティーに参加しているところだ。今は天王寺さんと悠と俺の三人で、飲み物を片手に、軽食をつまみながら、先程の講演会のことについて話していた。
人は過ちを犯した。同じ種族であるに関わらず、領土、宗教、思想のすれ違い、エネルギー問題。理由は様々であれ、人は争うことを、闘うことを忘れることは無かった。
しかし我々にはその過ちと向き合い、正し、教訓として受け継ぎ残していける力と知恵がある。だからこそ人類は衰退することなく進化を遂げ、知識を有し、この世界を動かせる生命体とまでになった。
私は世界を旅して色んな人を見てきた。平穏な日々を送る者。他者のために尽くす者。笑う者。人々を楽しませ、喜ばせる者。
悲しいものも見てきた。争う者。奪い合う者。戦場に身を置く者。貧しい者。孤独に生きる者。
世の中というのは綺麗事だけではなく、時に意地悪くも虚しい事もある。しかしそれ以上に私は、ニンゲンのココロ暖かい一面にも出会った。私を助けてくれるもの。手を差し伸べてくれる者。力を合わせ助け合う者。そんな人達がいる限りは、きっと道を間違えることはないだろうと。
これから先、未知のものと遭遇もあるだろう。一昔前となれば考えもしなかったことだろうが、我々は能力という異端の存在を知り、今日の一部としている。そう考えるならばこれから先、そのような出会いがあったとしてもまた不思議なことではない。
その相手に対し、人類の持つ知識や常識が通用しないかもしれない。拒絶されるかもしれない。支配に呑まれるかもしれない。それでも向き合うこと、分かり合うことを、どうか忘れずにいて欲しい。
かつて世界には、支配に屈しながらも、武力を行使することなく、自由を勝ち取った男がいたそうだ。彼は武力で戦ったのではない。己のココロで戦ったのだ。
未来ある若者に伝えたい。私はニンゲンの持つ可能性を信じていると。全てのものは分かり合うことが出来る。そうすることがニンゲンの使命であると。
これらは講演会で、アルバス・ウォーカーが言われたことだ。彼は能力研究の第一人者として活躍し、その後は世界をより知るために、一人世界中を旅していると言う。そんな彼が体験したものが、今回の講演の中に詰め込まれていた。
「あの人からお話を聞ける機会なんてそうないから、俺ら物凄い希少な経験をしたってことだな」
「でもなんか僕らにとってはあまりに壮大なことすぎて、どう受け止めたらいいのか」
「この先の可能性、人と人が分かり合うこと。だったか。考えてみても、イメージすらわかない」
「次世代を担う若者として。ですよね。いざ深く考えてみると……」
「難しいもんだなー。そういや、他の人達は?」
辺りをくるっと見回してみたが、紅葉達の姿が見えない。
「袴田と北島なら二人でいるのをさっき見た。邦岡と崎田なら、さっきからあちらこちらと動き回っているみたいだが」
「実際、片っ端から挨拶しに行っている崎田さんに、邦岡さんが何とかついて行っているって感じだけどね」
「あ。ちょうど向こうの方に」
俺の目の先の方に、他校の執行班の人と話している紅葉と邦岡さんがいた。
「なんだかんだ言って、あの事件の解決以降、一部界隈じゃ有名人だからなー」
「こうしてみるとすごいもんだな」
「こうなった理由。蓮には話したことあったっけ」
「一応クラスの友人から詳細は聞いてるよ。人質と共に盾籠っていたって言うやつだったっけ。あれは執行班の任務だったんですか?」
「いいや。あの時たまたまあの場に居合わせた崎田さんによる行動。もし執行班の任務だったら、彼女をあそこまで突っ走らせることはなかったと思うよ」
「冷静に言われてみると、そうだな。まず単独行動自体、余程のことがなけりゃ許可おりないか」
あの事件を解決するとなれば、まずは人質の開放が優先事項となるであろう。犯人を先に、というのは理にかなわない。
「すみません。兼城学院の方たち、でよろしかったですか」
あの事件のことについて話しているところに、背後から声をかけられた。
「はい。そうですが……貴方達は?」
「あぁ、良かった。僕達、明桜学園の執行班です」
振り返ると、三人の男子がいた。彼らの首にかけられたネームタグを見ると、明桜学園の文字があった。
「すみません。こちらから先に、ご挨拶にお伺いするべきでしたね」
「お気になさらず。つい先程兼城学院の方が二名、僕達の方に挨拶に来たものでしたから」
「となると、崎田と邦岡になるか」
「はい。崎田さんについては、こちらも色々と耳にしていましたが、実際お会いするととても明るいお方で。ギャップの違いとでも言うべきでしょうか。驚かされました」
「彼女の実力は、俺達も信頼をおいています。えぇっと、申し遅れました。天王寺聖です。兼城学院執行班の班長をしています」
「僕は二年の草薙悠と言います」
「お、同じく二年の黒宮蓮です」
「明桜学園の執行班。三年の日向浩作です」
「二年代表の立花玲恩です」
「二年の松本慎太郎です」
こちらから見て、真ん中に立つ長身の男子が日向さん。彼の左に立つ茶髪の男子が立花さん。その反対に立つ赤髪の男子が松本さんだ。
「他の方々にもご挨拶しておきたいのですが、確かあと二名いらっしゃると聞いています」
「袴田と北島か。その二人なら、一緒に動いていると思います」
「緑髪と金髪の女子ですね。あとはなんというか……独特の雰囲気があるとだけ言っておきます」
「独特の。ですか」
「一緒にいる僕達でも、一言では言い表せない。そんなところですね」
「俺にとってはなんというか、ずば抜けて自由奔放って感じがしますけどね」
うちの中でも、特に色の濃い二人である。さすがにこの場ではっちゃけることはないとは思うが、見た目の雰囲気だけでも際立っていることは確かかもしれない。
「わかりました。ではそちらの方にも挨拶に行こうと思います。僕達以外の方とも、よろしければ」
「もちろんです。こちらだけ挨拶無しと言うわけにはいきませんから」
「では俺達はこれで失礼します。この後、またよろしくお願いします」
「さてと。じゃあ他の人たちを探してみますか」
「そうですね」
「そうしましょう」
明桜学園の執行班の方たちと別れてから、他の班員の方達に挨拶するために、動くこととなった。
「それじゃあまたねー。邦岡さん、次行きましょう!」
「行くのはいいが。少し休ませてくれないか。行ったりきたりでもう……」
「あ。すいません」
ずっと連れ回されてました。




